勇者学園とスライム魔王 ~ 勇者になりたい僕と魔王になった君と ~

冒人間

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第9章

第4話 僕とスリーチェとやれること

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「色々お話し出来て楽しかったわ~。
 それじゃ~お休み~」

そう言いながら部屋の前でグリーチェさんと別れた僕は、ベッドに寝転びながらバルコニーで話していたことをぼんやりと考えていた。

『なりたい』のではなく、『なる』……

思えば、僕の『力』が発現した時……レディシュさんに殺されそうになっていたアリーチェさんを守ろうとした時に、僕は叫んでいたはずだ。

『僕は、『勇者』になる』と……

「……………………………」

僕は考えのまとまらない頭で、ボーっと天井を見上げていたけど……

その内眠気に負け……瞳を閉じ……

再び眠ってしまっていたのだった―――

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

そして一夜が明け―――時刻は午前12時。
昨夜グリーチェさんと夜更かしをした影響か、お昼までぐっすり寝込んでしまっていたようだ。

『ゲーム』の制限時間は今日の24時まで……もう半日を切ってしまった。

本来なら時間を無為に過ごしてしまったと焦ったり自分を責めたりする所なのだろうけど……何故か今の僕は落ち着いていたのだった……

目が覚めた後も、昨日の眠る前までのようにボーっと天井を見上げていると……

―――ヒュン……ヒュン……!

「……?」

窓の外から、風切り音が聞こえてきた。
僕はベッドから起き上がり、窓の方へと向かう。

窓の外の庭に居たのは……

「スリーチェ?」

学園の制服に身を包んだスリーチェがレイピアを振っていた。

それを見た僕は寝間着から学園の制服に着替え、部屋から出たのだった……

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「スリーチェ!」

「あっ!フィルさん!
 おはようございます!
 といっても、もうお昼ですけれど」

そこは綺麗な花々が咲き乱れる庭の一画に設けられている広場。
そこでレイピアの素振りをしていたスリーチェに僕は声をかけた。
いつも彼女の傍に控えているはずのプランティさんは……どうやら今はいないようだ……

「ごめん、スリーチェ……
 君達が学園に残れるかどうかの瀬戸際に、こんな時間まで呑気に眠っちゃってて……」
「いーえ!お気になさらないでください!
 グリーチェお姉さまと戦わせる為に貴方をここに連れて来た訳ではありませんもの!
 ましてやプランティ達のように夜通し戦い続けろなんて言える訳ありませんわ!」

「夜通し……?」
「ええ……プランティ達、相当責任を感じているのか、寝る間も惜しんでグリーチェお姉さまに挑み続けているそうですの……
 流石に回復魔法を使える使用人達まで付き合わせる訳にもいかないので、回復はポーション頼りになっているようで……副作用で倒れてしまってもおかしくないでしょうに……」

ポーションの連続使用による副作用の恐ろしさをよく知るスリーチェは皆の身を案じる言葉を漏らした。

あれ、でも昨日は僕の部屋に来てたような……?
まぁでも、挑み続けているといっても少しぐらいの休憩はあっただろうし、その合間に部屋に来てたってことかな……

それにしてもファーティラさん達……そこまで頑張っていたなんて……
改めて、彼女達の主に対する忠義心は本物だと感嘆するのだった……

「それで、スリーチェは今なにを……?」
「………昨日、お姉さまに言われましたの」

アリーチェさんに……?
それって、もしかしてアリーチェさんがあのパーティ会場から出ていこうとしてた時の……?

「………『貴女のすべきことは、自らの為にその身を投げ打つ者達をただ見ていることなのですか……?
 彼女達にあれだけの覚悟を示されたのであれば……わたくし達もまた、今この時の為に、やれることをやるべきだとは思いませんの?』
 と……!」
「……!」

そうか……やっぱりあの時のアリーチェさんは……ファーティラさん達を見限ったりした訳じゃないんだ。
勿論、アリーチェさんがそんな人でないことなんて、分かりきってはいたけど……

むしろ、そんな彼女達に報いる為に……自分が出来ることを、と……

「じゃあ、スリーチェは……」
「わたくしにやれることをッ……!
 やるためにッ……!ですわッ!」

そう言いながら、グリーチェは手に持ったレイピアを素早く振り抜き、鋭い風切り音をその場に響かせる。

スリーチェ……プランティさん達だけに任せず、自分も戦うつもり、なのかな……
細身の剣を軽やかに振るうスリーチェの姿は中々に様になっている。

でも………

「……わたくしがあのグリーチェお姉さまに挑むのは余りにも無茶だと、そうお思いですか?」
「えっ!?いや!別に、その………」

まあ……有り体に言ってしまえば、そうなってしまう……
昨日のあの光景……
ファーティラさん達やプランティさんの猛攻が全て防がれ、壁へと叩きつけられる様は未だ僕のに焼き付いて離れずにいる……

「ねえ、スリーチェ……君にはあの爆発魔法があるんだし、直接グリーチェさんと戦う必要は……」
「《ブロウアップ・ブラスト》は……!
 どうしても数秒の『溜め』が必要になってしまいますの……!
 グリーチェお姉さまの前では簡単に避けられてしまいますわ……!」

スリーチェは僕の方を振り向きもせず、レイピアの素振りを続けたまま答える。

でも、だからといって……
あの人の前に、スリーチェが立つなんて………

「フィルさん……実はわたくし―――」
「………?」

スリーチェが、そっと顔を寄せて言った。

「―――――ですわ」
「えっ――!!??」

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「それじゃスリーチェ、僕はアリーチェさんの所に行ってみるね」
「ええ、わたくしは……制限時間までには、みせますわ……!
 それでは……!」

そうして、レイピアが生み出す風切り音を背に、僕はスリーチェから教えてもらったアリーチェさんが今いる場所へと足を運ぶのだった……
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