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第10章
第8話 アナタと勇者
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「えーと、つまり……
イーラさんは勇者様のことを嫌ってなんかいなくて……
それどころか勇者様の大ファンである、と……」
「…………なんか文句でもあるか『人間』」
そう言いながらイーラさんはベッドの上で胡坐をかき、腕を組みながら「ふん!」とそっぽを向く。
………あの後、僕の渾身の土下座の元、何とか掌から巻き上がる竜巻を収めてもらい、僕は彼女の前で正座をしながら話を聞いていた。
余談だが今のイーラさんの姿勢は彼女の短いスカートの丈からして僕の目線からは非常に危うい状態なのだけど、それを指摘するとまた恐ろしいことになりそうなので黙っているのだった。
「別に文句なんてありませんし、むしろ僕としては喜ばしいことなぐらいですけど……
でも……どうして………?」
『エルフ』達からしてみれば、勇者様達は自分たちの森を荒らしに来た『外敵』……
しかも、イーラさんにとっては自分のたった1人の家族が追放されることになった原因……
彼女が勇者様のファンになる要因なんて……
「…………………………」
イーラさんは無言のまま何も答えてはくれなかった。
だけど、しばらくすると―――
「………最初に会った時や交渉に来ていた時までは、厄介者としか思っていなかったよ」
「え?」
彼女は、ぽつりと呟くように口を開き始めた。
「お前達が言っていた通り、私の目に『勇者一行』は『里』を荒らしに来た『外敵』としか映らなかった。
しかも、どいつもこいつも言ってることややってることが滅茶苦茶で……」
「え……それってどういう……」
僕が困惑の声を上げると、イーラさんは目を瞑りながらかつての記憶を呼び起こし始めた。
「例えば、アルミナは『頼む!!ここはマジでKBFにピッタリなんだ!!マジKBFなんだ!!』とか訳の分からないことを連呼してきていた」
「うーん、実に勇者様」
更にイーラさんは片手で頭を抑え……
「コーディス=レイジーニアスは勝手に森の樹木を蛇達の住み家にし始めるし……!
ウィデーレ=ヘイムは『わー、私ここで暮らしたいなー』などと言いながら森の植物を使って怪しげな実験をしようとするし……!
ヴィア=ウォーカーは我が同胞達まで巻き込んで酒盛りを始めるし……!
ロクス=エンドはニコニコ笑ってるだけで何にも喋らないし……!!
ホントなんなんだアイツらは……!!」
「うーん、この、うーん……」
徐々に語気を強めていく彼女の姿を見て、僕は何とも言えない表情をするしかなかった……
やっぱ他の人もあんな感じなのか『勇者一行』……
「まともなのはスクト=オルモーストくらいだった……!」
「っ……!」
『その人』の名前が出た瞬間……
思わず息を詰まらせてしまったのは、仕方のないことだろうか……
「ふう……ともかくだ。
そんなこともあり……私も『里』の同胞達もアルミナ達と交渉をする気など無かったというのは、先程お前に言った通りだ。
そして……彼女達の言っていたことも、誰も信じたりはしなかった……ただ1人、私の兄を除いてな……」
「勇者様達の言っていたこと……」
時が来れば、『エルフ』は『魔王』の軍勢に滅ぼされることになる……
「『勇者』と『魔王』の最後の戦いが行われた、その日……
兄は私を連れ出し、『里』全土に魔法をかけて同胞達を眠らせた。
私の制止の声など構わずにな。
そして、なし崩し的に私は『里』から同胞達を運び出す手伝いをさせられた。
到底納得のいかないままに……」
「……………………」
トリスティスさんは……直前までイーラさんには何も話さなかったらしい……
「そして、その作業が終えようかという頃……『勇者一行』と『魔王』の戦いの音が森から聞こえ始めた」
「―――!」
勇者様達と『魔王』の戦いが……ついに……!
「兄は全ての責任を背負う為、最後には私も眠らせようとしていた……」
「だが――」と、イーラさんは続けた。
「私は、兄の目を盗み……
『勇者一行』と『魔王』の戦いの場に赴いた」
「なっ―――――!?」
僕は言葉を失った。
「『魔王』だかなんだか知らないが……
私達がそんなものに滅ぼされるなど、あり得るはずがない。
私がその『魔王』とやらを直接この目で確かめて、それを証明してやろう……などと考えたのだ」
そして、イーラさんは―――
「結論から言うと………兄の行動とアルミナ達が言っていたことが、全く持って正しかったことが証明された」
自虐的な笑みを浮かべて、そう言った。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
私の目には、『絶望』が映っていた。
今まで『里』を襲おうとしていた魔物達を幾度も打ち倒した我が魔法が、目の前の巨躯にはまるで通じない。
『リビング・ギガントメイル』……漆黒と白亜がマーブル模様に混ざった色彩をした『動く巨人の鎧』……
それがその手に握る巨剣で私を叩き潰そうとしていた。
私は、自分の愚かさを後悔する間さえなかった。
森に入ってすぐ……信じられない程のスピードを持つ『シルバー・ワーウルフ』の群れに囲まれ、死にかけた。
何とか迎撃しようとするも……正確な狙いなどまるでつけられず、とにかく乱射した魔法によってものの数分で私の魔力は枯渇しかけた。
這う這うの体で『シルバー・ワーウルフ』の群れから逃げおおせた私の前に……『動く巨人の鎧』が現れ……
そんな、今ここに至るまでの短い回想を思い浮かべているうちに―――
『巨人の鎧』の巨剣が頭上に迫り―――
「兄様……ごめんなさい……」
私は、最期に兄への謝罪の言葉をこぼし———
次の瞬間――――――
―――ゴッッッガァアアアアア!!!!
