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第6章
第6話 貴女達と提案と君の様子
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「全く持って、馬鹿馬鹿しい話ですわ」
「―――っ!」
「あ、アリーチェさん……!」
アリーチェさんは隣にいるスリーチェに一瞥もせず、冷たく言い放った。
「探知魔法しか使えない当時9歳の貴女が戦場に行って一体何が出来たというのですか。
碌に戦えもせず、ただの足手纏いにしかならないことは目に見えているというのに」
「それ……は……!」
僕は何も言えなかった。
何せ僕は10歳の頃、実際に戦場に赴き……アリーチェさんの言葉通り、何も出来なかったのだから。
でも、スリーチェの気持ちは痛い程理解できる……!
アリーチェさんにだってきっと分かるはずだろうに……!
「スリーチェ、わたくしはこの機会に確認しておきたいことがございますの。
貴女がこの学園に入学を希望した理由ですわ」
「え……?」
アリーチェさんは唐突に話題を変えた。
「この前それを確認した時、貴女は話すことを躊躇いましたわね?」
「え、えっと、それは、あの時言った通りわたくしも『勇者』に――」
「わたくしからのお父様への書簡」
「―――っ!!!」
その言葉にスリーチェは全身を硬直させる。
「やはり見ましたのね。
わたくしの事件のことが書かれた書簡を」
「あ……う………」
もはやスリーチェはうまく言葉を発することも出来なくなっていた。
「お父様宛の書簡は全てお父様の執務室に保管されており、容易に見ることは出来ないはずですわよね?」
「……………………………………」
スリーチェは身体を震わせて、強く口を結んだ。
まるで絶対に口を開いてはいけないと自分に言い聞かせているかのように。
「………私が拝見しました。」
「っ!!!
プランティ!!!」
それまでスリーチェの隣でただ黙って話を聞いていたプランティさんが口を開いた。
スリーチェは今までで一番の狼狽を顕わにして声を出す。
「お父上様の就寝中に執務室に密かに侵入し、書簡庫を漁りました」
「やはり、ですか……
貴女ならば容易に執務室の鍵を開けることができますものね」
「お姉さま!!
それは全てわたくしが無理に―――!!!」
「スリーチェ、黙りなさい」
「―――っ……!!!」
アリーチェさんの冷たい口調に、スリーチェは金縛りにあったかのように言葉を止める。
「執務室へ無断で侵入し、あまつさえお父様へ宛てられた書簡を覗き見る……その意味は当然お分かりですよね?」
「無論です。
機密文書閲覧……即刻処刑を言い渡されてもおかしくない重罪です。
長年仕えて来たガーデン家に対する明確な裏切り行為……処罰は如何様にでも」
「……………………………!」
一切の弁明を行わないプランティさんに対しスリーチェは声を出そうとするも、アリーチェさんに射竦められ、何も言えず仕舞いとなってしまうのだった。
「スリーチェ、最後に聞きますわ。
何故貴女はお父様への書簡を盗み見ようなどと思いましたの?」
「…………………………」
スリーチェは、すぐには答えなかった。
周りの喧騒の音がやけに遠くに感じる。
そして、しばらくしてから、スリーチェは口を開いた。
「お父様が……アリーチェお姉さまからの手紙を受け取り……
それをお読みになった後の表情が……
サリーチェお姉様がお亡くなりになったことを知った時のお父様の表情と……
重なったから……ですわ………」
それ以上、スリーチェは何も喋りはしなかった。
「……………もうこれ以上何も話すことはありませんわね」
そう言いながらアリーチェさんは紅茶の入ったティーカップを一口つけ、そして再び口を開く。
