52 / 173
第4章
第2話 僕と準備
しおりを挟む
ということで休日の朝。
街へ行く準備をしているのだけど……
「きゅ~る~……
フィル~……これ動き辛い~……」
「我慢してよキュルル……
君のことが街の人達にバレたら大騒ぎになっちゃうんだから……」
僕は自分の部屋でキュルルの着付けを行っていた。
勿論単にオシャレをさせてあげるわけじゃなく、キュルルの正体を知られないようにする為だ。
最初はフードやマントで全体をすっぽり覆えばよいかとも思ったが余りにも怪しくなってしまった……
もっとなるべく街を歩いてて違和感のない格好にしないと……
そうして現在のキュルルの格好は、まず長袖とロングスカートという一般的な服装だ。
但し長袖はわざとぶかぶかなサイズの合わないものにし、手が見えないようにしている。
少し変に思われるかもだけど、まあそういうファッションとして誤魔化せなくもないだろう。
そして頭の方は、つば広の帽子を使って目元を隠し、スカーフを巻くことで口元から鼻までを隠す、という方法を取った。
少し暑苦しそうに見えるが、何とか一般的な範疇に収まる格好には出来たと思う。
今の季節はまだ春先で肌寒い日もあるので、そこまで怪しまれはしないはずだ。
「キュルル、袖から手を出しちゃダメだからね。
後、なるべく顔を上げないこと。
他人から顔を覗かれないように注意してね」
「む~……は~い………」
キュルルは何とも窮屈そうに唸っていたけど、街に行く欲求には勝てなかったようで渋々了承してくれた。
ちなみにこの服はどこから調達したかと言うと、アリーチェさんのお付きの人達から拝借したのだった。
いつもアリーチェさんと喧嘩してばかりのキュルルの為に服を貸してもらう、というのはあの人達の立場からすれば何とも不本意だろうな……と思い、借りに行くのに少し気後れしてしまったのだけど……
「貴方様の頼みであれば、我ら一同断る理由はありません。
アリスリーチェ様と決定的に決別するようなことでもない限り、我らはいつでも貴方様の為に動きます。
どうか我らの心情など、お構いなく申し上げください」
と、ファーティラさんから長袖とロングスカートを、ウォッタさんから帽子を、カキョウさんからスカーフを渡されたのだった。
なんとも真面目な人達だ……
ちなみにその後続けざまに「これらは貴方様にお譲りします」とファーティラさんに言われ、僕が慌てて帰ってきたら返しますよ、と断ろうとすると……
「いいえ!私は知っておりますよ!
男の方は女性の着類で性的に興奮すると!
ですので、どうかこれをご活用して頂ければ!
あ、そうだ!
下着の方がより喜ばれるとも聞きました!
今から私の部屋から持ってきて……!
いや、使用済の方が更に良いとも!
ならば今私が履いているものを――!!」
「ファーティラさん!!!!
お気持ちだけありがたく受け取ります!!!
そして今すぐこのお話終わりにしないと僕はアナタのこと《レードル》でぶっ叩かなきゃいけなくなるんですけど!!!!!!」
という一幕があった………
なんかあの人ことある毎に話を『ソッチ』方面に持っていこうとする癖があるような……
閑話休題。
さて、キュルルのコーディネイトも終わり、アリーチェさんの待つ校舎の先の門まで行かなければ。
「あのさ、一応言っとくけど今回はアリーチェさんとの喧嘩は控えてね?
さっきも言ったけど街中で君のことがバレたら大変なんだから」
「きゅ~……分かってるよぅ~……
でも、いつもいつもあの巻貝女が~……」
ホントに大丈夫かな……
不安を感じつつも僕達は校舎を出るのであった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「お待ちしておりましたわ、フィル」
「わっ……アリーチェさん……!」
門の前まで行くと、予定通り車椅子に座っているアリーチェさんがいた。
「アリーチェさん……
その、なんていうか……今日は綺麗ですね……
あ、いえ、いつも綺麗な姿ですけど……
今日はそのなんていうか……」
「ふふふ、いいですのよ。
無理に気の利いた言葉など探さなくても、
貴方の言いたいことはお分かりでしてよ。
ありがとう、フィル」
「あ、いえ……どういたしまして……」
アリーチェさんは普段のドレスではなく、白いフリルワンピースを着ていた。
いつもより飾りっ気のない質素な感じの装いでありながら、持ち前の気品はちっとも損なわれていない。
ネックレスやブレスレットは決して豪華すぎず、慎ましくも上品に身に着けている人を飾り立てている。
いつもと少し違う雰囲気のアリーチェさんに僕は少しドキドキしてしまった。
「むぅぅぅぅぅーーーーーー…………」
そして、そんな僕とアリーチェさんを見て、分かりやすくキュルルが不機嫌そうな声を上げる……
「フィル!ボクも!ボクも見て!
