勇者学園とスライム魔王 ~ 勇者になりたい僕と魔王になった君と ~

冒人間

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第6章

第26話 コーディスの判断と叫び

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《 少し前―― 》

「ガァアアアァアァァァアアア!!!」

―――ドスンッ!ドスンッ!ドスンッ!

「ひっ!わぁあああああああああああ!!!」

一つ目の巨人、『サイクロプス』がその遠目でも容易に確認が出来てしまう巨体で生徒達に向かって疾走してくる。
前へと突き出した両手は生徒4,5人を纏めて鷲掴みにし、握り潰してしまうのだろう。

『ロック・リザード』や『ヘルハウンド』の比ではないその圧倒的な脅威を前に、生徒達はただひたすらに悲鳴をあげ逃げ惑う……!

「全員下がれ!!」

コーディスは『サイクロプス』が生徒達の元に辿り着く前に素早くその巨人の前へと飛び出した。

「《サーペント・ブロウ》!」

―――ボッッッ!!

「ゴァアアァァアアッッ!!!」

コーディスの腕から伸びる2匹の蛇がその長大な胴をしならせ、巨大な鞭のごとく『サイクロプス』の身体を叩く。

『ヘルハウンド』あたりならば間違いなく原形を留めなくなるであろう威力の一撃を受けた『サイクロプス』は……

「グゥウウウ……!
 ガァアァアアアァアアアァアア!!!」

痛苦に叫び声を上げながらも、その巨躯は未だ健在であった……!

「よりによって『サイクロプス』とはな……!
 ウィデーレでも居てくれれば……!」

『サイクロプス』の強靭な肉体にはある特性があった。
それは物理的な衝撃を吸収し、威力を弱めてしまう『物理耐性』である。

コーディスは勇者と肩を並べる実力者ではあるが……
強化した蛇の身体を使った物理攻撃一辺倒である彼にとって、非常に相性の悪い魔物であった。

だが、決して勝てない訳ではない。
時間さえ掛ければ、何の問題もなく討伐出来る相手なのだ。

しかし―――

―――どたっどたっどたっ…!!
「ウォォオオオォオオ!!!」
「キシャァアアァアァア!!」

「う、うわぁああ!!
 また魔物の群れがぁああ!!」

「っ!!」

『サイクロプス』の相手をする為にコーディスが生徒達から離れた隙に、再び『ロック・リザード』『ヘルハウンド』『ハーピィ』の群れが現れ、襲いかかる。


この限りなく最悪に近い状況の中で―――


―――あの生徒達を守りながら『サイクロプス』の相手までするのは不可能だ。


コーディスの心の中の冷静な部分が囁いた―――


「いや、不可能ではない。
 サニーちゃんとウェンディーちゃんで『サイクロプス』と魔物の群れをそれぞれ相手取れば―――」


―――それで生徒達を完璧に庇いきれるはずがない。
―――それに一体どれ程の時間が掛かると思っている?
―――確実に首謀者に逃げられるぞ。


「―――だが」


―――正しい判断をするべきだ。


「―――――っ」


時間にすれば一秒と満たない逡巡。
そんな一瞬の思考の隙に―――

「グォォォオオオオアアアアア!!」

「っ!しまっ――」

『サイクロプス』の蹴りが重なった。

―――ドンッッ!!!

「ぐっ……!」

『サイクロプス』はコーディスが立っていた場所の地面ごと蹴り抜き、巻き付いている蛇と共に彼の身体は宙を舞った。

遥か後方へと飛ばされたコーディスは、地面に激突する直前―――

―――シュルルルッ!!

2匹の蛇により全身を包まれた。

―――ドッッッ!

そして、凄まじい勢いで大地へと叩きつけられる。

「コーディス先生ぇ!!!」

まるで繭のような状態になっているコーディスに向かって生徒達からの叫び声が上がる。
かなり離れて戦っていたはずなのだが、先程の蹴りで生徒達のすぐ近くまで吹き飛ばされてしまったようだった。

「――ありがとう。
 サニーちゃん、ウィンディーちゃん」

蛇の繭の中から現れたコーディスは傷一つなかった。

「ウォオオオォォォオオ!!!」

「くっ、そぉおおああああッッッ!!!」

コーディスのすぐ近くでは魔物達の群れに必死に応戦する生徒達の声が聞こえる。

そして―――

―――ドスッ!ドスッ!ドスッ!!

「さ、『サイクロプス』がッ……!!」

再びこちらへと疾走してくる『サイクロプス』の姿が―――


―――さぁ、決断しろ。コーディス。


「―――――――」


その心の声に、コーディスは――――


「うおあああああああッッッッ!!!!」

「なっ――――!?」

コーディスが決断を下すよりも早く―――
彼の傍を通り過ぎ―――
『サイクロプス』へと駆け出す生徒がいた―――

「こっちだぁあああああ!!!
 一つ目野郎ぉおおおおおおおお!!!」

ミルキィ=バーニング。
大斧を構えるその大柄な体格の生徒は、自らの数倍の巨躯へ向かって――走る!

「何を―――!?」

ここの生徒達を見捨てるべきか否か―――そんな考えに囚われていたコーディスはその生徒の無謀な突撃に反応するのが遅れてしまった。

生徒達の元へと駆ける『サイクロプス』もその存在に気付く。
その魔物からしてみれば爪楊枝にも等しい得物を振りかぶり、こちらへ向かってくる。

『サイクロプス』は、右手を掲げると―――
その愚かでちっぽけな存在に向けて―――

掌を、振り下ろす――!!!

誰がどう見ても、止められるはずのないその掌に向け―――
ミルキィは大斧を振り上げると―――!!

「《エクストリーム・ブレイズ》!!!」

―――ッゴオアアア!!!

「―――ッッッ!!!
 ガァアアアアアアアアアッッッ!!!」

大斧から発生した火柱が『サイクロプス』の掌を包んだ!

その熱量に『サイクロプス』はたまらず後退する……!

「ぜぇっ……ぜぇっ……!!」

「―――っ………!」

コーディスはその生徒の姿に、間違いなく驚嘆していた―――

そして―――その生徒が、コーディスに向かって、叫ぶ――

「先生ぇーーー!!
 コイツは俺達に任せてくれェーー!!
 アンタにはやるべきことがあんだろぉーー!!」

「なっ……!?」

コーディスは、一瞬自分が何を言われたか理解出来なかった。

そして、彼のその思考が定まるよりも先に―――

もう一人の生徒の叫び声が聞こえた―――

「《ダブル・バスター・アイス・ブレード》!」

―――ビキキキキィィィィ!!!!

ヴィガー=マックス。
両手に自身の身長程もある巨大な氷剣を生成させた彼は―――

「だぁああああらぁあああああああああ!!!」

―――ビキィィ!ビキィィ!ビキィィィン!
「グォオオオオアア!!」
「ウォオアアアアア!!!」
「キシィィイイイ!!!」

『ロック・リザード』、『ヘルハウンド』、『ハーピィ』へと、次々に斬りかかっていく!

その一振りだけでは絶命させるまでには至らずとも……
氷剣で斬りつけられた魔物は身体の一部が凍り付き、動きが確実に阻害されていた……!

「さっきのプランティの話が本当なら……!
 アンタは早くそいつの元に行かなきゃなんねぇだろ!!
 こんな奴らに時間食ってる場合じゃねぇ!!」

「―――――――」

コーディスは、言葉を失っていた。
こんなことは、彼にとって全くの想定外であった。

しかし、この2人にいくらそのような覚悟があったとしても――
この場にいる他の生徒達にとっては、そんなこと受け入れられるはずが――


「「テメェらぁああああああああああああああああああああああああ!!!!」」


「「「――――――っ!!」」」
―――ビクゥッッ!!

ミルキィとヴィガーの生徒達に向けて放った叫びが、この場に響き渡る。
その凄まじい怒号に、『サイクロプス』や魔物の群れでさえ時を止めてしまう。

「テメェらは!!一体何の為にここまで来やがった!!??」

「何になる為にここに来やがった!!??」


「「『勇者』になる為だろぉがぁああああああああああああああ!!」」


突然の事態に見舞われ―――

ただひたすらに逃げ惑っていた生徒達は―――


「だったらよぉ………!!」

「やることは一つだろうが……!!」


その時、その胸に、何かが宿っていた。


「「戦えぇえええええええええ!!!!!
 『勇者』共ぉおおおおおおおおお!!!!」」


ほんの少しの、静寂の後――――


「………………う………」


逃げ惑っていた生徒のうちの、誰かから……声があがった。


「うおおおおおおおおおおおお!!!!!」


その声を皮切りに―――


「うらああああああああああああああ!!」
「上等だぁああああああああああああ!!」
「やって……!
 やってやるんだからぁああああああ!!!」


この場の空気全てを震わせる雄叫びが上がり始め―――
生徒達は魔物の群れへと突撃していった――

もはや、そこには絶望的な状況に泣き叫ぶ子供は、誰一人としていなかった。

「へっ……!
 先生!これで分かったろ!俺達は―――」

「おい!ミルキィ!!
 前だぁああ!!!」

「っ!?」

その声にミルキィが前へと振り向くと―――

「グゥゥ……!
 オオオオアアアアアア!!!」

ミルキィのすぐ傍には再び『サイクロプス』が迫り――
今度こそこの手で叩き潰さんと、右掌を叩きつけようとしていた!

迎撃は―――間に合わない!!

その右掌が、ミルキィを―――

―――ドッッッッ!!!

「――――っ………!?」

ミルキィを―――潰すことはなかった。

『サイクロプス』の掌はミルキィの左前方……全くの見当違いの場所へと振り下ろされたのだった。

「グ……ウォ……?
 グガァ………!?」

そして、『サイクロプス』は目の前にいるはずのミルキィの姿を探し、その一つ目をキョロキョロと左右へ動かしていた。

これは…………!

「《プレゼンス・ハイド》………!」

「バニラ!!」

いつの間にかミルキィの背後へと立っていたバニラが、ミルキィに隠匿魔法をかけ、その姿を見失わせたのだ。

「私も……私だって!もう隠れてばかりいない!!
 キャリーちゃんみたいに、誰かを守れる『勇者』になる!!」

普段の大人しい印象とはかけ離れた勇ましい姿の彼女が、そこにはいた。

「致命傷になりそうな攻撃は私の魔法で逸らします!!
 絶対に、死なせません!!
 何度でも……何人にでも、かけてみせます!!」

「――っ!!おい!あのデカブツの所にも行くぞ!!」
「ああ!!
 やってやらああああああ!!」

バニラの心強い宣言により、『サイクロプス』にも生徒達が向かい始める……!

「へっ!あいつ、オイシイ役どころ持ってきやがって――」

ヴィガーがそんなことを呟いていると―――

「キシャアアアアア!!」

「っ!!!」

『ハーピィ』が彼の上空から強襲する―――!!

だが―――

「《ファイア・ボール》!」

―――ボォオオッ!!

