勇者学園とスライム魔王 ~ 勇者になりたい僕と魔王になった君と ~

冒人間

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第10章

第5話 勇者と魔王と決戦の舞台

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「『勇者学園』を……叩き潰す……!?」

僕は目の前のエルフの人物の飛んでもない発言に驚愕の声を上げる。

「そうだ、勇者養成学園『エクスエデン』……
 私はこんな場所を認めない」

そのエルフの人物は困惑する僕を尻目に静かに告げる。

「我が『イーラ=イレース』の名にかけて……この学園を、潰す」

「イーラ=イレース……」

それが、この人の名前……!

エルフの人物……イーラさんの言葉は、とても冗談には聞こえなかった。
その言葉に乗せられた『気迫』に……僕は何も言えなくなってしまった……!

と、そんな風に僕が言葉を詰まらせていると――

「貴女、もしかして……
『エンシェント・フォレスト』にいたエルフですの……?」

アリーチェさんが僕の隣へと移動しながら、そんなことを話しかけた。

「ふん……それが何だ」

イーラさんはアリーチェさんからの質問を否定しなかった。

「アリーチェさん……あのエルフの人について、何かご存じなんですか?
『エンシェント・フォレスト』って……?」

僕の疑問に、アリーチェさんは静かに語り始めた。

「この大陸の中心……つまりこの王都『ヴァールディア』から南部の方に存在すると言われている広大な森林地帯ですわ。
 その森の奥深くには遥か昔から『エルフ』達が暮らしている『里』があると言われておりましたの」

アリーチェさんがその方角へちらりと目線を向ける。

「そして、そこは5年前の『ヴァール大戦』における……
『勇者一行』と『魔王』の最後の決戦の場となった、とも言われておりますわ」

「――――!!!」

僕はその言葉に、目を見開いた。

勇者様達が、魔王と戦った場所―――!?

「な……なんで、そこが決戦の場に……?
『魔王』がいたのは『魔王城』……今は『勇者学園』の学園校舎として使われている場所……
 つまり、『ここ』なのでは……!?」

「『勇者』と『魔王』の戦いについては詳細は知らされておらず、詳しいことは分かっていないのですが……
 初代勇者アルミナがどうにかして『魔王』との戦いの場を『エンシェント・フォレスト』へ移させた、とのことらしいですわ。
 その理由はこの大陸において……そこが一番、決戦の舞台にふさわしかったから……
 いえ……、という方が正しいですわね……」
「え……それって………?」

アリーチェさんは、しばし目を瞑りながら話し始めた。

「『勇者一行』と『魔王』の最後の決戦……
 それは筆舌に尽くしがたい、壮絶な戦いであった……とのことですわ。
 勇者アルミナと、コーディス先生らを始めとした仲間達……
 そして、『魔王』と『魔王』が率いる魔物の軍団……
 その場にいた全てが己の全力を尽くし、命を賭して死闘を演じた、と……」
「…………………………!」

僕はその光景を想像し……思わず生唾を飲み込んでしまっていた。

「そして本来であれば、そんな壮絶な戦いにこの大陸の大地は耐えることなど出来なかったはずなのです。
 間違いなく、戦いの余波で『ヴァール』の中心から数十キロ、あるいは数百キロ……いえ、数千キロに及び地は荒れ果て、とても人の住める環境で無くなってしまうであろう、と言われておりましたわ」
「…………………………」

僕はそのアリーチェさんの言葉を、決して大げさだとは思わなかった。
僕達は既に勇者様の実力を何度も目にしている。

大陸西側での魔物襲撃事件で姿を見せた際、あっという間に魔物の群れを片付けた勇者様……
ガーデン家のお屋敷で、様々なハンデや手加減をした状態で僕達をあしらった勇者様……

あの人が、本気で全力を出したなら……
一体……どれだけの……

「ですが……今現在、この大陸の中心地は何の問題もなく健在しておりますわ。
 それは決戦の舞台が『エンシェント・フォレスト』であったから、なのです」
「それは、どういう………?」

僕はアリーチェさんの方へと視線を移し、疑問を投げかける。

「その森林地帯に立ち並ぶ樹木には、非常に強い『魔力』が含まれておりますの。
 フィルもご存じの通り、『魔力』とは『生命力』と同義。
 その森の樹木は並大抵の衝撃ではビクともしない耐久力があり、その樹木が根付いている大地はとても強固な地盤となっておりますわ。
 更に、その樹木から溢れ出る『魔力』が空間全体に『結界』を形成しており、魔法による攻撃にも非常に高い耐性がありますのよ」
「この大陸に、そんな場所が……!」

そして……そんな地だからこそ、勇者様達と『魔王』との決戦の舞台に選ばれた……!

「そう……その場所以外で勇者一行がこの大陸の地を荒らさずに全力で戦うことは不可能だったと言ってもよいでしょう。
『魔王』を倒した後も、我々人類がこの大陸で暮らしていく為にはそこで戦うしかなかった……」

「しかし……」と言いながらアリーチェさんは目を開けた。

「それは、その森に暮らし続ける『エルフ』達にこの上ない負担をかけることになる、ということでもありましたわ……」

「…………………………」

アリーチェさんはその視線を目の前のエルフの女性……イーラさんへと向ける。
イーラさんは何も言わず、ただこちらを見つめ続けるだけであった……

「いくら『エンシェント・フォレスト』の樹木が衝撃に強く、魔法に耐性があると言っても、勇者一行と『魔王』の全力の戦いの余波を受けて無事で済むはずがありませんでしたわ。
 戦いが終えた時には……その広大な森は、かつての五分の一程しか残らなかった、とのことです」
「……………っ!」

僕は思わず息を飲んだ。

「大陸に住む人類にとって『ヴァール大戦』は歴史上最大の危機といえる事態でしたけど、『エンシェント・フォレスト』に住んでいた『エルフ』達にとっては、大した脅威とは映っておりませんでしたわ。
 あの森は天然の要塞としても機能しており、外敵から襲われることは稀でしたの。
 更にそこに住む『エルフ』達も強力な魔法を扱える猛者揃いで、『魔王』や魔物による被害に悩まされることも殆どなかったらしいですわ」

そういえば僕も聞いたことがある……
『エルフ』はとても魔法の扱いに長けた種族でもある、って……

「元々、『エルフ』は他種族と関わり合いになることは殆どなく、同胞以外の者に対しては不干渉を徹底していると言われておりますの。
 そんな『エルフ』達からしてみれば……
 自分達には一切関係のない危機の為に、自分達が今まで暮らしていた場所を理不尽にも荒らされてしまった……ということになりますわね」

「……………………ふん」

イーラさんは……ただ鼻息を鳴らすだけ、何も言わない。

「彼ら『エルフ』がわたくし達『人間』に……
 そして『勇者』という存在にどういった感情を持っているか……
 推して知るべし、といった所でしょうかね」

そんなアリーチェさんからの説明を聞き終え……
僕は……言葉を失ってしまうのだった……
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