勇者学園とスライム魔王 ~ 勇者になりたい僕と魔王になった君と ~

冒人間

文字の大きさ
上 下
85 / 173
第6章

第7話 僕達と新メンバー

しおりを挟む
結局……僕はあの後キュルルともアリーチェさん達とも会うことはなく、自室に戻りその日を終えた。

そして、夜が明け……多分この学園に来て一番の静かな朝を迎えたのだった。
けど……僕は無意識のうちにあの2人の姿を探してしまっていた。

「毎朝毎朝勘弁して欲しい……なんていつも思っておきながら……
 調子がいい奴だよな、僕……」

そんなことを呟きながら、僕は1人森林地帯へと向かうのだった。

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

《 校舎南側森林地帯・『ゲート』前 》

「各種『ポーション』やマジックアイテムの確認、ですか?」
「ああ、なんせこのチームの討伐数は頭一つ抜けているからね。
 その分アイテムの消耗率も激しい。
 万全を期すために入念に点検してから出発したいんだ」
「なるほど……了解しました。
 では我々は先に」
「ああ、こちらも準備が出来次第すぐに向かうよ」

そんなスクトさんと調査隊員さんの会話を聞きながら、僕はこっそりと周囲のチームメンバーに話しかけた。

「ミルキィさん達はスリーチェのこと、ご存じなんですか?」
「ああ、さっきスクトさんから事情は聞いたぜ。軽くだけどな」
「なんか色々あるみてぇだな……まぁ俺達としては特に文句はねぇよ」
「私……そのスリーチェって子の気持ち分かるよ……
 私も、もっと誰かの力になりたいって思うことよくあるから……」
「私としては単純に『探知魔法』の使い手がチームに入るのは戦力的な観点から歓迎する」

ミルキィさん、ヴィガーさん、バニラさん、キャリーさんからそんな返事が貰えた。
皆いい人達だ……

「おーい!!まだ行かないのかー!!??
 早く私の成り上がりストーリーの続きを展開させろー!!」

「ちなみに彼女には事情を話していない。
 何故ならふとした拍子に大声でぶちまけてしまう可能性が高いから」
「うーん、さもありなん」

僕達はぶんぶんと腕を回すコリーナさんを温かい目で見守っていた……

「なぁ、それよりもよぉ……」
「アレ……一体どうしたんだ?」

ミルキィさんとヴィガーさんがそう言いながらチラリと目を横に向ける。
そこには……

「………きゅる…………」

暗い表情で俯いているキュルルの姿があった……
普段とのギャップにその場の誰もが戸惑っているようだ。
まぁ、無理もないけど……

「それが僕にも分からなくて……
 昨日、アリーチェさん達の話を聞いてからああなっちゃったんですけど……」
「話って、その例のスリーチェって奴の話か?」

「ええ、それにアリーチェさん達のお姉さんに関するお話も……
 ―――あ」
「ん?何か心当たりあんのか?」

「キュルル……もしかして……」

「おっ!来たな!」

僕がその推測を言葉にしようとした直前、スクトさんの声がした。
振り向くと、アリーチェさんとファーティラさん達が森の入口方向からやってくるのが見える。

スクトさんの話によると、もしスリーチェが来るのならばコーディス先生に今日は休むということを伝えた後、森の入口でアリーチェさん達と合流してここまで案内する運びになっているらしい。

こうして遅れてアリーチェさん達が来たということは……

「…………………………」
「ど、どうも…………」

無言のアリーチェさんとファーティラさん達、そしてその後ろからおずおずとスリーチェが現れた。
勿論スリーチェの傍にはプランティさんも控えている。
昨日のことが尾を引いてるのか、それともコーディス先生に嘘をついてここに来たという後ろめたさからか、僕と初めて会った時のような活発さは見られなかった。

「おう!お前がアリスリーチェの妹か!
 俺はミルキィ=バーニングだ!」
「ヴィガー=マックスだ」
「キャリー=ミスティ。よろしく」
「バニラ=タリスマンです」
「コリーナ=スタンディだ!!
 それでお前は誰だ!!」

