勇者学園とスライム魔王 ~ 勇者になりたい僕と魔王になった君と ~

冒人間

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第6章

第32話 僕と君との誓いの剣

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アリーチェさんの魔法により、通常時を遥かに超える速度で振り抜かれた《ミートハンマー》が『水晶ゴーレム』の身体を叩いた瞬間―――



大轟音と共に『水晶ゴーレム』はまるで投石器から放たれた岩のように吹き飛び―――



凄まじい勢いで、壁面に叩きつけられた―――!



空間内の空気までをも揺らすような衝撃で、壁面に蜘蛛の巣のようなヒビ割れが一瞬にして張り巡らされ―――



そして、『水晶ゴーレム』の身体は―――



両腕、両脚が千切れ飛んでいた―――!!



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「な………にが………ッ!!??」

スクトは我が目を疑っていた。

何が起きた……!?
何が起きている!?

鏡のようなものに映るのは、手足の吹き飛んだ『水晶ゴーレム』。

馬鹿な…あの『ゴーレム』が……!
たった一撃で……!

スクトは思わずその手に力を込めてしまい、鏡のようなものがビキリと音を立てる。

「だ、だが……!
 あんな攻撃、そう何度も連発出来るはずがない……!!
 そして『ゴーレム』はまだ動く……!
 アレくらい、いくらでも再生する……!!」

知らず、懇願するような声を出してしまっているスクトを、薄い壁の向こう側からコーディスはただ黙って見つめていた……

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「くうっ……!!」

僕の身体を再び激痛が苛む……!
スリーチェのおかげで元の状態に戻ったとはいえ、やはり『最大規格』はそう何度も使えるような代物じゃない……!

「う……くっ……!
 フィル……!
 大丈夫、ですか……!」
「あ……アリーチェ、さん……!?」

僕のすぐ隣に立つアリーチェさんも僕と同じように辛そうな声を出していた……!

「情けないことに……
 十分な速度を出した上で……
 戦闘に活かせる程に効果を持続させるには……
 わたくしの魔力量ではあまりにも足りない……
 今の1発で……この有り様ですのよ……」

「けど……」とアリーチェさんが前を向く。

「今は、それよりも……!
 あの『ゴーレム』はどうなったかの方を……!」

そのアリーチェさんの言葉に、僕も『水晶ゴーレム』を見る!

『ゴーレム』は両腕両脚を喪失し、身体にもほぼ全体にひび割れが広がり、見るからに満身創痍という風に見える……!

けど………!

―――ピキキキキキィ……!

「っ!!」

『ゴーレム』はまだ動く……!
ひび割れている身体を再生させ、元の状態へと戻ろうとしている……!!

このままだと失った両手足も、いずれ……!!

「あれだけ砕けていれば……!
 後もう少しのはず……!
『最大規格』を、もう一度……!
 アリーチェさん、すみません……!
 ここで、待っててください……!!」

僕はアリーチェさんをゆっくりとその場の地面に座らせる。
そしてアリーチェさんは……

「………………ふぅ」

何故か……やれやれ、とでも言いたげな溜め息をついたのだった……

「わたくしとフィルの力で華麗に全てを終わらせられたのなら、文句なしだったのですけどね……
 全くもって、残念極まりありませんわ」
「アリーチェ、さん……?」

一体、何の話―――

「オニキスさん」

「きゅるっ!」

僕の隣には、いつの間にかキュルルが立っており―――

「最後は、アナタにお任せしますわ」

「ふふん!トーゼン!」

キュルルは僕の手を掴み―――

「ねえ、フィル!」
「キュルル……?」

『水晶ゴーレム』の方を見つめつつ、僕に話しかけてきた―――

「ボク、自分は何がしたいのか、自分に何が出来るのか考えてみたんだけど……
 結局よく分からなかったの。
 それで、ボクがここに居ていいのかな、なんて不安になっちゃったりもして……
 考えて、考えて……
 やっぱり分かんなくて……」

少しの間黙ってしまったキュルルは―――

「でもね!!」

僕に向かって、満面の笑みで振り返り―――

「一つだけ、分かったことがあるの!!」

自信に満ちた声で、言う―――

「ボクはフィルと一緒なら!
 きっと、どんなことでも出来ちゃうんだって!!」

「――――!」

キュルルは僕の手を、強く握り締める。

そして―――



「フィル!行こう!!」

「うん………!
 うん、行こう!キュルル!!」



僕とキュルルは―――!!!



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

『水晶ゴーレム』は、何をするべきかを懸命に思考していた。

あの一撃は一体なんだったのか。
あの2人の標的は何処か。
自分を拘束していた標的は何処か。
どの標的を1番に狙うべきか……

だか、何よりもまず優先させるべきは自らの身体の修復だ。
既に腕と足は不完全ながら再生されかけている。
後数秒もすれば―――


―――ザッ……!


何かが、自らの前に来た。
まさかあの2人の標的か。

そんな思考の元、目の前に来たモノを認識する。

そこにいたのは―――


「フィル、身体は平気?」
「うん、キュルルのおかげでね」


右側と左側に別々の顔が合わさった―――
『2人』の標的だった―――


あれは確か……あの新しい標的が最初にこの場に現れた時にしていた姿だ。
あの時とは右側の顔が違うが……

いずれにせよ、先程の一撃を放った2人の標的ではない。
ならば、何も恐れることは―――

「フィル、無茶はしちゃダメだよ」
「うん、わかってるよ。
《キッチンナイフ》……
規格スタンダード2倍ダブル』!」

その『2人』の標的の手に、何かが―――

そう思考した、次の瞬間―――


―――ヒュッ…!


その『2人』が消え―――


「「はぁああああああああ!!!」」

―――バッキィイイイアア!!!

再生されかけていた右腕が、吹き飛んだ―――


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「馬鹿なッ!馬鹿なッ!馬鹿なッ!!??
 なんだッ!なんなんだこれはぁッ!!??」

スクトはその鏡のようなものに映る光景に、もはや半狂乱となっていた。

『水晶ゴーレム』の身体が……!!
削れていく……!!
あの『2人』によって!!

『2人』は『ゴーレム』の周囲を風のように駆け回り、手に握った2倍のサイズの『黒い包丁』を高速で斬り付けている……!!

そして再生されかけていた腕が、脚が……!!
次々と、斬り飛ばされて……!!

「外部追加命令ッ!!
 動きを止め再生機能にのみエネルギーを一点集中させろぉおおおおッ!!!」

スクトが叫ぶと、『水晶ゴーレム』はその命令通り動きを停止し、その分再生速度を向上させる。

その結果、『2人』が『ゴーレム』を削る速度と『ゴーレム』の再生速度が拮抗し、膠着状態となった。

「はぁッ……!はぁッ……!
 よし……!これで……!!」

これで、こちらの負けは無い。
後は相手が消耗するのを待てば―――

だが、スクトの頭はどうしても考えてしまう。

『水晶ゴーレム』の再生速度と拮抗する程の攻撃……!!
これは、まるで……!!

勇者……アルミナ……!!!!

馬鹿な、あり得ない!!
あんな規格外がこの世に2人といてたまるか!!

あの『2人』はこれが限界だ!!
これ以上など……!!

これ以上など―――!!!

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「キュルル……!!」
「きゅるっ!!」

『ゴーレム』が動きを止め、ようやく機能停止したかと思ったのも束の間……
『僕達』は『ゴーレム』の身体を削れなくなっていた……!

動かなくなることで、再生速度が増す―――
『僕達』がその特性に気付き、より速く斬りつけようとするも、焼け石に水だった……!

どうする……!?
『包丁』の規格をさらに数倍に……!
いや、無理をして僕が倒れてしまったら本末転倒だ……!

このままじゃ……!

「フィル!大丈夫だよっ!!」
「キュルル!?」

―――ダンッ!!

攻撃を止め、『水晶ゴーレム』の前へと『僕達』は着地する。

『ゴーレム』は、みるみるうちに再生を進めていく―――

「さっき言ったでしょ!
 ボクとフィルが一緒なら、どんなことだって出来るって!!
 あんなの、どうってことないよ!!
 だって―――!」

キュルルは、左手に―――

木剣の剣身を掴み―――

胸に、抱えた。

「フィルは『勇者』になって―――!!
 最強の『魔王』と、戦うんだから!!」

「―――――――!!!」

僕は、右手に―――

木剣の柄を握り―――

胸に、抱える。

「うん、そうだね―――!
 それが、僕達の――――!」


そして―――


剣身と柄が合わさって―――


剣の形へと、戻り――――



「「あの日の、誓い―――!!!」」



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



『ゴーレム』は、見た。



あの『2人』が『剣』を握ったのを、見た。



黒い半透明の物体で覆われた『木剣』―――



その『黒い剣』の名を―――



『2人』は、呟いた―――








「「 《 オース・ブレード 》 」」








『それ』を見た瞬間――――

『ゴーレム』は再生よりも、『2人』へと向かうことを優先し始めた――!!

『何をしている!?再生を優先させろ!!!馬鹿な!?何故従わない!?』という外部から届く命令も無視し、『ゴーレム』はひたすらにあの『2人』へと、再生されきっていない足で歩を進める――!!


『アレ』は駄目だ―――

『アレ』は駄目だ―――!!!


『ゴーレム』は根拠不明の思考に突き動かされ―――

『2人』を即刻排除せねばと―――

ひび割れた身体が自重で崩壊していくのも構わず進む―――!!


『アレ』は―――


かつての自分を葬った―――


あの『力』と同等の――――!!!



『2人』の眼前まで迫った『ゴーレム』は―――!


その身体で、『2人』を押し潰し――――






―――ヒュッ……






風を切るような、音がした―――


それは『2人』が、『黒剣』を振り抜いた音―――


そして、一瞬の静寂の後――――






――――ッキィィン………!!





『水晶ゴーレム』の身体が、斜めに両断され――――





――――ゴォォォオオォォォ……!!!





2つに分かたれた『ゴーレム』が倒れゆく音が―――

広大な空間内に、響き渡った―――



そして―――

その一撃により、身体を三分の一未満にまで分割された『ゴーレム』は―――

もう動くことはなかった―――
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