勇者学園とスライム魔王 ~ 勇者になりたい僕と魔王になった君と ~

冒人間

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第6章

第21話 駆けつけた者と立ち向かう者

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「が……はぁッ……!!」

100メートル以上もの距離を、数十本の木々を薙ぎ倒し……
本来であれば身体がぐちゃぐちゃになっていてもおかしくない勢いで吹き飛ばされたプランティは、両腕両脚を喪失した状態で血を吐いていた。

―――ザッザッザッ……

前から響く足音に目を向けると、ローブの人物がこちらへと向かって来ている。

「流石ですね。
 咄嗟に粘土で自らの身を包み、衝撃を軽減しましたか」

そんな賞賛の言葉と共にプランティの眼前までやってきたローブの人物は倒れ伏す彼女を見下す。
プランティはローブの人物を睨みつけると―――

「《クレイ・ジャベリン》!」

―――ビュオッ!!

腕が失われた肩口から『土の槍』が飛び出し、ローブの人物へと撃ち出される!

しかし―――

「おっと!」

―――ガッ……!

「っ……!」

至近距離から高速で飛来した『土の槍』をローブの人物はあっさりと右手で掴み取る。
そして、そのままグシャリと握りつぶすと『土の槍』はボロボロと形を崩し、消滅した。

「ふふふ……まだそんな力が残っていたんですね。
 やはり、貴女はとてもお強い」

「…………………………」

プランティの目からは未だ闘志は消えていなかった。

「貴女を決して甘く見てはいけない。
 私の全身全霊をもってして―――ッ!!」

突然、ローブの人物がプランティから視線を外した。
その目は、森の奥の方を見つめているようだった。

「………来てしまいましたか………
 貴女もまだ何とか戦うだけの力は残っていそうですし………
 流石に2人を同時に相手するのは厳しいですね………」

それまでと打って変わって、ローブの人物の声色に焦りの色が見え始めた。
一体……何が――?

「仕方ありませんね……ここはあのお嬢様と少年の始末を最優先させることとしましょう」

「っ!!」

そう言うとローブの人物はプランティの元から離れていき……
吹き飛ばされ、遠くに見えるようになった洞窟の中へと消えていった……

「っ!!貴様!!!
 待てッ!!!」

すぐに、後を追わなくては……!!

激痛に苛まれる身体に鞭を打ち、プランティは手足を作り出していく。

そして、その作業の途中―――
プランティは、ハッ!と目を見開いた。

その時―――

「おい!!大丈夫か!!!」

誰かの声が後ろから掛かった。

「この声………!!
 スクトさん……!?」

プランティが振り返ると、そこには息を切らしたスクトが立っていた。

「すまない……!
『コッカトリス』の相手に手間取って、こちらの状況に気付くのが遅れた!」
「スクトさん……どうしてここに……」

「僕も生徒達の救助に回っていたんだけど、その生徒達から妙なことを聞いたんだ。
 僕がスリーチェさんを連れて森に行ったのを見かけた、なんて話を……
 それで……何かとても嫌な予感がして、その森の場所を聞いてここに来たんだけど……」

スクトは、プランティの姿を改めて見た。

「プランティさん……その身体は……!
 いや、今は詳しくは聞かないでおく!
 その傷は魔物との戦闘によるものかい?
 それとも……!?」
「……この事態の……首謀者との戦闘によるものです………!」
「―――っ!!!」

プランティの言葉に、スクトは強く反応した。

「そいつは今どこに!?」
「向こうの……あの洞窟へ……!
 あの中にはお嬢様と……フィルさんも……!」

スクトは遠くに見える洞窟の入口を睨みつけた。

「分かった!僕はすぐにそいつを追う!
 プランティさん!君は動けるかい!?」
「なんとか……!動けます……!!」

プランティはスクトと会話をしている最中も両腕両脚の生成を続けており、まだ歪な形ではあるものの何とか身体機能として働かせることが出来た。

「よし、それなら君はコーディスさんを呼んできてくれ!」
「コーディスさん……!?」

プランティは思わずスクトに振り返った。

「君にそれ程の深手を負わせるような相手だ……!
 僕だって勝てるかどうか分からない!
 確実に倒すためにはあの人の力が必要なんだ!
 これだけの狼煙が上がっていれば確実に来ているはずだ!」
「し、しかし……コーディスさんがどこにいるかなんて……」

「大丈夫だ!あの人の戦闘はかなり派手だから遠目からでも分かる!
 だからこそ早く行くんだ!!
 戦闘が終わってしまったら探し出せなくなってしまう!!」
「…………………………………」

プランティは、すぐには答えられなかった。
しかし―――

「……………分かり、ました……!」
「………すまない……!
 そんな身体で無茶をさせてしまって……!
 君もスリーチェさんを追いたいのだろうけど、確実に彼女を助け出す為にも……!」
「いえ……大丈夫です………!
 スクトさん……お嬢様とフィルさんを、お願いします……!」
「ああ、任せろ!
 倒せないにしても、2人を守りコーディスさんが来るまでの時間は絶対に稼ぐ!」

その会話を最後に……2人は別々の方向へと走り出した。
スクトは洞窟へ、プランティは森の外へ……

お互いの姿が見えなくなる一瞬……プランティは立ち止まり、スクトの方へ振り向く。
そして何も言わずに前へ向き直り、再び森の外へと急ぐのであった―――

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「《ブロウアップ・ブラスト》!!」

―――ッドォオオンッ!!!

「「ギュオオオオォッ!!!」」

スリーチェの爆発魔法によって『ヘルハウンド』数体がまとめて吹き飛んだ。

洞窟最奥部の広大な空間―――
『ロック・リザード』と『ヘルハウンド』の群れに襲われたスリーチェはその空間の隅を陣取っていた。

突如出現した魔物達……囲まれてしまえばお仕舞と考えた彼女は、背後に壁を背負った。
そして前方だけに意識を集中させ、相手が近づいてきた瞬間に爆発魔法で吹き飛ばすという戦法を取ることで、この魔物の群れにかろうじて対抗していた。

だがこの戦い方は……彼女に一切の逃げ場がないということも意味している。
息切れし、一体にでも組み付かれてしまえばそれで終わりだ。

「はぁ……はぁ……はぁ……!
 くぅ……!!」

スリーチェは思わず頭を片手で抑える。
彼女の周囲には空になった『マジックポーション』の小瓶がいくつも転がっていた。
もう十数分……スリーチェの体感時間では数時間にもなるだろうか……爆発魔法を打ち続け、魔力が枯渇しかける度に『マジックポーション』を使用し……
副作用による頭痛は既に限界に達しかけていた。

―――どたっどたっどたっ!

そんなスリーチェに、容赦なく『ロック・リザード』が突進を仕掛ける。

「っ……!!
《ブロウ……アップ・……ブラスト》!!」

―――ッドォオオォッ!!!

