勇者学園とスライム魔王 ~ 勇者になりたい僕と魔王になった君と ~

冒人間

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第6章

第30話 君と貴女と『2人』

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「「フィルーーーーーーっ!!!!」」

『2人』は最後の『防御壁』を破り、広大な空間に入ると―――

すぐに見つけた。

地面に倒れている少年と―――

その少年に向かって、右手を振り下ろそうとしている水晶で出来た『ゴーレム』を―――!!

「「――――――っ!!!!」」

それを見た瞬間『2人』は放たれた矢の如く駆けた。

『水晶ゴーレム』の右手が少年に振り下ろされる―――

その前に―――!!

『2人』は両手を自身の後ろ側へと回し――!!

「「《エミッション・ウィンド》!!」」

―――ボッッッッ!!!

両指先から放出された凄まじい『突風』により、急加速をする!!

そして――

―――バッッッ!!

少年……フィルを抱え上げた!!

―――ドッッッッ!!

目標を失った『水晶ゴーレム』の地面を叩く音が響き渡った―――

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「フィル!!
 フィルっ!!!」
「息は、まだしておりますわね!!
 しっかりしてください!!」

「キュルル………アリーチェさん………?」

『ゴーレム』の右手に潰される直前――
思わず目を瞑ってしまった僕だったが……
誰かによって突然物凄い勢いで横合いから抱えられ、助けられたようだった……

そして、聞こえた声は―――
僕のよく知る2人の女の子……キュルルとアリーチェさんのものだった。

2人が助けてくれた……?
いやでも、僕を抱えているのは1人……?

目を開けて、声の方へと振り返ると―――

「―――えっ………!?」

僕は、思わず我が目を疑った。

僕の目の前には―――
キュルルの顔と、アリーチェさんの顔が―――
あった―――!

「えっ……ええっ……!?」

そして、彼女の……いや、彼女『達』の姿を改めて確認する。

『2人』は………『1人』になっていた………!

これは……キュルルが、アリーチェさんを覆っている、のか……!?

アリーチェさんの華奢な身体をキュルルがまるで漆黒の鎧のように包み込んでおり、更にその上からマント状になった白い制服がはためいている。

そして顔は左側がキュルル、右側がアリーチェさんとなっていた。
これは多分、キュルルの顔がアリーチェさんの顔を半分覆っているという状態……なのだろう……
傍目には2人の顔を繋ぎ合わせたようにしか見えないけど……

い、一体これは……何……!?
と、大混乱に陥っていた僕は……ある夜の出来事を思い出した。

それは新しい入学者達が来る日の前の夜。
キュルルは僕を部屋から連れ出した……
僕を包んだまま動くことで……!

それと同じことを……アリーチェさんで―――!!

「フィル……よかった……!!
『居なく』ならないで………よかった……!」

そんなキュルルの声が聞こえる。
そして、右側のアリスリーチェさんから――

「フィル!スリーチェはどうしていますの!?」

そんな声がかけられ、僕はハッとする!

「スリーチェは……あそこに……!!」

僕はスリーチェを……僕の為に限界まで魔法を使用し、地面に倒れたスリーチェを指差す!

「っ!!スリーチェ!!
 オニキスさん!!」
「きゅるっ!!」

そしてアリーチェさんがキュルルに呼びかけ、『2人』は僕を抱えたままスリーチェの元へと駆けた!

「スリーチェ!!しっかりなさい!!」
「きゅるっ!!スリーチェ、大丈夫!?」

「お姉……さま………?
 え……キュルル、さん……?
 え……?」

スリーチェは自分に声をかけて来たキュルルとアリーチェさんの姿に、僕と同じ様に戸惑いをあらわにしている。
無理もないことだけど……

と、そんなことを思っていると―――


「「「「シャァアアアァアアァア!!」」」」


「なぁっ!!」

とんでもなく、大量の魔物の群れがこの空間の中に雪崩れ込んできた!!
ただでさえ、あの『水晶ゴーレム』だけでも絶望的な状況だって言うのに、こんなの―――!!

「きゅる……!
 しつこい……!」
「まったく……!
 フィル!スリーチェ!少しお待ちを!」

―――ダッッ!!

「えっ!?キュルル!?アリーチェさん!?」

信じられない数の魔物の群れに対し——
キュルルとアリーチェさんはまるで恐れることなく飛び込んでいった―――!!

「まずはあの奇妙な『ゴーレム』の足を止めますわ!」
「ああ!分かった!」

そう言いながら『2人』は、こちらへと歩を進めてきている『水晶ゴーレム』に向かって走る!

『2人』が近づいてくることに気が付いた『水晶ゴーレム』は僕にしようとしていたように、再び右手を振り上げ―――

『2人』に向かって振り下ろす!!

けど―――

「「《エミッション・ウィンド》!!」」

―――ボッッッ!!!

『2人』はそれを指先から噴出される『突風』で加速し、回避する!
まるでカキョウさんの《ガスト・ブースト》だ……!

―――ドッッッ……!

空ぶった『水晶ゴーレム』の右手が地面を叩き―――

その隙に『2人』は『水晶ゴーレム』の足元まで近づき―――

そして、『ゴーレム』の左足へと触れると―――

「「《エミッション・アイス》!!」」

―――ピキキキキキキィィィィィッッ!!!

「んなぁっ!?」

『2人』が触れている個所から発生した氷が―――
『ゴーレム』の下半身を覆い尽くし、その動きを止めた!!

以前、アリーチェさんがキュルルを氷漬けにしたのは見たけど……
あんなに巨大なモノを、一瞬で!?

僕が唖然としているうちに―――

―――どたっどたっどたっ!!
「「「ウォオオオォオオォォオオ!!」」」
「「「キシャァアアァァァアァア!!」」」

『ロック・リザード』『ヘルハウンド』『ハーピィ』の群れが、『2人』に向かって―――!!

「きゅる!
 一気に片づけるよ!アリスリーチェ!」
「魔力制御担当はこちらでしてよ!
 ちゃんと合わせてくださいな!」

そんなことを言い合った『2人』は―――

両腕を大きく左右に広げ―――


「「《エミッション・フレイム》!!」」


その『魔法名』を唱えると―――!!


―――ボォオオオオオオオオオッッッ!!!


「あ――あれはっ―――!?」


右手の指先から―――
巨大な『炎の蝶』が生まれる―――!!


その『炎の蝶』を―――


「「はぁああああああ!!!」」


『2人』は右手を振るい、この空間内を飛翔させる――!!


「「「ギィギャァアアアッッ!!??」」」


魔物の群れは『炎の蝶』に飲み込まれ、断末魔をあげていく―――!!


す、凄い―――!!


だけど――まだ魔物は残っている!!
炎に耐性のある『ロック・リザード』も、悶え苦しんではいるけど致命傷にはなっていない!!

そうして、『炎の蝶』を抜けた魔物達が、『2人』の目前に―――!!


「「《エミッション・アクア》!!」」


―――ッズバァァァァァァァッッッ!!!


「「「ギュアッッッ………!!??」」」


「―――――――――」

その光景に、僕はもう言葉も無かった―――


『魔法名』を唱えた『2人』の左手の―――

『五指』から放たれた5本の水流が―――

残りの魔物を―――

『ロック・リザード』の外皮ごと―――

斬り裂いていった―――!!


「これで、片付いた!!」
「ええ、しかし―――」


『2人』はそう言いながら『それ』を見た……

傷一つない『水晶ゴーレム』を……!

先程の水流カッターはこの『ゴーレム』にも当たっていた……
しかし、『ロック・リザード』の外皮をも容易く斬り裂いたあの水流は……
この水晶の身体には通じていない……!

「きゅる……!」
「なんという硬度ですの……!」

あの魔物の群れを一蹴した『2人』からしても……
この『ゴーレム』はやはり規格外……!!

そして『ゴーレム』は―――

―――ビキッ……ビキッッ……バキィィィイ!!

「きゅるっ―――!!」
「っ!氷が―――!!」

下半身の氷を破砕し———
再びこちらへと歩を進める―――!!

「キュルル……!アリーチェさん……!
 あれは……僕の《ミートハンマー》の……!
 最大サイズでないと………傷がつきません……!」

「きゅる……!
 まさかフィル……!
『それ』でずっと戦ってたの!?」
「その有り様はそういうことですか……!」

以前僕と一緒にリブラ先生からの警告を聞いていた『2人』は僕が相当無茶をしていたということを察したようだった。
あの時に言った「無茶はしない」という僕の言葉を思い出したのか、咎めるような目線を向ける『2人』に僕は何も言えない……

「とにかく!ここから出ようよ!」
「ええ、そうですわね……!
 あの『ゴーレム』を倒すよりも、まずは2人を安全な場所に――」

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「そうはさせるかッ……!!
『水晶ゴーレム』!外部追加命令!!」

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

―――ビキィッッ!!!

「っ……!
 なんだ……今の音……!?」

突然、洞窟内に謎の音が響く……!

その音は……水晶ゴーレムの方から………!

―――ビキキィッ!!バキィィッ!!

「なあっ―――!!
「きゅるっ――!?」
「『ゴーレム』が―――!?」

その光景に、僕達全員が声をあげた……!

『水晶ゴーレム』が、自らの左腕を右手で掴み―――

―――バッッッキィィィィィィ!!!!

引きちぎったのだった―――!!

そして、その腕を―――!!!

―――ブォンッッ!!

「な―――!?」

ある方向に向かって、投げつけた!!

そこは―――!!

―――ガゴォオオオ!!

「通路が―――塞がれた!?」

そう……『2人』によって姿を現した出口へと続くはずの通路の穴が―――

『ゴーレム』の左腕によって塞がれてしまった―――!!

そして、『水晶ゴーレム』は―――

―――ピキキキキキ……!

「きゅるっ!?」
「再生っ!?」

失った左腕を、即座に再生させていく!!
その様子に、『2人』も驚愕の声をあげる……!!

もう、倒すしかない……!
あの『絶望』を……!!
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