102 / 173
第6章
第24話 コーディスと怒号
しおりを挟む
「なぁスクト。
この子を……サニーちゃんを覚えているかい?
君と一番仲が良かった子だよ」
「………………………………………」
スクトは、何も言わなかった。
「君は蛇が苦手だったらしくて、この子達には怯えてばかりだったね。
噛みついたりしないから大丈夫だよ、と言っても中々近づこうとはしなかった。
まぁ、時々寝ぼけて近くの物を思い切り締め付けてしまうことはあるけど」
「………………………………………」
やはりスクトは何も言わない。
わざとなのか天然なのかは分からないが、ツッコミ所もスルーしている。
「でも、この子達にも個性があって、サニーちゃんは辛い物が好物ということ知ったとき……
君は『自分も同じだ』と言って、興味を持ってくれたね。」
「………………………………………」
「それから、君はサニーちゃんと仲良くなって、他の子達とも一緒に遊んでくれるようになって。
皆に怯えていた頃が嘘のように、あっという間に馴染んでしまっていたね。
私は軽く嫉妬してしまったものだよ」
「………………………………………」
「なぁスクト……………
『いつから』だ?」
「………………………………………」
スクトは、答えない。
その代わりに、逆に質問を投げかけた。
「コーディスさん。どうやって僕に近づいたんですか?
誰もこの場所に来られないように大量の魔物達を配置させていたはずですけど。
まぁ貴方ならば大した障害にはならないんでしょうけど、アレだけの魔物と交戦して僕が気が付かないはずないですよね?」
「………ここに来るまで魔物達とは一切戦うことはなかったよ」
「………?
ああ、なるほど。
バニラさんの隠匿魔法ですか。
全くあのチームは逸材ばかりだ」
スクトの推測通り、コーディスはバニラの《プレゼンス・ハイド》によって魔物との戦闘を避けここまで来ていた。
そうでなければ見た目も戦闘方法も目立つことこの上ないコーディスがここまでバレずに近づくことは不可能だっただろう。
「でも、それ以上に疑問なのが……
どうして僕がこの場所にいることが分かったんですか?
スリーチェさんとフィル君がいる洞窟の森から、大分離れた所ですよ?ここ。
僕の足跡を辿れる材料はないはずなんですけど」
「………プランティ君のおかげだよ」
質問に何も答えなかったスクトとは対照的にコーディスの方はすぐに答えていた。
「プランティさん……?
彼女が一体……」
「君の右手に付いた土だよ」
「土……?」
スクトは右掌を凝視した。
確かにそこには、僅かに土が付着している。
掌の中央部に、ほんの僅かにだ。
これは……フードを纏っていた時……
彼女を吹き飛ばした後『土の槍』の攻撃を掴んで止めた時の……?
あの後やって来た自分の右手の土を見て、フードの人物とスクト=オルモーストが同一人物であることが分かったのか……?
だがこんな僅かな土、あの時に確認なんて出来るはずが……
それに、自分の場所が分かる理由にはならない………
と、そこまで考えて、スクトは彼女にある疑問を抱いていた事を思い出した。
彼女は何故、スリーチェの場所が分かったのか。
森の中にいること……そして洞窟の中に入っていったこと……
その時は、スリーチェだけを感知できる魔法かマジックアイテムでも使っているのかと推測したが……
本当の理由は……!
「彼女は……生成した粘土の位置を感知できるのか……!」
「そうだ、スリーチェ君はプランティ君の生成した粘土をお守りに入れていたらしい。
外に出かける際には、必ず持っていくようにしているそうだ」
ローブの人物に付けたはずの土の反応がスクトからするのであれば、スクトがローブの人物であるということが分かる。
そして、その反応を追えばスクトが当初の森から離れた場所にいるということも、当然分かる……
「ということは………
もしかして今回のカラクリ、もう全部バレちゃいましたか?」
「ああ、突然現れた魔物の群れ。
ローブの存在だけでは説明できない早変わり。
全てな」
「ああ~~……」とスクトは顔を覆った。
「やっぱ彼女は始末しておくべきだったかなぁ……
直接僕と戦った彼女の口から貴方を呼んでもらった方がより危機感が煽れて効果的かと思ったけど……
完全に裏目ったなぁ……
マジであのチームは嫌になるぐらい逸材ばっかりだ……」
「私としては未だに信じ難いのだがね。
一体いつの間に覚えたんだい」
コーディスはスクトを見据え、言った。
「空間跳躍魔法なんて」
それこそが、今回の事件を引き起こす為の鍵だった。
何の前触れもなく突然この『グリーンエリア』に魔物が溢れ出たのも、この魔法によるもの。
おそらく、エリアの各所に空間跳躍の『門』が設置されており、そこから魔物を送り込んでいたのだろう。
スクトが『コッカトリス』がいた場所からスリーチェ達の前に現れることも、それなら当然可能だ。
つまり、あの時スリーチェ達の前に現れたスクトは本物だったのだ。
そしてプランティを引き離し、スリーチェを森の手前まで連れていき、スクトは森へ入りフードを纏いプランティへと姿を変える。
スリーチェにバレないように空間跳躍で森から出たスクトはスリーチェを連れ森へと入り、スクトを探すという名目で探知魔法を使わせることで、アリスリーチェの魔力を放つローブを感知させ、洞窟へとおびき寄せる……
そしてプランティとの戦闘の後のこと……
スクトが言っていた通り、プランティをコーディスを呼び寄せるために利用しようし、トドメは刺さずに洞窟へと消えた。
その後洞窟から空間跳躍でプランティの後ろへと移動し、まるでたった今駆けつけたかのように振る舞う……
だが、その行動が全てを露見させる決め手となった。
フードの人物に付着させた土の反応を感知し続けていたプランティは驚愕したことだろう。
さっきまで洞窟内から感知していた反応が、一瞬で自分の後ろへと飛んだのだから。
そして、やって来たスクトと……
その右手に付いたの土からの反応で………
彼女は今回の事態の全容を把握したのだった……
「プランティ君からこの事態の首謀者が君だと告げられた時は……
正直とても信じられなかったよ」
スクトはそのコーディスの言葉にピクリと反応すると、顔を覆っていた手をどけた。
そして―――嘲るような笑いを浮かべた。
「はっ……
冗談よしてくださいよ。
そんな訳ないでしょう。
だったらなんで貴方はここにいるんですか?」
「………あれだけの傷を負った彼女の言葉を全て嘘だと断じることは―――」
「違うでしょう?
貴方はプランティさんの話を聞き、何の疑問も浮かべずにそれを信じた。
今の状況を矛盾なく説明出来ており、疑う要素は何一つない。
そうでしょう?コーディスさん」
「………………………………………」
「貴方はその蛇達のこと以外、誰も信頼していない。
共に戦った仲間がこんな事態を引き起こしていようが、どうでもいい。
だから貴方はここにいる」
「………………………………………」
コーディスは……打って変わって、何も喋らなくなった。
「もういいでしょう、くだらないお喋りは。
本来の計画では貴方を洞窟へ誘い込んで、あの『ゴーレム』で始末する算段でしたけど……
こうなってはもう仕方ありませんね」
スクトは……ゆっくりと両腕を左右へ広げた。
「《ローバスト・ウォール》」
その『魔法名』を唱えた瞬間……スクトの周囲に6枚の『刃』が展開された。
否……それは正確には『刃』ではなかった。
「空間跳躍魔法もだが……
『それ』にも驚いているよ。
まさか君の魔法にそんな使い道があったとはね」
それは……『防御壁』だったのだ。
「中等魔法程度の威力ならば決して破られることのない強靭な『防御壁』を生み出す防御魔法、《ローバスト・ウォール》
私達もそれに幾度となく助けられてきたものだが……
強度を保ったまま極限まで薄く生成することで『刃』として扱える、と言った所かな……?