「スリーチェ、貴女は明日の朝にでも即刻この学園から去りなさい。
そして二度とここに来ることを禁じます。
異論は許しませんわ」
「…………………………っ!」
スリーチェは一瞬何か声を上げようとしたが、堪えるように顔を俯かせた。
「プランティ、貴女が行ったことに対する処分は追って知らせます。
お父様への報告はわたくしが行いますので、処罰が正式に決定するまではスリーチェと共にいなさい」
「私が、お嬢様の傍にいて……よろしいのでしょうか……?」
「わたくしはこれ以上貴女が何かをするとは思っておりませんわ。
貴女がまだガーデン家とスリーチェに対して忠誠を誓っているというのでしたら、その義務を最後まで全うしなさい」
「………分かり……ました……」
プランティさんもまた、それ以上何も話すことは無くなった。
「きゅる……フィル……」
「…………………………」
成り行きを見守って来たキュルルは、不安そうに僕のことを見つめた。
これはアリーチェさん達の問題であり、僕達が口を挟むようなことではないのかもしれない。
でも………本当にこれでいいのだろうか。
このままスリーチェ達と別れて、それで終わってしまっていいのだろうか。
僕は何か言葉を探すも、何を言えばいいのか分からずにいた。
そして、話はこれまでとばかりにアリーチェさんがこの場から離れようとして―――
「話は聞かせて貰ったよ」
その時――――
僕らのすぐ近くの席から声が掛かった。
この声は………!
「やあ皆、先程ぶりだね」
「スクトさん……!?」
灰色の髪の青年……スクトさんが僕達から1席しか離れていない場所に座っていた……!
「い、一体いつの間に!?
僕達周りから距離を取った場所に座ってたはずなのに……!」
「はっはっは!
気配を断って気付かれないように得物に近づく技能も大陸西側では必要となってくるんだよ。
ついでに静かで素早い栄養補給もね」
スクトさんはただ僕達のすぐ近くに座っていただけでなく、そこで食事まで取っていた。
ちなみに食べていたのはラーメンだった。
こんなもんどうやって静かに食べてたんだ……!?
「君とは初めましてだね。
スクト=オルモーストです。
スノウ=ホワイリーチェさんだったよね?
僕もスリーチェさん、って呼んでいいかな?」
「え、ええ……構いませんけど……」
スリーチェが困惑気味に返事をした。
「それでさ、アリスリーチェさん。
キミ、プランティさんを処罰する気なんてないんだろ。
『貴女が行ったことに対する処分』としか言ってないしね」
「なっ……!」
「え……」
スクトさんの言葉にアリーチェさんが狼狽し、スリーチェが呆けた声を出す。
「今回のこととは全く無関係の行動に適当な罪状でもでっち上げてなあなあで済ますつもりなんじゃないかい?
例えば挙動不審な態度で周囲の生徒を不安にさせた罰としてトイレ掃除1週間とか」
「ギクッ……」
「それはそれで割と酷くないですか!?」
っていうかスクトさんもプランティさんのコミュ障っぷりを知ってるのか……
「粋な計らいだとは思うけど、それはかえって逆効果だと思うな。
そんなことされちゃったらスリーチェさんはより一層君のことが気掛かりになっちゃうんじゃない?
それで、今度は言いつけを破って学園に無断で侵入……なんてことになったりとか」
「…………………………」
スクトさんの言葉をスリーチェは否定しなかった。
元々アリーチェさんの為にこの勇者学園に来たんだものな……
「そこで提案なんだけど……
スリーチェさんを本当に魔物討伐活動に参加させちゃわない?」
「えっ……」
アリーチェさん、スリーチェ、そして僕達。
その場の全員がスクトさんの言葉に唖然とした声を出した。
「コーディスさんに内緒で、こっそりスリーチェさんを僕達のチームに入れてあげるよ」
「え……ええっ!!」
「す、スクトさん!?貴方何を!!」
―――ガタッ!
