勇者学園とスライム魔王 ~ 勇者になりたい僕と魔王になった君と ~

冒人間

文字の大きさ
上 下
83 / 173
第6章

第5話 貴女とスリーチェとサリーチェ

しおりを挟む
《エクスエデン校舎・食堂》

僕達は話す場所を食堂へと移した。
あのまま廊下で話していると誰かが通りがかりそうだったし、見ず知らずの人間に聞かれたい話でもなさそうだったからだ。
今は食堂がかなり賑わっている時間帯ではあるが、この賑わいが却って僕達の話を目立たなくしてくれる。
木を隠すには何とやらだ。
そして周りとは僕達の声が聞こえるか聞こえないかぐらいの、不自然にならない程度の距離の空間を確保して僕達はアリーチェさん達の話の続きを聞いた。

アリーチェさんとスリーチェの……
亡くなったお姉さんの話を……

「サリーチェお姉様はガーデン家始まって以来の才女と称されたお方でした。
 卓越した魔法技術に加え並の兵士を凌駕する戦闘技能を持ち合わせ、14歳という若さで『中級魔法師』の資格をお持ちになり、その5年後には『上級魔法師』にまでなられておりましたの。
 キャリーさんが12歳で資格を取られるまでは最年少『中級魔法師』の名はサリーチェお姉様が冠されておりましたわ。
 もっとも、最年少『上級魔法師』の名は未だ破られておりませんが。
 そして『ヴァール大戦』においても勇者一行が現れるまで劣勢の人類を支えた影の功労者でありますの」
「そ、そこまで……」

一体どれ程の能力を持つ人だったのだろうか……

「わたくしに20000以上の『魔力値』が存在し、身体能力もカキョウやファーティラ並、といったら分かりやすいでしょうか?」
「…………………………」

その例えはむしろ僕がアリーチェさんの凄さを知っているがゆえに想像がより困難となってしまうのだった……

「『ヴァール大戦』はサリーチェお姉様が12歳の時に起きましたわ。
 その頃はわたくしは1歳、スリーチェは生まれてもいなかったですわね。
 スリーチェが生まれたのはそれから1年後、それとわたくし達にはもう1人姉がおり、そちらは7歳でしたわ」

ということは現在アリーチェさんは16歳でスリーチェは14歳か。
こんな時に何だけど、アリーチェさん年上だったんだなぁ……なんて思ってしまった。
それにお姉さんがもう1人……まぁそれについては今は置いておいて、長女のサンドリーチェさんの話を聞こう。

「サリーチェお姉様が『中級魔法師』となられた頃にはヴァールの人類生存圏は既に当初の半分近くまで失われており、わたくし達の住む地域のすぐ近くまで迫ってきておりました。
 お姉様はすぐに大戦へと参加し、獅子奮迅の働きを見せましたわ。
 無論、人類の逆境を覆す程の力とまでは及びませんでしたが、お姉様の働きによって沢山の命が拾われてきたのは間違いありませんわ」

アリーチェさんの発する声からは、とても強い意志を感じた。

「徐々に人類が追い詰められ、わたくし達ガーデン家も故郷を追われ、大陸の東へと逃げ延びることとなり……
 悲観的な空気が日に日に色濃くなる中で、それでもサリーチェお姉様は決して希望を捨てることなく、生き残った方々と戦い続け……
 そして、初代勇者アルミナが現れ、人類に反撃の時が訪れました。
 お姉様がいなければ、勇者一行がこの大陸に来られるより前に人類は敗北を喫していたと、わたくしはそう思っております」

その言葉は決して身内贔屓の称賛ではないのだろう。
僕の村が魔物に襲われた時に勇者様が間に合ったのも、もしかしたらサンドリーチェさんのお陰だったのかもしれない。

「わたくし達はサリーチェお姉様とは殆どお会いしておりませんでした。
 わたくしもスリーチェも物心がつく前に大戦へと赴いてしまいましたし、お姉様はガーデン家にも戻らず日々戦い続けておりました。
 わたくし達がサリーチェお姉様と再び出会えたのは大戦終了の直前でしたわ」

アリーチェさんがどこか遠い目をして、過去へと思いを馳せているようだった。

「サリーチェお姉様は……片腕と片目を失われておりました。
 身体中に酷い傷や火傷の痕を負い、髪は乱れ、泥水の中を転げまわったかのようなお姿でした」
「…………………………」

「それでも……お姉様は……わたくし達家族を見て……
 とても眩しい笑顔を浮かべておりました……
 わたくしは、そんなお姉様のお姿を……とても美しいと思いましたわ」

その時のアリーチェさんの顔は、とても穏やかな表情をしていた。

「サリーチェお姉さま……」

今まで何も言葉を発していなかったスリーチェがぽつりと零した。

「戦いが終わったら、家族全員でまた一緒に暮らそう……
 そう言って、お姉様は再び戦場へ行かれました。
 ですが………」

アリーチェさんの表情に影が差した。

「それが実現することはありませんでしたわ……
 初代勇者アルミナが魔王討伐果たしたその日……
 サリーチェお姉様は……命を落とされてしまわれました……」
「っ………!」

スリーチェが両ひざに置いた手をギュウ!と握りしめた。

「勇者と魔王の最後の決戦時、大陸各地で魔物の軍勢による最後の抵抗が起きておりましたわ。
 サリーチェお姉様はここに遷都が行われる前の『旧』王都の防衛に当たっておりましたの。
 そして……そこで魔物の手にかかり……」

アリーチェさんはそこで話を終えると、ゆっくり紅茶へと口を付けた。

「これが……我がガーデン家永遠の誇り、サンドリーチェ=コスモス=ガーデンですわ」
「とても……立派な方だったんですね……」

僕のそんな安易な言葉では言い表せない程、とても素晴らしい人だったということが彼女の語られた話から感じ取れた。

「それで、アリーチェさん。
 そのサンドリーチェさんのお話と、今回スリーチェがここまで大陸西側の魔物討伐活動に同行したがっていたことと、どういう関係が……?」
「…………………………」

スリーチェは両手を握りしめたまま、押し黙っていた。

「スリーチェ、貴女はきっとこう思っていたのでしょう。
 自分がその場に居ればサリーチェお姉様が死ぬことはなかった……と」
「っ!!!」
「え……?」

それって……どういう……?

「わたくし達は『旧』王都の方々からサリーチェお姉様がどのようにお亡くなりになったのかを聞きましたわ。
 お姉様は……魔物からの不意打ちで致命傷を負ってしまった、と……」
「不意打ち……?」

「ええ……膨大な死骸の陰に潜んでいた魔物の、死角からの強襲……とのことでしたわ……
 普段のお姉様でしたらその程度、容易に対処出来ていたはずでしょう。
 しかし、お姉さまは『旧』王都でひたすらに戦い続け、人々を守り続けておりました。
 そして長く続く戦闘が終わり、緊張の糸が切れた一瞬……
 その隙をつかれる形でお姉様は魔物の一撃をその身に受けてしまわれたのです……」

それは……なんという、無念極まりない最期だろうか……

「でも、それでスリーチェが居たら死ぬことが無かった、っていうのは……?」
「スリーチェの得意魔法ですわ」
「…………………………」

「得意魔法?」
「ええ、スリーチェが得意とする魔法は、『探知魔法』ですの」

『探知魔法』……それって……!

「その名の通り、周囲の人や魔物の存在を探知、感知することが出来る魔法ですわ。
 もしスリーチェがサリーチェお姉様の最期の場に居合わせたら、その魔法で死角にいた魔物の存在に気付くことができた……
 そういうことでありましょう?」
「…………………………」

スリーチェは何も言わない。
ただ黙って俯き……その瞳の端に、涙の粒を浮かべていた……

「そして、昨日の夜にお話しした『ディスパース・バード』の強襲……
 それで貴女はサリーチェお姉様のことを想起してしまったのでしょう?
 だから貴女は今朝あんなことを言いだした。
 もうあの時のような後悔をしたくはないから」
「っ………………」

スリーチェは何も言わない……
でも、その時の彼女の悔恨の表情が、全てを語っていた……

早く『勇者』になりたいから、などという自分本位の願いとはまるで逆……
スリーチェは……ただひたすらに自分の家族を……守りたかったのだ……
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

処理中です...