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第5章
第2話 僕と貴女への手紙
しおりを挟む《 - エクスエデン校舎・第二天 協議室- 》
「コーちゃん、アルっぴ達からの報告聞いた?」
「ああ、昨日の内にね」
休養日2日目。
それと同時に勇者学園の2次募集が始まる日でもある今日はいつもより早い時間に本日の予定確認が行われ、既にこの場から殆どの学園関係者は出払っていた。
受付や入学挨拶の準備に取り掛かっているのだ。
今ここにいるのはコーディスとリブラの2人だけだった。
アリエスも1次募集の時と同じく受付に向かっている為、既にここにはいない。
「昨日の内にって、確かアルっぴはつい昨日討伐に向かったんじゃなかったか?」
「ああ、そしてその日の内に王都まで戻ってきて報告を済ませたんだよ」
「例の魔物の出現場所からここまでどれくらいの距離あるっけ?」
「馬車を使って2週間以上かかるね」
「なるほど、実にアルっぴだね」
その会話にツッコむ者はいなかった。
「それで、君の所感は?」
「大体ウィデーレと同じかな。
はっきりとしたことはまだなんとも言えないけど、何らかの『悪意』をひしひしと感じるね。
そして、コレは何の根拠もない私の勘でしかないが……」
「なんだい?」
コーディスは会議室のある机の上に目を向けた。
「この学園初日に起きた例の事件……
おそらくアレも無関係ではない」
「ほう」
その机の上はかつてアリスリーチェ暗殺事件で使われた『仕事道具』が置いてあった場所だった。
既にその実物は王都のマジックアイテム開発局へ解析に出されており、今現在机の上にあるのはリブラが個人的な好奇心から行った解析の結果を載せた報告書の束だった。
もっとも字がへたくそ過ぎて誰にも読めず、全く無意味な報告書となっているが。
「ではコーちゃんはあの事件はガーデン家のお家騒動ではないと?」
「ガーデン家が無関係とは決まっていない。
例の刻印付きの便箋のこともあるしね。
ただ、他の『仕事道具』とアルミナの戦ったゴーレムには何かしら関連性があると睨んでいる。
もう少し踏み込んで言うと、同一の製作者である可能性がある」
「ふむ、まあ私としてもそれは一理あるとは思うな。
あれらを造れる人間がそう何人もいるとは考えづらい」
アリスリーチェ暗殺事件の『仕事道具』はどれ一つをとっても決して容易には作成できないとはリブラ自身が言っていたことだ。
「あれだけの物が造れるマジックアイテム製作者ともなれば、間違いなくひと財産を築くことなど容易いだろうに、一体何を考えてこのようなことに手を染めているのだろうかね」
「さあね。
単なる狂人か、このような事態を引き起こすに足る何かしらを持つ者か。
ただ一つ言えることは……」
コーディスはどこかこことは違う場所を見るような目で、呟いた。
「我々はこの『悪意』を決して見過ごすわけにはいかないということだ」
そんなコーディスの姿を横目に見ながら、リブラは声をかける。
「なぁコーちゃん。
『はっきりしたことは言えない』と言っていた割には、君はもうこの『悪意』に対して当たりを付けている気がするな」
「……………………………………」
「その『悪意』の出どころは、やはり『魔王』かい?」
コーディスはすぐには答えなかった。
「…………まだこれが『そう』だと決まったわけではないが、私はいずれこのような事態が起きるであろうことが分かってはいたよ。
元よりこの学園はその対抗手段の為に設立したのだからね」
勇者学園。
その設立の目的は昨今における大陸各地の魔物の活性化に対抗する為、と世間には発表されている。
だが、その魔物の活性化が起きる前から……もっと詳しく言うと、魔王討伐直後から既にコーディスはこの学園の構想を王へと直談判していた。
つまり、コーディスには魔物がいずれ活性化するであろうことが分かっていたのだ。
「5年前の『魔王』の討伐……その後始末といった所かい?」
「むしろ、私はあの戦いの終結こそが始まりだと思っているよ。
おそらく他のメンバーも大なり小なり似たような思いを抱いていただろうね」
「確かに、あれだけの戦いを終えてもなお誰一人として隠居しなかったものな」
勇者一行のメンバーは全員現在も何かしらの重大な役職についており、今もなお最前線で活動を続けている。
「だが、もしこれが『そう』であるなら、想定以上のスピードで『悪意』は芽吹いている。
なれば、我々もことを急ぐとしよう。
例の物については?」
「明日には間に合うそうだ。
開発局も相当な無茶ぶりに応えてくれたもんだ」
「そうか、いつか盛大に労ってあげよう」
そして、コーディスは窓際へと歩き、外を眺めながら呟いた。
「急ごう。
『悪意』の実が生る前に。
その実が地に落とされる前に―――」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
《 エクスエデン校舎・食堂 》
「むきゅる!もぐりゅ!はむはむりゅ!」
「キュルル、もうちょっと落ち着いて食べなよ」
