勇者学園とスライム魔王 ~ 勇者になりたい僕と魔王になった君と ~

冒人間

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第6章

第33話 僕達と終わり

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終わった―――

《オース・ブレード》によって両断された『ゴーレム』は―――
もう動くことはなく―――
その身体が再生することもなかった―――

そして、『僕達』は―――

「うっ………!」

「きゅる………!」

『2人』の状態から分離し―――

お互いに膝をつき、荒い呼吸をしていた―――

「はぁっ……はぁっ……!
 キュ……キュルル………!
 大、丈夫……!?」

「きゅっ…………!
 なん………とか………!
 はぁっ………!」

まるで体力を丸ごと吸い取られたかのようだった……

あの『水晶ゴーレム』を一撃で両断するだけの威力を持つ『剣』………

あれは一体何だったのか……少なくとも僕にはまるで分かっていなかった。

ただあの時……僕がやるべき行動は、僕の持つ木剣の柄とキュルルの持つ木剣の剣身を合わせることだと、理屈抜きにそう思ったのだ。

僕の心に突き動かされるままに、あの『黒剣』を創り出し……そして、それはあの『ゴーレム』を倒せるものだと、何故か確信出来たのだった……

だけど……この体力の消耗……!

こんな反動があるなんてのは、まるで想像していなかった……!

「お2人、共……!
 大丈夫……ですの………!?」

「フィルさんっ……!
 キュルルさんっ……!
 お姉さまっ……!」

背後から僕達を心配する声をかけてくれるアリーチェさんとスリーチェも、同じように息も絶え絶えな様子だ。

この空間にいる4人は皆、満身創痍だ……

でも、今この空間内にはもう魔物はいない……

それだけが救いだった―――

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



「このまま終わらせるものかッ……!!!」



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 


―――シュオオオオオオ!!!


「っ!!な、なんだ……!?」

突然、僕達の居るこの広大な空間の一画に―――

光の渦を巻く『門』が現れた!!

その『門』の中から―――


「「「「ギシャアァァアアァアア!!!」」」」


魔物の群れが―――!!!


「「「「―――――っ!!!」」」」


僕達4人はその瞬間―――
確かな『死』を予感した―――


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「はぁっ……!はぁっ……!はぁっ……!!
 絶対に……!!!
 このまま帰す訳にはいかない……!!!
 彼らには……!!
 確実にここで死んでもらうッ……!!」

『門』をフィル達のいる空間内に創り出したスクトはフィル達に匹敵するほどの消耗をしており、汗だくで息を切らしていた。

「辛そうだね、スクト」

「っ……!」

薄い壁に囲まれ動けずにいるコーディスがスクトへと話しかける。

「察するに、君は空間跳躍の『門』を自分から離れた場所へ自由自在に作り出せるという訳ではないのだな?」

「――――っ!!!」

図星であった。

スクトの『門』は『開閉』自体は自由に出来るが……『設置』はあらかじめその場所に自ら赴かなければならないのだ。
そして一度『門』を開閉すると消えてしまう、使い切りの魔法だった。

スクトは様々な場所に『門』を設置していたが、数には限度がある。
そして、洞窟内にあらかじめ設置していた『門』は、キュルル達がフィル達を助けに来た時点で既に使い切っていた。

それでも、フィル達を何としても始末する為に……スクトは非常に膨大な魔力を消費し、離れた位置へと『門』を生成したのだった……

「貴方は……随分と落ち着いてますね……!
 あの4人はもう見るからに動けそうにない……!
 貴方の生徒に……これから確実な死が訪れるというのに……!!」

「そうだね。
 彼らに確実な死が訪れるというのなら、私も落ち着いてなどいられないよ」

コーディスは、まるっきり平然としていた。

「確実な死が訪れるのならば、ね」

「っ………!?
 なに……を……!?」

スクトには、コーディスが何を言っているのか分からなかった。
いや、分かろうとしなかった。
分かりたく、なかった。

「気が付いていないのかい?スクト。
 もう、終わっていることに」

「――――――」

スクトは、今更になって違和感を抱いた。

静かすぎる。
周りから何も聞こえない。

生徒達の悲鳴も。
魔物の唸り声も。
戦闘の音すらも……!

「まぁ、あれだけ洞窟内の出来事に熱中していたのならば無理もないか」

「ま………まさか………!
 まさか――――――!!!」

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


―――ゴッカァァァァン!!!


「「「ギュオァアア――――!!??」」」


突然―――

僕達に迫ってきていた魔物達の群れの一部が挽肉になった―――

この空間の出口を塞いでいた『水晶ゴーレム』の腕が吹っ飛び―――

魔物の群れを轢き潰していったのだ―――


僕達は皆一様に出口の方を見た―――

そこにいたのは―――


「おーーい!!全員無事かーー!!!
 塞いでるやつ思いっきり蹴とばしちゃったけど巻き込まれてないよなーー!!
 そういう意味でも無事かーーーー!!!!」


「ゆ……………………
 勇者様ぁっ!!!???」


勇者アルミナその人であった―――


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「――――――――」

それを見たスクトは、もはや言葉を失っていた……

「アルミナの所在地については、この前彼女が『水晶ゴーレム』について報告に来ていた時に聞いてはいた。
 ここからそう遠くはない場所ではあったが……なにせ4日も前の話だったからね。
 彼女ならそれだけの日数が経っていたら全く別の場所に移動していてもおかしくはない。
 今もその場所に居てくれているかは、正直賭けだったよ」

「彼女を………呼んでいた…………!?
 馬鹿な……一体、いつ………!!」

スクトは全身を震えさせながらコーディスを睨みつけた。

「『ついさっき』だよ。
 仲の良かった君なら知っているはずだろう。
 サニーちゃんは人探しが大の得意だってことぐらい。
 身体強化魔法が施されたあの子に呼びに行って貰っていたのさ」

「サニー………ちゃん………?」

それは、コーディスが連れている赤い蛇の名前だ。

何を言っている……?
その子なら、今もコーディスさんに巻き付いて―――

と、スクトは赤い蛇を凝視し、気付く。

その赤い蛇が、よく見ると透けて見えることに。

その蛇は――――

「抜け………殻…………!?」

「『超速脱皮分身』
 君と会わないうちに新しく覚えた技だよ」

スクトは愕然とした声を漏らす。

「いつの………間に……!?」

「ウェンディーちゃんの石礫で君を攻撃した時だ。
 あれで君の視界を塞いでいた隙にね」

コーディスのあの攻撃は、最初からこれが目的だったのだ。

「あの子にアルミナを呼んで来てもらいたいという意図は勿論あったが……
 それ以上に仲の良かった君の相手をさせるのは中々に残酷な仕打ちかとも思ってね。
 あの子は中々繊細だから」

「……………どうやってあの子一匹で……!
 アルミナさんに状況を伝えたって言うんですか……!」

「ああ、君は知らなかったか。
 アルミナはあの子達の言いたいことがなんとなくわかるそうだ。ノリで」

「………………………………………」

今のスクトにツッコむだけの余力は残っていなかった……

「何にせよ……
 これで終わりだよ、スクト」

「っ………!!」

スクトは、歯が砕けんばかりに食いしばり―――

「まだ………だ………!」

スクトは、薄い壁の向こうに佇んでいるコーディスに向かって、右手を突きつける。

「せめて………貴方だけでも始末する………!
 例え…………刺し違えてでも……………!」

そんなスクトへ、コーディスは声をかける。

「スクト、実はね―――」

コーディスは、スクトから目を逸らさずに言った。


「あの攻撃の時、『超速脱皮分身』で私から離れたのはサニーちゃんだけじゃないんだ」

「えっ―――」


―――ガッ………!


その時―――

スクトの脇腹に――――

緑色の大蛇の牙が食い込んだ―――

「ウェンディーちゃんも同じように私から離れて、木陰に隠れていたんだよ。
 君が魔力を消費し、《プロテクション・ダーミス》を維持出来なくなるようなことが起きる機会を、ずっと伺いながらね」


スクトは、脇腹より大量の血を流しながら―――

地面へと、倒れ込んだ―――
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