『巨人の鎧』が―――
バラバラになりながら吹っ飛んだ――――
「無事かッ!!!」
次いで、女性の声が聞こえて来た。
その声の方へと目を向けると―――
真紅の髪をなびかせる『勇者』の姿があった――
「君は確か、トリスティスの……!
何故ここに……いや、今はとにかく!!」
『勇者』が私の周囲へと目をやった。
遅れて私も周りを見ると―――
「―――っ!!!」
「「「グゥゥゥルルルル……」」」」
いつの間にか『シルバー・ワーウルフ』の群れが再び集まっていた……!!
「君をここから連れ出す!!
ウィデーレ!!ロクス!!
少しの間『アイツ』の足止めを頼む!!!」
『勇者』が、遥か彼方にいる仲間達へと指示を仰ぐと―――
「《ヴァリアブル・コランダム-サファイア》!」
『勇者』が『魔法名』を唱え、その髪が真紅から澄み渡るような青へと変わり―――
それとほぼ同時に―――!!
「「「グルゥゥオオオアアアア!!」」」
「ッッ!!!」
『シルバー・ワーウルフ』が動く―――!!
奴らの速さを嫌という程思い知った私には分かってしまう―――
あの爪と牙がこの身を引き裂くのに、1秒とかからないであろうことが―――!
私には、恐怖に目を瞑る時間さえない―――!!
が―――
「《スラッシュ・スペース》」
―――ザンッ………!
「――――え?」
『シルバー・ワーウルフ』の群れが、一瞬の内に『消え』―――
「失礼!」
―――グイッ
「えっ、わっ!わっ!!」
混乱する私を『勇者』は抱え上げ―――
「少し飛ばすぞ!
我慢してくれよ!!」
「あ、え、わっ―――」
森の外へ向かって駆け出した———
そして私は……猛スピードで過ぎ去っていく景色を背景に―――
『勇者』の顔を……ただひたすらに、見つめていたのだった―――
イーラさんは勇者様のことを嫌ってなんかいなくて……
それどころか勇者様の大ファンである、と……」
「…………なんか文句でもあるか『人間』」
そう言いながらイーラさんはベッドの上で胡坐をかき、腕を組みながら「ふん!」とそっぽを向く。
………あの後、僕の渾身の土下座の元、何とか掌から巻き上がる竜巻を収めてもらい、僕は彼女の前で正座をしながら話を聞いていた。
余談だが今のイーラさんの姿勢は彼女の短いスカートの丈からして僕の目線からは非常に危うい状態なのだけど、それを指摘するとまた恐ろしいことになりそうなので黙っているのだった。
「別に文句なんてありませんし、むしろ僕としては喜ばしいことなぐらいですけど……
でも……どうして………?」
『エルフ』達からしてみれば、勇者様達は自分たちの森を荒らしに来た『外敵』……
しかも、イーラさんにとっては自分のたった1人の家族が追放されることになった原因……
彼女が勇者様のファンになる要因なんて……
「…………………………」
イーラさんは無言のまま何も答えてはくれなかった。
だけど、しばらくすると―――
「………最初に会った時や交渉に来ていた時までは、厄介者としか思っていなかったよ」
「え?」
彼女は、ぽつりと呟くように口を開き始めた。
「お前達が言っていた通り、私の目に『勇者一行』は『里』を荒らしに来た『外敵』としか映らなかった。
しかも、どいつもこいつも言ってることややってることが滅茶苦茶で……」
「え……それってどういう……」
僕が困惑の声を上げると、イーラさんは目を瞑りながらかつての記憶を呼び起こし始めた。
「例えば、アルミナは『頼む!!ここはマジでKBFにピッタリなんだ!!マジKBFなんだ!!』とか訳の分からないことを連呼してきていた」
「うーん、実に勇者様」
更にイーラさんは片手で頭を抑え……
「コーディス=レイジーニアスは勝手に森の樹木を蛇達の住み家にし始めるし……!
ウィデーレ=ヘイムは『わー、私ここで暮らしたいなー』などと言いながら森の植物を使って怪しげな実験をしようとするし……!
ヴィア=ウォーカーは我が同胞達まで巻き込んで酒盛りを始めるし……!
ロクス=エンドはニコニコ笑ってるだけで何にも喋らないし……!!
