勇者学園とスライム魔王 ~ 勇者になりたい僕と魔王になった君と ~

冒人間

文字の大きさ
上 下
150 / 173
第9章

第12話 時刻と宣言

しおりを挟む
そんな馬鹿な―――

ここまで近づかれて、気が付かない訳が―――!


驚愕に染まるグリーチェの表情は、そう告げているように見えた。

そんな彼女に対し……レイピアを携えるスリーチェは―――



「隠匿魔法――《プレゼンス・ハイド》」


「―――!!!!」



その『魔法名』を、静かに呟いた。

それは―――勇者学園の生徒……バニラ=タリスマンが扱っていた魔法であった。

「あの襲撃事件を経て……わたくしは必死に考えました。
 わたくしは、何をするべきなのか。
 わたくしには、一体何が出来るのか……」

その言葉は、彼女が事件の詳細を知った時……
すなわち、自分の存在があの恐ろしい事件の引き金となったということを知り、絶望に打ちのめされた時……
ある一人の『魔王』から告げられた言葉だ。

「わたくしは誓いました……
 もう二度と誰かの負担になどならないと。
 わたくしの手で、誰かを救えるようになりたい……いや、『なる』のだと」

それはまるで、先程のフィルの言葉をなぞるかのようだった。

「その為に必要な『力』は……
 破壊の『力』ではなく……破壊を遠ざける『力』であると、わたくしは思ったのです」

洞窟の中で、魔物の群れに追い詰められた時……
そして、『水晶ゴーレム』に襲われた時……

あの『力』があれば、危機になど陥らなかった。
スリーチェはそう思ったのだった。

「だからわたくしは……バニラさんに教えを請いましたの。
 あの魔法……隠匿魔法《プレゼンス・ハイド》を使えるようになるために」

スリーチェは学園から出された休養には応じず、事件の翌日から学園活動に復帰していたが……その合間にバニラとコンタクトを取り、隠匿魔法を扱う上でのイメージの構築など手解きを受けていたのだ。

無論、魔法は使いたいと願えば使えるようになるような代物ではない。
大抵は自身の得意魔法を習得するだけで精一杯なはずである。

しかしスリーチェは、得意系統である探知魔法だけでなく、爆発魔法……更には回復魔法まで既に扱えている。

彼女は……複数の魔法を扱う才能があったのだ。

「その魔法で………私の後ろを、取った……?」

頬から赤い雫を滴らせるグリーチェが、未だ驚愕の抜けぬままの表情で呟く。

「わたくしは今日のこれまでの時間を……隠匿魔法のイメージ構築に費やしましたわ。
 何とか発動することは出来るようになりましたけれど……ほんの一昨日、話でイメージのコツを聞いただけの、付け焼刃にも等しい魔法……
 しかも、これは本来は魔物に気付かれなくする為の魔法です。
 人間にも気付かれないように構築し直す、というのはより困難を極めますわ」

もっとも、付け焼刃であろうが僅か3日で新しい魔法を発動出来るようになった、というだけで並の『魔法師』が聞いたら卒倒しかねない事実なのだが。

「おそらく、この魔法だけで背後からの攻撃を難なく受け止めることが出来るグリーチェお姉さまの後ろを取ることは不可能だったしょう」

スリーチェは、レイピアを静かに下げる。



「―――――!!!」

そう―――グリーチェはあの時―――

アリーチェ、キュルル、そしてフィル―――

この3人からの攻撃に対応する為に―――

全神経を、集中していた―――


そして、彼女は気付く―――

最後に3人が突撃する前に、フィルが行った宣言―――

グリーチェにも聞こえる程の大声で行った、あの宣言———

『次で……決めよう!!!』

あれは―――

スリーチェへの、合図だったのだと―――!

「今日のお昼、フィルさんに会った時……
 このことをお話しておりましたから、ね」

「…………………………」

グリーチェの顔からは……徐々に驚愕の色が抜けていき……
やがて、完全な無表情となった……

そしてスリーチェは……そんなグリーチェから視線を外し……
この部屋の入口近くに立つ人物へと、その顔を向ける。

「………お父さま……今の時刻は……?」

スリーチェが、自らの父親……ヴェルダンテに向かって静かに話しかける。

「……23時55分だよ」

ヴェルダンテもまた、静かに答えた。

「……………では」

「……………ああ」


そして―――その宣言が、響き渡る。



「この『ゲーム』は………君達の勝ちだ」



現在時刻、午後11時55分―――

『ゲーム』クリア―――――
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

処理中です...