キュルルが焼き魚やベーコンエッグや山盛りのキャベツに盛大にガッツいている。
ごきげんな朝飯だ……
「まったく、相変わらず品性という概念が欠如しておりますのね」
そんなことを言うアリーチェさんにキッ!とキュルルが視線を向けるも、何とかそれ以上の諍いは起きずにいた。
………昨日の夜、キュルルとアリーチェさん達の鬼ごっこは夜が明けるまで続けられる……かと思われたその時、アリエス先生がとっっっっても素敵な笑顔で登場し、その場を治めたのであった。
人の笑顔にあれほどの恐怖を感じたのは生まれて初めてだった。
昨日の昼に街で問題を起こして舌の根も乾かぬ内にこの騒ぎ。
そりゃあ、あの人の心中もお察ししてしまうというものだ……
そんなわけで今の所、口喧嘩以上に発展することはなさそうだった。
険悪な雰囲気を払拭する為に僕は思いついた話題を振った。
「今日は入学者の2次募集が始まるんですよね。
どんな人達が来るんでしょうね」
「わたくしとしてはどんな人云々より先に、そこの『魔王』様に腰を抜かさないかが心配ですけどね」
またこの人は険悪になりそうなことを……と、思いつつそこは僕も内心気になっていることではあった。
新しくこの学園に来た人達は果たしてキュルルにどんな反応を示すだろうか……
と、そんなことを考えていると……
「アリスリーチェ様。
こちら、ガーデン家より速達です」
スッ…と姿を現したファーティラさんがアリーチェさんに手紙を渡した。
「あら、この刻印は……スリーチェからではないですの。
やれやれ……みだりに速達を使ってはいけないと言っておりますのに」
「スリーチェ?」
僕がアリーチェさんの口から発せられたその名に対する疑問の声を上げる。
「わたくしの妹ですわ」
「へえ!アリーチェさん、妹さんがいるんですか!」
アリーチェさんの妹さん……
どんな子なんだろう。
「まだまだ姉離れのできない年頃のようで、わたくしがここに入学する為に屋敷を離れる時も近況報告の手紙を毎日出すようせがまれてしまいましたわ。
全く、速達は本当に大事な報告の時にしか使わないと約束をしておりましたのに――」
そんなことを呟きつつ、ティーカップを口につけながら手紙に目を通したアリーチェさんは……
「―――ぶほぉおッッ!!」
盛大に紅茶を噴き出した。
「うおおっ!?
アリーチェさん!?」
「なになに!?
きったないなぁ!」
普段の上品さはどこへやら、アリーチェさんはせき込みながら改めて手紙を凝視した。
そして、震えた声を発する。
「す、スリーチェが………」
「え?」
「わたくしの妹が……
この勇者学園に入学する、と………」
「コーちゃん、アルっぴ達からの報告聞いた?」
「ああ、昨日の内にね」
休養日2日目。
それと同時に勇者学園の2次募集が始まる日でもある今日はいつもより早い時間に本日の予定確認が行われ、既にこの場から殆どの学園関係者は出払っていた。
受付や入学挨拶の準備に取り掛かっているのだ。
今ここにいるのはコーディスとリブラの2人だけだった。
アリエスも1次募集の時と同じく受付に向かっている為、既にここにはいない。
「昨日の内にって、確かアルっぴはつい昨日討伐に向かったんじゃなかったか?」
「ああ、そしてその日の内に王都まで戻ってきて報告を済ませたんだよ」
「例の魔物の出現場所からここまでどれくらいの距離あるっけ?」
「馬車を使って2週間以上かかるね」
「なるほど、実にアルっぴだね」
その会話にツッコむ者はいなかった。
「それで、君の所感は?」
「大体ウィデーレと同じかな。
はっきりとしたことはまだなんとも言えないけど、何らかの『悪意』をひしひしと感じるね。
そして、コレは何の根拠もない私の勘でしかないが……」
「なんだい?」
コーディスは会議室のある机の上に目を向けた。
「この学園初日に起きた例の事件……
おそらくアレも無関係ではない」
「ほう」
その机の上はかつてアリスリーチェ暗殺事件で使われた『仕事道具』が置いてあった場所だった。
既にその実物は王都のマジックアイテム開発局へ解析に出されており、今現在机の上にあるのはリブラが個人的な好奇心から行った解析の結果を載せた報告書の束だった。
もっとも字がへたくそ過ぎて誰にも読めず、全く無意味な報告書となっているが。
「ではコーちゃんはあの事件はガーデン家のお家騒動ではないと?」
「ガーデン家が無関係とは決まっていない。
例の刻印付きの便箋のこともあるしね。
ただ、他の『仕事道具』とアルミナの戦ったゴーレムには何かしら関連性があると睨んでいる。
もう少し踏み込んで言うと、同一の製作者である可能性がある」
「ふむ、まあ私としてもそれは一理あるとは思うな。
あれらを造れる人間がそう何人もいるとは考えづらい」
アリスリーチェ暗殺事件の『仕事道具』はどれ一つをとっても決して容易には作成できないとはリブラ自身が言っていたことだ。
「あれだけの物が造れるマジックアイテム製作者ともなれば、間違いなくひと財産を築くことなど容易いだろうに、一体何を考えてこのようなことに手を染めているのだろうかね」
「さあね。
単なる狂人か、このような事態を引き起こすに足る何かしらを持つ者か。
ただ一つ言えることは……」
コーディスはどこかこことは違う場所を見るような目で、呟いた。
「我々はこの『悪意』を決して見過ごすわけにはいかないということだ」
そんなコーディスの姿を横目に見ながら、リブラは声をかける。
「なぁコーちゃん。
『はっきりしたことは言えない』と言っていた割には、君はもうこの『悪意』に対して当たりを付けている気がするな」
「……………………………………」
「その『悪意』の出どころは、やはり『魔王』かい?」
コーディスはすぐには答えなかった。
「…………まだこれが『そう』だと決まったわけではないが、私はいずれこのような事態が起きるであろうことが分かってはいたよ。
元よりこの学園はその対抗手段の為に設立したのだからね」
勇者学園。
その設立の目的は昨今における大陸各地の魔物の活性化に対抗する為、と世間には発表されている。
だが、その魔物の活性化が起きる前から……もっと詳しく言うと、魔王討伐直後から既にコーディスはこの学園の構想を王へと直談判していた。
つまり、コーディスには魔物がいずれ活性化するであろうことが分かっていたのだ。
「5年前の『魔王』の討伐……その後始末といった所かい?」
「むしろ、私はあの戦いの終結こそが始まりだと思っているよ。
おそらく他のメンバーも大なり小なり似たような思いを抱いていただろうね」
「確かに、あれだけの戦いを終えてもなお誰一人として隠居しなかったものな」
勇者一行のメンバーは全員現在も何かしらの重大な役職についており、今もなお最前線で活動を続けている。
「だが、もしこれが『そう』であるなら、想定以上のスピードで『悪意』は芽吹いている。
なれば、我々もことを急ぐとしよう。
例の物については?」
「明日には間に合うそうだ。
開発局も相当な無茶ぶりに応えてくれたもんだ」
「そうか、いつか盛大に労ってあげよう」
そして、コーディスは窓際へと歩き、外を眺めながら呟いた。
「急ごう。
『悪意』の実が生る前に。
その実が地に落とされる前に―――」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
《 エクスエデン校舎・食堂 》
「むきゅる!もぐりゅ!はむはむりゅ!」
「キュルル、もうちょっと落ち着いて食べなよ」
キュルルが焼き魚やベーコンエッグや山盛りのキャベツに盛大にガッツいている。
ごきげんな朝飯だ……
「まったく、相変わらず品性という概念が欠如しておりますのね」
そんなことを言うアリーチェさんにキッ!とキュルルが視線を向けるも、何とかそれ以上の諍いは起きずにいた。
………昨日の夜、キュルルとアリーチェさん達の鬼ごっこは夜が明けるまで続けられる……かと思われたその時、アリエス先生がとっっっっても素敵な笑顔で登場し、その場を治めたのであった。
人の笑顔にあれほどの恐怖を感じたのは生まれて初めてだった。
昨日の昼に街で問題を起こして舌の根も乾かぬ内にこの騒ぎ。
そりゃあ、あの人の心中もお察ししてしまうというものだ……
そんなわけで今の所、口喧嘩以上に発展することはなさそうだった。
険悪な雰囲気を払拭する為に僕は思いついた話題を振った。
「今日は入学者の2次募集が始まるんですよね。
どんな人達が来るんでしょうね」
「わたくしとしてはどんな人云々より先に、そこの『魔王』様に腰を抜かさないかが心配ですけどね」
またこの人は険悪になりそうなことを……と、思いつつそこは僕も内心気になっていることではあった。
新しくこの学園に来た人達は果たしてキュルルにどんな反応を示すだろうか……
と、そんなことを考えていると……
「アリスリーチェ様。
こちら、ガーデン家より速達です」
スッ…と姿を現したファーティラさんがアリーチェさんに手紙を渡した。
「あら、この刻印は……スリーチェからではないですの。
やれやれ……みだりに速達を使ってはいけないと言っておりますのに」
「スリーチェ?」
僕がアリーチェさんの口から発せられたその名に対する疑問の声を上げる。
「わたくしの妹ですわ」
「へえ!アリーチェさん、妹さんがいるんですか!」
アリーチェさんの妹さん……
どんな子なんだろう。
「まだまだ姉離れのできない年頃のようで、わたくしがここに入学する為に屋敷を離れる時も近況報告の手紙を毎日出すようせがまれてしまいましたわ。
全く、速達は本当に大事な報告の時にしか使わないと約束をしておりましたのに――」
そんなことを呟きつつ、ティーカップを口につけながら手紙に目を通したアリーチェさんは……
「―――ぶほぉおッッ!!」
盛大に紅茶を噴き出した。
「うおおっ!?
アリーチェさん!?」
「なになに!?
きったないなぁ!」
普段の上品さはどこへやら、アリーチェさんはせき込みながら改めて手紙を凝視した。
そして、震えた声を発する。
「す、スリーチェが………」
「え?」
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