ほら!!どう!!??」
「え、あ、うん……
キュルルも綺麗だよ……?」
「ホント!?きゅるるー!」
まぁ、キュルルの姿は部屋でもう散々見てたんだけど……
ファーティラさんから借りた長袖はそれ程飾り気は無かったのだけど、袖や裾に施された花の刺繍がアクセントとなっている。
ロングスカートもまた花の柄で可愛らしく装飾されている。
リボンのついたつば広の帽子をぶかぶかの袖を使って掴み、こちらに笑顔を見せてくるキュルルは漆黒の体色を差し引いてもとても可憐な女の子だった。
そして、首から下げられた、とある木片。
それは女の子のオシャレとしては少しミスマッチかもしれない。
でも、僕はそれを見ていると、つい口元を緩めてしまうのだった。
「ふふーん!」
「………………………………」
キュルルはこれ見よがしにアリーチェさんに胸を張っている……
僕との言いつけを守り、自分からアリーチェさんに突っかかるような物言いはしないようだけど……
そういう挑発的な行動も止めて欲しいなぁ……
「あの、キュルル……」
「大丈夫ですわ、フィル」
「えっ?」
アリーチェさんが僕の言葉を遮った。
「オニキスさん。
今日はお互い、いつものような諍いは慎みましょう。
街で何か問題が起きてしまえば、おそらく貴方と私だけの問題では済まされないですわよ?」
「きゅる……それは……」
アリーチェさんの言葉に先ほどまでのキュルルの挑発的な雰囲気が消えた……
「アナタだって、何か問題が起きて、フィルと一緒に居られなくなってしまうのは嫌でしょう?」
「きゅる………
分かったよ……今日は大人しくする……
巻貝……いや、その……アリスリーチェとも、喧嘩しない……」
「キュルル……アリーチェさん……」
その2人の様子にさっきまでの僕の不安は消えた。
今日この日は、3人で仲良く過ごすことが出来そうだ。
「それでは、フィル行きましょうか」
「はい!
あ、ところで昨日も聞きましたけど……
本当にファーティラさん達は同伴させないでいいんですか?」
そう、今日のアリーチェさんの周りにはいつものお付きの人達はいなかった。
「ええ、折角の休養日にわたくしの都合に付き合ってもらっては悪いですもの。
彼女達には今日はゆっくりお休み頂いておりますわ」
まぁ彼女の車椅子は1人でも操縦可能だから絶対にお付きが必要という訳ではないのは知っているけど……
僕とキュルルだけで大丈夫かなぁ……
と、僕がそんなことを考えていると―――
「まぁ、貴方が不安になるのもお分かりですわ。
……ですから………」
「――――?」
アリーチェさんが僕に左手を差し伸べて来た。
その頬は若干赤みがかっている。
「フィル、その……手を、繋いでもらってもよろしいでしょうか?」
「えっ!」
「いえ、その、街では馬車に轢かれかけたり、などの危険がありますし……
わたくしはこの様ですので、もしもの時に、貴方に引っ張っていただけたら……なんて、その……
あ、もしご迷惑でしたら勿論結構ですので……」
「いや、その、別に迷惑なんてことは……」
少し目を逸らしがちに、手を差し伸べているアリーチェさんを見ていると、僕の頬も赤くなってくる……
「えっと、僕なんかがとっさに助けることが出来るかっていうと、かなり怪しいんですけど……」
「ああ……やはり迷惑でしたか……
いえ、当然ですわよね……
申し訳ありません……このようなこと……」
「えっ!?いや違いますよ!!迷惑なんかじゃありませんって!」
俯きがちになり、しゅんとした声と共に差し伸べていた手を下ろそうとするアリーチェさんに、僕は慌てて声をかけていた。
「あの、助けられる保証はありませんけど、それでもよければ、その……」
「ええ、別に、構いませんわよ……
その、ちょっとした保険、みたいなものですので……
逆に貴方に危険が迫った時に、わたくしも尽力しますので……」
と、しどろもどろになりながら、僕は自分の右手をアリーチェさんの左手へと伸ばしていく。
そして――
「っ!」
「う……」
僕の手がアリーチェさんの手を握ると、アリーチェさんの身体が少しビクッと動いたような気がして……
その後、ゆっくりとアリーチェさんが手を握り返してきたのだった……
そうして、僕はアリスリーチェさんの隣へと並び立った……
「そ、それでは、行きましょうか……」
