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第9章

第3話 僕と原初の魔法

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「うふふ~いい運動になったでしょ~?」
「はあ………まあ………はい………」

グリーチェさんはバルコニーに設置されているベンチに腰かけ、足をパタパタとさせていた。
そして僕はそんな彼女の隣で肩を落として落ち込んでいる………

まぁ、そりゃさ……よく考えなくても結果は見えてたとは思うけどさ………
まさかあそこまで勝負にならないとはなぁ……

僕はずーん……とただひたすらに項垂れているのだった……

「ふふふ~ん♪」
「……………」

しばらくの間、グリーチェさんの鼻歌以外何も聞こえない、静かな時間が流れていた……

「……ねえ、フィルくん」
「……………?」

そんな静寂をグリーチェさんが破る。

「フィルくんはさ、どうして『勇者』になりたいって思ったの~?」
「え………」

どうして……って………

「さっき、お部屋では聞きそびれちゃったでしょ~?」
「……………………」

僕が『勇者』になりたい理由……それは…………

「昔………僕の故郷の村が魔物の群れに襲われた時………
『勇者』様達が来て……そして、救われたんです………
 それで、僕も『ああ』なりたいって……心から、そう思ったんです」

そう……それはとてもとても単純な、何の変哲もない、余りにも子供っぽい安直な夢……
本当にちっぽけな、僕の『原点』……

「ふ~ん……」

グリーチェさんが僕の顔を覗き込み、柔らかく微笑みかける。

「今はそれだけじゃなくて、幼い頃に出会った時のキュルルとの、『お互いに強くなって、戦いの決着をつける』っていう誓い……
 それに、アリーチェさんとの、『お互いに負けないぐらい、立派な勇者になる』っていう誓い……
 彼女達の為に『勇者』になりたいって気持ちもあります。
 でも―――」

僕は俯いていた顔を上げ、満天の星々を見上げた。

「僕が一番最初に『勇者』になりたいと思った切っ掛けは……そんな、とても単純な『憧れ』からです」

「…………………」

僕の言葉を受けても、グリーチェさんからの返事は無かった。
彼女は何を思ったのだろうか。

信念と呼べるほどの想いがあるわけでもなければ、『力』を欲したくなるような壮絶な過去があるわけでもない……
正直、馬鹿にされてもしょうがないとすら思える僕の『原点』……

それでも、僕にとっては―――

「ねえ、『原初の魔法』って知ってる~?」
「え?」

いきなりの話題転換に僕は思わず間抜けな声をあげる。

『原初の魔法』……?
確か昔、村の大人達からそんなおとぎ話を聞いたような………

「私達のいるこの世界は……かつて滅亡の危機に瀕していた」

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

何が原因なのかは分からない。
気がつけばこの世界は『そう』なっていた。

干からびた大地……
吹き荒ぶ砂塵……

人も、動物も、魚も、虫も、植物も……
あらゆる『生』が、もう間も無く消え失せる。

そんな世界に……ある1人の人間がいた。

その者は……どんな命も死に絶えるしかないその世界で、ただ1人生き続けていた。

常人を……いや、あらゆる生物を遥かに凌駕する『生命力』を持つその者は、願った。

「この私の身体を――私の存在そのものを、この世界の『生きる力』として欲しい。
 私はなりたい。この世界の『希望』に――」

その者は、ひたすらに願い続けた。
朝も昼も夜も、ただただひたすらに……

しかし……いくら願えど、その望みは果たされなかった。
その者は嘆き、悲しみ……それでも尚、ただ願い続け―――

そして、気付いた。

『願う』のでは駄目だ。
『思う』のだ。

『なりたい』ではない。
『なる』のだ。

その者は―――何よりも強く思っイメージした。
自分という存在を……この身に宿る力強い『生』を……肉体より解き放つ―――!

その者は―――叫ぶ!!