おまけに自由自在に、驚異的な速さで動かせる……」
「………………………………………」
「私達と共に戦っていた頃には、そんな使用法は見たことがなかった。
あの頃から既に出来ていたが隠していたのか……
それとも………」
「………………………………………」
「なぁスクト…………
君のその力は…………
本当に君だけの―――」
「いけ」
―――ビュオッッッ!!!
コーディスが言い切るのを待たず、スクトは両腕を前方へと突き出し『刃』を凄まじいスピードで伸ばした。
高速で飛来する6枚の『刃』がコーディスを襲う。
―――ボッッッ!!!
瞬間―――コーディスの姿が消え、『刃』は虚空を舞った。
コーディスが直前まで立っていた地面には、何かが猛スピードで衝突したかのような跡が残っている。
スクトは視線を素早く右へと移す。
そこには『刃』を避けたコーディスがいた。
コーディスの力で避けたのではない。
彼の腕に巻き付いている赤色の蛇がその身体で地面を叩き、横へ飛んだのだった。
そして、『刃』を避けたのとほぼ同時のタイミングで―――
―――ボッッッッ!!
緑色の蛇がその身体を大きくスイングさせ、地面を抉り―――
「―――――っ」
―――ズバァッ!!
猛スピードの石礫をスクトへと浴びせかけた……!
コーディスのあずかり知らぬことであるが、フィルが洞窟内で『ヘルハウンド』の群れに対して行った攻撃と同じであった。
その威力もまた、フィルの時に劣らない。
『ヘルハウンド』であれば、全身に穴が空き絶命するであろう石の雨を受けたスクトは―――
「………なんですか?それ」
平然と、その場に立ち続けていた。
全くの無傷……それどころか服にさえ穴は空いていない。
「そんなので僕を倒せると思っているんなら、心外なんてもんじゃないんですど」
「………流石にそこまで甘い見通しは立てていないよ。
ただ………擦り傷くらいは付くものと思っていたのだけどね」
コーディスはスクトを訝しげに見つめた。
「《プロテクション・ダーミス》か」
「ああ、覚えていましたか」
それはスクトの身体と服の周囲を覆うように展開されている防御魔法。
その厚さはほんの薄皮一枚程度。
それでいて並の攻撃くらいなら完全に防ぎきる性能を持っていた。
そう……『並の攻撃ぐらい』なら、である。
「…………プランティ君の粘土の圧縮もそれで耐えたのかい?」
「ええ。
何か疑問でも?」
パンパンと服についた土埃を払いながらスクトはあっけらかんと答えた。
「…………彼女が全力で魔力を込めて粘土を圧縮させれば、オリハルコンでさえ僅かではあるが変形させることが出来るらしい」
「へぇ、それは凄い」
スクトはまるで興味が無さそうであった。
「………断言できる。
その防御魔法でプランティ君の攻撃を耐えることは出来ない。
ましてや攻撃に転用することなど」
「…………………………………」
スクトはプランティの粘土に捕らわれた際、纏っていた《プロテクション・ダーミス》を急速に膨張させることにより、粘土を押しのけプランティの身体をも吹き飛ばした。
しかし、そんなことは出来るはずがないとコーディスは言う。
「空間跳躍魔法、『刃』と化す《ローバスト・ウォール》、あり得ない強度の《プロテクション・ダーミス》………
スクト、君は一体どうやってその力を手に入れた?」
「……………………………………」
「さっきまで会話をしていたここにはいない『誰か』……
それが関係しているのか?」
「……………………………………」
スクトは、先程のように何も言わなくなった。
「答えてもらうぞ………スクト!!」
普段の彼の姿からは想像も出来ない程の怒号が放たれた――
この子を……サニーちゃんを覚えているかい?
