勇者学園とスライム魔王 ~ 勇者になりたい僕と魔王になった君と ~

冒人間

文字の大きさ
上 下
132 / 173
第8章

第7話 貴女と論争

しおりを挟む

「お父さま!それは―――!」

ヴェルダンテさんの言葉に即座に反応したのはスリーチェだった。
しかし――

「自らの娘が2人揃って命を狙われた。
 そんな場所にいつまでも娘を預けておこうと思う方がどうかしていると思うが?」

「――っ!」

その声を遮るように発せられたヴェルダンテさんの言葉に、スリーチェは閉口してしまうのだった。

予想はしていたこととはいえ……実際にそれを聞かされてしまうと、言葉の重みが違った。
それは確かに、父親としてこの2人の為を思えば当然の―――

「では、お父様はわたくし達を勇者学園から呼び戻し、それからどうするおつもりなのですか?」
「!」

その力強い声はアリーチェさんより放たれた。

「元より我々ガーデン家は個人、組織問わず幾多もの勢力から命を狙われることが常だったはずですわ。
 わたくし達の身を確実に守ろうと言うのであれば、この屋敷から一歩も外に出さず幽閉するぐらいは必要となりますが……
 お父様はそのようになさるのですか?」

「まさか、そんなつもりはないよ」

アリーチェさんの目は真っ直ぐヴェルダンテさんを射抜いている。

「ならば今更わたくし達が学園から去ったところで如何ほどの意味があるというのでしょうか。
 どちらにせよわたくし達の命が狙われるという事実に違いはありませんでしょうに」

アリーチェさんは声を荒げたりはしないが、その口調には反抗の意志がありありと感じられた。
そんなアリーチェさんの言葉にスリーチェもまた「そ、そうですわ!何も変わりませんわ!」と便乗している。

「それに、たかだか1度や2度暗殺未遂が起きた程度で恐れをなして勇者学園から逃げ帰った、などという話が外部に知れ渡ればガーデン家の権威にも相当な悪影響が出る恐れがありましてよ?」

アリーチェさんは更にそう畳みかけた。
それを受けてヴェルダンテさんはグラスに注がれているワインを一口含み……ひと呼吸置いてから、話し出す。

「確かに、2人を屋敷の中に閉じ込めたりしない限り、2人には命の危険は付きまとうことになる。
 だが少なくとも、いつ誰が襲ってくるとも分からないような環境に身を置き続けるよりは安全なことは言うまでもないだろう」

「…………………」

その反論に、アリーチェさんは無反応だ。
スリーチェは「うう……」と言葉に詰まってしまった。

「そして、勇者学園から逃げ帰ったことによる風評被害に関しては……最悪の事態が起きるよりはマシ、という考え方が出来る」

「…………最悪の事態、とは……」

「勿論―――」

ヴェルダンテさんは、アリーチェさんとスリーチェの2人を一瞥した後……はっきりと告げた。

「君達が死んでしまうような事態、だよ」

「「―――――」」

その言葉に対する反論を、アリーチェさんとスリーチェはすぐには返せなかった。

「事実、君達2人はあの学園で一度命を落としかけたのだろう?
 そこのフィル君の助けがなければ今頃はサリーチェやマリーチェの肖像画の隣に君達が並んでいたかもしれないね」

「「っ!!」」

ヴェルダンテさんの口より出て来たその名に2人は強く反応した。
マリーチェ、とは2人の母親マリアリーチェさんのことだろう……

そして僕もまた、その言葉に思わず息を飲んでしまった。
その内容は……僕がつい先ほど想像してしまったこと、だったのだから……

「どうかな?
 私の言っていることは間違っているかい?」

ヴェルダンテさんがそんな僕達のことを構うこともなく、ごく自然な口調でそんなことを告げる。
スリーチェは何かを言おうとするも、目の端に涙の粒を浮かべ、押し黙ってしまうのだった。

これは少し、卑怯じゃないか……?
そりゃ、親からすれば子を危険な場所から遠ざけたいっていうのは自然なことだろうけど……
でも、だからって……死人の名前をこんな風に使うのは……!

と、僕がついヴェルダンテさんのことを睨みつけると―――

「確かに……お父様の言う通りでございますわね」

そんな、声が聞こえた。
僕はその声の方向へと即座に顔向けた。
そこには目を瞑った状態の、無表情のアリーチェさんがいたのだった……

「わたくし達はあの学園で死の寸前まで追い詰められました。
 そしてギリギリの所をフィルに救われました。
 どう言い繕うことも出来ない、明白な事実でありますわね」

「あ、アリーチェさん……?」

僕は思わず声をかける。
彼女は努めて冷静に話をしようとしているのだろうが……
その声からは……凄まじい『感情』が感じられたのだ……

「ですが……」と、そんな言葉と共にアリーチェさんは目を開き、ヴェルダンテさんを見た。
その瞳からは……紛れもない『憤り』が宿っていた。

「わたくし達が命の危機に陥った、その原因。
 お父様は既にご存じのはずですわよね?
 わたくしが書簡にてしっかりとご報告差し上げたのですから」

「………………………」

ヴェルダンテさんはその言葉に、ピタリと動きを止めた。

「わたくしが間抜けにもまんまと誘き出されてしまった我がガーデン家の家紋が刻印された便箋……
 それは一体どのようにして用意されたのか……」

「………………………」

「そして、スリーチェを死地へと導いた不届き者……
 それは一体誰だったのか……」

「………………………」

ヴェルダンテさんは、何も言葉を発さなかった……

「その名は……スクト=オルモースト。
 そう、かの勇者一行のメンバーのお1人ですわ」

「………………………」

「まさかそのような立場の方がこんなことを企てていたなんて、恐ろしい限りですわね……
 ああそうそう、そういえば――――」

アリーチェさんは、わざとらしく人差し指を頬へ当て、言った。

「彼の者は……『誰か様』と非常に懇意にされていたそうですわね。
 とてもとても大事な家紋を、知らずの内に利用される隙を見せてしまう程に……
 彼の者より届いた手紙の内容を、何一つ疑いもせず信じてしまう程に……」

「………………………」

そうして、アリーチェさんはニコリと笑い―――

「全く……ある意味、勇者一行のメンバーが暗殺犯という事実以上に恐ろしいことですわ。
 仮に、わたくし達がその『誰か様』の娘だったとしたら……
 その『誰か様』の住む屋敷にわたくし達も住むことになるとしたら……
 この先、一体どのような輩を屋敷に招いてしまうことやら。
 わたくし、不安で夜も眠れぬ日々を過ごすことになりそうですわ」

ハッキリとした透き通るような声が、食堂に響き渡ってゆくのだった……
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

反逆勇者の放浪記 ~人類から追放されて勇者を辞めた俺は、魔族の美人姉妹と手を取り合い、争いのない新しい世界を創る~

倉名まさ
ファンタジー
氷の大陸で魔王が目覚めてから十年。 人類と魔族との戦争は激化の一途をたどっていた。 物語の主人公、勇者マハトを中心に、人々は魔族に侵略された都市や領地を奪い返そうと戦いを繰り広げていたが、強大な力を持つ魔族相手に劣勢に立たされていた。 窮地を脱するため、マハト率いる勇者隊は今後の戦いを有利にする、とある街の奪還作戦を決行した。 決死の覚悟で街を取り戻そうとする勇者隊。 だが、彼らの戦いの裏では、別の計画が秘密裡に遂行されていた――。 地位も居場所も無くした一人の青年と、二人の姉妹が手を取り、 絶望の淵から見つけ出す一筋の希望の物語。 *主人公は人類規模で追放されますが、人類への復讐譚はメインテーマではなく、異種族(魔族)の姉妹との逃亡劇とラブロマンスを中心とした物語となります。

処理中です...