66 / 173
第5章
第3話 僕と新たな入学者達
しおりを挟む《 エクスエデン校舎前広場 》
―――ザワザワ……ザワザワ……
「おい、見ろよアレ!」
「うわあっ!あ、アレって……
女形の……スライム!?」
「あの噂、本当だったのかよ……!
この学園には魔物が入学しているって……!」
「じゃ、じゃああのブラックネス・ドラゴン襲来ってのも……まさか本当!?」
「な、なあ……もしかしてこの学園ヤバいんじゃ……」
「や、やっぱり私、入学止める!
だ、だって、あんなのがいるなんて……!
「お、俺も……!
魔物と一緒に学園生活なんて出来るかよぉ!」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「うーん、やっぱりというか何と言うか……」
「もっきゅ、もっきゅる」
エクスエデン校舎前広場には2次募集を受けた新たな入学者達が集められていた。
以前アリーチェさんが言っていた通り、今回は前回のように広大な広場を埋め尽くすほどの人数とはならず、数千人規模といったところだ。
それでも十分多いとは思うけど……今、その数が更に減ることとなった。
この広場に現れた漆黒の魔物……キュルルの姿を見たことによって。
どうやらキュルルの存在は既に巷では噂になっていたようで、それを本気にしていなかった者がここに来て恐れをなしたらしい。
まぁ、無理もない部分はあるとはいえ……なんだかなぁ。
ちなみにキュルルは今巨大なおにぎりを頬張っている。
まだ食べかけていた食堂の朝食の残りを全部まとめて持ってきたのだった。
「皆もっとキュルルとお話したり、君のことを知ってもらえば怖がる必要なんてないのになぁ……」
「むぐ、ふぃふ!はいほうふ!
ぼふ、へんへんひにひへはいほ!」
「うん『フィル!大丈夫!ボク、全然気にしてないよ!』でいいんだよね?
まぁ、僕が勝手に気にしてることだから。
そしてちゃんと全部食べ切ってからお話ししようね」
それにしても………
「……………………………………………」
隣にいるアリーチェさんは無言のままだ。
僕達の会話に口を挟むこともなく、ただ目を瞑りながら時折ティーカップを口につけるだけであった。
普段のアリーチェさんなら僕のキュルルへの言及に一言噛みつくか、逃げ出す入学者達に「この程度でここを去る者達に『勇者』の称号など豚に真珠もいい所ですわね」とでも言っていただろうに……
この原因は……やっぱりあの手紙なのだろうか。
あの後、手紙を読み終えたアリーチェさんはすぐさま食堂から出て行ってしまった。
僕はアリーチェさんの様子が気になり彼女を追いかけ、その僕をキュルルが追いかけ、今に至るという訳だ。
アリーチェさんはこの広場にやってきてから特に何をするでもなかった。
入学者達のことなど目に入らないかのようにただ黙って紅茶を飲み続けている。
ただ、そんなアリーチェさんのお付きであるファーティラさん達は周囲に目を光らせている。
やはり彼女はこの場に探しに来たのだろう。
例の……この学園に来るという、アリーチェさんの妹を……
「あの、アリーチェさん?
貴女の妹がここに入学するっていう話……
アリーチェさんは……あまり歓迎していない感じでしょうか……?
その……貴女の妹さんに、何か思うところが……?」
「…………………………………………」
家庭の事情とかもあるだろうし、あまりこちらから深堀りするのもどうかと思ったけど……
僕は気になっていることを素直に聞くことにした。
彼女の態度からは、何か今回のことが好ましくないという空気を感じる。
アリーチェさんはしばらく黙ったままだったけど……
その内コトリ、とティーカップをテーブルに置き、話を始めてくれた。
「スリーチェに……というよりかは、スリーチェがここに来ることを許可したお父様に、といった所でしょうかね」
「え?」
アリーチェさんは周囲を警戒するような視線を巡らせた後、再び声を発した。
「わたくし……『あの事件』に関することをお父様に全て報告しましたの」
「『あの事件』……って、もしかして……!?」
アリーチェさんはコクリ、と頷いた。
学園活動初日に起きた、あのアリーチェさん暗殺未遂のこと……なのだろう。
「正直、強制的に実家に呼び戻されることも覚悟していたのですが……
とりあえずはこのまま学園に留まることを許されておりますわ。
そのうえで身の回りにはより一層注意をするように、ということもお父様からのお返事には書かれておりました。
また、本来1日に1度でよかったはずの報告の手紙が一日に3度出すことが義務になってしまいましたのですけれどね……」
「はは……まぁ、それだけ大事にされているということですよね」
っていうか、あの学園活動やキュルルとの喧嘩の合間にそんなことをしていたのか……
「それと学園側にはこの事件のことは公にしないように頼み込んでおりますの」
「何故ですか?」
「この大陸におけるガーデン家の影響の大きさから考えて、事件の背景が不明瞭なうちは余計な混乱をもたらしかねない、というのと……」
アリーチェさんはその後の言葉を続けることを少し躊躇った。
「もし……万が一……
あの事件の首謀者が……わたくしの家の者だったとしたら………
ガーデン家だけで解決しなければいけないこと、だからですわ……」
「――!」
ガーデン家の家紋が刻印されていた便箋……
それはガーデン家の重要な立場の者しか持てないマジックアイテムで打たれたもの、というのは僕も聞いてはいた。
それはつまり、暗殺事件を手引きしたのはマジックアイテムを持つガーデン家の人……なんてことは確かに僕も少し思ってしまった。
でも、それは余りにも安直な考えだし、なによりアリーチェさんの家の関係者がそんなことをするなんて僕は思いたくなかった。
おそらくその想いはアリーチェさんの方が僕なんかより数十倍も深いことだったろう……
それでも、彼女はその可能性を決して見ないフリをしなかった。
家の名に誇りを持っている彼女がそんなことを考えなければいけないなんて、一体どれ程辛いことだろうか……
「ともかく、そのような事件があったばかりだというのに、何故その場所にまた娘を送り込む判断をなされたのか……
わたくしはお父様の考えが理解しかねますわ」
「アリーチェさん……」
つまりは妹を心配する姉心、ということだ。
確かにアリーチェさんの言っている部分は気にはなるが、アリーチェさんと妹さんとの間に何か確執がある、という訳ではないことにとりあえず少し安心した。
と、僕がそんなことを考えていると―――
「お姉さま!!」
突然、女の子の声がその場に響いた。
その声にハッとなった僕達が目を向けると―――
そこには、アリーチェさんとよく似た顔立ちの子が、嬉しそうな笑顔を浮かべて立っていた―――
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!


美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる