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第9章
第14話 僕達と舞台裏
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「あの事件の後……私はすぐにここ、ガーデン家に赴いて事件について報告したんだ」
僕達が今まで戦っていたのは、あの勇者様だった……
その衝撃から何とか立ち直った僕達は、パーティ会場入り口前へと集まった。
そしてそんな僕達に向かって勇者様は説明をし始めた……
「何せ、あの事件の首謀者は私達の『元』仲間……スクト=オルモースト。
しかもその目的の一つがガーデン家のご令嬢の殺害。
私から直接説明する責任がある……そう思ったからな」
スクトさんの名を呼ぶ時は、流石の勇者様もどこか顔に影が差しているように見えた。
「それに、ここに来た理由はもう一つある。
あの事件で使われたマジックアイテム……その解析に協力して貰いたいと思ってな。
ここのマジックアイテム開発部門の技術力は王都のマジックアイテム開発局にも劣らない。
丁度2着あることだし、王都と共同でこのフードのマジックアイテム解析を進めたいと申し出に来たんだ」
2着……そうか……!
コーディス先生がスクトさんから奪った物と洞窟の中に在った物……!
勇者様の言葉と共に近くにいたリペルさんが「どもー」と手を振っている。
つまり……この人達はグリーチェさんの正体が勇者様であることを知っていたのか……
「そういうこと、でしたのね……」
「アリーチェさん……?」
隣で話を聞いていたアリーチェさんが合点がいった、というような声を出した。
「わたくしはあの事件があった後、事件の内容を記した書簡をその日の『夜』に速達で送り届けましたわ……
速達馬車でここに書簡が届くのは早くても半日、つまりお父様がこの事件の事を知れるのは翌日の『お昼前』あたりになるはずですわ。
それからわたくし達を呼び戻す手紙を素早く書き上げ、速達で送ったとしても……
わたくし達がその手紙を受け取るのはどんなに早くてもその半日後……つまり、事件翌日の『夜』ということになります。
しかし―――」
えーっと……事件の翌日……僕達は街へ遊びに行って……
そして帰って来た時にはスリーチェの様子が……
―――あ!!
「ええ、そうですわ……あの日、あの時……時刻はまだ『夕方』でした。
それなのに、スリーチェはお父様からの手紙を受け取っていた。
つまり……わたくしからの書簡が届くよりも前に、お父様は事件の事を知り、手紙を出したということ……」
アリーチェさんからの手紙を受け取るよりも前に、ヴェルダンテさんは事件の事を知っていた……
その理由は勿論……今目の前にいる人から伝えられたから……!
「あの、ちなみに勇者様……
ここまで赴くのに使った移動手段は……」
「自分の足!!!」
「あ、はい」
速達馬車で半日かかる距離を自分の足で……
いやもう今更か……
僕は深く考えることを止めた。
「そ、それで……なんで勇者様が、こんなことを……?」
勇者様がここに居る理由は分かったけど……
グリーチェさんに成り代わり、『ゲーム』なんて催しに参加して……
僕達とあんな戦いを繰り広げる理由が、僕にはどうしても思いつかなかった……
というか今更ながら、あの勇者様相手に戦いを挑んでいたという途轍もなく恐ろしい事実に心も体も震え上がりそうになる……!
「私が頼んだんだよ」
と、横合いから僕達と勇者様の会話に入り込んできた声があった。
その声は―――
「ヴェルダンテさん!?」
「お父様……?」
僕とアリーチェさんが同時に驚いた声をあげる。
僕達の隣にいたヴェルダンテさんが、前へと移動しながら言葉を続ける。
「彼女に言われたんだ。
『仲間が仕出かしたことの責任を取りたい。
私に出来ることがあるのならどうか言って欲しい』
とね」
そう言いながら、ヴェルダンテさんは勇者様の隣に並び立った。
「それならばと私は頼み込んだ。
私の考えた『ゲーム』に、是非貴女の力を貸して欲しいと」
「………!」
僕達は皆、一様に黙り込む……
相手に傷を付けただけでこちらの勝利……
その条件を聞いた時は、余りにこちらに有利過ぎて彼は僕達を勝たせるつもりなのか、なんて考えすら出て来たけど……
相手が勇者様だったと知った今となっては、それは途方もなく達成困難な条件だったのだと理解出来てしまう……
「ただ……彼女がそのまま姿を現してしまったら、君達が誰一人参加しなくなってしまうのではないかという懸念もあった。
勿論本気で『勇者』を目指す君達ならば、それでもきっとこの『ゲーム』に参加していたのだろうけどね」
「……………………………」
僕達は更に黙り込む………
もし勇者様があの場にそのまま姿を現して、あの人に傷を付けたら勝ち、などという『ゲーム』を提案されてたら………………
僕は果たして『ゲーム』に参加の意志を示せていたのだろうか……………
「そこで、このフードを使って正体を隠すという提案をしたわけだ。
フードの解析や実験まで兼ねることが出来て、一石二鳥だったしね」
「うむ!
