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第7章

第4話 得たモノと想定外

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「昨日の活動から帰って来た生徒達の内、『エクシードスキル』の発現がほぼ確定した者が56人、まだ『エクシードスキル』かどうかは不明だが、何かしらの身体的変化が認められた者が531人という結果が出たよ」
「なっ……!」

そのリブラからの報告にアリエスは絶句してしまっていた。

「ふむ、何かしらの身体的変化が認められた者、とは?」
「そうだな、例えば……このミルキィ=バーニングという生徒は高出力の魔法を今までより格段に低い魔力消費量で使用出来るようになった、という話だったんだが……
 コーちゃんも知っての通り魔法というものは何度も使用し習練していけば自然と魔力消費量は抑えることが出来るようになるものだ。
 この短期間で消費量が抑えられるようになったのは確かに普通とは言い難いが……
 それが果たして『エクシードスキル』と呼べるものかどうかはまだ判断が付かない、といった所かな」

「なるほど……後日私も同伴して精査しよう。
 では、『エクシードスキル』の発現が確定というのは……」
「コーちゃんの認可を貰うまでもなく、常人とは一線を画した『能力』と呼べる域に達している変化が確認されたということだ。
 今も外から声が聞こえてきてるコリぽんの【フィーヴァー・タイム】なんてあからさまだろう」
「コリぽんて……【フィーヴァー・タイム】て……」

怒涛のリブラ語録にアリエスが思わず頭を押さえる。

「あのさ……もしかして他の『エクシードスキル』にもそんな感じに命名しちゃった?」
「ああ、殆どの生徒から文句は出なかったぞ。
 まあ、かなり深夜に能力の確認を行っていたため眠気で頭が働いていなかった者も多かったが」
「………………………」

後で改名申請を受け付けておこう……
アリエスは密かに思案した。

「それにしても、500人以上の生徒に『エクシードスキル』の発現、またはその傾向ありか……
 予想はしていたが、いざその結果を見せられると何とも現実感が湧かないね」
「え……?」

アリエスはコーディスの発した言葉に疑問符を浮かべた。
『予想はしていた』……?

それに答えるように、コーディスは言葉を続ける。

「『エクシードスキル』が開花する詳しい条件は未だに解明されていない。
 しかし一つ……ある経験をした者が開花した事例が存在する」
「ある経験……?」

コーディスはほんの少し間を開けて答えた。

「『命の危機』」
「―――っ!」

アリエスは思わず息を飲んだ。

「ふふ、何せ他ならぬ勇者様がその『エクシードスキル』に目覚める切っ掛けでもあったのだからなぁ」
「勇者様……アルミナさんが……?
 それって……?」

リブラから突然出て来た勇者の名にアリエスは思わずその内容について問い掛けていた。

「それについては余り深く詮索しないでやってくれ。
 あまり本人とって楽しい話ではないからな」
「は……はぁ………」

気になる話ではあるが、とりあえずこの場で深堀りすることでもないということでアリエスはそれ以上は何も言わなかった。

「まぁ勿論それだけで『エクシードスキル』が開花する、ということはないのだろうけどね。
 もしそうだったならこの世界……少なくともこの大陸は『エクシードスキル』に目覚めた人間で溢れていたことだろう」

コーディスの言う通り、あの『ヴァール大戦』に置いて命の危機に陥った者など星の数程いただろう。

「でも、それなら今回の場合は……」
「『命の危機』に加え、我々の把握していない何かしらの条件が合致した結果……という所かな。
 これについても詳しく調べてみる必要がありそうだね」

「全く、これからやることが盛り沢山だ」と、まるで苦労人のようにぼやくコーディスに対し普段から苦労が絶えない講師陣から恨みがましい目線を受けた。

「何にせよ……
 散々な結果となった討伐活動だったが、こうして得るモノがあったのは幸いだったな」
「………うん……そうだね……
 犠牲になった調査隊員……
 去って行ってしまった生徒……
 失うモノも多かったけど、決してそれだけじゃなかったのは、救いだね……」

アリエスが犠牲者達を悼むようにしばし目を閉じ、胸に手を当てた。

そして――

「今回の事件の首謀者……スクトさんからしてもこの結果は想定外だったことでしょうね。
 まさか自身の行動がこんな裏目に出るなんて」

何気なく呟いたアリエスのその言葉に――

「………そうだね」

コーディスは、若干遅れて同意を示した。

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「では行ってくるよ。
 なるべく早くこちらへ戻るつもりだ」
「はい、それでは」

そう言ってアリエスは自らの事務机へと戻った。
そしてコーディスが部屋から出ようとし―――

「コーちゃん」

その直前、リブラから小さく声を掛けられた。

「さっき、アリりんへの返事に少し詰まったね」
「…………………………」

コーディスは何も言わなかった。

「『スクトさんからしてもこの結果は想定外だったことでしょうね』……
 この言葉に何か思うところでも?」
「そう言う君の方はどうなんだい、リブラ君」

そう問いを返されたリブラは「んー……」と顎に手を当てた。

「君が聞いた所によると、スっくん(←スクト)の今回の目的は君の始末、『水晶ゴーレム』の性能テスト、そしてガーデン家の令嬢の始末の3つということらしいが……
 それだけであそこまでの騒動を起こす必要はないはずだ」
「だが、私をあの戦場におびき寄せるために相応の騒ぎを起こさなければならないのは確かだろう」

コーディスはリブラの言葉に敢えて反論した。

「だとしても。
 魔物の投入タイミングが余りにも奇妙だ」
「と言うと?」

「まず『ロック・リザード』と『ヘルハウンド』の大群。
 それに対応が出来るようになってきたタイミングで『ハーピィ』の群れ。
 そして君達講師陣が到着したのを見計らって『サイクロプス』や『デス・レッドドラゴン』といった『レッドエリア』の魔物を追加投入……」

リブラは顎に当てていた手を腕組へと移行させ、意図してかどうかは分からないがその豊満な胸を強調させた。

「傍から見ればまるで生徒達や学園関係者を弄ぶような意地の悪さを感じるが……
 冷静に考えればそんなことをする必要性はまるでない。
 始めからそれらの魔物を同時に投入すればいいだけだ
 そして……もし『それ』をされていたら、間違いなく生徒達の中から死者が出ていただろうな」
「………………………………」

「生徒達の殺害は目的ではなかったとしても、スっくんからしてみれば出来るだけ戦力を削っておくに越したことはないはずだ。
 外部からの救出を警戒して洞窟に防御壁を仕込んでおくぐらい用心していたのなら尚更な」
「ふむ…………」

コーディスは反論が特に思いつかなかったようだ。

「このわざわざ段階的に魔物を投入していくという行動にはむしろ……」

リブラは口端を僅かに吊り上げた。

「生徒達を死の淵にまで追い詰めつつ、なるべく生かしておこう……
 なんていう意思さえ感じるな」
「つまりは?」

コーディスが最終的な結論を促した。

「生徒達が『エクシードスキル』に目覚めたのはスっくんにとって想定外なんてことはなく……
 むしろ『エクシードスキル』に目覚めさせる為に今回のような大規模な強襲を仕掛けた、というように私には見えるな」
「なるほど、見事に私と同じ意見だな」

結局は、そういうことなのであった。
生徒達の『エクシードスキル』の目覚めは裏目でも何でもなく……スクト達の目論見通りだったのではないか、という懸念。
コーディスはそれをずっと抱いていたのだ。

「ふっ……
 流石のコーちゃんも犠牲者達を悼んでいるアリりん達の前でそれを話すのは気が引けた、といった所かい?」
「まだそうだと断定は出来ない。
 不用意に私見を述べて場を混乱させるべきじゃないだろう。
 それに仮にそうだったとしても、我々がやることは変わらないんだ。
 次世代の『勇者』の育成……すなわち『スーパー・エクシードスキル』を持つ者を生み出す。
 その指針に余計な疑問が生まれて学園活動に支障をきたすようになっては本末転倒だろう」

「ふむ……
 では仮にそうだったとしたら、スっくんは一体何が目的でそんなことをしたのだろうかね?」
「今の所全く見当はつかないが………
 ひょっとしたら彼は『エクシードスキル』について我々の知らない何かを掴んだという可能性はある」
「ほう?」

『エクシードスキル』。
人類の未知なる可能性。
その不可思議な『力』は未だ解明されきっておらず、誰にどんな能力が眠っているのか、どんな方法で引き出せるのかも詳しいことは不明である。

「スクトは『エクシードスキル』について何かを知っていた。
 そして、何かしらの『エクシードスキル』に目覚めた者が彼に……
 いや、『彼ら』にとって必要だった……ということかもしれない」
「『彼ら』……『レゾンデートル』か」

スクトを連れ去ったフード姿の女性が名乗った、『存在理由』を意味する自分たちを示す名……
一体その名にはどのような意思が込められているのか……

「なんにせよ、すべては推測に過ぎない。
 結局のところ、我々は我々の出来る精一杯のことをするしかない」
「ま、それもそうだね。
 引き留めて悪かったな、コーちゃん。
 それじゃ私はこれで」

そう言ってリブラは片手を挙げてコーディスの元から離れていく。

「君はこの後どうするつもりだい?」
「寝る」
「そうか」

そうしてコーディスはふら付く足取りで協議室を出ていくリブラを見送った。

「では私も行くとするか。
 私の出来ることをしに」

そして、コーディスもまた協議室を後にする。


「あのコもまた、自分の出来ることをしているのだから」


そんなことを呟きながら―――
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