勇者学園とスライム魔王 ~ 勇者になりたい僕と魔王になった君と ~

冒人間

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第9章

第11話 フィル達と決着

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「まぁ……魔法を自由自在に操れるようになった、って訳じゃないんだけどね」

フィルは、少し肩を落としながら呟いた。

「僕はただ……ひたすらに思っただけだよ。
 あの時の勇者様のようになりたい……いや」

その言葉を――力強く、声に出す。

「『なる』んだ……って!」

そして、木剣の柄を力強く握り―――

「皆の姿を見て……僕も、心からそう思えるようになったんだ」

目の前を―――グリーチェの姿を、見据える―――!

「きゅる……!」

「ふっ………!」

そんなフィルに続くように……キュルルとアリーチェの2人もまた、彼女へと向き直る。

「…………………………」

笑みを消したグリーチェは……ただ無言で、剣を構えた。

「……キュルル、アリーチェさん」

それを見て、フィルは2人へ再び話しかける。

「多分2人ならとっくに気付いていると思うけど……
 グリーチェさんの一番恐ろしい所は、あの腕力によるパワーじゃなくて……『反応速度』だ」

「……うん」
「……ええ」

確かに剣一本で人一人を容易に吹き飛ばすほどのパワーは驚異的だ。
しかし、ただ途轍もないパワーを持つというだけならあそこまで一方的な戦いにはならないだろう。

こちら側の攻撃の悉くを防ぐ、先読みにも等しい反射神経……
そして背後からの攻撃にすら対応出来る、まるで背中に目でも付いているのかと疑うほどの察知能力……

それこそが、グリーチェの圧倒的な強さの要因なのだ。

「それとさ……僕のこの魔法だけど……
 どうも……そう長くは続けられないみたいだ」

「っ!!」
「フィル……!」

キュルルとアリーチェは気付いた。
フィルは、傍目にはなんてことないように話をしているが……

その顔からは汗が沸々と噴き出してきており……
耳をすませば、浅い呼吸が途切れ途切れに聞こえてくる。

その様子はかつて魔物襲撃事件の際――洞窟内で見た彼の姿を想起させた。
無論、あの時のような……死の一歩手前という程の有り様ではないが……

そう長くは持たないだろうということは、容易に見て取れた……!

「多分……次、動いたら……
 僕はもう戦えない……だから」

フィルは、ゆっくりと『黒い包丁』を構え――

「次で……決めよう!!!」

グリーチェにも聞こえているであろう程の大声で、宣言したのだった。

「…………………………」
「…………………………」

キュルルとアリーチェは何も言わず―――自らもまた静かに構えを取る。

返事はなくとも……そこには無言の同意があった。

「…………………………」

そして、グリーチェもまた、無言で長剣を構える。

彼女の口からは、先程までの『ゲーム』を楽しむかのような軽口は一切出てこなかった。

目の前の3人を前にして……そのような余裕など決してないのだと……彼女の姿は告げていた。


「――――――」


そうして僅かな時間――――

静寂が、この場を満たし―――

次の瞬間―――!!

「きゅるッッ!!!」

「はぁッッ!!」

キュルルとアリーチェが、同時にグリーチェへ向かい駆け出す―――!!

そして―――

「ふ――――っ!!!」

―――トッ……!

フィルが―――跳ぶ!!

キュルルとアリーチェよりも後に動いたはずのフィルは―――

その2人を遥かに凌駕したスピードでグリーチェに肉薄し―――!!!

「――――ッッ!!!!!」

フィルの構えた『黒い包丁』と、グリーチェの長剣が―――


―――ギィィィィィィン!!!!


正面衝突を起こす―――!!

「ッ―――――!!!!!」

凄まじい衝撃に襲われるグリーチェだったが―――
今度は引き飛ばされることはなく、その場に留まり続けていた―――!!

先程までのような油断や手加減を一切捨て去ることで―――
その衝撃を受けきったのだった―――!!


だが―――!!


―――バキィィィィ!!


「――――!!!」


グリーチェの持つ長剣が―――砕け散る!!

フィル、キュルル、アリーチェ……そして、一切の休息を挟むこともなく挑み続けて来たファーティラ達の攻撃を余すことなく受け続けて来た長剣は―――

この衝撃を耐えることは出来なかったのだ―――!

そして、間髪入れず―――!

キュルルとスリーチェ……2つの影が左右からグリーチェを狙う―――!!!


勝った――――!!


それを見ていた者は、皆そう思った。


しかし―――


「――――――」


フィルの目は、『それ』を捉えていた。

グリーチェは……剣を、『片手』で握っていたのだ。

あれ程の衝撃を、片手で受け止めきった――
そんな驚愕を挟む間すら、彼にはなかった。

剣を握る方とは逆の手……彼女の左手に、逆手で握られているモノを見たから―――!!


―――鞘!?


そう……彼女は、自身の持つ剣があの衝撃に耐えられないであろうことを読んでいたのだ。

故に、剣を犠牲にした後―――

即座に反撃を打ち込む為に―――

鞘を左手に構えた状態で、攻撃を受けた―――!!


そして、『力』を出し切り無防備となったフィルに―――

左手に握る鞘の一撃が―――!!


「―――――フィルッッ!!!」
「―――――くぅぅッッ!!!」


その一撃がフィルへ叩き込まれる直前―――

2人の少女がその身を割り込ませる―――!!


―――ゴキャッッッッ!!!!


「「「―――――――――!!!」」」


3人は、『ひとかたまり』となって吹き飛び―――


―――ドッッチャァ!!!


パーティ会場の最奥の壁へと激突した―――

………まるで『何か』がぶちまけられたかのような粘性のある音が響き―――

ファーティラ達は蒼白になりながらその激突した先を凝視した―――

だが……その粘性のあるモノは……
彼女らが想像したような赤色ではなく、黒色をしていた……

「っ………!!
 キュルル……!」

フィルの声がその場に響く。

ぶちまけられたのは、キュルルの身体だけであった。
グリーチェの一撃がフィルに届く一瞬―――その身を増殖させ、彼を包み込んだのだ。

壁に叩きつけられ人型を完全に失ったキュルルの姿は、致命的なダメージを負ってしまったのではないかという危機感をフィルに抱かせたが……

―――ずる……ずる……

ゆっくりと黒い粘液が移動を開始し……
そして、人型へと戻っていき……

「きゅ……るぅ……」

その声が聞こえた瞬間、フィルは安堵の溜息をついた。
どうやら命に別状はないようだが……床に横たわるその姿は、見るからに満身創痍と呼ぶべきものだった。

「う……く……」
「っ!アリーチェさん!」

アリーチェもまた、キュルルと同じ様に床に横たわり、呻き声を出していた。
彼女もキュルルと同じく彼の前へ立ち、自身の纏う『装甲』によりグリーチェの一撃を受けたのだった。

この2人の助けがなければ……おそらくフィルは、下手をすれば命に関わるほどの重傷を負っていたかもしれなかっただろう……

「く……はぁッ……!はぁッ……!」

そしてフィルは……目立った外傷こそ無いものの………
『力』を使い果たし、もはや満足に動くことも出来ない有り様であった……

この3人に……もう戦う力は残っていなかった……


それを見て………グリーチェの顔にはようやく先程までの笑みが戻って来たのだった。

「ふ……ふふふ………!
 本当に……本当に、楽しかったわ……!
 でも、これでもう――――」




―――ツー………




「―――――え?」


彼女は………右頬に、違和感を感じた。

何かが……流れ出ているような………

「…………………………」

グリーチェは………視線を、少し右にずらした。

見えたのは………背後から突き出された………細身の剣身、であった……


「申し訳ありません、グリーチェお姉さま」


後ろから………そんな声がした。


「このような方法での決着で……ご納得頂けないかもしれません」


グリーチェは……ゆっくりと振り返る………


「それでも、これは――――」


そこには…………

レイピアを突き出した……スリーチェの姿があった―――


「『わたくし達』の、勝利ですわ」


グリーチェの頬からは………赤い雫が滴り落ちていた。
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