なんとか魔法を唱え、『ロック・リザード』を撃退するも―――

「く……ああっ………」

凄まじい頭痛に、スリーチェは膝をついてしまう。
もはや視界すらぼやけ、まともに魔物を捉えることも出来そうにない。

「「ウォオルルルル…………」」

だが、彼女の耳には聞こえてきてしまう……
未だにこの場に存在する魔物の群れの唸り声が……

彼女の心に……『諦観』の二文字が見え始めた。

「お姉………さま………
 ごめん………なさい………」

『貴女がわたくしの身を案じているのと同じように……わたくしもまた貴女が危険な目に合わないか、いつだって心配しておりますのよ?』

そう言ってくれた姉の気持ちを踏みにじってしまうことに、スリーチェは心の底からの謝罪をした……

そして、魔物の群れが彼女へ飛び掛かる―――

その直前―――

「スリーチェエエエエエエエ!!!!」

1人の少年の声が、広大な空間に響き渡った。
その声に反応した魔物の群れは、即座にその身を反転させた。

「この……声………!
 フィル………さん………!?」

スリーチェはハッ!と思わず顔を上げる。
そして見た。
魔物の群れの向こう側から、確かにこちらに向かって駆ける、フィルの姿を―――

一体どうして彼がここに―――

そんなことを疑問に思う間もなく、魔物は新たに現れた得物に向かって襲い掛かった。

スリーチェから見て最後尾にいた『ロック・リザード』の群れが、同時にフィルに向かって突撃する。

本来なら突進を避け、その隙に側面から攻撃するのが教わった討伐方法だ。
しかし、複数体の同時突進によりその方法は取れそうにない。
避けた所で別の『ロック・リザード』に貫かれるだけ―――!!

「フィルさんっ!!
 逃げてぇっ!!」

自身の頭に浮かんでしまったその光景に、スリーチェは思わず叫んだ。

だが、彼は逃げない。
それどころか……突進してくる『ロック・リザード』に向かって走り、避ける素振りすら見せない!

「《ミートハンマー》!!
 『規格スタンダード3倍トリプル』!!!」

そんな叫び声の元……フィルの手に普段の3倍の大きさの『肉たたき』が握られる。
もはや大槌と呼んでいいそれをフィルは振りかぶった。

そして――――

「うおああああああ!!!!!」

目前に迫った『ロック・リザード』の角に向け、振り下ろす!!

―――バッキィィン!!

『ロック・リザード』の角が、叩き折られ―――

―――ゴッッキャァッ!!

そのまま『肉たたき』を叩きつけられた『ロック・リザード』は、頭部を粉砕しながら吹っ飛んだ。

それはさながら、討伐活動初日にスクトが見せた討伐方法―――

そして、残りの突進してくる『ロック・リザード』を―――

「はああああああああ!!!」

―――ゴッ!ゴッ!ゴッ!ゴッ!ゴッッッッ!

次々と、一撃で葬り去っていった……!

「なっ………あ………」

その光景にスリーチェは思わず我が目を疑った。
思えば、これが彼女にとって初めて見るフィルの戦いなのであった……

そうして、フィルは手早く8体の『ロック・リザード』を葬ると―――

「「「「ウォオオオオオオオオ!!!」」」」

「――――っ!!」

今度は先程スリーチェに襲い掛かろうとしていた『ヘルハウンド』の群れがフィルに向かう。

その数は……7体!

『ヘルハウンド』はあの『肉たたき』の威力を理解したのか、蛇行しながらフィルに近づいている。

この素早く不規則な動きを捉えることなど、出来るはずがない。
仮に捉えることが出来たとして、アレで攻撃できるのは一体ずつ。
周囲から複数同時に飛び掛かれば、為すすべはない……!

もし『ヘルハウンド』が声を発せるのならば、そんな囁きが聞こえてきそうだった。

そして、『ヘルハウンド』の群れがもう後数秒もしないうちにフィルの元へ辿り着きそうな距離まで来た時―――

彼は言った。

「どれだけ速かろうが……関係ない!!」

フィルは右腕を……後方へと回す。

そしてその手に持つ巨大な『肉たたき』を―――

、前方に思い切りスイングした―――

すると―――

―――ボッッッッッ!!!!

まるで地面に埋め込んだ爆発物が炸裂したかの如く、『肉たたき』が触れた箇所の地面が爆砕する。

そして、凄まじいスピードの石礫が―――

フィルの前方の視界を覆い尽くすほどに広がる―――!!

―――ズバァッッッッッ!!!

「「「「ギュオォオオオオオ!!??」」」」

広範囲に飛来する石の雨を避けるすべは、『ヘルハウンド』には存在しなかった。
『ヘルハウンド』の群れは、その全てが同時に全身を穴だらけにされ、絶命したのだった……


そして……………この空間にいた魔物の群れは、いなくなった。

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