62 / 173
番外編
アリスリーチェ先生と魔法講座:前編
しおりを挟む
「魔法について知りたい、ですか?」
「はい!どうかお願いします!」
ある日、僕はアリーチェさんを尋ねていた。
理由は今アリーチェさんが返してきた言葉の通りだ。
この世界に存在する不思議な力、『魔法』。
今まで僕には全く無縁のものだと見向きもしてこなかったその力がここにきて無関係ではなくなった。
僕の目覚めた『力』を使いこなすようになる為にも魔法についての知識を学ばなければ、と思い立ったのだ。
そして、その為には魔法に詳しい人からの助力が必要だ……と考えた時に真っ先に頭に思い描いたのがアリーチェさんだった。
この人の魔法の才能についてはもはや語るまでもない。
それに大陸最大の貴族の令嬢ともなれば相当に教養深いことも想像に難くない。
魔法に関して聞きたければこの人以外にないだろうというのが僕の出した結論だった。
そんな訳で学園活動を終えた後の自由時間、アリーチェさんのお部屋を訪れてみたのだけど……
「わたくし、こう見えてやるべきことが沢山あるのですけれどね……
お父様への毎日の活動内容報告はガーデン家の娘として必須の義務でもありますし……」
う……なんか難色気味………
「まぁ、他ならぬフィルの頼みですもの。
お断りするわけにはいきませんわね」
「あ、ありがとうございます!
このご恩はいつか……!」
「いいですわよ。
これも学園初日の時のお返しですわ。
では、時間も勿体無いことですし、早速……」
―――スッ………
「?」
アリーチェさんが右手を軽くあげる。
そして、パチンッ!と指を鳴らすと
―――バババババッッッ!!
何処からともなく現れた3つの影がアリーチェさんを布で覆い隠した。
あと、いつの間にかすぐ近くに学校で見るような机と椅子が置かれていた。
そして布が取り払われ、そこから現れたのは……
「それではフィル君。
アリスリーチェ先生の特別魔法講義を開始いたしますわ。
席について、ノートの用意をしなさいな」
―――スチャッ
というわけで、顔にメガネをかけ白いワイシャツにタイトスカートを履いた女教師スタイルへ変身したアリーチェさんによる割とノリノリな魔法講座が始まったのであった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「さて、これから先生の教えることをしっかり覚えてくださいね。
ちゃんと聞いていなかったら罰として宿題を出しますわよ?」
「ねえ巻貝せんせー。
ボク早くフィルとご飯食べに行きたいから10秒で話終わらせてねー」
「はい、オニキスさん。
貴女は今すぐバケツを持って廊下に立ってなさい。
そしてバケツの中に入って大人しくしていなさい。
というかなんでいますのアナタ」
いや最初からいたんだけどね。
しっかりキュルルの分の机まで用意されてるし。
「ねぇキュルル……さっきも言ったけど今回は大人しくしててね」
「ふん、分かってますよー」
キュルルはブスッとした顔で肘をつき、そっぽを向いた。
「はぁ……仕方ないですわね……
まあいいでしょう。
それではフィル。
講座を始める前に、まず貴方は現時点でどれくらい魔法についてご存知ですの?」
「うーん……それ程詳しくは……
とりあえず、物凄い威力を持つ『高等魔法』の存在は知ってます。
あと、それを使うことが出来るのは国から認められた『上級魔法師』だけだってことも。
ただ、この『魔法師』っていうのも正直よく分かってないんですよね……
『上級魔法師』の他に『中級魔法師』っていうのもあるらしいですけど、知ってるのはどちらも資格を取るのが凄く大変ってことぐらいでどんな事ができるのかとかはいまいち分かってないです。」
「なるほど……
それではまず魔法のレベルについてからですわね」
そういうとアリーチェさんは黒板にチョークを走らせた。