ホントなんなんだアイツらは……!!」
「うーん、この、うーん……」
徐々に語気を強めていく彼女の姿を見て、僕は何とも言えない表情をするしかなかった……
やっぱ他の人もあんな感じなのか『勇者一行』……
「まともなのはスクト=オルモーストくらいだった……!」
「っ……!」
『その人』の名前が出た瞬間……
思わず息を詰まらせてしまったのは、仕方のないことだろうか……
「ふう……ともかくだ。
そんなこともあり……私も『里』の同胞達もアルミナ達と交渉をする気など無かったというのは、先程お前に言った通りだ。
そして……彼女達の言っていたことも、誰も信じたりはしなかった……ただ1人、私の兄を除いてな……」
「勇者様達の言っていたこと……」
時が来れば、『エルフ』は『魔王』の軍勢に滅ぼされることになる……
「『勇者』と『魔王』の最後の戦いが行われた、その日……
兄は私を連れ出し、『里』全土に魔法をかけて同胞達を眠らせた。
私の制止の声など構わずにな。
そして、なし崩し的に私は『里』から同胞達を運び出す手伝いをさせられた。
到底納得のいかないままに……」
「……………………」
トリスティスさんは……直前までイーラさんには何も話さなかったらしい……
「そして、その作業が終えようかという頃……『勇者一行』と『魔王』の戦いの音が森から聞こえ始めた」
「―――!」
勇者様達と『魔王』の戦いが……ついに……!
「兄は全ての責任を背負う為、最後には私も眠らせようとしていた……」
「だが――」と、イーラさんは続けた。
「私は、兄の目を盗み……
『勇者一行』と『魔王』の戦いの場に赴いた」
「なっ―――――!?」
僕は言葉を失った。
「『魔王』だかなんだか知らないが……
私達がそんなものに滅ぼされるなど、あり得るはずがない。
私がその『魔王』とやらを直接この目で確かめて、それを証明してやろう……などと考えたのだ」
そして、イーラさんは―――
「結論から言うと………兄の行動とアルミナ達が言っていたことが、全く持って正しかったことが証明された」
自虐的な笑みを浮かべて、そう言った。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
私の目には、『絶望』が映っていた。
今まで『里』を襲おうとしていた魔物達を幾度も打ち倒した我が魔法が、目の前の巨躯にはまるで通じない。
『リビング・ギガントメイル』……漆黒と白亜がマーブル模様に混ざった色彩をした『動く巨人の鎧』……
それがその手に握る巨剣で私を叩き潰そうとしていた。
私は、自分の愚かさを後悔する間さえなかった。
森に入ってすぐ……信じられない程のスピードを持つ『シルバー・ワーウルフ』の群れに囲まれ、死にかけた。
何とか迎撃しようとするも……正確な狙いなどまるでつけられず、とにかく乱射した魔法によってものの数分で私の魔力は枯渇しかけた。
這う這うの体で『シルバー・ワーウルフ』の群れから逃げおおせた私の前に……『動く巨人の鎧』が現れ……
そんな、今ここに至るまでの短い回想を思い浮かべているうちに―――
『巨人の鎧』の巨剣が頭上に迫り―――
「兄様……ごめんなさい……」
私は、最期に兄への謝罪の言葉をこぼし———
次の瞬間――――――
―――ゴッッッガァアアアアア!!!!
『巨人の鎧』が―――
バラバラになりながら吹っ飛んだ――――
「無事かッ!!!」
次いで、女性の声が聞こえて来た。
その声の方へと目を向けると―――
真紅の髪をなびかせる『勇者』の姿があった――
「君は確か、トリスティスの……!
何故ここに……いや、今はとにかく!!」
『勇者』が私の周囲へと目をやった。
遅れて私も周りを見ると―――
「―――っ!!!」
「「「グゥゥゥルルルル……」」」」
いつの間にか『シルバー・ワーウルフ』の群れが再び集まっていた……!!
「君をここから連れ出す!!
ウィデーレ!!ロクス!!
少しの間『アイツ』の足止めを頼む!!!」
『勇者』が、遥か彼方にいる仲間達へと指示を仰ぐと―――
「《ヴァリアブル・コランダム-サファイア》!」
『勇者』が『魔法名』を唱え、その髪が真紅から澄み渡るような青へと変わり―――
それとほぼ同時に―――!!
「「「グルゥゥオオオアアアア!!」」」
「ッッ!!!」
『シルバー・ワーウルフ』が動く―――!!
奴らの速さを嫌という程思い知った私には分かってしまう―――
あの爪と牙がこの身を引き裂くのに、1秒とかからないであろうことが―――!
私には、恐怖に目を瞑る時間さえない―――!!
が―――
「《スラッシュ・スペース》」
―――ザンッ………!
「――――え?」
『シルバー・ワーウルフ』の群れが、一瞬の内に『消え』―――
「失礼!」
―――グイッ
「えっ、わっ!わっ!!」
混乱する私を『勇者』は抱え上げ―――
「少し飛ばすぞ!
我慢してくれよ!!」
「あ、え、わっ―――」
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