勇者学園とスライム魔王 ~ 勇者になりたい僕と魔王になった君と ~

冒人間

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第8章

第10話 僕達と彼女の強さ

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僕達はすぐには動けなかった……

明日の24時までにグリーチェさんに傷をつけることが出来れば勝ち、出来なければ負け……
いきなりそんなことを言われて即座に行動に移せるほうがおかしいだろう……

しばらくの間、静寂がこの場を支配した……

「ヴェルダンテ様」
「!」

その静寂を破ったのは、アリーチェさんの褐色肌の付き人……ファーティラさんだった。

「グレーテリーチェ様に傷をつけることが出来れば我々の勝利と仰いましたが……
 それは身体のどんな箇所にでも、どんな小さな傷でもよいのですか?」
「ああ、あの子のあの格好は動きやすくなる為だけでなく、傷の有無を分かりやすくする為でもある」

もう僕達のすぐ近くにまで来ていたヴェルダンテさんがファーティラさんの質問に淀みなく答える。
言われてみればグリーチェさんの格好はかなり肌が露出している。
今更ながら僕は少し顔を赤らめた……

そしてファーティラさんはその言葉を受け、アリーチェさんへと目配せする。

「アリスリーチェ様、ここは我々にお任せを」
「ファーティラ……」

アリーチェさんは何か訝しむような眼をしながらファーティラさんを見る。

「大丈夫です、確かに我々としてもグレーテリーチェ様は決して侮ることの出来ないお方ではあります。
 ですがこの条件ならば……」
「………………………」

アリーチェさんはすぐには答えず押し黙っていた………
そうして、少しの間を置いた後―――

「………いいでしょう、許可しますわ」
「ありがとうございます。
 ウォッタ!カキョウ!」
「「はっ!」」

アリーチェさんの許可の元、ファーティラさん、ウォッタさん、カキョウさんがグリーチェさんの前へと出るのだった。

そして僕はアリーチェさんへと近づき、話を聞いた。

「アリーチェさん……グリーチェさんって、その……強いんですか?
 確か身体強化魔法の使い手ってことでしたけど……」

僕は夕食前に見た、屋敷の前での光景を思い出す。
小太りのおじさんの前で、杖を両手でいとも容易く握り潰したあの光景を……
……必死に忘れようとしてたはずだけど、まぁこの際仕方がない……

「……グレーテリーチェ=ガーベラ=ガーデン……ガーデン家次女にして現当主補佐。
 その『魔力値』は24000。
 そして得意魔法である身体強化魔法、《グレイテスト・アーム》はそこらの岩石程度なら容易に砕き潰すことが出来る程の腕力、握力を付加させますわ。
 その立場上、お姉様は様々な外敵に狙われることも多く、常に護衛を傍に付け行動されておりますが……本人の戦闘技術も並の雑兵では相手にならない実力をお持ちですわ。」
「ひえぇー……」

その内容に僕は思わず震え上がった……
やはりヴェルダンテさんがこんな『ゲーム』を自信満々に提案してくるだけあってグリーチェさんは相当な実力者……

そう思っていた僕に対し、アリーチェさんは「しかし……」と続けた。

「あくまで『並の雑兵』程度なら、ですわ。
 わたくし達数人を同時に相手、しかも傷を一つでもつけられただけで負けという条件は……
 お姉様からすれば、いくら何でも無理が過ぎますわ」
「え?そ、そうなんですか?」

でも、確かに考えてみればファーティラさん達だって相当な実力者であることを、僕はもう十分に知っている。

「普通に考えればこんな条件、負ける方が難しいぐらいですわよ。
 お父様がわたくし達を勇者学園から立ち去らせたいのなら、寧ろわたくし達の方にこそ傷が付いたら負けという条件を出すぐらいが妥当だと思うのですけど……
 わたくしにはお父様の考えが分かりかねますわ……」

さっきファーティラさんに話しかけられた時の訝しげな表情はそれが原因か……

言われてみれば、グリーチェさんにほんの少しの傷をつけるだけでアリーチェさん達の勝ち、しかも僕達の内の誰でもいいだなんて……あまりにも僕達に有利過ぎだ。

もしかして、ヴェルダンテさんは本当はアリーチェさん達の意志を組んでくれて、わざと勝たせるような『ゲーム』を……?
いや、それならわざわざこんな『ゲーム』なんてするまでもなく学園滞在を許可すればいいだけで……

と、僕がそんなことをうんうん考えていると―――

「グレーテリーチェ様」

聞こえてきたファーティラさんの声に僕はハッ!と前を向く。

そこにはファーティラさん、ウォッタさん、カキョウさんがそれぞれ構えを取っており……今にも戦いが始まりそうだった……!

