勇者学園とスライム魔王 ~ 勇者になりたい僕と魔王になった君と ~

冒人間

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第9章

第6話 僕と貴女の原点

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「どうして『勇者』に……?」
「………………」

それは昨夜、僕がグリーチェさんから聞かれたこと……
それを今、僕がアリーチェさんへと投げかける。

アリーチェさんからしてみれば、何を藪から棒に――と言った所だろう。
それでも……僕が静かに、真っ直ぐと彼女の顔を見ていると―――

「わたくしが、このガーデン家に生まれついて……
 物心がついた時には、既にわたくしは漠然とそのようなことを思ってはおりましたわね」

静かに、アリーチェさんは語り出してくれた。

「その頃は『ヴァール大戦』の影響で我々ガーデン家も故郷を追われ……
 日に日に追い詰められていく人類の劣勢を肌身に感じており……これから先、一体どうなってしまうのかという不安と……
 わたくしにも何か出来ることはないのかという自問自答を、ひたすらに繰り返すばかりでしたわ」

今更言うまでもないけど……凄く立派な人だなぁ……アリーチェさん……
僕なんて村が魔物に襲われるその日まで、大戦のことなんてまるで意識していなかったというのに……

「もっとも、その頃は『何かをしなければ』という漠然とした思いしか抱いておりませんでしたけどね。
 わたくしが『勇者』を目指すことになった、その『原点』は……」

アリーチェさんは目を瞑り……その言葉に想いを込め、言う。

「サリーチェお姉様……ですわ」
「―――!
 サンドリーチェ、さん……」

アリーチェさんのもう一人のお姉さん……
ガーデン家長女、サンドリーチェ=コスモス=ガーデン……

「フィルにもお話致しましたでしょう。
 大戦終了前、サリーチェお姉様とお会いすることが出来たと」
「ええ……」

その時のサンドリーチェさんはあの肖像画で見た姿に……
片目、それに片腕を失っていたという……

「あの時のお姉様は、とても痛ましい姿であるはずなのに……わたくしがそれまでに見たどんな人よりも活気に満ち溢れておりました。
 その姿を見て、わたくしは思いましたの。
 この人のようになりたい、と」
「…………!」

この人のように……なりたい……

「お姉様は戦場で会ったという初代勇者の凄まじさをしきりに語っておりましたわ。
 彼女がいれば、人類は勝てると。
 彼女こそ、まさしく『勇者』だと………
 しかし―――」

アリーチェさんは目を開き、更に力強い意志を込め、話す。

「わたくしにとっては………サリーチェお姉様こそが、『勇者』でありましたわ」

「……………」

僕が幼い頃、勇者様に抱いたあの思い。
『あの人のようになりたい』……

その思いを、アリーチェさんはサンドリーチェさんに対して抱いたのだ。

そして僕は思い当たる。
アリーチェさんは今までずっと勇者様のことを『初代勇者』という、どこか記号的な呼び方しかしてなかった。
これは自分がいずれ二代目の『勇者』になるという強い気持ちの表れだと思っていたけど……

それだけでなく……彼女にとっての『勇者様』が、別にいたからだったんだ……

「そして……それからわたくしの目指すべき道が定まりました。
 究極至高の『勇者』になる、という道が」
「……………」

それが……アリーチェさんの『原点』………

「………と、わたくしの『勇者』を目指す理由に関してはこんな所ですが……
 ご納得頂けましたか?フィル」
「はい……!勿論です……!
 ………あの、それで、もう一つ質問があるんですけど、その………」

『もう一つの質問』を言い淀む僕に対してアリーチェさんが「?」と疑問符を浮かべる。

「……物凄く、失礼なことを聞いてしまうのですけど………」

僕は意を決して、彼女に聞く。

「不安に思ったことは、ありませんか?
 自分が本当に、『勇者』になれるかどうかを……」

「――――!」

彼女は一瞬目を見開き、僕を見た。

「………………………」
「………………………」

しばらくの沈黙の後――

「勿論、ありましたわ………
 何度も、何度も………」

絞り出すように、そんな言葉を零した。

「わたくしには、【マジック・ドミネイト】という『エクシードスキル』が……『力』があります。
 しかし……それを差し引いても、碌に歩くことも出来ないこの身体は余りにもハンデがあり過ぎる……」
「…………………」

アリーチェさんの瞳は、その時微かに揺れていた。

「あの学園活動初日で起きた暗殺未遂事件の後、泣き言を吐く情けない姿を貴方にはお見せしてしまいましたが……
 あのようになることも、一度や二度ではありませんでしたのよ……?」
「………………………!」

あの時……「『勇者』の器でないのはどちらなのやら」と言っていた、普段の姿が嘘のように弱気になっていたアリーチェさん……
あんな姿が……今までにも………

「けれど―――」

彼女の瞳の揺れが、止まった。

「そんなもの、関係ありませんの」

「――――!!」

それは―――つい昨日、聞いた言葉だった。

「どれだけわたくしの身体がハンデを負っていようが………
 何度その現実に打ちのめされようが……
 今、わたくしが『なりたい』と思って行動している。
 それが全てですわ」

それは、彼女の絶対の意志が乗った言葉。

「『なりたい』と思ったなら……何が何でも、『なる』。
 ただそれだけなのですわ」

「…………………………」

昨日の夜にも聞いた覚えのある、その言葉の力強さに胸を打たれるのと同時に―――

やはり、姉妹なのだなぁ……と、そんなことを思うのだった……

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「それでは……アリーチェさん。
 お話して頂き、どうもありがとうございました」

ここに居ても僕に出来ることはない……そう判断した僕はアリーチェさんに声をかけ、部屋を出ようとする。

「フィル、貴方はこれからどうしますの?」

部屋から出る前に、アリーチェさんからそんな声がかけられた。

「僕も……今、僕に出来ることを考えてみようかと思います」

「フィル……これはわたくし達ガーデン家の個人的な問題で、貴方がそこまで気負う必要は―――」
「いえ―――」

僕は、アリーチェさんの言葉を、遮った。

「勿論アリーチェさん達の為でもあるんですけど………
 これは………きっと、僕自身の為にもなることだと、そう思うんです」

「?」

怪訝な表情をするアリーチェさんを尻目に、僕は研究所を後にした―――

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

今……僕は昨日の夜、グリーチェさんと一緒に来たバルコニーに来ていた。

昨日と同じ様に、右手には2倍の大きさの《キッチンナイフ》を握る。

そして、振る。

「ふッ!はッ!」

―――ヒュン……!ヒュン……!

あの時―――ちっとも当たらなかった僕の攻撃―――

「やぁッ!はぁッ!」

―――ヒュン!ヒュン!ヒュン……!

もっと速く―――

もっと疾走はやく―――!!


「はぁあああああッッ!!」


あの人のように――――!!


僕はそう思いながら、ひたすらに《キッチンナイフ》を振るい続けるのだった―――


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「きゅるわぁ~~~~………!
 うーん、よっく寝たーーー!!
 よぅし!!今日こそ『ゲーム』に勝っつぞぉー!!
 フィル!!頑張ろうねーー!!」

「うん、もう午後6時だけどね」

『ゲーム』終了まで、残り6時間―――
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