120 / 154
第7章
第4話 得たモノと想定外
しおりを挟む「昨日の活動から帰って来た生徒達の内、『エクシードスキル』の発現がほぼ確定した者が56人、まだ『エクシードスキル』かどうかは不明だが、何かしらの身体的変化が認められた者が531人という結果が出たよ」
「なっ……!」
そのリブラからの報告にアリエスは絶句してしまっていた。
「ふむ、何かしらの身体的変化が認められた者、とは?」
「そうだな、例えば……このミルキィ=バーニングという生徒は高出力の魔法を今までより格段に低い魔力消費量で使用出来るようになった、という話だったんだが……
コーちゃんも知っての通り魔法というものは何度も使用し習練していけば自然と魔力消費量は抑えることが出来るようになるものだ。
この短期間で消費量が抑えられるようになったのは確かに普通とは言い難いが……
それが果たして『エクシードスキル』と呼べるものかどうかはまだ判断が付かない、といった所かな」
「なるほど……後日私も同伴して精査しよう。
では、『エクシードスキル』の発現が確定というのは……」
「コーちゃんの認可を貰うまでもなく、常人とは一線を画した『能力』と呼べる域に達している変化が確認されたということだ。
今も外から声が聞こえてきてるコリぽんの【フィーヴァー・タイム】なんてあからさまだろう」
「コリぽんて……【フィーヴァー・タイム】て……」
怒涛のリブラ語録にアリエスが思わず頭を押さえる。
「あのさ……もしかして他の『エクシードスキル』にもそんな感じに命名しちゃった?」
「ああ、殆どの生徒から文句は出なかったぞ。
まあ、かなり深夜に能力の確認を行っていたため眠気で頭が働いていなかった者も多かったが」
「………………………」
後で改名申請を受け付けておこう……
アリエスは密かに思案した。
「それにしても、500人以上の生徒に『エクシードスキル』の発現、またはその傾向ありか……
予想はしていたが、いざその結果を見せられると何とも現実感が湧かないね」
「え……?」
アリエスはコーディスの発した言葉に疑問符を浮かべた。
『予想はしていた』……?
それに答えるように、コーディスは言葉を続ける。
「『エクシードスキル』が開花する詳しい条件は未だに解明されていない。
しかし一つ……ある経験をした者が開花した事例が存在する」
「ある経験……?」
コーディスはほんの少し間を開けて答えた。
「『命の危機』」
「―――っ!」
アリエスは思わず息を飲んだ。
「ふふ、何せ他ならぬ勇者様がその『エクシードスキル』に目覚める切っ掛けでもあったのだからなぁ」
「勇者様……アルミナさんが……?
それって……?」
リブラから突然出て来た勇者の名にアリエスは思わずその内容について問い掛けていた。
「それについては余り深く詮索しないでやってくれ。
あまり本人とって楽しい話ではないからな」
「は……はぁ………」
気になる話ではあるが、とりあえずこの場で深堀りすることでもないということでアリエスはそれ以上は何も言わなかった。
「まぁ勿論それだけで『エクシードスキル』が開花する、ということはないのだろうけどね。
もしそうだったならこの世界……少なくともこの大陸は『エクシードスキル』に目覚めた人間で溢れていたことだろう」
コーディスの言う通り、あの『ヴァール大戦』に置いて命の危機に陥った者など星の数程いただろう。
「でも、それなら今回の場合は……」
「『命の危機』に加え、我々の把握していない何かしらの条件が合致した結果……という所かな。
これについても詳しく調べてみる必要がありそうだね」
「全く、これからやることが盛り沢山だ」と、まるで苦労人のようにぼやくコーディスに対し普段から苦労が絶えない講師陣から恨みがましい目線を受けた。
「何にせよ……
散々な結果となった討伐活動だったが、こうして得るモノがあったのは幸いだったな」
「………うん……そうだね……
犠牲になった調査隊員……
去って行ってしまった生徒……
失うモノも多かったけど、決してそれだけじゃなかったのは、救いだね……」
アリエスが犠牲者達を悼むようにしばし目を閉じ、胸に手を当てた。
そして――
「今回の事件の首謀者……スクトさんからしてもこの結果は想定外だったことでしょうね。
まさか自身の行動がこんな裏目に出るなんて」
何気なく呟いたアリエスのその言葉に――
「………そうだね」
コーディスは、若干遅れて同意を示した。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「では行ってくるよ。
なるべく早くこちらへ戻るつもりだ」
「はい、それでは」
そう言ってアリエスは自らの事務机へと戻った。
そしてコーディスが部屋から出ようとし―――
「コーちゃん」
その直前、リブラから小さく声を掛けられた。
「さっき、アリりんへの返事に少し詰まったね」
「…………………………」
コーディスは何も言わなかった。
「『スクトさんからしてもこの結果は想定外だったことでしょうね』……
この言葉に何か思うところでも?」
「そう言う君の方はどうなんだい、リブラ君」
そう問いを返されたリブラは「んー……」と顎に手を当てた。
「君が聞いた所によると、スっくん(←スクト)の今回の目的は君の始末、『水晶ゴーレム』の性能テスト、そしてガーデン家の令嬢の始末の3つということらしいが……
それだけであそこまでの騒動を起こす必要はないはずだ」
「だが、私をあの戦場におびき寄せるために相応の騒ぎを起こさなければならないのは確かだろう」
コーディスはリブラの言葉に敢えて反論した。
「だとしても。
魔物の投入タイミングが余りにも奇妙だ」
「と言うと?」
「まず『ロック・リザード』と『ヘルハウンド』の大群。
それに対応が出来るようになってきたタイミングで『ハーピィ』の群れ。
そして君達講師陣が到着したのを見計らって『サイクロプス』や『デス・レッドドラゴン』といった『レッドエリア』の魔物を追加投入……」
リブラは顎に当てていた手を腕組へと移行させ、意図してかどうかは分からないがその豊満な胸を強調させた。
「傍から見ればまるで生徒達や学園関係者を弄ぶような意地の悪さを感じるが……
冷静に考えればそんなことをする必要性はまるでない。
始めからそれらの魔物を同時に投入すればいいだけだ
そして……もし『それ』をされていたら、間違いなく生徒達の中から死者が出ていただろうな」
「………………………………」
「生徒達の殺害は目的ではなかったとしても、スっくんからしてみれば出来るだけ戦力を削っておくに越したことはないはずだ。
外部からの救出を警戒して洞窟に防御壁を仕込んでおくぐらい用心していたのなら尚更な」
「ふむ…………」
コーディスは反論が特に思いつかなかったようだ。
「このわざわざ段階的に魔物を投入していくという行動にはむしろ……」
リブラは口端を僅かに吊り上げた。
「生徒達を死の淵にまで追い詰めつつ、なるべく生かしておこう……
なんていう意思さえ感じるな」
「つまりは?」
コーディスが最終的な結論を促した。
「生徒達が『エクシードスキル』に目覚めたのはスっくんにとって想定外なんてことはなく……
むしろ『エクシードスキル』に目覚めさせる為に今回のような大規模な強襲を仕掛けた、というように私には見えるな」
「なるほど、見事に私と同じ意見だな」
結局は、そういうことなのであった。
生徒達の『エクシードスキル』の目覚めは裏目でも何でもなく……スクト達の目論見通りだったのではないか、という懸念。
コーディスはそれをずっと抱いていたのだ。
「ふっ……
流石のコーちゃんも犠牲者達を悼んでいるアリりん達の前でそれを話すのは気が引けた、といった所かい?」
「まだそうだと断定は出来ない。
不用意に私見を述べて場を混乱させるべきじゃないだろう。
それに仮にそうだったとしても、我々がやることは変わらないんだ。
次世代の『勇者』の育成……すなわち『スーパー・エクシードスキル』を持つ者を生み出す。
その指針に余計な疑問が生まれて学園活動に支障をきたすようになっては本末転倒だろう」
「ふむ……
では仮にそうだったとしたら、スっくんは一体何が目的でそんなことをしたのだろうかね?」
「今の所全く見当はつかないが………
ひょっとしたら彼は『エクシードスキル』について我々の知らない何かを掴んだという可能性はある」
「ほう?」
『エクシードスキル』。
人類の未知なる可能性。
その不可思議な『力』は未だ解明されきっておらず、誰にどんな能力が眠っているのか、どんな方法で引き出せるのかも詳しいことは不明である。
「スクトは『エクシードスキル』について何かを知っていた。
そして、何かしらの『エクシードスキル』に目覚めた者が彼に……
いや、『彼ら』にとって必要だった……ということかもしれない」
「『彼ら』……『レゾンデートル』か」
スクトを連れ去ったフード姿の女性が名乗った、『存在理由』を意味する自分たちを示す名……
一体その名にはどのような意思が込められているのか……
「なんにせよ、すべては推測に過ぎない。
結局のところ、我々は我々の出来る精一杯のことをするしかない」
「ま、それもそうだね。
引き留めて悪かったな、コーちゃん。
それじゃ私はこれで」
そう言ってリブラは片手を挙げてコーディスの元から離れていく。
「君はこの後どうするつもりだい?」
「寝る」
「そうか」
そうしてコーディスはふら付く足取りで協議室を出ていくリブラを見送った。
「では私も行くとするか。
私の出来ることをしに」
そして、コーディスもまた協議室を後にする。
「あのコもまた、自分の出来ることをしているのだから」
そんなことを呟きながら―――
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません
青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。
だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。
女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。
途方に暮れる主人公たち。
だが、たった一つの救いがあった。
三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。
右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。
圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。
双方の利害が一致した。
※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!
ユーリ
ファンタジー
気が付くと見知らぬ部屋にいた。
最初は、何が起こっているのか、状況を把握する事が出来なかった。
でも、鏡に映った自分の姿を見た時、この世界で生きてきた、リュカとしての記憶を思い出した。
記憶を思い出したはいいが、状況はよくなかった。なぜなら、貴族では失敗した人がいない、召喚の儀を失敗してしまった後だったからだ!
貴族としては、落ちこぼれの烙印を押されても、5歳の子供をいきなり屋敷の外に追い出したりしないだろう。しかも、両親共に、過保護だからそこは大丈夫だと思う……。
でも、両親を独占して甘やかされて、勉強もさぼる事が多かったため、兄様との関係はいいとは言えない!!
このままでは、兄様が家督を継いだ後、屋敷から追い出されるかもしれない!
何とか兄様との関係を改善して、追い出されないよう、追い出されてもいいように勉強して力を付けるしかない!
だけど、勉強さぼっていたせいで、一般常識さえも知らない事が多かった……。
それに、勉強と兄様との関係修復を目指して頑張っても、兄様との距離がなかなか縮まらない!!
それでも、今日も関係修復頑張ります!!
5/9から小説になろうでも掲載中
レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした
桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
【悲報】人気ゲーム配信者、身に覚えのない大炎上で引退。~新たに探索者となり、ダンジョン配信して最速で成り上がります~
椿紅颯
ファンタジー
目標である登録者3万人の夢を叶えた葭谷和昌こと活動名【カズマ】。
しかし次の日、身に覚えのない大炎上を経験してしまい、SNSと活動アカウントが大量の通報の後に削除されてしまう。
タイミング良くアルバイトもやめてしまい、完全に収入が途絶えてしまったことから探索者になることを決める。
数日間が経過し、とある都市伝説を友人から聞いて実践することに。
すると、聞いていた内容とは異なるものの、レアドロップ&レアスキルを手に入れてしまう!
手に入れたものを活かすため、一度は去った配信業界へと戻ることを決める。
そんな矢先、ダンジョンで狩りをしていると少女達の危機的状況を助け、しかも一部始終が配信されていてバズってしまう。
無名にまで落ちてしまったが、一躍時の人となり、その少女らとパーティを組むことになった。
和昌は次々と偉業を成し遂げ、底辺から最速で成り上がっていく。
公爵令嬢は父の遺言により誕生日前日に廃嫡されました。
夢見 歩
ファンタジー
日が暮れ月が昇り始める頃、
自分の姿をガラスに写しながら静かに
父の帰りを待つひとりの令嬢がいた。
リリアーヌ・プルメリア。
雪のように白くきめ細かい肌に
紺色で癖のない綺麗な髪を持ち、
ペリドットのような美しい瞳を持つ
公爵家の長女である。
この物語は
望まぬ再婚を強制された公爵家の当主と
長女による生死をかけた大逆転劇である。
━━━━━━━━━━━━━━━
⚠︎ 義母と義妹はクズな性格ですが、上には上がいるものです。
⚠︎ 国をも巻き込んだ超どんでん返しストーリーを作者は狙っています。(初投稿のくせに)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる