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第10章
第4話 僕とエルフ
しおりを挟むその美麗な顔立ちに、長い両耳―――
僕は、その特徴を持つある種族の名に心当たりがあった。
それは―――
「エ……『エルフ』……!?」
そう、それは僕達『人間』の数十倍……あるいは数百倍は長く生きると言われている、不老長寿の種族……
その人達は例外なく美しい顔出ちをしており、長い耳を持つと言われている……
ただ、僕は実際にその種族を見たことはこれまで一度もなかった。
この大陸のどこかに居ると村の大人達から聞いてはいたけど、彼らは人里離れた深い森の奥に住んでおり、人目に触れることを嫌うのだという。
この大陸では、鉱山地帯の洞窟に暮らしているという『ドワーフ』に並んで滅多に見ることは出来ない幻の種族と言われている……!
そんな幻の種族の特徴に……目の前の人物は、ぴったりと当てはまっていた……!
「う……くぅ……!」
と、謎のエルフの人物に驚いている僕の耳に地面に倒れ伏すヴィガーさん達の呻き声が聞こえてくる。
そうだった!
今はこの謎のエルフの人より―――!
「ヴィガーさん!ミルキィさん!
大丈夫ですか!?一体何が……!!」
僕はヴィガーさんとミルキィさんの傍に駆けつけ、2人の怪我の具合を見つつ話しかけた。
命に関わる程の怪我をしているわけではないけど……それでも苦悶の表情を浮かべる2人の姿に、僕は心配せずにはいられなかった……
「私達は先程まで3次募集に来ていた入学者達の様子を見学に来ていた」
「あ!キャリーさん!」
人だかりの中からキャリーさんが僕達の方へと歩き、説明をしてきてくれた。
キャリーさんの後ろにはバニラさんがおどおどしながら付いてきている。
「その中にいたあのエルフの女性が私達に侮蔑的な言葉を投げかけて来た」
「侮蔑的な言葉……?」
僕は改めてそのエルフの人物に視線を向けた。
先にも述べた通りその人物は物凄く端正な顔立ちをしている。
地面スレスレにまで伸ばされた黄金色の髪がさらさらと風に流れ、まるで金色の草原が揺らめいているかのようだった。
身長はかなり高めでアリーチェさんのお付き、ファーティラさんとほぼ同じくらいだ。
服装は緑色を主体とした質素で飾り気のない布地で作られたワンピースのようなものを着ているのだけど……スカートの丈が少し短めで、その太ももは結構大胆に露出しておりちょっと目のやり場に困る……
そんな彼女はその髪の色と同じ金色の瞳で、地面に倒れ伏すヴィガーさん達……そしてその傍にいる僕達に憎々しげな眼差しを向けていた。
あの人が……侮蔑的な言葉を投げかけて来た、って……
「曰く
『ここは『勇者』という名ばかりの称号を得ることに必死な俗共が集まるゴミ溜めにも等しい場所だ』
とのこと」
「なっ……!」
そのこちらへの蔑視を隠そうともしない余りにも直球な罵倒に僕は思わず絶句してしまう。
「それで……ミルキィさんとヴィガーさんが、物凄く怒っちゃって……
あの人に殴りかかって行っちゃったの……
私達も止めたんだけど……」
バニラさんが両手を胸に置き、震えながらそう話す。
それで……2人はこの人に返り討ちに……?
そんな説明を聞き終えた僕に対し、エルフの人は「ふん」と鼻息を鳴らしながら口を開いた。
「私は何も間違った事は言っていない。
所詮お前達は大した力も、碌な志も持たない俗物の集まりに過ぎないだろう」
「そ、そんなことないですよ!!
ここに居る人達は皆!!
しっかりとした志の元、『勇者』になる為に来たんです!!」
「きゅるー!
そうだよー!!フィルは絶対『勇者』になるんだからー!
ボクは『勇者』とかよく分かってないまま、ただフィルと一緒に居たくてここに居るけどー!!」
「すいません!!
今の台詞の『ここに居る人達は皆』って所、『ここに居る人達は1人を覗いて皆』に代えさせてください!!」
「………………」
エルフの人の視線が憎々しげなモノから冷ややかなモノへと変わるのだった……
そこに「ところで……」と言いながらアリーチェさんが移動してきて、キャリーさんへ話しかける。
「アリエス先生達はどうしておりますの?
これだけの騒ぎが起きれば講師の方々が止めに入ると思うのですけど」
「ああ、それはさっきコリーナが入学者達に対して
『はぁーーはっはっは!!!入学者の諸君!!
この私が最低の『魔力値』にして最高の『エクシードスキル』に目覚めた次世代の『勇者』!!
最強成り上がりブレイバー、コリーナ=スタンディだ!!!
今日は特別にこの私の実力を君達にじっくりとお見せしよう!!!
さあ刮目せよ!!これが最強『勇者』の力!!
《ジャァアアアアッジメントォオオオオオオ・
ルゥゥミナァアアアアアアアアス》!!!』
と、『準』高等魔法をぶっ放して広場を破壊してしまい、講師達は対応に追われている。
あと本人は即ぶっ倒れたのでアリエス先生の治療を受けている」
「すいません!!
さっきの台詞の『ここに居る人達は1人を覗いて皆』って所、『ここに居る人達の殆どは』に代えさせてください!!!!」
「お前ら私にコントを披露しに来ただけならもう帰れ」
エルフもコントとか知ってるんだなぁ。
「と、とにかく!
この『勇者学園』はアナタが言うようなゴミ溜めなんかじゃありませんよ!
っていうか、アナタだってここで『勇者』になる為に来たんじゃないんですか!?」
そんな僕の言葉に対し、エルフの人物は再び「ふん」と鼻息を鳴らした。
「全くもって愚かだな『人間』。
私は『勇者』になる為にここに来たのではない」
「え……?」
エルフの人物は……確かな『怒り』をその目に宿らせ、言った。
「私の目的は、この『勇者学園』なるふざけた場所を……叩き潰す事だ」
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