60 / 173
第4章
第10話 アルミナと次世代の『アルミナ』達
しおりを挟む
スクトの前には壁が出現していた。
白い半透明の非常に薄い壁だった。
『超』高等防御魔法
《アンファザマブル・ウォール》
1ミリにも満たない壁の内部にはほぼ無限の空間が広がっており、その物理的な距離によって攻撃を遮断するという最強の防御壁である。
壁はウィデーレ達が立っていた山の麓までもの高さがあり、その壁の内側は先程までと全く変わらない風景が広がっている。
そう、壁の内側『だけ』は。
そして、その壁はすぐに消えた。
元々ほんの数秒程しか展開出来ない切り札中の切り札だったのだ。
「はぁぁぁ…………!
はぁぁぁ…………!」
その最強の防御壁を作り出した男は全身を汗だくにして過呼吸でも起こしそうな様子になっていた。
ここは山岳地帯。
先程まで水晶ゴーレムが立っていた場所は切り立った断崖に囲まれていた渓谷だったはずだ。
平地になっていた。
ゴーレムが立っていた場所から後方の崖が消えていた。
その平地は地平線の先にまで続いていた。
もはや確かめるまでもなく、ゴーレムは跡形もなく粉微塵に砕け散ったであろうことが確信できた―――
「スクト、お疲れ様」
そしてそんな有り様を目の前にしてウィデーレは平常心そのもので実に気楽な労いの言葉をかけて来たのだった……
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「やあやあ!
ウィデーレ!スクト!お疲れ!!
特にスクト!!ホントによく頑張った!!
褒めて遣わすぞぉ!!」
「私は何もしなかったけどね。
はい、これ」
「おお!私の剣!
と、何だこの布は?」
「代わりの服。
貴女今素っ裸でしょ」
「うおおおお!!
そうだったああああ!!!」
当然である。
周囲がこの有り様で服がはじけ飛ばないはずがなかった。
「キャー!スク太さんのエッチ!
いやーんまいっちんぐ!
エッチなのはいけないと思います!
えっちぃのは嫌いです!
えーっと他には、えーっと……」
「……………………………………………………」
「おいウィデーレ、おかしいぞ。
目の前に美女の裸体が存在しているというのに何故スクトは生まれたての小鹿のように震えながらお前の背中に隠れて引き気味にこちらを見ているんだ」
「まぁ、しょうがないんじゃない?」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「あの『奥の手』……今までにも使ったことがあるんですか……?」
「この大陸に来る前と、『魔王』との最後の決戦の時とで2回ね」
「あの時かぁ……なんか凄い音が王都まで聞こえて来たと思ったけど……」
スクトは『魔王』との決戦時は『旧』王都の防衛に回っていたため『奥の手』を見る機会はなかったのだった。
そしてようやく落ち着いたスクトが改めて今回の元凶について話し始めた。
「それで、あのゴーレムは結局何だったんでしょう……
調査しようにも、あの有り様じゃもう欠片も残ってないでしょうし……」
「はっはっは!!
心配ご無用!!
ウィデーレ!これを!!」
そう言いながらアルミナはウィデーレに向かって右手を突き出した。
ウィデーレは特に疑問も挟まず自らの手を差し出すと、アルミナは掌を広げる。
するとパラパラと細かい何かがウィデーレの掌へ落ちた。
「それって……!」
「あのゴーレムの欠片だ!!
戦ってる最中こっそり握っておいた!!」
「流石はアルミナ。
昔からこういうところは抜け目ない」
ウィデーレは受け取った欠片をどこからともなく取り出したケースの中へとしまった。
「さて!!
ではあのゴーレムの解析は王都のマジックアイテム開発局あたりにでも任せるとして!!
これで今回のゴーレム討伐の仕事は終わりだな!!
諸君!!!お疲れ様でした!!!」
「うん、2人ともお疲れ様」
「は、はい、お疲れ様です……
なんか僕はゴーレム以外のことで疲れた気がしますけど……」
そして最後に……
アルミナが今までのおちゃらけた雰囲気から一転、真剣な表情をしながら話しかけた。
「ウィデーレ……今回のこと、君はどう思う?」
「うーん、まだ何とも………
ただ一つ、確実に言えるのは………」
ウィデーレは水晶ゴーレムの欠片の入ったケースを見つめ、呟いた。
「私達の知らないところで何かが胎動している。
人類にとって、決して良くない何かが」
「…………………………」
「…………………………」
アルミナもスクトも、その言葉に何も返さなかった。
「『魔王』が討伐されて5年が経った。
けれど………やっぱり私達の戦いはまだ終わってないのかもしれない」
その言葉を最後に、この場に静寂が訪れた。
ウィデーレの言葉が意味すること……それはすなわち―――
また、あの『大戦』が―――
「何も心配はいらない!!!」
「「!!」」
アルミナの声が静寂を打ち破った。
「この大陸に!!人類に!!
何度困難が訪れようと!!
決して屈することはない!!!」
「ここには、私がいる!!」
「ここには、お前達がいる!!」
「そして、あそこには――――」
アルミナは振り向く。
大陸東側、人類生存圏に向かって。
ここからでも微かに見える、その学園に向かって。
そして、万感の思いを込めて叫んだ。
「次世代の、『勇者』達がいる!」
そこに憂いなど、何一つとしてなかった―――
白い半透明の非常に薄い壁だった。
『超』高等防御魔法
《アンファザマブル・ウォール》
1ミリにも満たない壁の内部にはほぼ無限の空間が広がっており、その物理的な距離によって攻撃を遮断するという最強の防御壁である。
壁はウィデーレ達が立っていた山の麓までもの高さがあり、その壁の内側は先程までと全く変わらない風景が広がっている。
そう、壁の内側『だけ』は。
そして、その壁はすぐに消えた。
元々ほんの数秒程しか展開出来ない切り札中の切り札だったのだ。
「はぁぁぁ…………!
はぁぁぁ…………!」
その最強の防御壁を作り出した男は全身を汗だくにして過呼吸でも起こしそうな様子になっていた。
ここは山岳地帯。
先程まで水晶ゴーレムが立っていた場所は切り立った断崖に囲まれていた渓谷だったはずだ。
平地になっていた。
ゴーレムが立っていた場所から後方の崖が消えていた。
その平地は地平線の先にまで続いていた。
もはや確かめるまでもなく、ゴーレムは跡形もなく粉微塵に砕け散ったであろうことが確信できた―――
「スクト、お疲れ様」
そしてそんな有り様を目の前にしてウィデーレは平常心そのもので実に気楽な労いの言葉をかけて来たのだった……
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「やあやあ!
ウィデーレ!スクト!お疲れ!!
特にスクト!!ホントによく頑張った!!
褒めて遣わすぞぉ!!」
「私は何もしなかったけどね。
はい、これ」
「おお!私の剣!
と、何だこの布は?」
「代わりの服。
貴女今素っ裸でしょ」
「うおおおお!!
そうだったああああ!!!」
当然である。
周囲がこの有り様で服がはじけ飛ばないはずがなかった。
「キャー!スク太さんのエッチ!
いやーんまいっちんぐ!
エッチなのはいけないと思います!
えっちぃのは嫌いです!
えーっと他には、えーっと……」
「……………………………………………………」
「おいウィデーレ、おかしいぞ。
目の前に美女の裸体が存在しているというのに何故スクトは生まれたての小鹿のように震えながらお前の背中に隠れて引き気味にこちらを見ているんだ」
「まぁ、しょうがないんじゃない?」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「あの『奥の手』……今までにも使ったことがあるんですか……?」
「この大陸に来る前と、『魔王』との最後の決戦の時とで2回ね」
「あの時かぁ……なんか凄い音が王都まで聞こえて来たと思ったけど……」
スクトは『魔王』との決戦時は『旧』王都の防衛に回っていたため『奥の手』を見る機会はなかったのだった。
そしてようやく落ち着いたスクトが改めて今回の元凶について話し始めた。
「それで、あのゴーレムは結局何だったんでしょう……
調査しようにも、あの有り様じゃもう欠片も残ってないでしょうし……」
「はっはっは!!
心配ご無用!!
ウィデーレ!これを!!」
そう言いながらアルミナはウィデーレに向かって右手を突き出した。
ウィデーレは特に疑問も挟まず自らの手を差し出すと、アルミナは掌を広げる。
するとパラパラと細かい何かがウィデーレの掌へ落ちた。
「それって……!」
「あのゴーレムの欠片だ!!
戦ってる最中こっそり握っておいた!!」
「流石はアルミナ。
昔からこういうところは抜け目ない」
ウィデーレは受け取った欠片をどこからともなく取り出したケースの中へとしまった。
「さて!!
ではあのゴーレムの解析は王都のマジックアイテム開発局あたりにでも任せるとして!!
これで今回のゴーレム討伐の仕事は終わりだな!!
諸君!!!お疲れ様でした!!!」
「うん、2人ともお疲れ様」
「は、はい、お疲れ様です……
なんか僕はゴーレム以外のことで疲れた気がしますけど……」
そして最後に……
アルミナが今までのおちゃらけた雰囲気から一転、真剣な表情をしながら話しかけた。
「ウィデーレ……今回のこと、君はどう思う?」
「うーん、まだ何とも………
ただ一つ、確実に言えるのは………」
ウィデーレは水晶ゴーレムの欠片の入ったケースを見つめ、呟いた。
「私達の知らないところで何かが胎動している。
人類にとって、決して良くない何かが」
「…………………………」
「…………………………」
アルミナもスクトも、その言葉に何も返さなかった。
「『魔王』が討伐されて5年が経った。
けれど………やっぱり私達の戦いはまだ終わってないのかもしれない」
その言葉を最後に、この場に静寂が訪れた。
ウィデーレの言葉が意味すること……それはすなわち―――
また、あの『大戦』が―――
「何も心配はいらない!!!」
「「!!」」
アルミナの声が静寂を打ち破った。
「この大陸に!!人類に!!
何度困難が訪れようと!!
決して屈することはない!!!」
「ここには、私がいる!!」
「ここには、お前達がいる!!」
「そして、あそこには――――」
アルミナは振り向く。
大陸東側、人類生存圏に向かって。
ここからでも微かに見える、その学園に向かって。
そして、万感の思いを込めて叫んだ。
「次世代の、『勇者』達がいる!」
そこに憂いなど、何一つとしてなかった―――
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。


ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる