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第9章
第12話 時刻と宣言
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そんな馬鹿な―――
ここまで近づかれて、気が付かない訳が―――!
驚愕に染まるグリーチェの表情は、そう告げているように見えた。
そんな彼女に対し……レイピアを携えるスリーチェは―――
「隠匿魔法――《プレゼンス・ハイド》」
「―――!!!!」
その『魔法名』を、静かに呟いた。
それは―――勇者学園の生徒……バニラ=タリスマンが扱っていた魔法であった。
「あの襲撃事件を経て……わたくしは必死に考えました。
わたくしは、何をするべきなのか。
わたくしには、一体何が出来るのか……」
その言葉は、彼女が事件の詳細を知った時……
すなわち、自分の存在があの恐ろしい事件の引き金となったということを知り、絶望に打ちのめされた時……
ある一人の『魔王』から告げられた言葉だ。
「わたくしは誓いました……
もう二度と誰かの負担になどならないと。
わたくしの手で、誰かを救えるようになりたい……いや、『なる』のだと」
それはまるで、先程のフィルの言葉をなぞるかのようだった。
「その為に必要な『力』は……
破壊の『力』ではなく……破壊を遠ざける『力』であると、わたくしは思ったのです」
洞窟の中で、魔物の群れに追い詰められた時……
そして、『水晶ゴーレム』に襲われた時……
あの『力』があれば、危機になど陥らなかった。
スリーチェはそう思ったのだった。
「だからわたくしは……バニラさんに教えを請いましたの。
あの魔法……隠匿魔法《プレゼンス・ハイド》を使えるようになるために」
スリーチェは学園から出された休養には応じず、事件の翌日から学園活動に復帰していたが……その合間にバニラとコンタクトを取り、隠匿魔法を扱う上でのイメージの構築など手解きを受けていたのだ。
無論、魔法は使いたいと願えば使えるようになるような代物ではない。
大抵は自身の得意魔法を習得するだけで精一杯なはずである。
しかしスリーチェは、得意系統である探知魔法だけでなく、爆発魔法……更には回復魔法まで既に扱えている。
彼女は……複数の魔法を扱う才能があったのだ。
「その魔法で………私の後ろを、取った……?」
頬から赤い雫を滴らせるグリーチェが、未だ驚愕の抜けぬままの表情で呟く。
「わたくしは今日のこれまでの時間を……隠匿魔法のイメージ構築に費やしましたわ。
何とか発動することは出来るようになりましたけれど……ほんの一昨日、話でイメージのコツを聞いただけの、付け焼刃にも等しい魔法……
しかも、これは本来は魔物に気付かれなくする為の魔法です。
人間にも気付かれないように構築し直す、というのはより困難を極めますわ」
もっとも、付け焼刃であろうが僅か3日で新しい魔法を発動出来るようになった、というだけで並の『魔法師』が聞いたら卒倒しかねない事実なのだが。
「おそらく、この魔法だけで背後からの攻撃を難なく受け止めることが出来るグリーチェお姉さまの後ろを取ることは不可能だったしょう」
スリーチェは、レイピアを静かに下げる。
「お姉さまが、全神経を集中しなければいけないような事態にならない限りは」
「―――――!!!」
そう―――グリーチェはあの時―――
アリーチェ、キュルル、そしてフィル―――
この3人からの攻撃に対応する為に―――
全神経を、集中していた―――
そして、彼女は気付く―――
最後に3人が突撃する前に、フィルが行った宣言―――
グリーチェにも聞こえる程の大声で行った、あの宣言———
『次で……決めよう!!!』
あれは―――
スリーチェへの、合図だったのだと―――!
「今日のお昼、フィルさんに会った時……
このことをお話しておりましたから、ね」
「…………………………」
グリーチェの顔からは……徐々に驚愕の色が抜けていき……
やがて、完全な無表情となった……
そしてスリーチェは……そんなグリーチェから視線を外し……
この部屋の入口近くに立つ人物へと、その顔を向ける。
「………お父さま……今の時刻は……?」
スリーチェが、自らの父親……ヴェルダンテに向かって静かに話しかける。
「……23時55分だよ」
ヴェルダンテもまた、静かに答えた。
「……………では」
「……………ああ」
そして―――その宣言が、響き渡る。
「この『ゲーム』は………君達の勝ちだ」
現在時刻、午後11時55分―――
『ゲーム』クリア―――――
ここまで近づかれて、気が付かない訳が―――!
