勇者学園とスライム魔王 ~ 勇者になりたい僕と魔王になった君と ~

冒人間

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第6章

第19話 僕と刃とローブ

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―――時は少し遡り……

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「では予定通り……貴方達も殺しましょうか」

ローブの人物のその言葉に、僕は思わずビクリと反応してしまう……!
僕達を……殺す……!?
この人は一体……!?

「………アリスリーチェ様から送られた件の書簡に書かれていたことですが……
 アリスリーチェ様暗殺未遂の実行犯……レディシュ=カーマインは……
 暗殺はある『クライアント』から頼まれた、と言っていたらしいです……」
「………?」

突然プランティさんが目の前の人物を見据えつつ、そんなことを言いだした。

「その『クライアント』は……ローブで顔を隠した人物だった……とのことです……!」
「――っ!!
 それって……!?」

僕は再び目の前の人物……ローブの人物へ視線を移す。
まさか……この人が……!?

「貴様……今………貴方達『も』……と言ったな………
 もし……アリスリーチェ様の暗殺を企てたのが貴様ならば……
 お嬢様のことも……!!」

プランティさんは普段の気弱さが嘘のように獰猛な表情で、ローブの人物を睨みつけた。

「答えろ!!
 貴様はお嬢様を一体どうするつもりだ!!」

そこらの野生動物なら一目散に逃げ出すであろう強烈な怒号。
しかしローブの人物はまるで微動だにしなかった。

「安心してください。
 彼女は『まだ』生きてますよ。
 まぁ、時間の問題ですが」

「「っ!!!」」

ローブの人物は平然と答える……!
このままだと……スリーチェが……!

「フィルさん……!
 お願いがあります……!」
「プランティさん……?」

プランティさんが思いつめたような表情で僕に話しかけて来た。

「コイツは私が抑えます……!
 フィルさんは洞窟に入り、お嬢様の救出を……!」
「洞窟……?」

それは……あのローブの人物の後ろの……?

「あの洞窟の中にお嬢様がいます……!
 今も、どんどん奥へと進まれて……!」

プランティさんの声には焦燥感が募っていた……!

「へぇ、分かるのですか。
 やはり探知魔法でもお持ちなのでしょうか。
 しかし私の存在には気が付いていなかった様子でしたし……
 スリーチェだけを探知できる魔法……あるいはマジックアイテムでしょうかね。
 どちらにせよ、やはり早々に始末しておかないと面倒なことになりそうですね」

そう言いながら、ローブの人物は右手を僕達の方へと向ける……!

「フィルさん!コイツの実力は未知数です!
 私が相手をしているうちに、どうか行ってください!!」
「で、でも!プランティさ―――」


「させませんよ」


―――ビュオッッッ!!


「危ないッ!!」
―――バッッ!
「わあっ!!!」

突然プランティさんが僕を抱えてその場から飛び退いた!

その直後、僕達が立っていた場所の後ろに生えていた木々が――

―――ザシュァッッ!!

まるで包丁で切られた食材の如く、奇麗に両断されたのだった……!!

「なあっ……!!」
「くっ……!」

思わず戦慄する僕に、そんな僕を抱え焦りの表情を浮かべるプランティさん……

い、一体何が……!?

僕達は、木々を容易く両断する……アリーチェさんの《エミッション・アクア》にも匹敵しうる『ソレ』を見た。
『ソレ』は……

「な、なんだアレ……紙……?」
「いえ……おそらくは、『刃』………!
 しかし………一体どんな魔法を……!?」

ローブの人物が差し出した右手の袖口から伸びるとても薄い『ソレ』は幅30センチほどの白い紙のように見えた……
勿論、木々を切り裂くほどの鋭さを持つ以上、プランティさんの言う通りそれは『刃』なのだろう……

それにしても何という速さ……!
僕には全く動きが見えなかった……!

「へぇ……今のを避けますか。
 中々やりますね」

ローブの人物はそう言いながら袖口から伸びる『刃』を自らの腕の近くへと漂わせた。
そして―――

「では……こんなのはどうでしょう」

そういうや否や――

―――ビュオオオオッッッ!!!

「うわあああっ!!」

ローブの人物は凄まじいスピードで『刃』を自身の周りに行き交わせた!!
僕にはもはや『刃』の影すら見えず、猛烈な風切音しか聞こえない!!

「さぁ……行きますよ!」

―――ダッ!!

そして、その状態でローブの人物は僕達へ向かって走り出した!

「う、ああっ……!」

ローブの人物の足元の草が移動に合わせてどんどん刈り取られていく……!!
あの範囲の中に僕達が入ってしまえば、一体どうなってしまうのか……!!

僕は少しでもローブの人物から距離を取ろうとするが―――

「―――!?
 プランティさん!?」
「………………………………」

プランティさんは、その場から動こうとはしなかった。
恐ろしい『刃』の嵐が目前に迫っていながら、ただじっと前だけを見つめていたのだ。

一体何を――と僕が疑問の声を上げるよりも先に、その『刃』の嵐がプランティさんに―――!