「『生』よ!!!満ちよ!!!」

その瞬間―――

その者の身体は霧散し―――

『力』そのものとなった―――



そして―――

『力』は―――

世界へと、降り注がれた―――



その後世界は、幾年月もの時をかけ―――

再生していく―――



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「それこそが、この世界における原初の魔法……
 再世魔法 《ワールド・リジェネレーション》」

グリーチェさんは夜空を仰ぎながら、そう語った。

「そして世界へと降り注いだ『力』―――それが今、私達が『魔力』と呼んでいるものである……
 な~んてお話~」
「え、ええ……僕も、聞いたことはあります……
『力』そのものとなったその名も無い『英雄』は、今も僕達のことを姿なき姿で見守ってくれている……なんて締め括りで終える、おとぎ話……」

まあ、初めて聞いた時の僕は、自分の存在が『力』そのものになった辺りがどうにもイメージしづらくて、なんとなく『いいはなしだな~』って感じでぼーっとしていたのだけれど。

「うふふ~満更おとぎ話ってわけでもないかもしれないのよ~?
 実際、今この世界に生きる私たちの生命活動には『魔力』が重要な役割を果たしているし~」

そういえば、『魔力』は僕達の身体を動かしたりするのにも使われているんだっけか。
まあ僕は勇者学園での『魔力値』検査の時に初めて知ったんだけど。

「それにね~、勇者様の『エクシードスキル』についてはフィルくんもご存じよね~?
 その勇者様の『力』はこのお話に出てくる『英雄』が持っていたという『生命力』と同一のものではないか、なんて見方もあったりするのよ~?」
「ええ!?
 勇者様の『エクシードスキル』……【インフィニティ・タフネス】がですか!?」

でも、言われてみれば確かに……
一切の休息をせずに活動し続けることが出来る底なしの体力……
それは無限の『生命力』とも言っても過言ではないのかもしれない……

「そして~このお話はこの世界で魔法を扱う為の礎でもあるの~。
『願う』のではなく『思う』……
『なりたい』ではなく『なる』……
 漠然とした『願望』ではなく、その現象を具体的に、詳細に『イメージ』し、それを現実世界へと『形成』する……
 魔法を扱う上での三要素、『魔力』、『イメージ力』、『形成力』の概念の大元と言われているわ~」
「はぇ~……」

僕は呆けた顔で感心していた。
この世界では当たり前のように存在している魔法って、凄い壮大なお話が元となっていたんだなぁ……

それで……

「あの……何故そのお話を……?」
「ん~……フィルくんってさ~」

グリーチェさんは再び僕の顔を覗き込みながら、言った。

「心のどこかで自分のことを『全然大したことない奴だ』なんて卑下していたりしない~?」
「っ……!それ……は………」

それは………確かに、そうだ。

僕はこの学園に来て、『力』に目覚めた。
その『力』で戦い、時に人を救うことだって出来た。

でも……その『力』は………僕だけの『力』じゃない……

僕の体内に宿る、キュルルの欠片達のおかげだ……

僕自身は、全然……

「そんなもの、関係ないのよ」
「え?」

僕は、グリーチェさんを見た。
彼女は……とても柔らかな笑みで、夜空を見上げていた。

「自分は弱いだとが、この『力』が誰のおかげだとか……そんなものは、まるで関係ないの。
 ただ、『なりたい』と思った自分がいるなら……
 何が何でも、『なる』。
 ただ、それだけなのよ」
「………何が何でも……『なる』……」

僕の心に、その言葉が響く。

「遥か昔の『英雄』が、この世界の『希望』に『なりたい』と願い、そして『なった』のと同じように……
 貴方もまた、『勇者』に『なりたい』と思ったのなら……あとは『なる』。
 ね?単純な話でしょ~?」
「………………」

そんな世界規模の壮大な話と僕1人のちっぽけな夢とを同一のように語っていいものか……
そんな疑問が僕の中で一瞬出て来たけど……

その言葉は……とても大切にするべきものだと、僕は思った。

「うふふ~少し長くお話しし過ぎちゃったわね~。
 そろそろお部屋に戻りましょうか~」
「…………はい」

そうして僕達は、満月に照らされるバルコニーから立ち去ったのだった。
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