勇者学園とスライム魔王 ~ 勇者になりたい僕と魔王になった君と ~

冒人間

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番外編 2

アリスリーチェ先生と魔法講座 その2:後編

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「それでは続いて魔法の習得方法についてですわね」

そう言って改めてアリーチェさんが僕へと向き直った。

ちなみにキュルルは未だにスリーチェに算数を教えてもらっている。

「一般的には、まず基礎の基礎として自身の体内に宿る魔力という『力』の存在を知覚する、という所から始まりますわ」
「魔力の知覚……ですか」

「そう。
 魔力というモノをどのように捉えるかは個人個人によって感覚が異なりますわ。
 ある者にとっては自分の中で炎のようなモノが燃え上がっている感覚がする、とも言われておりますし、ある者にとっては自分の中で風が吹き荒んでいるような感覚がする、とも言われております。
 ですのでここら辺は下手に他人に教えを乞うと却って魔力を知覚しにくくなってしまうともいわれておりますわ」
「へぇー……ちなみにアリーチェさんはどんな風に魔力を捉えているんですか?」

「わたくしは魔力を『花』として捉えておりますわ。
 わたくしの心の中で広大な庭園に花々が咲き乱れており、魔法を使用する際はそこから花を摘む……という感覚ですの」
「はぇー……」

『ガーデン』家の名に恥じないなんとも煌びやかな感覚だなぁ……
それに比べて僕はというと、魔力なんてモノの感覚は全然掴めずにいる……

「あら、フィルはもう魔力の知覚への糸口を掴んでおりますわよ」
「えっ?」

そんなアリーチェさんの言葉に僕は思わず俯いていた顔を上げた。

「以前フィルは魔法というものの説明に小麦粉と水を混ぜ合わせパンを作る、という例えを使っていたそうですわね。
 そこで貴方は小麦粉を『魔力』として捉えていた。
 それがフィルにとっての『魔力』というものの感覚。ということなのですわ」
「い、いやでもそれは、僕にとってその例えがしっくりきたというだけで……」

「その『しっくりきた』という感覚が重要ですのよ。
『魔力』という形のないモノの輪郭をご自身のセンスによって自然と想像出来るようになる。
 それこそが魔法を扱う為の第一歩なんですのよ」
「自然と想像出来るように……
 そっか……これが僕にとっての『魔力』……」

我ながら変な例えだとは思っていたけど……
この考え方でいいんだ……!

ありがとう!僕にこの例えを教えてくれた故郷の村長!
なんか思い返してみればあの時は話を切り上げたくて適当に思いついたことを言ってた風にも見えたけど!!

「そして魔力が知覚出来たのなら、後はイメージの力を混ぜ合わせ、形成するという工程を踏むことで、『魔法』という現象を発現させることが出来ますわ」
「僕にとってはそこが一番の難関なんですけどね……」

そう……僕は魔法のイメージとそれを体内で練り上げるという行為がどうにも苦手のようなのだ。

「それに関してはとにかく慣れるしかありませんわね。
 何度も頭の中で自分が魔法を扱う姿を想像し、それを現実のモノへと形成する。
 人によっては簡単に出来るということもあれば、一朝一夕にはいかないということもある……
 これも魔力の知覚と同じく出来る出来ないに個人差がありますわ」
「うーん……僕の場合かなり難航しそうだなぁ……」

でも……体内に宿っているキュルルの欠片達のおかげで僕は魔法の発動を手助けして貰えているんだし……
泣き言なんて言ってないで頑張らなきゃ!

「もう一つ、自身の得意魔法は何かを把握する、ということも重要な要素でありますわね」
「得意魔法……」

「そう、得意魔法……あるいは得意系統とも呼ばれる個人毎それぞれ備わっている最も扱いやすい魔法の系統……
 得意系統以外の魔法は発動難易度がぐんと上がってしまうのですから、いくらイメージ力や形成力が優れていても中々魔法が使えないということにもなりかねませんわ」
「そうなんですか……ちなみに自分の得意魔法を判別する方法は?」

「基本手探りになりますわね。
 炎魔法や水魔法といったオーソドックスな系統の魔法ならばすぐに分かるでしょうけど、これまでに発言した例が少ない魔法となると見つけ出すのは困難になりますわね」
「へぇ……ちなみにアリーチェさんはどのようにして見つけたんですか?」

アリーチェさんの得意魔法は……加速魔法、だっけ。
あまりオーソドックスなイメージではないけど……

「わたくしの場合は偶然判明しましたわ。
 幼少期の頃に『マジック・ウィルチェアー』を使って移動している際、もっと早く移動せねばと思いましたの。
 その時僅かながら速度が増し、同時にわたくしの魔力が消耗していたことから加速魔法が発現したということが分かった、という流れでしたわね」

アリーチェさんは昔を懐かしむように思いを馳せていた。

「まぁ、わたくしの場合幼い頃からある程度の初等魔法を扱えていたので本来の得意魔法がなんなのか気付くのが遅れた、という事情もありますけれどね」
「要所要所で天才エピソードが挟まるなぁ……」

別にアリーチェさんは何一つ悪くないんだけどね……
ついつい脱力してしまう………

「纏めますと、魔法の習得に必要なことは魔力の知覚、得意魔法の判明、そして後はひたすらにイメージ力と形成力を鍛え上げるという工程になりますわ。
 フィルは既に得意魔法は判明しておりますし、形成力もキュルルさんの欠片が手助けしてくれているのですから、しっかりとした魔力の知覚と魔法のイメージさえ掴めれば、いつか自在に魔法を扱うことが出来るようになりますわよ」
「そっか……そうですね……!
 分かりました!ありがとうございます、アリーチェさん!」

「ええ、わたくしのライバルとして、是非ともしっかり力を付けてくださいな!」
「ちょっとー!ボクのライバルだよー!!」

算数の勉強をしていたキュルルがすかさず反応した。

そうだ……
僕にはキュルルやアリーチェさんという負けられないライバルがいるんだ……!

彼女達と対等な立場に立てるようになる為にも……頑張らなくちゃ!

「それでは最後に……余談にはなりますが、『魔法名』に関してお話しておきましょうかね」
「『魔法名』?」

それは読んで字のごとく、魔法の名前のことだ。

「『エミッション・アクア』、『ファイアー・ジャベリン』、『ヴァリアブル・コランダム』……
 貴方も様々な『魔法名』を耳にしてきたかと思いますけれど、その『魔法名』というのは使用者の頭の中に自然と浮かび上がってくるものなのですよ」
「えっ、そうなんですか?」

「ええ、単なる『魔法名』だけでなく、その魔法を応用した『技』や複数の魔法使用者同士が協力して放つ『共同魔法』なども、何も教わらずとも自然と口をついて出てきますの。
 そしてその命名規則は『ファイアー・ジャベリン』など分かりやすくその魔法を表しているモノが大多数ではありますが、その魔法使用者本人にしか分からないような意味が込められている場合もありますのよ」
「へぇー……確かに勇者様の《ヴァリアブル・コランダム》とか字面だけではどんなものか分かりませんしね……」

僕がそんな風に感心していると……「あっ!」と突然思い出したことがあった。

「そういえば僕も………
 あの『水晶ゴーレム』を相手にアリーチェさんやキュルルと一緒に戦ってた時……!!」
「ふふ……思い出しました?フィル」

僕の最大サイズの《ミートハンマー》にアリーチェさんの加速魔法を乗せた時……
僕達は自然と《最大マックス規格スタンダード・アクセラレーション》と叫んでいた。

そして、キュルルと共に戦っていた時の……
あの剣……!

「きゅるーー!!
《オース・ブレード》だよねーー!!」
「わっ!キュルル!」

僕達の会話の内容を聞いていたキュルルがこちらへと抱き着いて割り込んできた。

「ボクもあの時ねー!
 コレはこの名前だ!って思ったの!
 頭の中にキュピーン!って!
 ね、ね!フィルもそうだったんだよねー!」
「う、うん……
 何故か自然と口をついて出て来たんだよね……
 アリーチェさんとの時も、キュルルとの時も……」

あの時は全く疑問にも思わなかったけど……
確かに不思議な感覚だったなぁ……

「………キュルルさん、ご説明ありがとうございます。
 それではアナタはスリーチェとの勉強にお戻り頂いて―――」
「あと、ボクの《ダイナミック・マリオネット》とか、《スパイラル・パルヴァライズ》とかもそうだったんだよー!
 なんかね!こう、頭の中にね!言葉が出て来てね!」
「あはは、そうなんだ……
 あの、それでね?キュルル。
 アリーチェさんの様子がね?
 君に話を割り込まれて明らかに不機嫌になっててね?
 なんかもう、オチが予測出来ちゃう―――」


「まぁ、アナタの地頭で『魔法名』を考えたら『きゅるる剣』とか大事な場面を台無しにしてしまいそうな名前になりそうですわよね」

「……………キュるぁぁん?(巻き舌)」


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

―――ドォォォォォオオオ!!!!
―――ズバシャァアアアアア!!!

「では、本日のアリスリーチェ先生の特別魔法講義はここまでとなりますわー!
 アシスタントはわたくし、スノウ=ホワイリーチェが担当致しました!
 それでは、また来週~!」

こうしてキュルルとアリーチェさんの様式美を背景に、今回の魔法講座は終了したのだった……
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