125 / 173
第7章
第9話 僕と君は貴女と共に
しおりを挟む「……それで、それだけの理由でわたくし達に同行したいと、貴方は仰るのですね?」
首をふるふる振って我に返ったアリーチェさんが僕に改めて問いかけて来た。
「……はい。
『物事に絶対はない』だなんて、そんな弱気なことを言う貴女を行かせたくありません」
「……貴方は何故、そこまでしてわたくしをこの学園に引き留めたいのですの?」
アリーチェさんは再び僕に目を合わせる。
そんなの―――
「そんなの、決まってます!」
「―――!」
僕は、大声でアリーチェさんに向かって言い放つ!
「僕達、あの時誓い合ったでしょう!
お互いに、負けないって!
こんな中途半端なところでお別れなんて……僕は絶対に嫌なんです!!」
「――――――――」
アリーチェさんの目を真っ直ぐ見つめて、僕は自分の思いの丈をぶつけた!
そう、僕はこの人のライバルで……この人は、僕のライバルなのだから!
「僕は貴女と、一緒に居たいです」
「っ……………!」
アリーチェさんは僕の言葉を受けて、しばらくは何も言わなかった。
ぼそっと「この方はまた、臆面もなくこんなことを……」と聞こえた気がしたけど。
「…………では、アナタの方はどうなのですか?
キュルルさん」
「…………きゅる」
アリーチェさんは視線を僕の後ろの方に立っていたキュルルへと移した。
「アナタからしてみれば、わたくしがここから出ていくことは願ったり叶ったりではありませんの?」
「…………………………」
出会った時から今日まで、キュルルとアリーチェさんが仲違いをしなかった日は全く無いと言ってもいいぐらい、2人は喧嘩ばかりしてきた。
アリーチェさんと顔を合わせなくなることは、キュルルにとって嬉しいことのはずだろう。
………一昨日までは。
「まぁ……スリーチェはともかく……
いっつもいっつもボクとフィルが一緒に居たりするのを邪魔し続けてきたお前がいなくなることは、確かに清々することかもしれないよ」
「……ならば、フィルの言っていることにアナタは―――」
「でも―――!」
キュルルはすぐに言葉を続けた。
「あれだけボクとフィルの邪魔をし続けてくれたお前には……見せつけてやりたいんだよ!
『勇者』になったフィルと、『魔王』のボクが、カッコよく戦い合う所を!
フィルの本当のライバルはボクのことだって、存分にお前に分からせて、悔しがらせてやるよ!」
「―――!」
キュルルは腕を組みながらフン!と鼻息を鳴らし、アリーチェさんを睨みつけた。
「だから………まだ、ここにいろよ。
帰るなら、ボクとフィルの戦いを見てからにしろよ……アリーチェ」
「……キュルルさん」
そう……一昨日の共闘を得て、2人はもういがみ合うだけの関係じゃなくなった。
全く持って情けない意見だけど……僕なんかより、真っ当にライバル同士って感じだ。
「…………………………」
そして、アリーチェさんは再び黙り込む。
そんな彼女に、僕は改めてお願いをした。
「アリーチェさん。
どうか僕達も、貴女と一緒に―――」
「フィル」
僕の言葉を遮って、アリーチェさんが声を発した。
「言っておきますが……貴方達のような部外者を連れて行ったところで、すぐさま門前払いされるに決まっておりますわよ」
「っ!でも、アリーチェさ―――」
「ですから―――」
「え―――?」
「貴方達は屋敷の外で待って貰うことになる可能性が高い、ということを予め言っておきますわ」
「―――!
それって―――!」
アリーチェさんはやれやれ……とでも言いたげに腰に手を当て、僕達に向かって言った。
「全く持って失礼極まりない理由でありますけれど……
恩人の心遣いを無駄にするわけにもいきませんわ」
「アリーチェさん……!」
その言葉に僕の顔から笑みがこぼれた。
「それに!」
「!!」
とても大きな声と共に、アリーチェさんは改めて僕達へ向き直った。
「わたくしとしても、貴方に『臆病者』だのなんだの言われっぱなしでいる訳にはいきませんわ!
このわたくしの華麗な姿を精々その目に焼き付けなさいな!
貴方が抱いている不安がまるで見当違いだということを思い知らせてあげましてよ!」
そこには、先程とはまるで別人の……いや、逆か。
先程までの、別人と見紛うアリーチェさんはもういなかった。
いつもの……絶対の自信に満ちた、アリスリーチェ=マーガレット=ガーデンがそこにいた!
「ふん……調子のいい奴」
ぷいっ!と顔を背けながらキュルルがそんなことを言う。
「ふふ……キュルルさん。
先程、わたくしにフィルとアナタの戦いを見せつけると言っておりましたが……
確かに、わたくしもアナタに見せつけてあげなければなりませんわね。
わたくしとフィルの美しいライバル関係を!」
「キュらぁん!?
なんつったぁ!?巻貝ぃ!!」
「ああもう、いつもの調子に戻ったとたんにこれぇ!」
僕が2人の仲裁にわたわたとしていると……
「フィルさん!キュルルさぁーん!」
「わっ!」
「きゅる!」
「スリーチェ!」
スリーチェが僕達の輪の中に飛び込んでくると、笑顔でキュルルに抱き着いたのだった。
「キュルルさん!
お姉さまやわたくしの為に一緒に付いてきてくれるなんてー!
わたくし、感激ですわー!」
「きゅるっ!
お安い御用だよー!
あっ!そういや勝手にスリーチェの部屋に忍び込んだりしてゴメンー!」
「いいえ!ぜーんぜん気にしておりませんわ!
何だったら毎日忍び込んでも構いませんことよー!」
「いやあのお嬢様……護衛として流石にそれは看過できないのですけど……」
プランティさんがおずおずとスリーチェさんにツッコミをいれる。
「もう!プランティったらまたそんな固いこと言って!
こんなのお友達同士のお泊りのようなものですわよ!
貴女にだってそういった経験ぐらいおありでしょう!?
ならば余計な心配は無粋だということぐらいお分かりでしょうに!」
「ぐへァあッッ!!」
主からの言葉の手刀によってプランティさんが地面に沈む……
あ、丁度ファーティラさんの隣に並んで倒れた。
「やれやれ……浮かれるのは構いませんけど、わたくしの言ったことはちゃんと聞いておりましたか?
フィルとキュルルさんはほぼ確実に門前払いにされますわよ?」
アリーチェさんがスリーチェを宥めるような口調で声をかける。
まぁ、僕としてはアリーチェさんがいつもの調子でいて欲しいってのが一番の目的なので、絶対に傍にいないと駄目ってわけでもないんだけど……
出来れば近くで見守りたいって気持ちはあるなぁ……
「ふっふっふ……!」
と、なにやらスリーチェの不敵な笑い声が響き渡る。
「わたくしにいい考えがありますの」
うーん、なんだろう。
凄く期待できない。
「……その考えとは?」
「今はまだ秘密ですわ……
その時が来たら……ふっふっふ……!」
スリーチェは1人、不気味な笑い声を出し続けていた……
ともあれ……僕とキュルルは彼女達の帰郷に同行させてもらえることとなった。
そして……必ず皆でここに戻ってくるんだ!
僕は静かに決意を固めたのだった―――
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!


美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる