勇者学園とスライム魔王 ~ 勇者になりたい僕と魔王になった君と ~

冒人間

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第9章

第2話 僕とお話

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「ほら~フィルくん~!
 お月さまもお星さまもと~ってもきれ~い!」
「え、ええ……」

僕とグリーチェさんはお屋敷のルーフバルコニーに居た。
遮るものが何一つない夜空には満天の星々と眩いばかりの満月が輝いている。

「ここね~私のお気に入りの場所なの~。
 私~お仕事で殆どお屋敷には帰ってこれないんだけど~。
 帰ってこれた時は必ずここに来てるの~」

そんなことを言いながら月と星の光を浴びながら踊るように両手を広げながらクルクルと回る彼女を見ていると、ホントにこの人があのパーティ会場で見た鬼神の如き強さを見せた人と同一人物なのか疑ってしまう……
確かこの前アリーチェさんから聞いた話ではこの人はアリーチェさんより6歳上の年齢なんだっけ……
無邪気に動き回る彼女の姿はスリーチェと同じくらいかもしくはそれ以上に幼い雰囲気を感じた。

そんな楽しそうな様子の彼女を見ていた僕だけど……
そろそろ僕をここへと連れて来た理由を聞こう。

「あの、それでグリーチェさん……
 僕とお話って、なにを……?」

「え~?う~んと~それじゃあね~……」

「ん~」とグリーチェさんは人差し指を口元に当て考えている。
……もしかして何を話すのか特に考えてなかった……?

と、僕が半眼になっているとグリーチェさんが「あっ!」とひらめいたような声をあげる。

「フィルくんはキュルルちゃんとアリーチェちゃん、どっちの方が好きなの?」

「――んぐほッ!!!」

唐突なその質問内容に僕は思わず息を詰まらせる!

「やっぱり幼い頃に出会った思い出の女の子であるキュルルちゃんの方がフィルくんにとっては特別なのかしらね~?
 でもやっぱりあの子のお姉ちゃんとしては~アリーチェちゃんを応援したいのよね~。
 ああでもそれならスリーチェちゃんにだって頑張って欲しいし~。
 ん~難しい問題ね~」

「なんか勝手に色々と思い悩まないでくれます!?
 っていうか僕と出会った頃のキュルルはただのスライムですからね!?」

「むむむ~…」と両腕を組みながら眉を寄せるグリーチェさんに向かって僕は大声をあげる!

「その、キュルルもアリーチェさんも、そういうんじゃなくて……
 僕とお互いに絶対に果たすべき誓いを立てた相手で、とても大切な……えっと……ライバル……って感じで……その……」

「うふふ~……誓いを立てた相手ね~。
 聞く人が聞けば物凄い誤解を与えかねない言葉ね~」

うう……そう言われると途端にあの2人のことを意識してしまうのだった……

「そ、それで……お話ってそれだけなんですか?」

「ん~?そうね~……まぁ、他にも色々あるんだけど~……」

その時、バルコニーの上をあてもなく歩き回っていたグリーチェさんがピタリと足を止めた。

「ねえフィルくん……」

そしてクルリと僕へ向き直り――言った。

「今から『ゲーム』の続き、やってみない?」

「えっ……?」

突然の言葉に僕が一瞬が固まっていると―――

―――シャキィン……!

「うわっ!」

彼女の右手には……いつの間にか剣が握られていた!

「うふふふ~!さあ、かかってきなさ~い!」

「え……ええええっ!い、いきなり、そんな……!?」

さっきまで和気あいあいとした雰囲気でお話をしていたグリーチェさんが剣の切先を僕へと向ける!

い、いくら何でも唐突が過ぎる……!

「あらあら~?どうしたの~?
 ここで『ゲーム』をクリアすることが出来ればアリーチェちゃん達はきっと大喜びしてくれるはずよ~?
 それとも~1人で私を相手するのは怖い~?」

「―――っ!」

グリーチェさんの挑発的な発言に僕は思わず口を噤む……!

僕は―――!

「【フィルズ・キッチン】……《パレットナイフ》!」

僕に剣を向けるグリーチェさんに対し、僕もまた右手に握った木剣の柄に黒い《パレットナイフ》を作り出し……彼女へと向ける!

僕は……アリーチェさんやスリーチェの力になりたくてここに来た……!
なら……!ここで戦わない選択肢なんてあるわけない!

「行きます!!」

―――ダッ!!

僕は薄い笑みを浮かべるグリーチェさんに向かって走り出し―――!

「はああああああ!!」

《パレットナイフ》を振り上げ―――袈裟斬りに振り下ろす!!

「ふふ……!」

―――ギィィィン!!!

「―――っ!」

グリーチェさんは―――《パレットナイフ》をあっさりと受け止めた!
全く、微動だにせず……!!

確かに《パレットナイフ》は対人用に威力を落とした形状だけど……!
ミルキィさんやヴィガーさん達と訓練している時は、2人とも受け止めたら身じろぎするぐらいの衝撃は生まれるはずなのに……!

彼女は片手で持った剣で余裕そうに受け止めている……!!
涼しい顔をしながら……!!

これが、グリーチェさんの身体強化魔法の力……!!

「え~いっ」

―――キィン!

「おわぁっ!!」

グリーチェさんが気の抜けるような掛け声とともに《パレットナイフ》を受け止めていた剣を振り抜くと―――《パレットナイフ》ごと僕は後方へと弾き飛ばされてしまった!
バランスを崩した僕は、思いっきり尻もちをついてしまうのだった……

「いっつつ……!」

「あら~、大丈夫~……?
 ごめんね~……ちょっと弾いただけのつもりだったんだけど~……」

どうやら彼女は僕を吹っ飛ばすつもりはなかったらしい。
別に皮肉でも挑発でもない本気で申し訳なさそうな声が却って僕の心を抉る……

《パレットナイフ》を解きながら僕は立ち上がり―――

「………グリーチェさん………もう一度、行かせてもらいます………!
 今度は、本気で………!」

彼女を、睨みつける!

「うふふ~勿論いいわよ~!
 何度でもいらっしゃ~い!」

実に楽しそうな彼女を見つめながら、僕は認識を改める。
そうだ……目の前のこの人は、ファーティラさん達が全員で挑んで未だに傷一つつけることが出来ない人なんだ……

「【フィルズ・キッチン】……《キッチンナイフ》……!
規格スタンダード2倍ダブル』!!」

対人用の威力を落とした形状でなんて……甘い事を言ってられるような相手じゃない……!!

僕は2倍の大きさで生成した黒い『包丁』を両手で構え―――

「っ!やああああああ!!」

グリーチェさんに向かって、再び駆ける!!

通常サイズで人一人を数十メートルは吹っ飛ばすことが出来る《キッチンナイフ》……その2倍!
いくら身体強化魔法が施されていても、これは―――!!

「ふ~ん……『ソレ』は確かに危なそうね~……!」

グリーチェさんは向かってくる僕を前にニヤリと笑い―――

「はぁッ!!!」

振り下ろされる僕の『包丁』を―――

「ふふっ――!」

―――フッ……!

紙一重で躱した―――!

「っ!!でやぁッ!!!」

僕は即座に彼女が避けた先へと両手に握る『包丁』を振り上げ、追撃を行う!!

しかし―――!

―――ヒュン!ヒュン!ヒュン……!

「―――っ!!」

「ふふふっ……!」

当たらない……!

まるで踊るかのような軽やかな足捌きで僕の攻撃はその肌から数ミリギリギリの所を空ぶる……!!

完全に……動きを見切られている……!!

けど、それも考えてみれば当然だ………!
彼女はファーティラさんやプランティさんが繰り出す常人には目視不可能なほどの速さの攻撃にも対応出来る人なんだ……!

僕みたいな戦闘の素人の動きなんて―――!!

「くぅ……!!はあああッッ!!」

僕のやけっぱちのような『包丁』の振り下ろしを―――

―――フッッ……!

グリーチェさんは当たり前のように避け―――
そして―――

―――コン……!

振り下ろした『包丁』の上を、軽く剣で叩いた。

すると―――

―――ズシュッッ!!!

「うあッッ!?」

一気に重量が増した僕の『包丁』が、バルコニーの床へと突き刺さる!!
僕の作り出す『調理器具』は物体の接触によって質量を急激に増す特性を持つ―――それを利用された!!

やばい!!早く抜かなきゃ――って全然抜けない!
っていうか重い!!
ああそうか、僕の『調理器具』は何かに接触すると重くなるから、何かに刺さり続けてるとずっと質量が増しっぱなしになっちゃうんだ!!
一旦『包丁』の形を解除しなきゃ―――

と、僕が床に刺さった『包丁』に四苦八苦しているうちに―――

―――ピタ……

「――――っ!!!」

僕の喉元に、グリーチェさんの剣の切先が優しく添えられた…………

「うふふふ~……」
「…………………………」

初めて会った時と全く変わらない、朗らかな笑顔の彼女を前に―――

僕は大人しく両手を上げて降参の意志を伝えるのだった―――
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