勇者学園とスライム魔王 ~ 勇者になりたい僕と魔王になった君と ~

冒人間

文字の大きさ
上 下
124 / 173
第7章

第8話 貴女と特別な存在

しおりを挟む

「いきなり……何を仰いますの」

僕の突拍子もない言葉に、アリーチェさんは一瞬だけ動揺の色を浮かべたけど即座にいつもの調子へと戻り、僕に呆れたような声をかける。

「言った通りです。
 僕達も、アリーチェさん達の帰郷に同行させてください」
「……………………………」

先程と同じ内容の言葉を繰り返す僕を、アリーチェさんは訝しげに見つめた。

「フィルさん……?」

僕達の様子を見守っていたスリーチェも思わずといった感じで困惑の声を上げる。
まぁ、無理もない反応だろう……

「訳が分かりませんわ。
 何故そんなことをしなければなりませんの。
 貴方達には何も関係のない話でしょう」
「………………………」

アリーチェさんが馬鹿馬鹿しいとでも言いたげに僕に背を向け、馬車へと向かおうとする。

「もし……」

僕はその背に向かって、声を発する。

「もし、さっきスリーチェが言っていたように、貴女が『必ずここに帰ってくる』と言っていたなら、僕は声かけるつもりはありませんでした」
「―――っ」

その声に、アリーチェさんは足を止めた。

「でも……」

アリーチェさんが言った言葉は……
『物事に絶対はない』……
『いくら死力を尽くしてもどうにもならないことはある』だった……

「それが……何だというのですの?
 わたくしは何も間違ったことは言っておりませんわ。
 物事が何もかも自分の都合の良いように進むと思い込むなど、愚か者の考え―――」
「僕の知るアリーチェさんは――」

アリーチェさんの言葉を遮り、僕は言った。

「そんな『臆病者』ではないはずです」
「っ!?」

アリーチェさんが驚愕の表情と共に僕へ振り返る。
自分で言うのもなんだが、僕らしからぬ当たりの強い言葉だ。

でも今はハッキリと言うべきだと、僕は思ったのだ。

「どういう……意味ですの」

僕を睨みつけるアリーチェさんに、僕もまた目を逸らさず答える。

「自分の望んだ結果にならないことが怖くて……
『物事に絶対はない』なんて『逃げ道』を作っておく人は、僕の知るアリーチェさんじゃないってことです」
「―――っ!!」

そうだ。
『わたくしは、『勇者』になる』……
彼女と初めて出会い、僕に向かって高らかに宣言した時からそうだった。
『不可能』だなんて一切考えない、絶対の自信に満ち溢れている姿こそ、僕の知っているアリーチェさんだ。

「しかも僕達に嘘までついて……
 もしここに戻って来れなかったら僕達に顔も見せないままサヨナラするつもりだったんですか?」
「………………………」

それに関しては言い訳の余地もないようだ。

「僕、一度だけ『今の』アリーチェさんと同じ様な姿を見たことがあります」
「え……」

アリーチェさんが困惑の声を上げる。

「学園活動初日に起きた……アリーチェさんの暗殺未遂事件……
 あの事件の後、僕の元へやって来たアリーチェさんは……
 今の貴女と同じ様に、普段の絶対の自信に満ちた貴女とはまるで別人でしたね」
「……………………!」

アリーチェさんもその時このことを思い起こしているようだ。
そして、絞り出すように声を発した。

「それが……何だと言うのですの……」

アリーチェさんは、僕の視線から逃げるように目を逸らした。

「今の貴女をそのまま見送ったら、きっと戻っては来ないんじゃないかって……
 何となくですけど、そう思ったんです」
「…………………………」

僕の言葉に、アリーチェさんは何も反論しなかった。

「仮にそうだったとして……
 何故、貴方達がわたくし達に付いてくるという話になりますの」

話を誤魔化すように、アリーチェさんが僕の『お願い』について触れてきた。

……『これ』を言うのは、正直むず痒い所はあるけど……
ここまで言った以上、誤魔化すわけにもいかない。

「己惚れかもしれませんけど……
 僕が一緒に居たら、貴女は元のアリーチェさんに戻ってくれるんじゃないかと思って」
「っ!
 そ、それはどういう―――」

「僕は、貴女にとって………
 特別な存在だと………そう思ってます」
「なっ――――!?」

アリーチェさんは今まで一番の狼狽えっぷりを見せた。

「まぁ……!まぁまぁ……!」
「ほう……!」

そして黙って見守っていた外野が……特にスリーチェとファーティラさんが何やら騒がしくなってきた気がする……

「だって僕は、アリーチェさんの―――」
「ちょっ!ちょちょちょ、ちょっとお待ちくださいな!
 い、いきなりそんな!わた、わたくしの、そんな、わたくしは―――!!!」

「一番の、ライバルなんですから!!」
「いやっ!そんな、ライバルだなんて!
 貴方のことを、そんな――――ライバル?」

そう……まだまだ実力不足な僕が彼女とライバルなんて本来は役者不足もいいところだけど……
彼女と初めて会ったあの日、僕達はお互いに負けないと誓いを立てた。
そしてあの事件の後、彼女自身が言ったのだ。
『貴方はわたくしの生涯最大のライバルだ』と!

僕は、彼女にとって決して弱気な姿を見せられない、ライバルなんだ!!

「ライバルの僕が一緒に居れば、貴女はあんな弱気なことは言わないはずです!
 あの事件の後みたいに、きっといつもの自信に満ち溢れた貴女に戻って―――――あれ?アリーチェさん?」
「ええ、ええ、そうでしょうね。
 むしろそれ以外何を想像したというのでしょうかね、アリーチェ。
 まさかこの方の口から何か別の意味の言葉でも出てくるとでも、そんな馬鹿なことを僅かでも考え―――」

アリーチェさんが頭に手を当てながら何やらブツブツと呟いている……

「あーんもう……!
 フィルさんったらもう!もう!」

スリーチェが両手をぶんぶん振りながら憤りの声を上げる……

「やれやれ……ここは私がアドバイスに入るしかないようですね……
 フィール様!こう言うのです!
『アリーチェさん、僕は貴女の心の花園からとても大事な花を摘み取っていってしまった。そう……『恋』という名の―――』」
「ファーティラ」
―――ゴッッッ!!!
「おぐォッッ!!」

何かをほざこうとしていたファーティラさんをプランティさんが首を狙った手刀で沈める……

うーん……なんか間違えちゃったかなぁ……?
僕は顎に手を当ててしばし考え込むのであった……
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

処理中です...