「「「あっ」」」
―――ふらぁ~……パタン
突然の事態にスリーチェが戸惑いの声を上げ、アリーチェさんが焦りのあまり立ち上がり、そして倒れた……
久しぶりだなぁコレ。
「どうせこの学園を去るんなら、最後に彼女の願いを叶えてあげもいいんじゃないかと思っただけさ。
それにアリスリーチェさんの討伐活動を実際に見て貰えば、スリーチェさんの心配が杞憂だということが分かるだろう?」
「スクトさん……どうしてそこまで……?」
スクトさんはスリーチェとは今回が初対面のはずだ。
それをここまで気をかけてくれるなんて……
単にこの人が物凄いお人好しなだけなのだろうか……?
「僕には……彼女の気持ちが少し分かるから、かな……」
「え……?」
スクトさんは椅子の背もたれに寄りかかり、天井を見上げた。
「僕は勇者一行のメンバーだけど、魔王との決戦には参加できなかった。
アリスリーチェさん達のお姉さん……サンドリーチェさんと同じく、『旧』王都の防衛に当たっていたんだ」
「そうだったんですか……?」
そういえば昼間にも魔王とは直接戦わなかった、とかそんなことを言っていたっけ。
「決して戦力外だったから、という訳ではないんだ。
アルミナさん達も僕の力が借りれないのは痛手だって言ってくれてたしね。
あの魔物の軍勢から王都の人々を守るには、どうしても僕が出ざるを得なかった。
僕自身それは十分に理解していたんだけど………
それでもあの時、あの人達と一緒に戦えなかったのは今でも僕の心残りなんだ」
「…………………………」
「あの人達は魔王との決戦を終えて、誰も死なずに帰ってきてくれた。
けど、もしあの戦いで……
誰か1人でも、帰ってこなかった人がいたら……
僕はきっと、自分があの戦いの場にいなかったことを一生後悔し続けていたよ。
僕があそこに居さえすれば、きっとあの人は死ななかった……実際にそうだったのかどうかに関係なく、そんなことを思っていただろう。
今のスリーチェさんのように、ね」
「スクトさん………」
スクトさんはスリーチェ達の方へと目を向けた。
「明日の朝、また『扉』を通る時に、適当な理由をつけて僕達のチームが一番最後に通るようにするからさ、学園の講師の目が無くなった後にスリーチェさんとプランティさんを一緒に連れていくよ。
スリーチェさん達の方はコーディスさんにその日の活動は休むように言えばいい。
コーディスさんは今日君達が剣呑な雰囲気になっているのを見てたし、精神的なことで気分が優れないとでも言えば深くは詮索されないだろう」
中々に腹黒い提案をしてくるな……
っていうかコーディスさんと会ったことも知ってるって一体いつから聞いてたんだこの人!
「スクトさん、勝手に話を進めないで頂き―――」
「なあ、アリスリーチェさん。
君はスリーチェさんの気持ちが誰よりも分かっているんじゃないかい?」
「――っ!」
マジックハーブティーをちびちびと飲みながら抗議の声を上げていたアリーチェさんが思わず言葉に詰まっていた。
「探知魔法なんてものが無くたって、大切な人がいなくなってしまった時、何も出来なかった自分を恨めしく思う気持ちは一緒だろう」
「…………………………」
アリーチェさんは、肯定も否定もしなかった。
「まぁ、無理にとは言わないさ。
明日の朝、スリーチェさん達が来なかったら通常通りのメンバーで討伐活動に行くよ」
「さて……」とスクトさんは席を立った。
「僕はこの場を失礼するよ。
まぁ、じっくり考えてくれ。
それじゃあね」
そう言って、スクトさんはラーメンの丼を片手に去っていった……
「…………………………」
「…………………………」
「アリーチェさん……スリーチェ……」
スクトさんが去った後も、2人は無言のままだった。
「少し……スリーチェと2人だけにさせて貰ってもよろしいでしょうか?」
しばらくして、アリーチェさんからそんな声が掛かった。
「……分かりました、僕達は部屋に戻って……
あ、いや、その前にご飯かな……」
そういや元々夕食の為に食堂に行こうとしていたのだけどすっかり忘れてしまっていた。
いやまぁ無理もないんだけど……
「じゃあキュルル、僕達はもうちょっと離れた場所に移動して……」
「…………………………」
おや………?
「キュルル……?」
「あ、う、うん……何?フィル……」
どうしたんだろう……元気印のキュルルが妙に静かだ。
そういえば、さっきのアリーチェさん達が話をしている時も全然キュルルは喋らなかったっけ……
「この場はアリーチェさんとスリーチェの2人だけにして、僕達は離れた場所に行こうよ。
そこでご飯を―――」
「ごめん、フィル……ボク、今日はちょっとご飯いらない……」
「ええっ!?」
いつも我先にと注文カウンターに突撃して厨房を騒然とさせるキュルルが……!?
「キュルル……一体どうしたの……?
さっきからなんか様子が……」
「きゅる……あのさ……フィルは………」
キュルルは普段の活発さがまるで嘘のようにしおらしく、不安げな表情をしていた。
そして、何かを僕に聞こうとして……
「……ううん……やっぱり、何でもない……
ボク、部屋に戻ってるね……」
「キュルル……」
結局、何も言わずにこの場を去ってしまったのだった。
その寂しげな背中に僕は何も言えず見送り……
仕方なく、普段よりも静かでどこか味気ない食事を1人取ったのだった……
「―――っ!」
「あ、アリーチェさん……!」
アリーチェさんは隣にいるスリーチェに一瞥もせず、冷たく言い放った。
「探知魔法しか使えない当時9歳の貴女が戦場に行って一体何が出来たというのですか。
碌に戦えもせず、ただの足手纏いにしかならないことは目に見えているというのに」
「それ……は……!」
僕は何も言えなかった。
何せ僕は10歳の頃、実際に戦場に赴き……アリーチェさんの言葉通り、何も出来なかったのだから。
でも、スリーチェの気持ちは痛い程理解できる……!
アリーチェさんにだってきっと分かるはずだろうに……!
「スリーチェ、わたくしはこの機会に確認しておきたいことがございますの。
貴女がこの学園に入学を希望した理由ですわ」
「え……?」
アリーチェさんは唐突に話題を変えた。
「この前それを確認した時、貴女は話すことを躊躇いましたわね?」
「え、えっと、それは、あの時言った通りわたくしも『勇者』に――」
「わたくしからのお父様への書簡」
「―――っ!!!」
その言葉にスリーチェは全身を硬直させる。
「やはり見ましたのね。
わたくしの事件のことが書かれた書簡を」
「あ……う………」
もはやスリーチェはうまく言葉を発することも出来なくなっていた。
「お父様宛の書簡は全てお父様の執務室に保管されており、容易に見ることは出来ないはずですわよね?」
「……………………………………」
スリーチェは身体を震わせて、強く口を結んだ。
まるで絶対に口を開いてはいけないと自分に言い聞かせているかのように。
「………私が拝見しました。」
「っ!!!
プランティ!!!」
それまでスリーチェの隣でただ黙って話を聞いていたプランティさんが口を開いた。
スリーチェは今までで一番の狼狽を顕わにして声を出す。
「お父上様の就寝中に執務室に密かに侵入し、書簡庫を漁りました」
「やはり、ですか……
貴女ならば容易に執務室の鍵を開けることができますものね」
「お姉さま!!
それは全てわたくしが無理に―――!!!」
「スリーチェ、黙りなさい」
「―――っ……!!!」
アリーチェさんの冷たい口調に、スリーチェは金縛りにあったかのように言葉を止める。
「執務室へ無断で侵入し、あまつさえお父様へ宛てられた書簡を覗き見る……その意味は当然お分かりですよね?」
「無論です。
機密文書閲覧……即刻処刑を言い渡されてもおかしくない重罪です。
長年仕えて来たガーデン家に対する明確な裏切り行為……処罰は如何様にでも」
「……………………………!」
一切の弁明を行わないプランティさんに対しスリーチェは声を出そうとするも、アリーチェさんに射竦められ、何も言えず仕舞いとなってしまうのだった。
「スリーチェ、最後に聞きますわ。
何故貴女はお父様への書簡を盗み見ようなどと思いましたの?」
「…………………………」
スリーチェは、すぐには答えなかった。
周りの喧騒の音がやけに遠くに感じる。
そして、しばらくしてから、スリーチェは口を開いた。
「お父様が……アリーチェお姉さまからの手紙を受け取り……
それをお読みになった後の表情が……
サリーチェお姉様がお亡くなりになったことを知った時のお父様の表情と……
重なったから……ですわ………」
それ以上、スリーチェは何も喋りはしなかった。
「……………もうこれ以上何も話すことはありませんわね」
そう言いながらアリーチェさんは紅茶の入ったティーカップを一口つけ、そして再び口を開く。
「スリーチェ、貴女は明日の朝にでも即刻この学園から去りなさい。
そして二度とここに来ることを禁じます。
異論は許しませんわ」
「…………………………っ!」
スリーチェは一瞬何か声を上げようとしたが、堪えるように顔を俯かせた。
「プランティ、貴女が行ったことに対する処分は追って知らせます。
お父様への報告はわたくしが行いますので、処罰が正式に決定するまではスリーチェと共にいなさい」
「私が、お嬢様の傍にいて……よろしいのでしょうか……?」
「わたくしはこれ以上貴女が何かをするとは思っておりませんわ。
貴女がまだガーデン家とスリーチェに対して忠誠を誓っているというのでしたら、その義務を最後まで全うしなさい」
「………分かり……ました……」
プランティさんもまた、それ以上何も話すことは無くなった。
「きゅる……フィル……」
「…………………………」
成り行きを見守って来たキュルルは、不安そうに僕のことを見つめた。
これはアリーチェさん達の問題であり、僕達が口を挟むようなことではないのかもしれない。
でも………本当にこれでいいのだろうか。
このままスリーチェ達と別れて、それで終わってしまっていいのだろうか。
僕は何か言葉を探すも、何を言えばいいのか分からずにいた。
そして、話はこれまでとばかりにアリーチェさんがこの場から離れようとして―――
「話は聞かせて貰ったよ」
その時――――
僕らのすぐ近くの席から声が掛かった。
この声は………!
「やあ皆、先程ぶりだね」
「スクトさん……!?」
灰色の髪の青年……スクトさんが僕達から1席しか離れていない場所に座っていた……!
「い、一体いつの間に!?
僕達周りから距離を取った場所に座ってたはずなのに……!」
「はっはっは!
気配を断って気付かれないように得物に近づく技能も大陸西側では必要となってくるんだよ。
ついでに静かで素早い栄養補給もね」
スクトさんはただ僕達のすぐ近くに座っていただけでなく、そこで食事まで取っていた。
ちなみに食べていたのはラーメンだった。
こんなもんどうやって静かに食べてたんだ……!?
「君とは初めましてだね。
スクト=オルモーストです。
スノウ=ホワイリーチェさんだったよね?
僕もスリーチェさん、って呼んでいいかな?」
「え、ええ……構いませんけど……」
スリーチェが困惑気味に返事をした。
「それでさ、アリスリーチェさん。
キミ、プランティさんを処罰する気なんてないんだろ。
『貴女が行ったことに対する処分』としか言ってないしね」
「なっ……!」
「え……」
スクトさんの言葉にアリーチェさんが狼狽し、スリーチェが呆けた声を出す。
「今回のこととは全く無関係の行動に適当な罪状でもでっち上げてなあなあで済ますつもりなんじゃないかい?