……これもいつの間にかファーティラさん達が用意していたのだった。
「この世界で使われている魔法は三段階にレベル分けされておりますの。
初等魔法、中等魔法、高等魔法の三つですわ」
アリーチェさんが黒板に下から順に初等、中等、高等と文字を書き、その隣に代表的な『魔法名』を記していた。
「初等魔法はその名からわかる通り、初めて魔法を使う方が触れることになる初歩の魔法ですわね。
威力はそこまでありませんがその分消費魔力も控えめで弱い魔物単体程度になら十分通用するものもありますわ。
この学園で渡された簡易魔導書に書かれていた《エミッション・フレイム》や《エミッション・アクア》あたりが分かりやすいですかね。
流石にあれらは戦闘には向きませんけど」
アリーチェさんはそれを思いっきり戦闘に活かせちゃうわけだけど……
まぁ例外中の例外だろうなぁ……
「中等魔法は威力と魔力消費のバランスに優れ、この世界で1番多く活用されている魔法ですわ。
一般的に『魔法』と一言で言われたらこのレベルのものになりますわね。
貴方も見たことあるものでしたら、キャリー=ミスティさんの《ファイアー・ジャベリン》、ヴィガー=マックスさんの《アイス・ブレード》、ミルキィ=バーニングさんの《フレイム・ガントレット》なんかですわね」
他にも、ファーティラさん達が使っていた魔法なんかもそうだそうな。
「そして、高等魔法。
フィルも知っての通り驚異的な威力を持ち、魔力の消費量もまた膨大。
敵だけでなく味方にも甚大な被害が出かねない為、使える場面は非常に限定されますわ。
貴方がご存知のものは………」
「レディシュさんの……
《ディザスター・エクスプロージョン》ですね……」
あれは結局不完全なものだったらしいけど……
もし完全に発動していたらどれ程の惨劇となっていたことか……
「これらは威力や消費魔力だけでなく、発動難易度もそれぞれで変わってきますわ。
初等は比較的容易に発動出来て、中等、高等とレベルが上がる毎に難しくなってきますの。
魔法発動の為の3要素、魔力、イメージ力、形成力……
魔力を用い、頭の中で具体的なイメージを作り出し、魔力とイメージを混ぜ合わせ形成する。
高威力の魔法を生み出す為にはその3要素全てが高レベルであることを要求されますのよ」
まぁ僕は初等魔法すら自分の力じゃ満足に発動できない訳なんだけど……
話の腰は折らないでおこう。
「そして、どこまでが初等魔法でどこからが中等魔法か、という区分けは威力ではなく単純に魔力の消費量によって決められておりますわ。
威力はそれ程でなくても効果範囲が広い、といったものもございますからね」
黒板に書かれたことによると消費魔力はそれぞれ……
初等魔法:500未満
中等魔法:500~3000未満
高等魔法:3000以上
とのことだ。
ちなみに中等魔法の内、消費魔力が500~1000未満のものを下位中等魔法、1000~2000未満のものを中位中等魔法、2000~3000未満のものを上位中等魔法と呼ぶ場合もあるらしい。
アリーチェさん曰くレディシュさんの《ディレクティビティ・バースト》あたりが上位中等魔法だろう、とのことだ。
それにしても、中等魔法は魔力消費500以上からとなると……
『魔力値』が500しかないアリーチェさんは初等魔法しか使えないということになる。
でも、僕も何度か見せて貰った《エミッション・アクア》による水流カッターなんて中等魔法と言ってもいいくらいの威力はあるだろう……
もし……そんな彼女が中等魔法、そして高等魔法まで扱えていたとしたら、一体どれだけの……
僕は少し怖くなり、考えることを止めた。
「でも、そうなると……
僕の【フィルズ・キッチン】で作り出した調理器具に発動する質量操作の魔法って消費魔力とか一体どうなっているんでしょうか……?
僕の『魔力値』100しかないんですけど……」
「貴方はあまりにも特殊なケース過ぎて正確なことはなんとも言えないのですが……
リブラ先生の話では貴方の低『魔力値』は増加した体重を相殺する為に普段から自身に魔法を使い続けていることも原因かもしれない、とのことでしたから、本来の『魔力値』はもう少し高い可能性がありますわ。
そして、貴方が作り出した調理器具による攻撃の一瞬だけ自身にかかった魔法が解け、その本来の『魔力値』による魔法が発動している……といったことかもしれません」
なるほど……もし今の話が正しかったとしたら、僕はあの攻撃の一瞬だけ本来の増加した体重に戻ってることになるのか。
一瞬過ぎて体感的には全然分からないけど……
「あ、ところでアリーチェさん。
この前の模擬戦で、キャリーさんが最後に使った魔法なんですけど……
たしか『準』高等魔法って言ってませんでしたっけ?
それって……?」
「ああ、そうでしたわね。
高等魔法は更に3つの位分けがありますの。
通常の高等魔法に加え、『準』高等魔法と『超』高等魔法がありますわ」
「へぇ……
中等魔法の下位や上位みたいなものですか?」
「まぁ似たようなものではありますが、こちらは魔力消費量ではなく、威力によって決められておりますわ」
アリーチェさんは黒板に更にその3つの単語を書き足した。
「『準』高等魔法……これは一応高等魔法に分類されておりますが、威力は通常の高等魔法と比べたら抑え気味のものとなっておりますわ。
魔力の消費は高等魔法とほぼ同等で、威力と魔力消費量の釣り合いはあまり取れてるとは言い難いですが、使い勝手という点では高等魔法より優れておりますわね。
発動難易度も高等魔法よりは下がりますわ」
「それが、キャリーさんが模擬戦で見せた《ヘルフレイム・パーム》ですか……」
「ついでに言うと、そこの机の上で溶けかかってる『魔王』が使っていた《ダイナミック・マリオネット》とやらも、『準』高等魔法に分類されることでしょうね」
「きゅぴー………きゅぴー………」
キュルルは顔の輪郭を崩しかけながら実に可愛らしい寝息を立てていた……
「そして、『超』高等魔法……
これは高等魔法の中でも更に格段にレベルが上の代物となっておりますの。
高等魔法が使える『上級魔法師』は世界に100人といないとされておりますが……
『超』高等魔法が使える者は10人にも満たないと言われておりますわ」
「10人未満……!」
まさしく桁違いの難易度ということか………
一体どれほどの威力を持った魔法となるのか想像もつかないや……
「言っておきますけど、『超』高等魔法になると単純な破壊力と言う尺度では測れなくなってきますわよ」
「え……?
それってどういう……?」
アリーチェさんの言っていることがよく分からなかった。
「『それ』はもはや『世界の理』にすら触れかねない力……と言われておりますわ」
「えーっと……?
その、よく分からないんですけど……」
なんか哲学的な話に聞こえてきたような……
「正直言って、その魔法に関してはわたくしも詳しいことは殆ど分かっていませんの。
どんな魔法なのか、誰か使えるのか、知っている者はほんの一握りとされておりますわ。
ただ唯一、勇者一行のメンバーの1人であるスクト=オルモーストの『超』高等防御魔法、《アンファザマブル・ウォール》だけはこちらにも情報が出回っておりますの。
最も、それすら知れるのはわたくしのような特別な立場の者だけですけれどね」
「勇者一行のメンバー……!