君と一番仲が良かった子だよ」
「………………………………………」
スクトは、何も言わなかった。
「君は蛇が苦手だったらしくて、この子達には怯えてばかりだったね。
噛みついたりしないから大丈夫だよ、と言っても中々近づこうとはしなかった。
まぁ、時々寝ぼけて近くの物を思い切り締め付けてしまうことはあるけど」
「………………………………………」
やはりスクトは何も言わない。
わざとなのか天然なのかは分からないが、ツッコミ所もスルーしている。
「でも、この子達にも個性があって、サニーちゃんは辛い物が好物ということ知ったとき……
君は『自分も同じだ』と言って、興味を持ってくれたね。」
「………………………………………」
「それから、君はサニーちゃんと仲良くなって、他の子達とも一緒に遊んでくれるようになって。
皆に怯えていた頃が嘘のように、あっという間に馴染んでしまっていたね。
私は軽く嫉妬してしまったものだよ」
「………………………………………」
「なぁスクト……………
『いつから』だ?」
「………………………………………」
スクトは、答えない。
その代わりに、逆に質問を投げかけた。
「コーディスさん。どうやって僕に近づいたんですか?
誰もこの場所に来られないように大量の魔物達を配置させていたはずですけど。
まぁ貴方ならば大した障害にはならないんでしょうけど、アレだけの魔物と交戦して僕が気が付かないはずないですよね?」
「………ここに来るまで魔物達とは一切戦うことはなかったよ」
「………?
ああ、なるほど。
バニラさんの隠匿魔法ですか。
全くあのチームは逸材ばかりだ」
スクトの推測通り、コーディスはバニラの《プレゼンス・ハイド》によって魔物との戦闘を避けここまで来ていた。
そうでなければ見た目も戦闘方法も目立つことこの上ないコーディスがここまでバレずに近づくことは不可能だっただろう。
「でも、それ以上に疑問なのが……
どうして僕がこの場所にいることが分かったんですか?
スリーチェさんとフィル君がいる洞窟の森から、大分離れた所ですよ?ここ。
僕の足跡を辿れる材料はないはずなんですけど」
「………プランティ君のおかげだよ」
質問に何も答えなかったスクトとは対照的にコーディスの方はすぐに答えていた。
「プランティさん……?
彼女が一体……」
「君の右手に付いた土だよ」
「土……?」
スクトは右掌を凝視した。
確かにそこには、僅かに土が付着している。
掌の中央部に、ほんの僅かにだ。
これは……フードを纏っていた時……
彼女を吹き飛ばした後『土の槍』の攻撃を掴んで止めた時の……?
あの後やって来た自分の右手の土を見て、フードの人物とスクト=オルモーストが同一人物であることが分かったのか……?
だがこんな僅かな土、あの時に確認なんて出来るはずが……
それに、自分の場所が分かる理由にはならない………
と、そこまで考えて、スクトは彼女にある疑問を抱いていた事を思い出した。
彼女は何故、スリーチェの場所が分かったのか。
森の中にいること……そして洞窟の中に入っていったこと……
その時は、スリーチェだけを感知できる魔法かマジックアイテムでも使っているのかと推測したが……
本当の理由は……!
「彼女は……生成した粘土の位置を感知できるのか……!」
「そうだ、スリーチェ君はプランティ君の生成した粘土をお守りに入れていたらしい。
外に出かける際には、必ず持っていくようにしているそうだ」
ローブの人物に付けたはずの土の反応がスクトからするのであれば、スクトがローブの人物であるということが分かる。
そして、その反応を追えばスクトが当初の森から離れた場所にいるということも、当然分かる……
「ということは………
もしかして今回のカラクリ、もう全部バレちゃいましたか?」
「ああ、突然現れた魔物の群れ。
ローブの存在だけでは説明できない早変わり。
全てな」
「ああ~~……」とスクトは顔を覆った。
「やっぱ彼女は始末しておくべきだったかなぁ……
直接僕と戦った彼女の口から貴方を呼んでもらった方がより危機感が煽れて効果的かと思ったけど……
完全に裏目ったなぁ……
マジであのチームは嫌になるぐらい逸材ばっかりだ……」
「私としては未だに信じ難いのだがね。
一体いつの間に覚えたんだい」
コーディスはスクトを見据え、言った。
「空間跳躍魔法なんて」
それこそが、今回の事件を引き起こす為の鍵だった。
何の前触れもなく突然この『グリーンエリア』に魔物が溢れ出たのも、この魔法によるもの。
おそらく、エリアの各所に空間跳躍の『門』が設置されており、そこから魔物を送り込んでいたのだろう。
スクトが『コッカトリス』がいた場所からスリーチェ達の前に現れることも、それなら当然可能だ。
つまり、あの時スリーチェ達の前に現れたスクトは本物だったのだ。
そしてプランティを引き離し、スリーチェを森の手前まで連れていき、スクトは森へ入りフードを纏いプランティへと姿を変える。
スリーチェにバレないように空間跳躍で森から出たスクトはスリーチェを連れ森へと入り、スクトを探すという名目で探知魔法を使わせることで、アリスリーチェの魔力を放つローブを感知させ、洞窟へとおびき寄せる……
そしてプランティとの戦闘の後のこと……
スクトが言っていた通り、プランティをコーディスを呼び寄せるために利用しようし、トドメは刺さずに洞窟へと消えた。
その後洞窟から空間跳躍でプランティの後ろへと移動し、まるでたった今駆けつけたかのように振る舞う……
だが、その行動が全てを露見させる決め手となった。
フードの人物に付着させた土の反応を感知し続けていたプランティは驚愕したことだろう。
さっきまで洞窟内から感知していた反応が、一瞬で自分の後ろへと飛んだのだから。
そして、やって来たスクトと……
その右手に付いたの土からの反応で………
彼女は今回の事態の全容を把握したのだった……
「プランティ君からこの事態の首謀者が君だと告げられた時は……
正直とても信じられなかったよ」
スクトはそのコーディスの言葉にピクリと反応すると、顔を覆っていた手をどけた。
そして―――嘲るような笑いを浮かべた。
「はっ……
冗談よしてくださいよ。
そんな訳ないでしょう。
だったらなんで貴方はここにいるんですか?」
「………あれだけの傷を負った彼女の言葉を全て嘘だと断じることは―――」
「違うでしょう?
貴方はプランティさんの話を聞き、何の疑問も浮かべずにそれを信じた。
今の状況を矛盾なく説明出来ており、疑う要素は何一つない。
そうでしょう?コーディスさん」
「………………………………………」
「貴方はその蛇達のこと以外、誰も信頼していない。
共に戦った仲間がこんな事態を引き起こしていようが、どうでもいい。
だから貴方はここにいる」
「………………………………………」
コーディスは……打って変わって、何も喋らなくなった。
「もういいでしょう、くだらないお喋りは。
本来の計画では貴方を洞窟へ誘い込んで、あの『ゴーレム』で始末する算段でしたけど……
こうなってはもう仕方ありませんね」
スクトは……ゆっくりと両腕を左右へ広げた。
「《ローバスト・ウォール》」
その『魔法名』を唱えた瞬間……スクトの周囲に6枚の『刃』が展開された。
否……それは正確には『刃』ではなかった。
「空間跳躍魔法もだが……
『それ』にも驚いているよ。
まさか君の魔法にそんな使い道があったとはね」
それは……『防御壁』だったのだ。
「中等魔法程度の威力ならば決して破られることのない強靭な『防御壁』を生み出す防御魔法、《ローバスト・ウォール》
私達もそれに幾度となく助けられてきたものだが……
強度を保ったまま極限まで薄く生成することで『刃』として扱える、と言った所かな……?
おまけに自由自在に、驚異的な速さで動かせる……」
「………………………………………」
「私達と共に戦っていた頃には、そんな使用法は見たことがなかった。
あの頃から既に出来ていたが隠していたのか……
それとも………」
「………………………………………」
「なぁスクト…………
君のその力は…………
本当に君だけの―――」
「いけ」
―――ビュオッッッ!!!
コーディスが言い切るのを待たず、スクトは両腕を前方へと突き出し『刃』を凄まじいスピードで伸ばした。
高速で飛来する6枚の『刃』がコーディスを襲う。
―――ボッッッ!!!
瞬間―――コーディスの姿が消え、『刃』は虚空を舞った。
コーディスが直前まで立っていた地面には、何かが猛スピードで衝突したかのような跡が残っている。
スクトは視線を素早く右へと移す。
そこには『刃』を避けたコーディスがいた。
コーディスの力で避けたのではない。
彼の腕に巻き付いている赤色の蛇がその身体で地面を叩き、横へ飛んだのだった。
そして、『刃』を避けたのとほぼ同時のタイミングで―――
―――ボッッッッ!!
緑色の蛇がその身体を大きくスイングさせ、地面を抉り―――
「―――――っ」
―――ズバァッ!!
猛スピードの石礫をスクトへと浴びせかけた……!
コーディスのあずかり知らぬことであるが、フィルが洞窟内で『ヘルハウンド』の群れに対して行った攻撃と同じであった。
その威力もまた、フィルの時に劣らない。
『ヘルハウンド』であれば、全身に穴が空き絶命するであろう石の雨を受けたスクトは―――
「………なんですか?それ」
平然と、その場に立ち続けていた。
全くの無傷……それどころか服にさえ穴は空いていない。
「そんなので僕を倒せると思っているんなら、心外なんてもんじゃないんですど」
「………流石にそこまで甘い見通しは立てていないよ。
ただ………擦り傷くらいは付くものと思っていたのだけどね」
コーディスはスクトを訝しげに見つめた。
「《プロテクション・ダーミス》か」
「ああ、覚えていましたか」
それはスクトの身体と服の周囲を覆うように展開されている防御魔法。
その厚さはほんの薄皮一枚程度。
それでいて並の攻撃くらいなら完全に防ぎきる性能を持っていた。
そう……『並の攻撃ぐらい』なら、である。
「…………プランティ君の粘土の圧縮もそれで耐えたのかい?」
「ええ。
何か疑問でも?」
パンパンと服についた土埃を払いながらスクトはあっけらかんと答えた。
「…………彼女が全力で魔力を込めて粘土を圧縮させれば、オリハルコンでさえ僅かではあるが変形させることが出来るらしい」
「へぇ、それは凄い」
スクトはまるで興味が無さそうであった。
「………断言できる。
その防御魔法でプランティ君の攻撃を耐えることは出来ない。
ましてや攻撃に転用することなど」
「…………………………………」
スクトはプランティの粘土に捕らわれた際、纏っていた《プロテクション・ダーミス》を急速に膨張させることにより、粘土を押しのけプランティの身体をも吹き飛ばした。
しかし、そんなことは出来るはずがないとコーディスは言う。
「空間跳躍魔法、『刃』と化す《ローバスト・ウォール》、あり得ない強度の《プロテクション・ダーミス》………
スクト、君は一体どうやってその力を手に入れた?」
「……………………………………」
「さっきまで会話をしていたここにはいない『誰か』……
それが関係しているのか?」
「……………………………………」
スクトは、先程のように何も言わなくなった。
「答えてもらうぞ………スクト!!」
普段の彼の姿からは想像も出来ない程の怒号が放たれた――
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!


シェイドシフト〜滅びかけた世界で暗躍する〜
フライハイト
ファンタジー
ある日地球に《神裁の日》が訪れる。
日本の政府が運営する研究所ではとある物質の研究がなされていた。
だがある日その物質はとある理由で暴走し地球を飲み込んでしまう。
何故、暴走したのか?その裏には《究明機関》という物質を悪用しようとする組織の企みがあったからだった。
神裁の日、組織の連中は研究所から研究データを盗もうとするがミスを犯してしまった。
物質に飲み込まれた地球は急な環境変化で滅びの一途を辿ったと思われたが、
人類、そして他の生物たちは適応し逆にその物質を利用して生活をするようになった。
だが、その裏ではまだ《究明機関》は存在し闇で動いている。
そんな中、その研究所で研究者をやっていた主人公は神判の日に死んだと思われたが生と死の狭間で神近しい存在《真理》に引き止められ《究明機関》を壊滅させるため神裁の日から千年経過した地球に転生し闇から《究明機関》を壊滅させるため戦う。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる