勇者学園とスライム魔王 ~ 勇者になりたい僕と魔王になった君と ~

冒人間

文字の大きさ
上 下
54 / 173
第4章

第4話 僕と君と貴女とアミューズメントパーク

しおりを挟む
―――ギリギリギリギリ………

「………ねぇ、オニキスさん」
「………何かな、アリスリーチェ」

―――ギチギチギチギチ………

「アナタは何故、フィルさんの、腕を掴んで、わたくしと、反対方向に、行こうとしているのでしょうか……?」
「きゅる、それはね、キミが連れて行こうとしてるお店が、どうみてもさっきみたいに2人でしか座れないような小さいテーブルしか用意されてないからだよ……?」

―――メキメキメキメキ………

「オニキスさん、わたくしの、案内がなければ、この街を回るのは困難ですわよ……?
 この場は、どうか、わたくしに、任せて、くださいな……!」
「いやいや、ボクもフィルも、初めて見るモノばかりだし、多分どのお店でも楽しいと思うよ?
 だからさ、アリスリーチェも、そんな無理して、力を込めて、フィルを、連れて行こうと、しなくても、いいんだよ………!」

「あの、2人とも?
 ちょっとさ、一旦話し合おう?
 僕の肩からさ、結構凄い音聞こえ始めてるしね?」

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「ね、アリーチェさん。
 その、出来ればキュルルも一緒に楽しめるお店にしてくれませんか……?」
「きゅるっ!」
「……………………………………」

アリーチェさんは目を瞑りながら、黙りこくってしまっている。

「分かりましたわ……
 まぁ、今日の所は我慢致しましょう」

溜息をつきながらアリーチェさんは諦観を滲ませた声を出した。
まだ少し不安だけどこれで何とか3人で仲違いせず過ごせそうだ。

それにしても……我慢する、なんて言うほどキュルルと一緒に過ごすの嫌なのかなぁ……

「次の機会があったら、今度こそ2人きりで……」

「?
 何かいいましたか、アリーチェさん?」
「いえ!なんでもございませんわ!」

アリーチェさんがボソッと呟いた言葉はよく聞こえなかった。

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「うわーーーーー!」
「ここって……!」

アリーチェさんに連れてこられた、ある施設。
僕とキュルルは、目の前に飛び込んできた光景に目を奪われた。

そこには物凄く広いフロアの中に様々なモノ……おそらくマジックアイテムの類だろうか……が置かれていたのだ。
大きなガラスケースの中に入っている人形を竜のかぎ爪を模したアームを操作してゲットする『飛竜ワイバーンキャッチャー』
空中に投影された光の印をリズムに合わせて次々に触れていく『シャイニー・ダンサー』

その他様々な娯楽用の装置が所狭しと並んでいたのだった。

「これ……アミューズメント施設……って言うんでしたっけ?」
「ここはわたくしのように特別な立場の者にしか知らされていない、シークレットアミューズメントパークですわ。
 王都のマジックアイテム開発局と提携しており、常に世界最先端の娯楽用マジックアイテムを体験できますのよ」

そんなアリーチェさんの説明を聞きながら、僕らは施設内を歩き回る。

キュルルは目を輝かせながらどれから遊ぼうか悩んでいるようだった。
僕もまた様々な装置に目移りしていると……
あることに気付いた。

「あの、アリーチェさん……
 これって、どれも1回遊ぶのに硬貨が必要になるようですけど……
 しかもコレ、結構な額の……」

僕はたまに故郷の村の近くの街で買い物するぐらいしかお金というものを使ったことがないため、金銭感覚は一般の人よりも乏しい方だろう。
でも、そんな僕でもつい躊躇が生まれるような額であるということだ。
確か、この硬貨一枚で街での高級料理店1食分に相当するとか聞いたような……

「もう、それぐらいわたくしが支払いますわよ。
 わたくしからお誘いしたのですからそれぐらいは当然ですわ」
「えっ!?でも……!」

「ただ施しと受けるのが心苦しいというのなら、この前わたくしをお助けいただいたお礼、ということでしたらいかがです?
 当然、わたくしとしてはこれだけで恩を返せ終えたなどとは到底言えませんが」
「そ、それは……うーん……」

女性に奢ってもらう……どうにも恰好がつかないけど……
格好つけてどうにかなることでもないからなぁ……

「あの……キュルルの分まで払っていただくことになっちゃいますけど……その……」
「勿論承知の上ですわよ。
 そもそも先程3人で楽しめる所としてここを紹介したのですよ?
 それが嫌なら初めから来ておりませんわ」

ふーむ……ここまで言われちゃうとなぁ……
気を使う方がかえって失礼かも……

よし、ここは……!

「それじゃあ、思いっきりご厚意に甘えさせて頂きます!」
「ええ、どうかご遠慮なさらず、楽しんでくださいな!」
「きゅっるーーーー!」

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「『ドラゴン叩き』……?」

僕らの目の前にはドアの付いた巨大な箱があった。

「あの中に入ると前方、左右、天井に空いた穴から次々にドラゴンの頭が飛び出てきますの。
 それをこの伝説の剣、ならぬ伝説のハンマーで叩いていく、というものですわ」
「きゅるー!面白そう!!
 ボクやってみるーー!!」
「あっ、ちょっとキュルル!」

キュルルはドアの前に置いてあるハンマーを取るとドアを開けて箱の中へと駆けこんだ。
しょうがないので僕はドアの窓から中の様子を伺うことにした。

すると―――

『いらっしゃいませ。
 難易度はいかがいたしますか?』
「きゅるっ?」

箱の中から音声案内が聞こえて来た。

「オニキスさん、そのまま口頭で難易度を指示すれば認識してくれますわよ」
「ふえー……どんな原理なんだろ……」

僕が感心していると……

「きゅるー!
 じゃあ、とにかくいっちばん難しいのでー!!」
『当遊戯における最高難易度は『リアル絶体絶命デスペレート級』となっておりますが………
 本当によろしいでしょうか?』

ん……?
なんか凄い不穏な気配が………

「うんうん!いいから早く早くー!」
『かしこまりました。
 なお、当店はこの遊戯における怪我及び死亡に関する一切の責任は負いませんので、ご了承願います』

いやあの、ちょっと待って。

『それでは―――――
 スタート!』

―――ガシャン!!

早速、正面の壁の穴からドラゴンの頭が飛び出て来た。
そして―――

―――ゴォオオオオオオオ!!!!

「きゅるぅうううう!!??」

その口から火炎放射が―――
って、いやいやいやいやいやいやいやいや!!!

「最大難易度『リアル絶体絶命デスペレート級』は実際のドラゴンを想定した挙動をしてきますの。
 正面の壁のドラゴンは炎を、右側は氷を、左側は強酸を、天井は雷を吐き出してきますのよ」
「なんだこの危険な遊戯!!??
 ってかなんでそんな冷静なのアリーチェさんんんんんんんんんんんんん!!!」

「きゅるぅああああああ!!!
 上等だぁああああああああ!!!!!」

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

『パーフェクト!!!
 素晴らしいです!!
 アナタならばすぐにでも王都警備隊に入隊できるでしょう!!
 ぜひ、警備局までご連絡を―――』

「きゅるーーーー!!!」

キュルルは誇らしげにハンマーを掲げながら箱から出て来た……

「ちっ……
 この遊戯は実力判定器としても使われており、優れた成績の者には王都警備局へのスカウトがかかりますのよ」
「そんなもん置いておいて大丈夫なんですかここ!?
 ってか今舌打ちしました!?」

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「『ダンス・ダンス・ファイターズ』……
 手元の操作盤でキャラクターを操作、対戦させつつ、足元に配置された矢印型ボタンをリズムに合わせて踊るように踏んでいくという遊戯―――」

「いや無理でしょおおおおおおおおおおお!!!
 なんで混ぜちゃったのコレぇえええええ!!!」
「きゅるー!!フィルー!ガンバレー!!」

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「『ザ・ハウス・オブ・ザ・クライシス』!!
 投影されたモンスターに向かって魔剣を振り、炎や雷を打ち込んでいく爽快感溢れるわたくしもとてもお気に入りの遊戯ですわ!
 1回のプレイで周りが大惨事になってしまいますので中々遊べる機会がありませんのよ!!」

「薄々思ってましたけど、この施設なんか色々とダメではあああああああ!!??」

「きゅるー!フィルー!後ろからくるよーー!!」

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「ぜー……はー………」
「きゅる……フィル、疲れちゃった?」
「うんまぁちょっと……色々と………」

いやまぁ、楽しいことは楽しいけどね……
なんか1回の遊戯でドッと体力や精神力を削られる気がする……

「では、そこのフードコートで少し休憩致しましょうか」

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

僕達はアリーチェさんに案内された施設内にあるレストランのような場所で軽い昼食に入っていた。

「もぐっ!はむっ!むぐっ!」
「遠慮なく大量の注文を頼みますのねこの『魔王』様は……」
「あはは………」

そんな中で、僕はふとあることを訪ねた。

「そういえば、アリーチェさん。
 さっきの喫茶店での新聞で、少し気になる記事があったんですけど」
「なんですの?」

「大陸西部の奥地にて謎の魔物を確認、っていうのなんですけど……
 そこで勇者様の名前があった気がしたんですが、何かご存じだったりします?
 お店から出る直前に目に入ったので、詳しく読んでなかったんです」
「ああ、数日前に大陸西部調査隊から報告があったという、あの話ですわね。
 なんでも、今まで見たこともない特殊な魔物が発見されたとのことですわ」

「特殊な魔物?」
「ええ、それで討伐隊が組まれたらしいのですが、討伐に失敗。
 その結果を受けて初代勇者が出向くことになった、ということですわ」

「勇者様が直接出向くことになる程の魔物……!」

僕は思わずゴクリと唾を飲んだ。



それは一体、どんな魔物だというのだろう……


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

反逆勇者の放浪記 ~人類から追放されて勇者を辞めた俺は、魔族の美人姉妹と手を取り合い、争いのない新しい世界を創る~

倉名まさ
ファンタジー
氷の大陸で魔王が目覚めてから十年。 人類と魔族との戦争は激化の一途をたどっていた。 物語の主人公、勇者マハトを中心に、人々は魔族に侵略された都市や領地を奪い返そうと戦いを繰り広げていたが、強大な力を持つ魔族相手に劣勢に立たされていた。 窮地を脱するため、マハト率いる勇者隊は今後の戦いを有利にする、とある街の奪還作戦を決行した。 決死の覚悟で街を取り戻そうとする勇者隊。 だが、彼らの戦いの裏では、別の計画が秘密裡に遂行されていた――。 地位も居場所も無くした一人の青年と、二人の姉妹が手を取り、 絶望の淵から見つけ出す一筋の希望の物語。 *主人公は人類規模で追放されますが、人類への復讐譚はメインテーマではなく、異種族(魔族)の姉妹との逃亡劇とラブロマンスを中心とした物語となります。

処理中です...