マジックアイテム開発部門に頼んでフードを解析し、他の人物に化けることが出来るようにして貰ったのだ」
ヴェルダンテさんの言葉に勇者様が説明を続けてくれた。
「それじゃあ、本物のグリーチェさんは……」
「は~い。
呼びました~?」
「え?あっ!」
突然のほんわかした声に僕達は一斉に部屋の入口へと振り向いた!
そこには……この屋敷で初めて会った時と同じドレスを着ているグリーチェさんの姿があった!
「グリーチェさん……今までどこに……?」
「うふふ~私の部屋の中よ~。
皆と鉢合わせちゃったら不味いから~。
昨日のお食事の後はずっと隠れてたの~。
ホントは私もここで皆の戦いを見たかったんだけどね~」
そういや昨日食堂からパーティ会場に向かう時、彼女はいつの間にか消えていたんだっけ。
それで、パーティ会場にヴェルダンテさんと一緒にいる所を見て、僕達より先に移動してたのだと思ったけど……
あの時パーティ会場にいたのは勇者様だったのだから……
彼女は僕達の目を盗んでこっそり自分の部屋へと移動していた、ということか……
「まあ、でも~。
昨日の夜はこっそり抜け出して貴方に会いに行っちゃたけどね~。
どうしても貴方とお話したくなっちゃって~」
「え………?
――――あ!!」
昨日の夜……僕の部屋に現れたグリーチェさんは………
本物のグリーチェさんだったのか……!
それと同時にもう一つの勘違いにも気付く。
僕はあの時現れたグリーチェさんをパーティ会場で戦っていたグリーチェさんと同一人物だと思ってたけど……
ファーティラさん達とパーティ会場にいたグリーチェさん(に化けた勇者様)達は……本当に夜通し、休憩なしで戦っていたんだ……
「昨日の夜……?」
「貴方に会いに……?」
「あ、いや、キュルル、アリーチェさん、それは―――」
「うふふふ~。
私~男の子の部屋に忍び込んだのなんて初めてだったの~。
しかもあんな夜中に~。
私もちょっと、ドキドキしちゃったわ~」
「「 フ ィ ル ? 」」
「いやあの待って待って待って待って待って待って待って待って待って―――」
身体の芯から底冷えするような目線を向けてくる2人に対して、僕は手を上げて降伏の意志を示しつつ必死に弁明の機会を懇願した―――
僕達が今まで戦っていたのは、あの勇者様だった……
その衝撃から何とか立ち直った僕達は、パーティ会場入り口前へと集まった。
そしてそんな僕達に向かって勇者様は説明をし始めた……
「何せ、あの事件の首謀者は私達の『元』仲間……スクト=オルモースト。
しかもその目的の一つがガーデン家のご令嬢の殺害。
私から直接説明する責任がある……そう思ったからな」
スクトさんの名を呼ぶ時は、流石の勇者様もどこか顔に影が差しているように見えた。
「それに、ここに来た理由はもう一つある。
あの事件で使われたマジックアイテム……その解析に協力して貰いたいと思ってな。
ここのマジックアイテム開発部門の技術力は王都のマジックアイテム開発局にも劣らない。
丁度2着あることだし、王都と共同でこのフードのマジックアイテム解析を進めたいと申し出に来たんだ」
2着……そうか……!
コーディス先生がスクトさんから奪った物と洞窟の中に在った物……!
勇者様の言葉と共に近くにいたリペルさんが「どもー」と手を振っている。
つまり……この人達はグリーチェさんの正体が勇者様であることを知っていたのか……
「そういうこと、でしたのね……」
「アリーチェさん……?」
隣で話を聞いていたアリーチェさんが合点がいった、というような声を出した。
「わたくしはあの事件があった後、事件の内容を記した書簡をその日の『夜』に速達で送り届けましたわ……
速達馬車でここに書簡が届くのは早くても半日、つまりお父様がこの事件の事を知れるのは翌日の『お昼前』あたりになるはずですわ。
それからわたくし達を呼び戻す手紙を素早く書き上げ、速達で送ったとしても……
わたくし達がその手紙を受け取るのはどんなに早くてもその半日後……つまり、事件翌日の『夜』ということになります。
しかし―――」
えーっと……事件の翌日……僕達は街へ遊びに行って……
そして帰って来た時にはスリーチェの様子が……
―――あ!!
「ええ、そうですわ……あの日、あの時……時刻はまだ『夕方』でした。
それなのに、スリーチェはお父様からの手紙を受け取っていた。
つまり……わたくしからの書簡が届くよりも前に、お父様は事件の事を知り、手紙を出したということ……」
アリーチェさんからの手紙を受け取るよりも前に、ヴェルダンテさんは事件の事を知っていた……
その理由は勿論……今目の前にいる人から伝えられたから……!
「あの、ちなみに勇者様……
ここまで赴くのに使った移動手段は……」
「自分の足!!!」
「あ、はい」
速達馬車で半日かかる距離を自分の足で……
いやもう今更か……
僕は深く考えることを止めた。
「そ、それで……なんで勇者様が、こんなことを……?」
勇者様がここに居る理由は分かったけど……
グリーチェさんに成り代わり、『ゲーム』なんて催しに参加して……
僕達とあんな戦いを繰り広げる理由が、僕にはどうしても思いつかなかった……
というか今更ながら、あの勇者様相手に戦いを挑んでいたという途轍もなく恐ろしい事実に心も体も震え上がりそうになる……!
「私が頼んだんだよ」
と、横合いから僕達と勇者様の会話に入り込んできた声があった。
その声は―――
「ヴェルダンテさん!?」
「お父様……?」
僕とアリーチェさんが同時に驚いた声をあげる。
僕達の隣にいたヴェルダンテさんが、前へと移動しながら言葉を続ける。
「彼女に言われたんだ。
『仲間が仕出かしたことの責任を取りたい。
私に出来ることがあるのならどうか言って欲しい』
とね」
そう言いながら、ヴェルダンテさんは勇者様の隣に並び立った。
「それならばと私は頼み込んだ。
私の考えた『ゲーム』に、是非貴女の力を貸して欲しいと」
「………!」
僕達は皆、一様に黙り込む……
相手に傷を付けただけでこちらの勝利……
その条件を聞いた時は、余りにこちらに有利過ぎて彼は僕達を勝たせるつもりなのか、なんて考えすら出て来たけど……
相手が勇者様だったと知った今となっては、それは途方もなく達成困難な条件だったのだと理解出来てしまう……
「ただ……彼女がそのまま姿を現してしまったら、君達が誰一人参加しなくなってしまうのではないかという懸念もあった。
勿論本気で『勇者』を目指す君達ならば、それでもきっとこの『ゲーム』に参加していたのだろうけどね」
「……………………………」
僕達は更に黙り込む………
もし勇者様があの場にそのまま姿を現して、あの人に傷を付けたら勝ち、などという『ゲーム』を提案されてたら………………
僕は果たして『ゲーム』に参加の意志を示せていたのだろうか……………
「そこで、このフードを使って正体を隠すという提案をしたわけだ。
フードの解析や実験まで兼ねることが出来て、一石二鳥だったしね」
「うむ!
マジックアイテム開発部門に頼んでフードを解析し、他の人物に化けることが出来るようにして貰ったのだ」
ヴェルダンテさんの言葉に勇者様が説明を続けてくれた。
「それじゃあ、本物のグリーチェさんは……」
「は~い。
呼びました~?」
「え?あっ!」
突然のほんわかした声に僕達は一斉に部屋の入口へと振り向いた!
そこには……この屋敷で初めて会った時と同じドレスを着ているグリーチェさんの姿があった!
「グリーチェさん……今までどこに……?」
「うふふ~私の部屋の中よ~。
皆と鉢合わせちゃったら不味いから~。
昨日のお食事の後はずっと隠れてたの~。
ホントは私もここで皆の戦いを見たかったんだけどね~」
そういや昨日食堂からパーティ会場に向かう時、彼女はいつの間にか消えていたんだっけ。
それで、パーティ会場にヴェルダンテさんと一緒にいる所を見て、僕達より先に移動してたのだと思ったけど……
あの時パーティ会場にいたのは勇者様だったのだから……
彼女は僕達の目を盗んでこっそり自分の部屋へと移動していた、ということか……
「まあ、でも~。
昨日の夜はこっそり抜け出して貴方に会いに行っちゃたけどね~。
どうしても貴方とお話したくなっちゃって~」
「え………?
――――あ!!」
昨日の夜……僕の部屋に現れたグリーチェさんは………
本物のグリーチェさんだったのか……!
それと同時にもう一つの勘違いにも気付く。
僕はあの時現れたグリーチェさんをパーティ会場で戦っていたグリーチェさんと同一人物だと思ってたけど……
ファーティラさん達とパーティ会場にいたグリーチェさん(に化けた勇者様)達は……本当に夜通し、休憩なしで戦っていたんだ……
「昨日の夜……?」
「貴方に会いに……?」
「あ、いや、キュルル、アリーチェさん、それは―――」
「うふふふ~。
私~男の子の部屋に忍び込んだのなんて初めてだったの~。
しかもあんな夜中に~。
私もちょっと、ドキドキしちゃったわ~」
「「 フ ィ ル ? 」」
「いやあの待って待って待って待って待って待って待って待って待って―――」
身体の芯から底冷えするような目線を向けてくる2人に対して、僕は手を上げて降伏の意志を示しつつ必死に弁明の機会を懇願した―――
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