例えば挙動不審な態度で周囲の生徒を不安にさせた罰としてトイレ掃除1週間とか」
「ギクッ……」
「それはそれで割と酷くないですか!?」
っていうかスクトさんもプランティさんのコミュ障っぷりを知ってるのか……
「粋な計らいだとは思うけど、それはかえって逆効果だと思うな。
そんなことされちゃったらスリーチェさんはより一層君のことが気掛かりになっちゃうんじゃない?
それで、今度は言いつけを破って学園に無断で侵入……なんてことになったりとか」
「…………………………」
スクトさんの言葉をスリーチェは否定しなかった。
元々アリーチェさんの為にこの勇者学園に来たんだものな……
「そこで提案なんだけど……
スリーチェさんを本当に魔物討伐活動に参加させちゃわない?」
「えっ……」
アリーチェさん、スリーチェ、そして僕達。
その場の全員がスクトさんの言葉に唖然とした声を出した。
「コーディスさんに内緒で、こっそりスリーチェさんを僕達のチームに入れてあげるよ」
「え……ええっ!!」
「す、スクトさん!?貴方何を!!」
―――ガタッ!
「「「あっ」」」
―――ふらぁ~……パタン
突然の事態にスリーチェが戸惑いの声を上げ、アリーチェさんが焦りのあまり立ち上がり、そして倒れた……
久しぶりだなぁコレ。
「どうせこの学園を去るんなら、最後に彼女の願いを叶えてあげもいいんじゃないかと思っただけさ。
それにアリスリーチェさんの討伐活動を実際に見て貰えば、スリーチェさんの心配が杞憂だということが分かるだろう?」
「スクトさん……どうしてそこまで……?」
スクトさんはスリーチェとは今回が初対面のはずだ。
それをここまで気をかけてくれるなんて……
単にこの人が物凄いお人好しなだけなのだろうか……?
「僕には……彼女の気持ちが少し分かるから、かな……」
「え……?」
スクトさんは椅子の背もたれに寄りかかり、天井を見上げた。
「僕は勇者一行のメンバーだけど、魔王との決戦には参加できなかった。
アリスリーチェさん達のお姉さん……サンドリーチェさんと同じく、『旧』王都の防衛に当たっていたんだ」
「そうだったんですか……?」
そういえば昼間にも魔王とは直接戦わなかった、とかそんなことを言っていたっけ。
「決して戦力外だったから、という訳ではないんだ。
アルミナさん達も僕の力が借りれないのは痛手だって言ってくれてたしね。
あの魔物の軍勢から王都の人々を守るには、どうしても僕が出ざるを得なかった。
僕自身それは十分に理解していたんだけど………
それでもあの時、あの人達と一緒に戦えなかったのは今でも僕の心残りなんだ」
「…………………………」
「あの人達は魔王との決戦を終えて、誰も死なずに帰ってきてくれた。
けど、もしあの戦いで……
誰か1人でも、帰ってこなかった人がいたら……
僕はきっと、自分があの戦いの場にいなかったことを一生後悔し続けていたよ。
僕があそこに居さえすれば、きっとあの人は死ななかった……実際にそうだったのかどうかに関係なく、そんなことを思っていただろう。
今のスリーチェさんのように、ね」
「スクトさん………」
スクトさんはスリーチェ達の方へと目を向けた。
「明日の朝、また『扉』を通る時に、適当な理由をつけて僕達のチームが一番最後に通るようにするからさ、学園の講師の目が無くなった後にスリーチェさんとプランティさんを一緒に連れていくよ。
スリーチェさん達の方はコーディスさんにその日の活動は休むように言えばいい。
コーディスさんは今日君達が剣呑な雰囲気になっているのを見てたし、精神的なことで気分が優れないとでも言えば深くは詮索されないだろう」
中々に腹黒い提案をしてくるな……
っていうかコーディスさんと会ったことも知ってるって一体いつから聞いてたんだこの人!
「スクトさん、勝手に話を進めないで頂き―――」
「なあ、アリスリーチェさん。
君はスリーチェさんの気持ちが誰よりも分かっているんじゃないかい?」
「――っ!」
マジックハーブティーをちびちびと飲みながら抗議の声を上げていたアリーチェさんが思わず言葉に詰まっていた。
「探知魔法なんてものが無くたって、大切な人がいなくなってしまった時、何も出来なかった自分を恨めしく思う気持ちは一緒だろう」
「…………………………」
アリーチェさんは、肯定も否定もしなかった。
「まぁ、無理にとは言わないさ。
明日の朝、スリーチェさん達が来なかったら通常通りのメンバーで討伐活動に行くよ」
「さて……」とスクトさんは席を立った。
「僕はこの場を失礼するよ。
まぁ、じっくり考えてくれ。
それじゃあね」
そう言って、スクトさんはラーメンの丼を片手に去っていった……
「…………………………」
「…………………………」
「アリーチェさん……スリーチェ……」
スクトさんが去った後も、2人は無言のままだった。
「少し……スリーチェと2人だけにさせて貰ってもよろしいでしょうか?」
しばらくして、アリーチェさんからそんな声が掛かった。
「……分かりました、僕達は部屋に戻って……
あ、いや、その前にご飯かな……」
そういや元々夕食の為に食堂に行こうとしていたのだけどすっかり忘れてしまっていた。
いやまぁ無理もないんだけど……
「じゃあキュルル、僕達はもうちょっと離れた場所に移動して……」
「…………………………」
おや………?
「キュルル……?」
「あ、う、うん……何?フィル……」
どうしたんだろう……元気印のキュルルが妙に静かだ。
そういえば、さっきのアリーチェさん達が話をしている時も全然キュルルは喋らなかったっけ……
「この場はアリーチェさんとスリーチェの2人だけにして、僕達は離れた場所に行こうよ。
そこでご飯を―――」
「ごめん、フィル……ボク、今日はちょっとご飯いらない……」
「ええっ!?」
いつも我先にと注文カウンターに突撃して厨房を騒然とさせるキュルルが……!?
「キュルル……一体どうしたの……?
さっきからなんか様子が……」
「きゅる……あのさ……フィルは………」
キュルルは普段の活発さがまるで嘘のようにしおらしく、不安げな表情をしていた。
そして、何かを僕に聞こうとして……
「……ううん……やっぱり、何でもない……
ボク、部屋に戻ってるね……」
「キュルル……」
結局、何も言わずにこの場を去ってしまったのだった。
その寂しげな背中に僕は何も言えず見送り……
仕方なく、普段よりも静かでどこか味気ない食事を1人取ったのだった……
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何を隠そうリクスは、引きこもりのタダ飯喰らいを人生の目標とする、極めて怠惰な少年だったのだ。
そんな弟に嫌気がさした姉エルザは、ある日リクスに告げる。
「私の通う英雄学校の編入試験、リクスちゃんの名前で登録しておいたからぁ」
その時を境に、リクスの人生は大きく変化する。
英雄学校で様々な事件に巻き込まれ、誰もが舌を巻くほどの強さが露わになって――?
これは、怠惰でろくでなしで、でもちょっぴり心優しい少年が、姉を越える英雄へと駆け上がっていく物語。
※本作はカクヨムでも公開しています。カクヨムでのタイトルは『姉(勇者)の威光を借りてニート生活を送るつもりだったのに、姉より強いのがバレて英雄になったんだが!?~穀潰し生活のための奮闘が、なぜか賞賛される流れになった件~』となります。
チートな嫁たちに囲まれて異世界で暮らしています
もぶぞう
ファンタジー
森でナギサを拾ってくれたのはダークエルフの女性だった。
使命が有る訳でも無い男が強い嫁を増やしながら異世界で暮らす話です(予定)。
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