と、チームメンバーの紹介を進めている裏で僕はスクトさんに話しかけた。

「スリーチェとプランティさん、制服着てますけど……
 新しい入学者組はまだ貰ってなかったんじゃ?」
「2人だけ制服じゃなかったら目立つだろう?
 さっきアリスリーチェさんに渡しておいたんだ。
 昨日の内にリブラさんに事情を話して余っていたのを借りてきてね。
 あの人は細かいこと気にしない人だし、今回の事を話してもまぁ大丈夫だろう」

なんと用意がいい……

「あの、今回はわたくしのわがままでこんな……」
「そんなこと気にしてないよ!
 私達と一緒に討伐活動頑張りましょう!」
「『探知魔法』の使い手は貴重。
 かなり期待している」
「ま、そっちの事情はともかく、この活動に参加するってんなら単純に戦力として数えさせてもらうだけだ」
「だな、アンタらの家のことはアンタらに任せる。
 こっちは関係なく頼らせてもらうぜ」
「存分にこの私の活躍を目に焼き付けるがいい!!
 それでお前は誰だ!!」

「皆さん……!
 ええ!分かりました!
 わたくし、精一杯皆さんのお役に立って見せますわ!」

どうやらスリーチェはいつもの調子を取り戻したようだ。

「うう……知らない人がこんなに……
 しかもその人達とこれからパーティプレイだなんて……
 難易度ベリーハードなんてもんじゃない……」

と、木の陰に隠れて頭を抱えているのは勿論プランティさんだ。
この人はこの人でいつも通りだな……

「あ、皆さんにもご紹介しますわ!
 こちらはわたくしの付き人のプランタ=ガーデニングですわ!
 幼い頃からずっと一緒ですのよ!
 わたくしはプランティと呼んでますので皆さんもどうかそのようにお呼びくださいな!」
「あひぃっ!
 は、は、はじめまして!
 ぷ、プランタ=ガーデニングでしゅ!!
 プランティとお呼び頂いても、頂かなくても構いませんし!
 別にどんな呼び名でもいいですし!
 っていうか私なんて呼ぶ必要――
 ああもうコレまた同じ流れぇ!
 いやもういいです死にます!死ねばいいんでしょう!!」
「とりあえずパニくるとすぐ生を諦めるの止めて貰えません!?」

ナイフを取り出したプランティさんをすかさず羽交い絞めにした。

「まーたクセの強そうなヤツが……」
「イロモノ枠はもういっぱいいっぱいなんだけどな……」

ミルキィさんとヴィガーさんが色々と不安げにその光景を見つめている。
このチームの常識人枠として是非頑張っていただきたいものだ。

「さーて、それじゃあ新メンバーの紹介も済んだし、そろそろ僕達も出発しようか!」

そんなスクトさんの号令と共に、スリーチェ達を加えた新たな僕達のチームは『扉』へと向かうのだが……

「きゅる………………」
「…………………………」

キュルルとアリーチェさん……
妙に静かな2人の様子がどうしても僕の心に影を落としてしまうのだった……
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。 異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。 せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。 そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。 これは天啓か。 俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

世界中にダンジョンが出来た。何故か俺の部屋にも出来た。

阿吽
ファンタジー
 クリスマスの夜……それは突然出現した。世界中あらゆる観光地に『扉』が現れる。それは荘厳で魅惑的で威圧的で……様々な恩恵を齎したそれは、かのファンタジー要素に欠かせない【ダンジョン】であった! ※カクヨムにて先行投稿中

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界に飛ばされたら守護霊として八百万の神々も何故か付いてきた。

いけお
ファンタジー
仕事からの帰宅途中に突如足元に出来た穴に落ちて目が覚めるとそこは異世界でした。 元の世界に戻れないと言うので諦めて細々と身の丈に合った生活をして過ごそうと思っていたのに心配性な方々が守護霊として付いてきた所為で静かな暮らしになりそうもありません。 登場してくる神の性格などでツッコミや苦情等出るかと思いますが、こんな神様達が居たっていいじゃないかと大目に見てください。 追記 小説家になろう  ツギクル  でも投稿しております。

処理中です...