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第5章
第4話 スリーチェとプランティ
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「それでは、改めまして!」
その女の子は初対面の僕とキュルルにクルリと向き直った。
「アリーチェお姉さまの妹、スノウ=ホワイリーチェ=ダリア=ガーデンです!
お気軽にスリーチェとお呼びください!
どうかお見知りおきを!」
そう言った彼女は真っ白なフリル付きのふんわりドレスの裾を掴んで頭を下げる。
「えっと、スリーチェさん……?」
「もう!呼び捨てで呼んでくださいな!
そんなに畏まらなくてよろしいですのよ?」
「う、うん……分かったよ、スリーチェ」
なんというか、言葉使いは丁寧だけど凄く活発そうな子だ。
妹というだけあって顔立ちや銀色の髪はアリーチェさんにそっくりだった。
銀髪のツインテールを肩から前に持ってきており、縦ロールにしていればまさに小さなアリーチェさんといった感じだろう。
身長は僕よりちょっと高いぐらい……つまり13歳か14歳と言った所か。(自分で言ってて少し凹む)
そして、彼女のすぐ後ろにはスーツ姿の女性が立っていた。
あの人は多分……スリーチェのお付きの人、かな?
黒髪のセミロングで前髪が非常に長く、右目が僅かに覗くぐらいでほぼ顔全体を覆っていた。
それでもその僅かに覗く目や鼻立ちは非常に整っており、凄い美人さんであることは分かる。
そして、アリーチェさんのお付きであるファーティラさんを超える程の高身長だ。
両手には黒い皮手袋をしており、その手を前に組んだまま何も言葉を発さずにいる。
「ほらプランティ!貴女も挨拶しなさいな!」
「………………………………………」
プランティ、と呼ばれた女性は何も言わなかった。
前髪の隙間から覗く右目でこちらのことをただじっと見ている……
うう……そういえば初対面の時のファーティラさん達もかなり僕に対して当たりが強かったような……
やっぱり主に気安く近づく人間は警戒の対象なのだろうか……
「プランティ!!」
―――ビクッッッ!!
「っ!!!」
スリーチェさんが強めに名を呼ぶと、彼女は傍目から分かるほどに身を震わせた。
そして……
「……あ、えっと…………
プランタ=ガーデニング………です………」
非情に小さな声で、ぼそぼそと自己紹介を始めた……
「その、お嬢様からは、プランティと呼ばれておりますので……
皆さまも、そのようにお呼びして頂ければ……
あ、いや、別にそう呼んで欲しいってわけじゃなくて……
普通に呼んでもいいのですけど……
いや、そもそも私の呼び方なんてなんでも……
っていうか、その、私のことを呼ぶ必要なんてないっていうか……
その、私なんて空気みたいなものだと思っていただければ……
あ、あ、いや!空気って言っても、生きるのに必要な存在とか、そんな大それたこと言ったつもりじゃなくて……
むしろ、全然、必要ない存在っていうか……
その、会話の最中に消えても全く誰も気にしないような存在というか……
別にいてもいなくても構わないけど、とりあえず数合わせで呼ばれているような存在というか……
例えば、物語の最終決戦とかでの、今までの登場人物全員集合シーンで、ああ、そういえば初期あたりでこんなのいたなぁ……とか、そんな感じの感想抱かれそうなキャラというか……
……あの、い、今の話……分かりましたかね……?
………えっと………その…………………………」
「「……………………………………………」」
「分かりました、死にます」
「いや待って待って待って待って!!!!!」
プランティさんは全てを諦めた目になり、胸元から取り出したナイフを首筋に当てた。
そして僕はそれを必死に止めたのだった……
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「あの、プランティさん……」
「忘れてください……
私の言ったことも……
私の存在も……
プランティなんて人間ここにはいません……
私は校舎裏に生えた雑草です………」
プランティさんは校舎の壁に向かって体育座りをして膝に顔をうずめてしまった……
「まったくプランティったら人前に出るといっつもこうなんだから!
普通に『プランタ=ガーデニングです!どうかプランティとお呼びください!』って言えばいいだけじゃありませんの!
たかが自己紹介に一体何をそんなに悩むことがありますの!」
「ぐぼぁあッッッ!!!」
プランティさんが主からの言葉の暴力にぶん殴られ、地面を転がった。
「こ、これがコミュ力格差……
持つ者に持たざる者の気持ちは決して分からない……
この残酷な現実がある限り、この世から争いが無くなることは決してないのだ……」
「プランティは御覧の通りとーってもおかしな子ですけれど、とーっても面白くて、とーっても魅力的な子なのですよ!
是非彼女とも仲良くしてあげてくださいな!」
うーん、なんという陰と陽……
「それで、貴方達は………」
「あ、はい。
それじゃ僕達も自己紹介を……」
僕とキュルルはスリーチェの前に立った。
「僕はフィル=フィール。
よろしくね、スリーチェ」
「まぁ!やっぱり貴方がフィルさんだったのですね!
いずれわたくしのお義兄様になられる方!」
「――ぶぼォアッッッ!!」
「ん?」
なんか今スリーチェからよく分からない台詞が飛び出したような……
あと、後ろで紅茶を飲んでいたアリーチェさんが思いっきり噴き出す声も聞こえた。本日2度目だ。
「アリーチェお姉さまからの手紙にそれはもう何度も何度も登場しているお名前なんですもの!
お姉さまはさも平常を装って執筆しているつもりなのでしょうけど、全く関係ない話題の時でも『こんな時、フィルだったら〇〇と言うのでしょうね』とか出てくるものなのですから、あんなん誰が見ても貴方の事をどう思っているかなんてバレバレ―――」
「スリィィィィチェェェェェェ!!!!
貴族の手紙の内容を公の場で口にするべきではあぁりませんことよぉおおおおおおおおおおおおおお!!!!
機密文書閲覧の罪に問われかねないのですからねぇえええええええ!!!」
「いやそれはお父様への手紙だけ――モガ!」
物凄い勢いで車椅子を爆進させてきたアリーチェさんがスリーチェの口を素早く塞いだ。
機密文書閲覧の罪……そうなのか……
スリーチェが興奮して若干早口だった所為かよく聞こえなかったんだけど、忘れた方がよさそうだ……
「きゅる!それじゃボクも!
ボクはキュルル=オニキス!
『魔王』にしてフィルの永遠のライバルだよ!」
「あっ、キュルル……!
『魔王』はちょっと……!」
続けてのキュルルの自己紹介だが、言わせては不味い部分を言わせてしまったような……
ただでさえ、魔物というだけでも十分戸惑われるだろうに『魔王』なんて単語を聞かされたら一体どう思われることか……
「ええ!勿論ご存じですわ!『スライム魔王』ですよね!
わたくし、会えて感激ですわ!」
「きゅる?」
「あれ?」
なんか意外な反応が返ってきた。
これは……スリーチェはキュルルのことも知っていたのか?
「アリーチェお姉さまのお手紙でフィルさんに次いで何度も出て来た名前ですもの!
是非一度お会いしたいと思っていたんですの!」
「きゅ、きゅる……そうなんだ……
アイツの手紙に、ボクが……」
これまた意外だ。
アリーチェさんがキュルルのことを手紙に記してたなんて。
「ええ!人の言葉を話す珍妙なスライムが『魔王』を名乗って学園にやってきたと!
そしてそのスライムはフィルさんに連日付きまとっており、それに実に辟易しているとも!
ですのでお姉さまはフィルさんを守るために日々奮闘しており、いつも最後にはお姉さま達の前からスライムが泣いて逃げ出す、という内容のモノが毎日―――」
「巻貝ィィィイイイイイイ!!!!!
ちょっと面貸せやキュらあああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
キュルルは叫び声と共にアリーチェさんへ突撃していった………
その女の子は初対面の僕とキュルルにクルリと向き直った。
「アリーチェお姉さまの妹、スノウ=ホワイリーチェ=ダリア=ガーデンです!
お気軽にスリーチェとお呼びください!
どうかお見知りおきを!」
そう言った彼女は真っ白なフリル付きのふんわりドレスの裾を掴んで頭を下げる。
「えっと、スリーチェさん……?」
「もう!呼び捨てで呼んでくださいな!
そんなに畏まらなくてよろしいですのよ?」
「う、うん……分かったよ、スリーチェ」
なんというか、言葉使いは丁寧だけど凄く活発そうな子だ。
妹というだけあって顔立ちや銀色の髪はアリーチェさんにそっくりだった。
銀髪のツインテールを肩から前に持ってきており、縦ロールにしていればまさに小さなアリーチェさんといった感じだろう。
身長は僕よりちょっと高いぐらい……つまり13歳か14歳と言った所か。(自分で言ってて少し凹む)
そして、彼女のすぐ後ろにはスーツ姿の女性が立っていた。
あの人は多分……スリーチェのお付きの人、かな?
黒髪のセミロングで前髪が非常に長く、右目が僅かに覗くぐらいでほぼ顔全体を覆っていた。
それでもその僅かに覗く目や鼻立ちは非常に整っており、凄い美人さんであることは分かる。
そして、アリーチェさんのお付きであるファーティラさんを超える程の高身長だ。
両手には黒い皮手袋をしており、その手を前に組んだまま何も言葉を発さずにいる。
「ほらプランティ!貴女も挨拶しなさいな!」
「………………………………………」
プランティ、と呼ばれた女性は何も言わなかった。
前髪の隙間から覗く右目でこちらのことをただじっと見ている……
うう……そういえば初対面の時のファーティラさん達もかなり僕に対して当たりが強かったような……
やっぱり主に気安く近づく人間は警戒の対象なのだろうか……
「プランティ!!」
―――ビクッッッ!!
「っ!!!」
スリーチェさんが強めに名を呼ぶと、彼女は傍目から分かるほどに身を震わせた。
そして……
「……あ、えっと…………
プランタ=ガーデニング………です………」
非情に小さな声で、ぼそぼそと自己紹介を始めた……
「その、お嬢様からは、プランティと呼ばれておりますので……
皆さまも、そのようにお呼びして頂ければ……
あ、いや、別にそう呼んで欲しいってわけじゃなくて……
普通に呼んでもいいのですけど……
いや、そもそも私の呼び方なんてなんでも……
っていうか、その、私のことを呼ぶ必要なんてないっていうか……
その、私なんて空気みたいなものだと思っていただければ……
あ、あ、いや!空気って言っても、生きるのに必要な存在とか、そんな大それたこと言ったつもりじゃなくて……
むしろ、全然、必要ない存在っていうか……
その、会話の最中に消えても全く誰も気にしないような存在というか……
別にいてもいなくても構わないけど、とりあえず数合わせで呼ばれているような存在というか……
例えば、物語の最終決戦とかでの、今までの登場人物全員集合シーンで、ああ、そういえば初期あたりでこんなのいたなぁ……とか、そんな感じの感想抱かれそうなキャラというか……
……あの、い、今の話……分かりましたかね……?
………えっと………その…………………………」
「「……………………………………………」」
「分かりました、死にます」
「いや待って待って待って待って!!!!!」
プランティさんは全てを諦めた目になり、胸元から取り出したナイフを首筋に当てた。
そして僕はそれを必死に止めたのだった……
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「あの、プランティさん……」
「忘れてください……
私の言ったことも……
私の存在も……
プランティなんて人間ここにはいません……
私は校舎裏に生えた雑草です………」
プランティさんは校舎の壁に向かって体育座りをして膝に顔をうずめてしまった……
「まったくプランティったら人前に出るといっつもこうなんだから!
普通に『プランタ=ガーデニングです!どうかプランティとお呼びください!』って言えばいいだけじゃありませんの!
たかが自己紹介に一体何をそんなに悩むことがありますの!」
「ぐぼぁあッッッ!!!」
プランティさんが主からの言葉の暴力にぶん殴られ、地面を転がった。
「こ、これがコミュ力格差……
持つ者に持たざる者の気持ちは決して分からない……
この残酷な現実がある限り、この世から争いが無くなることは決してないのだ……」
「プランティは御覧の通りとーってもおかしな子ですけれど、とーっても面白くて、とーっても魅力的な子なのですよ!
是非彼女とも仲良くしてあげてくださいな!」
うーん、なんという陰と陽……
「それで、貴方達は………」
「あ、はい。
それじゃ僕達も自己紹介を……」
僕とキュルルはスリーチェの前に立った。
「僕はフィル=フィール。
よろしくね、スリーチェ」
「まぁ!やっぱり貴方がフィルさんだったのですね!
いずれわたくしのお義兄様になられる方!」
「――ぶぼォアッッッ!!」
「ん?」
なんか今スリーチェからよく分からない台詞が飛び出したような……
あと、後ろで紅茶を飲んでいたアリーチェさんが思いっきり噴き出す声も聞こえた。本日2度目だ。
「アリーチェお姉さまからの手紙にそれはもう何度も何度も登場しているお名前なんですもの!
お姉さまはさも平常を装って執筆しているつもりなのでしょうけど、全く関係ない話題の時でも『こんな時、フィルだったら〇〇と言うのでしょうね』とか出てくるものなのですから、あんなん誰が見ても貴方の事をどう思っているかなんてバレバレ―――」
「スリィィィィチェェェェェェ!!!!
貴族の手紙の内容を公の場で口にするべきではあぁりませんことよぉおおおおおおおおおおおおおお!!!!
機密文書閲覧の罪に問われかねないのですからねぇえええええええ!!!」
「いやそれはお父様への手紙だけ――モガ!」
物凄い勢いで車椅子を爆進させてきたアリーチェさんがスリーチェの口を素早く塞いだ。
機密文書閲覧の罪……そうなのか……
スリーチェが興奮して若干早口だった所為かよく聞こえなかったんだけど、忘れた方がよさそうだ……
「きゅる!それじゃボクも!
ボクはキュルル=オニキス!
『魔王』にしてフィルの永遠のライバルだよ!」
「あっ、キュルル……!
『魔王』はちょっと……!」
続けてのキュルルの自己紹介だが、言わせては不味い部分を言わせてしまったような……
ただでさえ、魔物というだけでも十分戸惑われるだろうに『魔王』なんて単語を聞かされたら一体どう思われることか……
「ええ!勿論ご存じですわ!『スライム魔王』ですよね!
わたくし、会えて感激ですわ!」
「きゅる?」
「あれ?」
なんか意外な反応が返ってきた。
これは……スリーチェはキュルルのことも知っていたのか?
「アリーチェお姉さまのお手紙でフィルさんに次いで何度も出て来た名前ですもの!
是非一度お会いしたいと思っていたんですの!」
「きゅ、きゅる……そうなんだ……
アイツの手紙に、ボクが……」
これまた意外だ。
アリーチェさんがキュルルのことを手紙に記してたなんて。
「ええ!人の言葉を話す珍妙なスライムが『魔王』を名乗って学園にやってきたと!
そしてそのスライムはフィルさんに連日付きまとっており、それに実に辟易しているとも!
ですのでお姉さまはフィルさんを守るために日々奮闘しており、いつも最後にはお姉さま達の前からスライムが泣いて逃げ出す、という内容のモノが毎日―――」
「巻貝ィィィイイイイイイ!!!!!
ちょっと面貸せやキュらあああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
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