「これから貴女様にガーデン家に仕える『園芸用具ガーデニングツールズ』としてあるまじき無礼を働くこと、深くお詫び申し上げます。
 この『ゲーム』が終わり次第、いくらでも処罰を」

「あらあら~……そんなこと気にする必要ないわよ~?
 こちらから言い出した『ゲーム』なんだから~」

「……なるべく、ごく僅かな傷で済ませます。
 決して大事には致しません」

「もう~そんな気遣いいらないのに~……」

グリーチェさんはそんなことを言いながら剣を持ってない方の手を頬に当て、やれやれとでも言うように首を振る。
そして彼女はファーティラさん達から視線を外し、僕達の方を見た。

「アリーチェちゃんやスリーチェちゃん、他の子達も見ていないで一緒に―――」

「カキョウ!」

「《ガスト・ブースト》!」
―――ボッッッ!!!

―――目の前の相手から目を逸らしたグリーチェさんの隙をつくように、ファーティラさんの号令でカキョウさんが動く!!

ファーティラさん達が立っている場所からグリーチェさんの所まで数十メートルの距離をカキョウさんは一瞬で詰め―――

「はぁッ!!!」

日傘の仕込み刀が―――閃く!!

―――キィィィィィン……!!!

「――――っ!!」

カキョウさんの瞳が―――見開かれる!
凄まじい速度で振り抜かれた仕込み刀を、グリーチェさんは―――右手に握る長剣で難なく受け止めたのだった!

だが―――!

「ウォッタ!!」

「《アクア・シャックル》!!」

即座にウォッタさんの『魔法名』が唱えられる!!
すると―――

―――ゴポォァッッ……!!!

「あら~?」

グリーチェさんの両手首、両足首に―――『水の枷』がかけられた!!
その枷からは『水の鎖』が床に向かって繋ぎ留められ、グリーチェさんの動きを封じる!!

カキョウさんの攻撃が止められるのは想定内だったんだ……!

そして―――!

「グレーテリーチェ様、これにて仕舞いです」

いつの間にかグリーチェさんの背後に立っていたファーティラさんが―――その掌を顔の横で真っ直ぐ突き立て、貫手の構えを取る!!

そしてその手は―――グリーチェさんの露出している脇腹へと―――
おそらく、ほんの僅かな傷を付ける為に―――真っ直ぐに伸ばされ―――!!




「―――――え?」




その数秒間に起きたことを理解するのに―――僕はたっぷり1分以上かかってしまった。

まず、ファーティラさんの貫手が伸びようとするのとほぼ同時に―――

カキョウさんが―――僕達の方へ吹っ飛んできて、壁に激突した―――

彼女は仕込み刀の攻撃を防がれた後、そのままグリーチェさんの剣を抑えていたはずだ。
………僕の見間違えでなければ……『水の枷』がかけられたグリーチェさんは腕を一切動かしてはいなかった。

だけの力で、仕込み刀を弾き飛ばすだけに留まらず……カキョウさんの身体を吹っ飛ばした……んだと、思う……

その後―――グリーチェさんはペン回しの要領で長剣を1回転させ、右手首の『水の枷』から伸びる『水の鎖』を切断。
剣を手放し、自由になった右腕でファーティラさんの手首を掴み貫手を止める。

そしてグリーチェさんは―――驚愕の表情を浮かべるファーティラさんを―――ウォッタさんに向かって投げ飛ばし―――

激突した2人は―――僕達の傍を通り過ぎ―――僕達の背後の壁へと叩きつけられた―――


………ようやく、今起きたことの回想を終えた僕は、ゆっくりと背後を振り返る。

そこには……気絶したファーティラさん達が横たわっていたのだった………
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