そ、それって一体どんな……!?」
僕はゴクリと唾を飲み込んだ。
「厚さ1ミリにも満たない『壁』を作り出す魔法ですわ。
ただし、その『壁』は如何なる攻撃も破ることは出来ない……
何故ならその『壁』の内部は『ほぼ無限』の空間が広がっているから、ですわ」
「……………?」
「例え世界を滅ぼしかねない程の一撃があったとしても、その壁を超えることは決してない。
その一撃が『無限の射程』を持たない限りは。
『強度』ではなく『距離』で威力を殺す、絶対不壊の防御壁」
「……………???」
「その1ミリ先の相手に、誰一人として触れることは叶わない。
その刹那の間には永劫が存在して―――」
「あの、ごめんなさい、もういいです。
僕にはちょっと色々な意味でレベルが高すぎです」
やっぱ哲学的な話にしか聞こえませんでした……
《 - 後編に続く - 》
「はい!どうかお願いします!」
ある日、僕はアリーチェさんを尋ねていた。
理由は今アリーチェさんが返してきた言葉の通りだ。
この世界に存在する不思議な力、『魔法』。
今まで僕には全く無縁のものだと見向きもしてこなかったその力がここにきて無関係ではなくなった。
僕の目覚めた『力』を使いこなすようになる為にも魔法についての知識を学ばなければ、と思い立ったのだ。
そして、その為には魔法に詳しい人からの助力が必要だ……と考えた時に真っ先に頭に思い描いたのがアリーチェさんだった。
この人の魔法の才能についてはもはや語るまでもない。
それに大陸最大の貴族の令嬢ともなれば相当に教養深いことも想像に難くない。
魔法に関して聞きたければこの人以外にないだろうというのが僕の出した結論だった。
そんな訳で学園活動を終えた後の自由時間、アリーチェさんのお部屋を訪れてみたのだけど……
「わたくし、こう見えてやるべきことが沢山あるのですけれどね……
お父様への毎日の活動内容報告はガーデン家の娘として必須の義務でもありますし……」
う……なんか難色気味………
「まぁ、他ならぬフィルの頼みですもの。
お断りするわけにはいきませんわね」
「あ、ありがとうございます!
このご恩はいつか……!」
「いいですわよ。
これも学園初日の時のお返しですわ。
では、時間も勿体無いことですし、早速……」
―――スッ………
「?」
アリーチェさんが右手を軽くあげる。
そして、パチンッ!と指を鳴らすと
―――バババババッッッ!!
何処からともなく現れた3つの影がアリーチェさんを布で覆い隠した。
あと、いつの間にかすぐ近くに学校で見るような机と椅子が置かれていた。
そして布が取り払われ、そこから現れたのは……
「それではフィル君。
アリスリーチェ先生の特別魔法講義を開始いたしますわ。
席について、ノートの用意をしなさいな」
―――スチャッ
というわけで、顔にメガネをかけ白いワイシャツにタイトスカートを履いた女教師スタイルへ変身したアリーチェさんによる割とノリノリな魔法講座が始まったのであった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「さて、これから先生の教えることをしっかり覚えてくださいね。
ちゃんと聞いていなかったら罰として宿題を出しますわよ?」
「ねえ巻貝せんせー。
ボク早くフィルとご飯食べに行きたいから10秒で話終わらせてねー」
「はい、オニキスさん。
貴女は今すぐバケツを持って廊下に立ってなさい。
そしてバケツの中に入って大人しくしていなさい。
というかなんでいますのアナタ」
いや最初からいたんだけどね。
しっかりキュルルの分の机まで用意されてるし。
「ねぇキュルル……さっきも言ったけど今回は大人しくしててね」
「ふん、分かってますよー」
キュルルはブスッとした顔で肘をつき、そっぽを向いた。
「はぁ……仕方ないですわね……
まあいいでしょう。
それではフィル。
講座を始める前に、まず貴方は現時点でどれくらい魔法についてご存知ですの?」
「うーん……それ程詳しくは……
とりあえず、物凄い威力を持つ『高等魔法』の存在は知ってます。
あと、それを使うことが出来るのは国から認められた『上級魔法師』だけだってことも。
ただ、この『魔法師』っていうのも正直よく分かってないんですよね……
『上級魔法師』の他に『中級魔法師』っていうのもあるらしいですけど、知ってるのはどちらも資格を取るのが凄く大変ってことぐらいでどんな事ができるのかとかはいまいち分かってないです。」
「なるほど……
それではまず魔法のレベルについてからですわね」
そういうとアリーチェさんは黒板にチョークを走らせた。
……これもいつの間にかファーティラさん達が用意していたのだった。
「この世界で使われている魔法は三段階にレベル分けされておりますの。
初等魔法、中等魔法、高等魔法の三つですわ」
アリーチェさんが黒板に下から順に初等、中等、高等と文字を書き、その隣に代表的な『魔法名』を記していた。
「初等魔法はその名からわかる通り、初めて魔法を使う方が触れることになる初歩の魔法ですわね。
威力はそこまでありませんがその分消費魔力も控えめで弱い魔物単体程度になら十分通用するものもありますわ。
この学園で渡された簡易魔導書に書かれていた《エミッション・フレイム》や《エミッション・アクア》あたりが分かりやすいですかね。
流石にあれらは戦闘には向きませんけど」
アリーチェさんはそれを思いっきり戦闘に活かせちゃうわけだけど……
まぁ例外中の例外だろうなぁ……
「中等魔法は威力と魔力消費のバランスに優れ、この世界で1番多く活用されている魔法ですわ。
一般的に『魔法』と一言で言われたらこのレベルのものになりますわね。
貴方も見たことあるものでしたら、キャリー=ミスティさんの《ファイアー・ジャベリン》、ヴィガー=マックスさんの《アイス・ブレード》、ミルキィ=バーニングさんの《フレイム・ガントレット》なんかですわね」
他にも、ファーティラさん達が使っていた魔法なんかもそうだそうな。
「そして、高等魔法。
フィルも知っての通り驚異的な威力を持ち、魔力の消費量もまた膨大。
敵だけでなく味方にも甚大な被害が出かねない為、使える場面は非常に限定されますわ。
貴方がご存知のものは………」
「レディシュさんの……
《ディザスター・エクスプロージョン》ですね……」
あれは結局不完全なものだったらしいけど……
もし完全に発動していたらどれ程の惨劇となっていたことか……
「これらは威力や消費魔力だけでなく、発動難易度もそれぞれで変わってきますわ。
初等は比較的容易に発動出来て、中等、高等とレベルが上がる毎に難しくなってきますの。
魔法発動の為の3要素、魔力、イメージ力、形成力……
魔力を用い、頭の中で具体的なイメージを作り出し、魔力とイメージを混ぜ合わせ形成する。
高威力の魔法を生み出す為にはその3要素全てが高レベルであることを要求されますのよ」
まぁ僕は初等魔法すら自分の力じゃ満足に発動できない訳なんだけど……
話の腰は折らないでおこう。
「そして、どこまでが初等魔法でどこからが中等魔法か、という区分けは威力ではなく単純に魔力の消費量によって決められておりますわ。
威力はそれ程でなくても効果範囲が広い、といったものもございますからね」
黒板に書かれたことによると消費魔力はそれぞれ……
初等魔法:500未満
中等魔法:500~3000未満
高等魔法:3000以上
とのことだ。
ちなみに中等魔法の内、消費魔力が500~1000未満のものを下位中等魔法、1000~2000未満のものを中位中等魔法、2000~3000未満のものを上位中等魔法と呼ぶ場合もあるらしい。
アリーチェさん曰くレディシュさんの《ディレクティビティ・バースト》あたりが上位中等魔法だろう、とのことだ。
それにしても、中等魔法は魔力消費500以上からとなると……
『魔力値』が500しかないアリーチェさんは初等魔法しか使えないということになる。
でも、僕も何度か見せて貰った《エミッション・アクア》による水流カッターなんて中等魔法と言ってもいいくらいの威力はあるだろう……
もし……そんな彼女が中等魔法、そして高等魔法まで扱えていたとしたら、一体どれだけの……
僕は少し怖くなり、考えることを止めた。
「でも、そうなると……
僕の【フィルズ・キッチン】で作り出した調理器具に発動する質量操作の魔法って消費魔力とか一体どうなっているんでしょうか……?
僕の『魔力値』100しかないんですけど……」
「貴方はあまりにも特殊なケース過ぎて正確なことはなんとも言えないのですが……
リブラ先生の話では貴方の低『魔力値』は増加した体重を相殺する為に普段から自身に魔法を使い続けていることも原因かもしれない、とのことでしたから、本来の『魔力値』はもう少し高い可能性がありますわ。
そして、貴方が作り出した調理器具による攻撃の一瞬だけ自身にかかった魔法が解け、その本来の『魔力値』による魔法が発動している……といったことかもしれません」
なるほど……もし今の話が正しかったとしたら、僕はあの攻撃の一瞬だけ本来の増加した体重に戻ってることになるのか。
一瞬過ぎて体感的には全然分からないけど……
「あ、ところでアリーチェさん。
この前の模擬戦で、キャリーさんが最後に使った魔法なんですけど……
たしか『準』高等魔法って言ってませんでしたっけ?
それって……?」
「ああ、そうでしたわね。
高等魔法は更に3つの位分けがありますの。
通常の高等魔法に加え、『準』高等魔法と『超』高等魔法がありますわ」
「へぇ……
中等魔法の下位や上位みたいなものですか?」
「まぁ似たようなものではありますが、こちらは魔力消費量ではなく、威力によって決められておりますわ」
アリーチェさんは黒板に更にその3つの単語を書き足した。
「『準』高等魔法……これは一応高等魔法に分類されておりますが、威力は通常の高等魔法と比べたら抑え気味のものとなっておりますわ。
魔力の消費は高等魔法とほぼ同等で、威力と魔力消費量の釣り合いはあまり取れてるとは言い難いですが、使い勝手という点では高等魔法より優れておりますわね。
発動難易度も高等魔法よりは下がりますわ」
「それが、キャリーさんが模擬戦で見せた《ヘルフレイム・パーム》ですか……」
「ついでに言うと、そこの机の上で溶けかかってる『魔王』が使っていた《ダイナミック・マリオネット》とやらも、『準』高等魔法に分類されることでしょうね」
「きゅぴー………きゅぴー………」
キュルルは顔の輪郭を崩しかけながら実に可愛らしい寝息を立てていた……
「そして、『超』高等魔法……
これは高等魔法の中でも更に格段にレベルが上の代物となっておりますの。
高等魔法が使える『上級魔法師』は世界に100人といないとされておりますが……
『超』高等魔法が使える者は10人にも満たないと言われておりますわ」
「10人未満……!」
まさしく桁違いの難易度ということか………
一体どれほどの威力を持った魔法となるのか想像もつかないや……
「言っておきますけど、『超』高等魔法になると単純な破壊力と言う尺度では測れなくなってきますわよ」
「え……?
それってどういう……?」
アリーチェさんの言っていることがよく分からなかった。
「『それ』はもはや『世界の理』にすら触れかねない力……と言われておりますわ」
「えーっと……?
その、よく分からないんですけど……」
なんか哲学的な話に聞こえてきたような……
「正直言って、その魔法に関してはわたくしも詳しいことは殆ど分かっていませんの。
どんな魔法なのか、誰か使えるのか、知っている者はほんの一握りとされておりますわ。
ただ唯一、勇者一行のメンバーの1人であるスクト=オルモーストの『超』高等防御魔法、《アンファザマブル・ウォール》だけはこちらにも情報が出回っておりますの。
最も、それすら知れるのはわたくしのような特別な立場の者だけですけれどね」
「勇者一行のメンバー……!
そ、それって一体どんな……!?」
僕はゴクリと唾を飲み込んだ。
「厚さ1ミリにも満たない『壁』を作り出す魔法ですわ。
ただし、その『壁』は如何なる攻撃も破ることは出来ない……
何故ならその『壁』の内部は『ほぼ無限』の空間が広がっているから、ですわ」
「……………?」
「例え世界を滅ぼしかねない程の一撃があったとしても、その壁を超えることは決してない。
その一撃が『無限の射程』を持たない限りは。
『強度』ではなく『距離』で威力を殺す、絶対不壊の防御壁」
「……………???」
「その1ミリ先の相手に、誰一人として触れることは叶わない。
その刹那の間には永劫が存在して―――」
「あの、ごめんなさい、もういいです。
僕にはちょっと色々な意味でレベルが高すぎです」
やっぱ哲学的な話にしか聞こえませんでした……
《 - 後編に続く - 》
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!


美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる