勇者学園とスライム魔王 ~ 勇者になりたい僕と魔王になった君と ~

冒人間

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第7章

第1話 僕と、いつかあの子と

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『やぁー!たぁー!とぁー!』

『フィル坊、お前今日も訓練してるのか?』

『はぁ……はぁ……!
 うん!僕、強くなるんだ!
 そしていつか……『勇者』になるんだ!』

『んでもよぉ、『魔王』は勇者様が半年前に倒しちまったじゃねぇか。
 各地の魔物だって大人しくなったし、別にもう『勇者』を目指す理由なんて――』

『理由なら……あるよ!』

『え?』

『僕、強くなって……!
『勇者』になって………!
 そして……!』


いつか………あの子と………!


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「はぁああああああ!!」

―――ギィン!!

「っとお!」

僕の《パレットナイフ》の一撃をヴィガーさんの《アイス・ブレード》が受け止める。

ヴィガーさんはすかさず距離を取り、こちらの様子を伺う。

「ぜぇーー……はぁーー……」

肩で息をする僕は、もはや誰の目から見ても体力の限界だった。
ヴィガーさんもそれを分かっているから迂闊には攻めてこないでこちらの自滅を待っているのだろう。

「考えなしに打ち込み過ぎだぜ。
 そんなんじゃ後数回も得物を振ったらぶっ倒れちまうぞ」

汗ひとつかいていないヴィガーさんから余裕綽々と言った声がかけられる。

「……でやああああああ!!」

僕は構わずヴィガーさんに向かって再び突っ込む!

そして《パレットナイフ》を……振る!

―――ギィィィン!!

やはりそれは《アイス・ブレード》により防がれ―――

「まぁた力入れて振りやがって!
 少しは体力管理を―――」

―――ビキィッッ……!!

「―――っ!?
 今の音は―――!!」

「っだぁあああああああ!!!」

ヴィガーさんが事態を把握するよりも早く――
僕は三度、《パレットナイフ》を振り抜く―――!!

「くぅっ!!!」

ヴィガーさんが咄嗟に《アイス・ブレード》でガードしようとするも、直後に『しまった!』という表情を浮かべる!

そして僕の《パレットナイフ》が《アイス・ブレード》に触れた時―――

―――バギィィィン!!!

「―――っ!!!」

《アイス・ブレード》が、粉々に砕け散る!!

僕はその隙を見逃さず―――

「はぁあああああああ!!!」

ヴァガーさんの脳天へと《パレットナイフ》を―――

―――ピタッ……!

「っ……!」
「はぁーー……はぁーー……」

《パレットナイフ》を叩きつける直前、ヴィガーさんの額から数センチの部分で、僕は動きを止め―――

「そこまで。
 フィル、オメェの勝ちだ」

僕達の勝負を見ていたミルキィさんから、僕の勝利が告げられた……

「やっ………たぁーーー………!!」

僕は勝鬨をあげながらその場で大の字になって倒れたのだった。

「はぁー……ったくやられたぜ……
 考えなしに打ち込んでた訳じゃなかったのか……
 同じ場所に何度も叩き込むことで《アイス・ブレード》をぶっ壊すことが目的だったなんてなぁ……
 思い返してみりゃずっと同じ方向ばかりから攻めてきてたっけ……」
「まぁ今のはテメェが油断し過ぎってのもあったと思うが……
 少なくともアイツと初めて模擬戦で戦った時よりかは納得できる負け方だろうよ」

そんなヴィガーさんとミルキィさんの会話を聞きながら、僕はゆっくりと呼吸を整え、上体を起こしながら2人に声をかけた。

「ミルキィさん!ヴィガーさん!
 ありがとうございます!
 僕、また少し強くなれました!」

2人は僕の言葉を受け、にっ!と笑う。
そして、僕は改めて宣言する。

「僕、もっともっと強くなります!
 強くなって……『勇者』になって……!
 そしていつか……いつか、あの子と戦か―――!!」


―――ズドォアアアアアア!!!


………突然僕らのいる広場に巨大な『漆黒のイカ』が現れた。

「巻ぃいいいいい貝ぃいいいいいいい!!!
 お前ぇええええええええ!!!
 今日という今日という今日はもう絶っっっっっっっっ対にゆるさないからなぁああああああ!!!」

………その『漆黒のイカ』からたった今僕が頭の中で思い描いていた子の声が聞こえた。

「フィルが僕の為に強くなろうと頑張ってる姿を見ようと!!
 フィルの居る場所を聞いたら!!
 この前のあのでっかい扉の向こうだなんて嘘っぱち教えやがってぇえええ!!!
 必死こいてあの壁よじ昇ったんだぞぉおおおおおおおおおおおおおお!!」

と、凄まじい怒号が轟くとまた別の女の子の大声が聞こえてくる。

「それをアナタに責められる謂れはありませんことよぉおおおおおおおお!!
 つい昨日『フィル、今回のことでとっても疲れて寝込んでいるから今日はそっとしておいてあげようよ』などと殊勝なことを言いだしたかと思ったら自分は夜通しフィルと喋り倒していたんじゃありませんのおおおおおおお!!!
 今朝フィルに聞いた時は思わず立ち上がってしまいましたわああああああ!!」
「ふざけんなぁあああああああ!!
 それは嘘でもなんでもなぁああああい!!
 昨日はボクとフィルだけでお話しようと思っててお前が余計なちょっかいかけないように言っておいたんだあああああああああ!!!
 勝手に勘違いしたお前が悪いいいいいいいいい!!!」
「どう考えてもふざけてんのはアナタですわあああああああああああああああ!!!!」

と、巨大な漆黒のイカとそれに向けて放たれる高圧水流、電撃、水の牢、斬撃などが奏でる戦闘音が辺りに響き渡り―――
その周囲はそりゃあもう大惨事になっていくのだった。

そんな光景を見ながら、ミルキィさんはぽつりと僕に向けて呟く。

「いつかあの子と………なんだ?」

「いつかあの子と――何とか戦いと呼べる程度にはいけたらなぁ……って」

まずは人間vs蚊ぐらいのレベルを目指そうか。


とまぁ……スクトさんが起こした事件の翌日の僕達は、とりあえずこんな感じなのであった。
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