驚愕に染まるグリーチェの表情は、そう告げているように見えた。
そんな彼女に対し……レイピアを携えるスリーチェは―――
「隠匿魔法――《プレゼンス・ハイド》」
「―――!!!!」
その『魔法名』を、静かに呟いた。
それは―――勇者学園の生徒……バニラ=タリスマンが扱っていた魔法であった。
「あの襲撃事件を経て……わたくしは必死に考えました。
わたくしは、何をするべきなのか。
わたくしには、一体何が出来るのか……」
その言葉は、彼女が事件の詳細を知った時……
すなわち、自分の存在があの恐ろしい事件の引き金となったということを知り、絶望に打ちのめされた時……
ある一人の『魔王』から告げられた言葉だ。
「わたくしは誓いました……
もう二度と誰かの負担になどならないと。
わたくしの手で、誰かを救えるようになりたい……いや、『なる』のだと」
それはまるで、先程のフィルの言葉をなぞるかのようだった。
「その為に必要な『力』は……
破壊の『力』ではなく……破壊を遠ざける『力』であると、わたくしは思ったのです」
洞窟の中で、魔物の群れに追い詰められた時……
そして、『水晶ゴーレム』に襲われた時……
あの『力』があれば、危機になど陥らなかった。
スリーチェはそう思ったのだった。
「だからわたくしは……バニラさんに教えを請いましたの。
あの魔法……隠匿魔法《プレゼンス・ハイド》を使えるようになるために」
スリーチェは学園から出された休養には応じず、事件の翌日から学園活動に復帰していたが……その合間にバニラとコンタクトを取り、隠匿魔法を扱う上でのイメージの構築など手解きを受けていたのだ。
無論、魔法は使いたいと願えば使えるようになるような代物ではない。
大抵は自身の得意魔法を習得するだけで精一杯なはずである。
しかしスリーチェは、得意系統である探知魔法だけでなく、爆発魔法……更には回復魔法まで既に扱えている。
彼女は……複数の魔法を扱う才能があったのだ。
「その魔法で………私の後ろを、取った……?」
頬から赤い雫を滴らせるグリーチェが、未だ驚愕の抜けぬままの表情で呟く。
「わたくしは今日のこれまでの時間を……隠匿魔法のイメージ構築に費やしましたわ。
何とか発動することは出来るようになりましたけれど……ほんの一昨日、話でイメージのコツを聞いただけの、付け焼刃にも等しい魔法……
しかも、これは本来は魔物に気付かれなくする為の魔法です。
人間にも気付かれないように構築し直す、というのはより困難を極めますわ」
もっとも、付け焼刃であろうが僅か3日で新しい魔法を発動出来るようになった、というだけで並の『魔法師』が聞いたら卒倒しかねない事実なのだが。
「おそらく、この魔法だけで背後からの攻撃を難なく受け止めることが出来るグリーチェお姉さまの後ろを取ることは不可能だったしょう」
スリーチェは、レイピアを静かに下げる。
「お姉さまが、全神経を集中しなければいけないような事態にならない限りは」
「―――――!!!」
そう―――グリーチェはあの時―――
アリーチェ、キュルル、そしてフィル―――
この3人からの攻撃に対応する為に―――
全神経を、集中していた―――
そして、彼女は気付く―――
最後に3人が突撃する前に、フィルが行った宣言―――
グリーチェにも聞こえる程の大声で行った、あの宣言———
『次で……決めよう!!!』
あれは―――
スリーチェへの、合図だったのだと―――!
「今日のお昼、フィルさんに会った時……
このことをお話しておりましたから、ね」
「…………………………」
グリーチェの顔からは……徐々に驚愕の色が抜けていき……
やがて、完全な無表情となった……
そしてスリーチェは……そんなグリーチェから視線を外し……
この部屋の入口近くに立つ人物へと、その顔を向ける。
「………お父さま……今の時刻は……?」
スリーチェが、自らの父親……ヴェルダンテに向かって静かに話しかける。
「……23時55分だよ」
ヴェルダンテもまた、静かに答えた。
「……………では」
「……………ああ」
そして―――その宣言が、響き渡る。
「この『ゲーム』は………君達の勝ちだ」
現在時刻、午後11時55分―――
『ゲーム』クリア―――――
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