「はああああッッッ!!!!」

―――ヒュバッッ!!

プランティさんが叫び声と共に、両腕を突き出す―――
すると―――

―――ビシィッ!!

「っ!?」

「んなっ!?」
「ふぅっ………!」

プランティさんは……目にも止まらぬスピードで飛び交っていた『刃』を……!
両手で、白刃取りしてしまったのだった……!!

「フィルさん!!今のうちです!!」

「――――っ!!!」

―――ダッッッ!!

僕は返事をする暇も惜しみ、走り出した!

さっきまではプランティさん1人にこの場を任せることに抵抗を感じていた僕だったけど……!
そんな考え、全くの思い上がりだったことに気付かされる……!
実に情けないことに……僕の存在はこの場では足手まといにしかなりそうにない……!

僕はローブの人物の脇を通り抜け、その背後の洞窟へと向かう――!!

「ちっ……!」

『刃』をプランティさんに抑えられているローブの人物は、脇を通る僕を見送るしかないようだ……!
ローブの人物の舌打ちの音を背に受けつつ、僕はスリーチェがいるという洞窟の中へと入っていったのだった――

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

《 数分前 》

「はぁ……!はぁ……!
 ここは……一体……?」

スリーチェはそんな疑問の声を出しながら、洞窟内を走っていた。

洞窟の中は入ってすぐは真っ暗闇が広がっており、気を付けて進まなければいけない状態だった。
しかし、それから少し進んでいくと……突然明かりが見え始めた。

それは、洞窟の壁に備え付けられたランプから発せられている光であり、洞窟の奥へと等間隔に続いていた。

ここは……以前人間が立ち入ったことがある場所なのだろうか……?
もしかしたら、調査隊のキャンプ地か何かとして使われていたのかも……?

しかし……余りにも整い過ぎているような……
たかがキャンプ地にこれだけの整備を行うだろうか……

この洞窟……何かおかしい気が……

だが、そんな考えはひとまず脇に置いておいた。
今大事なのは最愛の姉、アリスリーチェの無事を確かめることだ。
今も洞窟の入口で魔物の足止めを行っているであろうプランティの為にも、早く……!

そうして、走り続けていると―――

「――!!
 ここは……!?」

スリーチェは一際広い空間へと出た。
そこは幅、奥行きの広さが100メートル、天井の高さが20メートル程もある広大な空間だった。

まるで、何かの建物の中とでも錯覚してしまいそうな、この空間は一体……

スリーチェは一瞬呆然としていたが、すぐにそんな場合ではないことに気付く。
今は何よりも優先すべきことがあるのだ。

「お姉さま……!!」

スリーチェは今も頭の中で感知し続けているアリーチェの魔力の出どころを探る。

近い……!
間違いない!
お姉さまは、ここに居る!

「お姉さま!!どこですの!!
 返事をしてください!!」

スリーチェの叫びに応える声はなかった。

一体どうして……
まさか、今お姉さまは声も出せないような状態……!?

スリーチェはより正確なアリスリーチェの位置を探った。
魔力が反応する場所は―――

「っ!!あの岩場の陰!!」

この空間の最奥の方に見える、1メートルにも満たない岩場。
その陰からアリスリーチェの魔力の反応はあった。

スリーチェは即座にそこへ向かって走り出した。

お姉さま……!
どうか……どうかご無事で……!!

そして、スリーチェは岩場まで辿り着き、その裏へと回り―――

「お姉さま!!大丈夫で――――――え?」

困惑の声を上げた。

「な……なん……ですの……これ……
 布……いえ………ローブ………?」

そう、スリーチェが覗いた岩場の陰にいた……いや、あったのは……
一着のローブだったのだ。

「ど、どうして……!?
 どうしてこんな物から、お姉さまの魔力の反応が……!?」

スリーチェは混乱の極致にあった。
一体このローブは何なのか。
この空間は、この洞窟は、この事態は―――

スリーチェは必死に考えようとした……
しかし――そんな時間は与えられなかった。

「ウォォオオオオオオ!!!」
―――どたっどたっどたっ……!

「なっ………!!
 ま、魔物……!!??」

スリーチェが後ろを振り返ると、そこには『ヘルハウンド』と『ロック・リザード』の群れの姿があった。

どうして……!?
プランティが抑えきれなかった……!?
いえ、それ以前に通路から現れたような気配などまるでなかった!!
まるで、―――

「オォオオオオオオン!!」

「くぅっ……!!」

そんな混乱に次ぐ混乱に見舞われるスリーチェの気持ちを魔物は慮ってなどくれない。
1人広大な空間に取り残されたスリーチェに、魔物の群れは容赦なく襲い掛かるのであった―――
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