「ギャゥアッ!!??」

横合いから飛んできた『炎球』によって、『ハーピィ』の身体が燃え上がる。
魔法が放たれた方向には―――

「キャリー!!」

「はぁ……!はぁ……!」

肩で呼吸をしながら、片手を突き出したキャリーの姿があった。

「おい!よせ!
 オメェはもう魔力が――!!」

「高威力の魔法は使えなくても……!
 下位中等魔法や初等魔法なら……まだ使える……!」

キャリーは無理をしているのが明らかでありながら、その目は決意に満ちていた。

「けど――!」

「私も……」

「――?」

「私も『勇者』になる為に、ここに来た!!」

「―――っ!!
 ああ!分かったよ!
 好きにしやがれ畜生め!」

ヴィガーはもはやこの場における他人の心配など、余計なお世話に過ぎないということを悟った。

「ったくどいつもこいつもいい所持っていきやがって!
 今回ばかりはこの場の主役は俺達だと思ったのに―――」



「主役は私だぁあああああああああああ!!!」



………突然、巨大な光の柱と共に叫び声が上がった。
その光の柱は上空にいた『ハーピィ』4,5体を消し炭にする。

言うまでもなく、その声の主は……

「このコリーナ=スタンディを無視してぇえええええええええええええ!!!
 クライマックスみたいな空気を作るなぁあああああああああああああ!!!
《ジャッジメントォオオォオオォォオオォォォオオオオオオオオ・!!!!!
 ルゥゥウウウミナァアアァアアアアァアアアアアアアアアアア》!!!!!」

―――ズッッッドォオオオオオオオオオ!!!!

「………あいつよぉ、魔力すっからかんじゃなかったっけ」

「もう『あれ』に関しては真面目に考えること止めようぜ」

ミルキィとヴィガーは遠い目をして呟いた。

そして、そんな生徒達の戦いを―――

「――――――――――」

コーディスは何も言わず……いや、何も言えずに見つめていた。

「コーディス先生!これで分かっただろ!!」
「ここは俺達に任せてくれ!!」

ミルキィとヴィガーの呼びかけに、コーディスはハッと我に返る。

「だが……この場以外にも生徒達は……!
 それに、フィル君とスリーチェ君も……!」

「先生よぉ!!
 言っただろ!ここは『勇者』になる為に来た奴らが集まる所だ!!
 アンタ自身『命を失うことになるかもしれない』なんて脅しておきながら眠てぇこと言わないでくれ!」

「それにフィルの方なら心配いらねぇ!!
 アイツや、アイツの周りにいるのはなぁ!!
 飛んでもねぇ奴ばかりなんだ!!
 アンタの助けがなくても、きっとどうにかしちまってらぁ!!
 だから―――」


「「俺達を信じて、行ってくれぇ!!」」


「―――――――――っ」


コーディスはその叫びを受け―――

ほんの少しだけ―――

身を震わせた――――

そして――― 一瞬の沈黙の後、彼は声を発した。

「君達の制服には、まだ話していない機能が隠されている」

「―――?」

突然何の話を……と2人は戸惑いの表情を浮かべる。

「制服の袖をよく見ると小さな針のようなものが刺さっているはずだ。
 その針を抜き取ると袖をドアノブのように回すことが出来るようになる。
 それはモードを切り替えた際の出力調節機能になっているんだ。
 外側に回せば回すほど高出力を出せるようになる。
 左右がそれぞれ《ブルー》と《レッド》に対応している」

「―――!!」

2人は即座に袖を確認する。
確かに、袖の掌側に模様に紛れて小さな針があった。

「当然、高出力にすればするほど使用される魔力は増大する。
 本来はもっと君達が戦闘に慣れてから伝えるつもりだった機能だ」

コーディスは、それからまた少しの間沈黙し———

再び口を開く。

「私は―――人を心から信じることが出来ない」

「っ……!」

聞こえてきたその言葉に、2人は顔を歪ませる。

「だから―――『これ』は信じるまでもないことだ」

「―――?」

「この場は君達に任せれば大丈夫だというのは―――
 もはや――信じるまでもなく、確定した事実だということだ」

「――――!!」

そして、続けて出て来たその言葉に――2人はやる気に満ち溢れた顔となったのだった。

「バニラ君!私とこの子達に隠匿魔法を!」

「っ!はいっ!!
《プレゼンス・ハイド》!!」

コーディスに声をかけられたバニラは、彼とその身体に巻き付く2匹の蛇へ隠匿魔法をかける。
彼女も既に相当に消耗しているはずだが、その顔に一切の悲観は見当たらない。

隠匿魔法がかけられたことを確認したコーディスは、最後に生徒達全員に声をかけた。

「君達!!絶対に死ぬな!!いいな!!!」

そしてコーディスは2匹の蛇の力を借りて跳躍すると、あっという間にその姿は彼方へと消えたのだった……

コーディスがいなくなり……ミルキィとヴィガーは背中合わせで話し合った。

「なぁ、フィル達の方は心配いらねぇって、なんか根拠でもあんのか?」
「いやぁ……割と適当言ったわ」
「はっ、やっぱりかよ。
 あのスリーチェのお付きに何言われっか分かんねぇぞ」
「まぁな……」

ミルキィはチラリと戦闘不能になった生徒達の方へと目を向ける。
そこには、自身の知りうる全てをコーディスに伝えた後、眠るように気を失ってしまった歪な両手両足をしたプランティの姿があった。

「でも……あいつらはよぉ!
 訳分かんねぇガキに、訳分かんねぇ貴族に、訳分かんねぇスライムだぜ!?」
「へっ!ああ、そうだなぁ!
 あいつらなら、どうにかしちまうかもって!
 無根拠にそう思っちまうな!」

2人はそれっきり、フィル達のことのは頭から外すことにした。

そして―――
袖から針を引き抜くと―――
それを外側へと回した―――!!


「ガァアァァァアアァァア!!」

「くそぉ!!こんだけ魔法をぶち込んでも倒れねぇのかよ!!」

「「「ウォオオオォォォオオオオオ!!」」」

「ちっくしょう……!まだ来るのかよ……!!」

生徒達が『サイクロプス』の強靭さに、数の尽きない魔物の群れに、疲弊の声を上げ始める―――

その時―――

「《エクストリーム・ブレイズゥウウアアアアアアアアア》!!」」

―――ッッゴオオオオオオオオアアアアア!!!

「グギガアアァァァアァアアァァア!!??」

「う、おおおおおおおお!!!???」

赤い制服を身に纏うミルキィが、大斧を『サイクロプス』に叩きつけ、魔法を放った!
先程は『サイクロプス』の掌を覆う程度の大きさだった炎は、上半身を丸ごと包み込む程に巨大化しており、それを見た生徒達は驚嘆の声を上げる……!

「《アイス・ブレードォオオオオオオ》!!」

―――ビキキキキキキキィィィ!

「ウォ!?」「キシィッ!!」「ギィッ!!」「ギャウォ!?」「キヒぃ!!」

「なっ、はっ、速っ……!!」

青い制服を身に纏うヴィガーが、目にもとまらぬ速度で魔物の群れを氷剣で切り裂き、氷漬けにしていく!

「くはっ……!!はぁっ……!!」

「ぜぇっ……!はっ……!!」

一気に膨大な魔力を持っていかれた2人は、数キロもの距離を全力疾走したかのような息をつき、全身から汗を噴き出す。

だが2人は倒れることなく、即座に『マジックポーション』を飲み干し―――



大声で―――叫ぶ!!!



「「勇者学園、舐めんじゃねぇええええええええええええええええ!!!」」



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「ダクト先生……出てはくれないか……!」

コーディスは目的の場所まで駆けながら、ダクトにかけられた伝達魔法による他の講師への交信を試みていた。

ミルキィ達はフィル達の方は心配いらないと言っていたが……
彼らの場所へ誰かが救助に向かうには、そこへの場所を知らなければどうしようもない。
そしてその場所についての説明をする前に、交信は途絶えてしまったのだった。

コーディスは焦燥感に駆られながら、交信に反応する講師がいることを願った。

そして―― 一人の講師と交信が繋がった。

『コーディスさん!!』

「ダクト先生か!!」

幸運にも、ダクトの元にはフィルと最も親しい者達であるキュルルとアリスリーチェがいたはずだ。
コーディスは普段の彼からは想像もできない声色でダクトに向かってまくし立てた。

「聞いてくれ!今私はこの事態の首謀者の元へ向かっている!
 だが先程言った通りそこはフィル君達がいる場所ではない!
 その場所をこれから話す!誰か救援を―――!」

『コーディスさん、それだけどな――』

ダクトは――コーディスが話し終える前に、言葉を発した。

『もう行ってるよ。
『あの2人』が、あのガキの所に』

「なっ――――!?」

コーディスは、今日何度目になると知れない、彼らしくない声を上げた―――
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