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第8章
第8話 貴女達と大事なこと
しおりを挟む「いや全く……そのような者の近くで暮らすぐらいならば、暗殺未遂が起きたとはいえわたくし達のことをしっかり守ってくださった方がいらっしゃる場所に居た方が、まだ安心できるというものですわ。
ねえお父様……そうは思いませんこと?」
「ははは……いやぁ確かに、一理あるかもね」
アリーチェさんのあからさまにあからさまなその言葉をヴェルダンテさんは曖昧にはぐらかすのだった……
「ふふ、そうでしょう。
いやはや全く、もしもそのような者を親に持つ子がいたとしたら、とても可哀想でなりませんわ。
人を見る目というモノが全く養われていない、節穴としか言いようのない目をお持ちの方なのですもの。
ここまで来ると一度その姿をご覧になりたいものですわね」
「………………………」
いやあのちょっと、アリーチェさん?
なんか、趣旨がズレてってるような??
説得じゃなくて悪口メインになってません???
そんな僕の心配をよそに、アリーチェさんはどんどんヒートアップしていく……
「いやはやなんとも全く……一体その者はどんな顔をしているのでしょうね。
わたくしの勘でしかありませんが、相当にお間抜けな―――」
「ところで、コレは聞いた話なのだが―――」
と、ヴェルダンテさんがアリーチェさんの言葉を遮った。
「その『誰か様』の娘さんは、その君達を守ってくれた者を初対面時には『勇者』の器ではない、などと断じたそうだ。
人を見る目の無さは親譲りということかな」
―――ピキリ……!
……アリーチェさんが笑顔のままピタリと静止した……
「……………ええ、そのようですわね。
ホントに全く、どうしようもない性質ばかり受け継いでしまって、迷惑な事この上ありませんわ」
「ははは。親子というものは似て欲しくない所ばかり似てしまうモノさ。
人を不快にさせてしまうような物言い、などといったモノもね」
いやあの!もう完全に『誰か様』の話っていう建前、無くなってません!?
うおお……!
2人の間にとんでもない重さの空気が形成されていく……!
このままではブラックホールが生まれてしまいかねない……!
僕がその重力に引っ張られまいと必死に堪えていると―――
「きゅるっぷはーー!!
ごちそうさまーーー!!」
「う~ん、実にいい食べっぷりでしたわ~キュルルちゃん~」
この超重力を引き裂く能天気な声が響き渡った……
っていつの間にか目の前に並んでた料理が消えとる!!
あの空気の中ずっと食い続けてたのかキュルル!!
ってかキュルルはともかくグリーチェさんはなんでそんな平然としてるの!?
貴女の妹達の重大なお話し中だったんですけど!?
と、一体どこからツッコむべきかを僕が考えている内に―――
「あのさ、ごはん食べながら話半分に聞いてたけどさー。
なーんか面倒くさい話してるよねー」
お腹をぽんぽんと抑えたながら、そんなことを言ってきた。
それを見てアリーチェさんは「はぁ……」と溜息をついた。
「あのですねキュルルさん。
今、わたくし達は自らの行く末に関わる大事な話をしているのです。
理解できないのなら邪魔をしないで―――」
「いやだからさー、そんな小難しい言い方しなくても、もっと話は簡単でしょー?」
そう言いながら、キュルルはヴェルダンテさんの方を向き―――
「結局のところさ、アリーチェのお父さんはアリーチェ達に死んで欲しくない。
だから、自分の手で守りたい。
ただそれだけの話なんでしょ?」
「――――!」
ヴェルダンテさんはキュルルの言葉を受け、僅かに瞳を見開いた。
「それを2人の命が狙われた場所だからとか、呼び戻した後どうするだとか、どうでもいいこと話しててさー。
そんなのよりも、大事なことあるだろー?」
「大事なこと……?」
アリーチェさんがキュルルへと疑問を投げかける。
「アリーチェが自分で言ってたことじゃん。
『これから何をするか』
『自分に何が出来るか』
つまりはさ、自分が何をしたいか、それが一番大事なことだろ?」
「――っ!」
そのキュルルの言葉に、アリーチェさんはハッ!と何かに気付かされたような……いや、何かを思い出したかのような反応を見せた。
そしてアリーチェさんは……僕の方を、一瞬見た。
その後、再びヴェルダンテさんの方を見つめ、彼女は言う。
「……お父様」
「……なんだい?」
2人は、その視線を交わし合う。
「わたくしは、誰よりも素晴らしい『勇者』になりますわ。
ガーデン家の誇りにかけて……
わたくしの信念にかけて」
それは―――
かつて、僕とアリーチェさんが出会った時の―――
「あの日の……誓いにかけて」
「――――!」
その付け加えられた言葉に僕は思わず目を見開く。
そしてアリーチェさんは……ヴィルダンテさんへ、告げる。
「だからわたくしは、勇者学園を去るつもりはありません」
「………………………」
その言葉を受け、ヴェルダンテさんは少しの間目を瞑る。
そして目を開くと、彼はもう1人の娘の方へと向き直った。
「スリーチェ、君も同じ気持ちかい?」
「……!
わたくし、は……」
話しかけられたスリーチェは一瞬戸惑い、どういう言葉を出すべきか迷っているようだった。
少しの間、彼女は俯いていた。
けれど、顔を上げ……僕、キュルル、そしてアリーチェさんを見渡し……
目を閉じ、意を決するように口を開いた。
「わたくしは……『勇者』という称号に、興味はありませんでした……
勇者学園へ入学したかったのは、お姉さまのことが気がかりだったからで……
お姉さまの隣で、お姉さまをお守りしたいという気持ちしかなくて……
ですから、お姉さまの傍にいられるなら……別に、学園に居られなくてもいい……」
「………………………」
その言葉をヴィルダンテさんはただ黙って聞いている。
「そう、思っていました………
ほんの、つい最近までは」
そういったスリーチェは目を開き、ヴェルダンテさんへと視線を真っ直ぐに向けた。
「でも今は……!
わたくしも、『勇者』になりたいと……!
そう思っておりますの……!
あの時の『彼』みたいに……!
誰かに『勇気』を与えられるような、『勇者』に!」
「―――!」
スリーチェのその言葉に、僕はまたも目を見開く。
……これは、もしかしたら……僕の己惚れに過ぎないかもしれないけど……
そこまで大袈裟な話ではないのかもしれないけど……
けれど……もし……
もしも僕の言葉が、僕の行動が、僕の存在が―――
この2人の『勇者』への思いに、深く関われていたのなら―――
僕は―――!
「ヴェルダンテさん」
「「!!」」
僕は、自然と声を発していた。
アリーチェさんとスリーチェが突然の僕の声掛けに驚いたように振り向く。
「……なんだい?フィル君」
ヴェルダンテさんが僕へと視線を向ける。
僕は、アリーチェさんとスリーチェがそうしたように、その視線を正面から受け止め……そして、言う。
「どうか2人を勇者学園に居させてください」
「………それは、何故だい?」
考えるまでも、ない。
「この人達と共に、『勇者』になりたい」
そうだ。
元より、僕はその為にここまで付いてきたのだ。
「僕は、彼女達と共に居たい。
それが理由です」
「……………………………」
ヴィルダンテさんは、僕を真っ直ぐ見つめる。
僕もまた、この目を逸らすことなく、彼を見つめる。
わずかな静寂を挟み――
「……そうかい」
そう言い、ヴェルダンテさんは瞳を閉じた。
そして―――
「……まだ食事の途中だったね。
すっかり冷めきってしまったが、うちの料理は時間が経っても味は落ちないからどうかじっくり味わってほしい。
もし温かい料理が食べたいのなら言ってくれ。すぐに用意をさせるよ。」
「へっ?」
突然話題が全く別の内容へと飛んでしまい、僕は間抜けな声を上げてしまうのだった。
「あの、ヴェルダンテさ――」
「食事が終わって、落ち着いたのなら―――」
僕の戸惑いの声を遮り、ヴェルダンテさんは言った。
「皆で玄関ロビーの奥にある扉の先の部屋に来てくれ。
そこは普段パーティ会場に使っている場所なのだが……そこで話の続きをしたい」
「パーティ会場……?」
そんな場所で話の続き……?
「詳しいことはまたそこで、ね。
それでは私の方はこれで失礼する。
皆はゆっくりと料理を楽しんでくれたまえ。
それでは」
「え、あ、あの……!」
ヴェルダンテさんは椅子から立ち上がり、この部屋の出口へと歩き出してしまう。
コツコツと靴音をならし、僕の後ろを通り過ぎようとして―――
「いやぁ、それにしても―――」
「え?」
―――僕の後ろを通り過ぎようとする、その時。
ヴェルダンテさんは改めて僕へと声をかけた。
「よくもまあ、あんなにも堂々と添い遂げ宣言を親に向かって言い放てるもんだ。
しかも娘2人まとめて。
親としては怒鳴り散らすのが正しい反応なのだろうが、男としてはいっそ尊敬するべきモノがあるね。
ある意味、まさしく『勇者』だ」
「はえ?」
そんなよく分からないことを言い終えると、ヴェルダンテさんはドアを開けて食堂から出て行ってしまったのだった。
今のは一体……?添い遂げ宣言?
うーん……とりあえず、僕は残されたアリーチェさん達に話しかけた。
「あの、どうしましょうか、ひとまずはヴェルダンテさんが言っていた通り食事の続き―――ん?」
「………………………」
「………………………」
アリーチェさんとスリーチェが顔を真っ赤にしながら黙り込んでいた……
どしたの……?
「流石……流石フィールさん……!
我々に出来ないことを平然とやってのける……!」
ファーティラさんが部屋の隅で拳を握りしめながら目を輝かせ何かを呟いている。
いたのかアンタ。
「きゅるーー!!うんまーい!
おかわりーーー!!」
「うふふ~キュルルちゃん、ホントにいい食べっぷりね~」
「君はまだ食うのかよ!!!!!」
と、僕はようやくツッコミを果たすことが出来たのだった。
「平然と自分がツッコミ側だと思っているのが非常に腹立たしいですわね……」
「誰かフィルさんに『クソボケがーっ』とか言ってくれませんかね……」
アリーチェさんとスリーチェが何かを言ってる気がする。
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