「は、はい……」
と、僕らはぎこちない会話をしながら、街へと歩き出―――
「ねえ」
瞬間、背筋が凍り付いた。
この底冷えする声。
つい最近聞いたことのあるこの声。
僕はゆっくり、声の方向へ首を傾ける。
「ボクも、手を繋いでいいかな?」
つば広の帽子の奥から闇色の光を発しながら、こちらを見つめているキュルルがそこにいた。
「い、いいけど……
キュルルは袖から手を出せないよね……?」
「うん、だからこうする」
そう言うと、キュルルはアリーチェさんが居る方とは逆の、僕の左側へと移動し、僕の左腕に自身の両腕を絡めてきた。
「ね?これでいいでしょ?
いいよね?」
「あ、はい、いいです」
僕はただキュルルに追従するしかなかった……
「ねぇ、アリスリーチェ。
とっさに助けて欲しいならさ、ボクの隣に来なよ。
どんな危険からもしっかり守ってあげるよ」
キュルルはとても穏やかな声でアリーチェさんへと話しかけている……
っていうかさ、君さっきからすげぇ流暢に喋ってるんですけど。
普段のきゅるきゅる言ってる君は一体?とか思っちゃうんですけど。
「ご心配どうもありがとうございます、オニキスさん。
折角のお申し出ですが、こうしてフィルのご厚意に甘えさせて頂ける次第となりましたし、ここは快く快諾して頂いた彼の顔を立てる為にも、このままフィルに手を預けさせて頂きますわ。
それでよろしいですわよね、フィル?」
「あ、はい、よろしいです」
「そっか。
でも遠慮しなくていいからね?
フィルも、アリスリーチェを助けられるか不安になったら代わってあげるよ。
いつでもボクに頼ってね?」
「あ、はい、頼もしいです」
「さて、それでは―――」
「うん、それじゃあ―――」
「「いざ、街へ」」
こうして、僕はキュルルとアリーチェさん、そして最大級の不安と共に、街へと赴くのであった。
街へ行く準備をしているのだけど……
「きゅ~る~……
フィル~……これ動き辛い~……」
「我慢してよキュルル……
君のことが街の人達にバレたら大騒ぎになっちゃうんだから……」
僕は自分の部屋でキュルルの着付けを行っていた。
勿論単にオシャレをさせてあげるわけじゃなく、キュルルの正体を知られないようにする為だ。
最初はフードやマントで全体をすっぽり覆えばよいかとも思ったが余りにも怪しくなってしまった……
もっとなるべく街を歩いてて違和感のない格好にしないと……
そうして現在のキュルルの格好は、まず長袖とロングスカートという一般的な服装だ。
但し長袖はわざとぶかぶかなサイズの合わないものにし、手が見えないようにしている。
少し変に思われるかもだけど、まあそういうファッションとして誤魔化せなくもないだろう。
そして頭の方は、つば広の帽子を使って目元を隠し、スカーフを巻くことで口元から鼻までを隠す、という方法を取った。
少し暑苦しそうに見えるが、何とか一般的な範疇に収まる格好には出来たと思う。
今の季節はまだ春先で肌寒い日もあるので、そこまで怪しまれはしないはずだ。
「キュルル、袖から手を出しちゃダメだからね。
後、なるべく顔を上げないこと。
他人から顔を覗かれないように注意してね」
「む~……は~い………」
キュルルは何とも窮屈そうに唸っていたけど、街に行く欲求には勝てなかったようで渋々了承してくれた。
ちなみにこの服はどこから調達したかと言うと、アリーチェさんのお付きの人達から拝借したのだった。
いつもアリーチェさんと喧嘩してばかりのキュルルの為に服を貸してもらう、というのはあの人達の立場からすれば何とも不本意だろうな……と思い、借りに行くのに少し気後れしてしまったのだけど……
「貴方様の頼みであれば、我ら一同断る理由はありません。
アリスリーチェ様と決定的に決別するようなことでもない限り、我らはいつでも貴方様の為に動きます。
どうか我らの心情など、お構いなく申し上げください」
と、ファーティラさんから長袖とロングスカートを、ウォッタさんから帽子を、カキョウさんからスカーフを渡されたのだった。
なんとも真面目な人達だ……
ちなみにその後続けざまに「これらは貴方様にお譲りします」とファーティラさんに言われ、僕が慌てて帰ってきたら返しますよ、と断ろうとすると……
「いいえ!私は知っておりますよ!
男の方は女性の着類で性的に興奮すると!
ですので、どうかこれをご活用して頂ければ!
あ、そうだ!
下着の方がより喜ばれるとも聞きました!
今から私の部屋から持ってきて……!
いや、使用済の方が更に良いとも!
ならば今私が履いているものを――!!」
「ファーティラさん!!!!
お気持ちだけありがたく受け取ります!!!
そして今すぐこのお話終わりにしないと僕はアナタのこと《レードル》でぶっ叩かなきゃいけなくなるんですけど!!!!!!」
という一幕があった………
なんかあの人ことある毎に話を『ソッチ』方面に持っていこうとする癖があるような……
閑話休題。
さて、キュルルのコーディネイトも終わり、アリーチェさんの待つ校舎の先の門まで行かなければ。
「あのさ、一応言っとくけど今回はアリーチェさんとの喧嘩は控えてね?
さっきも言ったけど街中で君のことがバレたら大変なんだから」
「きゅ~……分かってるよぅ~……
でも、いつもいつもあの巻貝女が~……」
ホントに大丈夫かな……
不安を感じつつも僕達は校舎を出るのであった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「お待ちしておりましたわ、フィル」
「わっ……アリーチェさん……!」
門の前まで行くと、予定通り車椅子に座っているアリーチェさんがいた。
「アリーチェさん……
その、なんていうか……今日は綺麗ですね……
あ、いえ、いつも綺麗な姿ですけど……
今日はそのなんていうか……」
「ふふふ、いいですのよ。
無理に気の利いた言葉など探さなくても、
貴方の言いたいことはお分かりでしてよ。
ありがとう、フィル」
「あ、いえ……どういたしまして……」
アリーチェさんは普段のドレスではなく、白いフリルワンピースを着ていた。
いつもより飾りっ気のない質素な感じの装いでありながら、持ち前の気品はちっとも損なわれていない。
ネックレスやブレスレットは決して豪華すぎず、慎ましくも上品に身に着けている人を飾り立てている。
いつもと少し違う雰囲気のアリーチェさんに僕は少しドキドキしてしまった。
「むぅぅぅぅぅーーーーーー…………」
そして、そんな僕とアリーチェさんを見て、分かりやすくキュルルが不機嫌そうな声を上げる……
「フィル!ボクも!ボクも見て!
ほら!!どう!!??」
「え、あ、うん……
キュルルも綺麗だよ……?」
「ホント!?きゅるるー!」
まぁ、キュルルの姿は部屋でもう散々見てたんだけど……
ファーティラさんから借りた長袖はそれ程飾り気は無かったのだけど、袖や裾に施された花の刺繍がアクセントとなっている。
ロングスカートもまた花の柄で可愛らしく装飾されている。
リボンのついたつば広の帽子をぶかぶかの袖を使って掴み、こちらに笑顔を見せてくるキュルルは漆黒の体色を差し引いてもとても可憐な女の子だった。
そして、首から下げられた、とある木片。
それは女の子のオシャレとしては少しミスマッチかもしれない。
でも、僕はそれを見ていると、つい口元を緩めてしまうのだった。
「ふふーん!」
「………………………………」
キュルルはこれ見よがしにアリーチェさんに胸を張っている……
僕との言いつけを守り、自分からアリーチェさんに突っかかるような物言いはしないようだけど……
そういう挑発的な行動も止めて欲しいなぁ……
「あの、キュルル……」
「大丈夫ですわ、フィル」
「えっ?」
アリーチェさんが僕の言葉を遮った。
「オニキスさん。
今日はお互い、いつものような諍いは慎みましょう。
街で何か問題が起きてしまえば、おそらく貴方と私だけの問題では済まされないですわよ?」
「きゅる……それは……」
アリーチェさんの言葉に先ほどまでのキュルルの挑発的な雰囲気が消えた……
「アナタだって、何か問題が起きて、フィルと一緒に居られなくなってしまうのは嫌でしょう?」
「きゅる………
分かったよ……今日は大人しくする……
巻貝……いや、その……アリスリーチェとも、喧嘩しない……」
「キュルル……アリーチェさん……」
その2人の様子にさっきまでの僕の不安は消えた。
今日この日は、3人で仲良く過ごすことが出来そうだ。
「それでは、フィル行きましょうか」
「はい!
あ、ところで昨日も聞きましたけど……
本当にファーティラさん達は同伴させないでいいんですか?」
そう、今日のアリーチェさんの周りにはいつものお付きの人達はいなかった。
「ええ、折角の休養日にわたくしの都合に付き合ってもらっては悪いですもの。
彼女達には今日はゆっくりお休み頂いておりますわ」
まぁ彼女の車椅子は1人でも操縦可能だから絶対にお付きが必要という訳ではないのは知っているけど……
僕とキュルルだけで大丈夫かなぁ……
と、僕がそんなことを考えていると―――
「まぁ、貴方が不安になるのもお分かりですわ。
……ですから………」
「――――?」
アリーチェさんが僕に左手を差し伸べて来た。
その頬は若干赤みがかっている。
「フィル、その……手を、繋いでもらってもよろしいでしょうか?」
「えっ!」
「いえ、その、街では馬車に轢かれかけたり、などの危険がありますし……
わたくしはこの様ですので、もしもの時に、貴方に引っ張っていただけたら……なんて、その……
あ、もしご迷惑でしたら勿論結構ですので……」
「いや、その、別に迷惑なんてことは……」
少し目を逸らしがちに、手を差し伸べているアリーチェさんを見ていると、僕の頬も赤くなってくる……
「えっと、僕なんかがとっさに助けることが出来るかっていうと、かなり怪しいんですけど……」
「ああ……やはり迷惑でしたか……
いえ、当然ですわよね……
申し訳ありません……このようなこと……」
「えっ!?いや違いますよ!!迷惑なんかじゃありませんって!」
俯きがちになり、しゅんとした声と共に差し伸べていた手を下ろそうとするアリーチェさんに、僕は慌てて声をかけていた。
「あの、助けられる保証はありませんけど、それでもよければ、その……」
「ええ、別に、構いませんわよ……
その、ちょっとした保険、みたいなものですので……
逆に貴方に危険が迫った時に、わたくしも尽力しますので……」
と、しどろもどろになりながら、僕は自分の右手をアリーチェさんの左手へと伸ばしていく。
そして――
「っ!」
「う……」
僕の手がアリーチェさんの手を握ると、アリーチェさんの身体が少しビクッと動いたような気がして……
その後、ゆっくりとアリーチェさんが手を握り返してきたのだった……
そうして、僕はアリスリーチェさんの隣へと並び立った……
「そ、それでは、行きましょうか……」
「は、はい……」
と、僕らはぎこちない会話をしながら、街へと歩き出―――
「ねえ」
瞬間、背筋が凍り付いた。
この底冷えする声。
つい最近聞いたことのあるこの声。
僕はゆっくり、声の方向へ首を傾ける。
「ボクも、手を繋いでいいかな?」
つば広の帽子の奥から闇色の光を発しながら、こちらを見つめているキュルルがそこにいた。
「い、いいけど……
キュルルは袖から手を出せないよね……?」
「うん、だからこうする」
そう言うと、キュルルはアリーチェさんが居る方とは逆の、僕の左側へと移動し、僕の左腕に自身の両腕を絡めてきた。
「ね?これでいいでしょ?
いいよね?」
「あ、はい、いいです」
僕はただキュルルに追従するしかなかった……
「ねぇ、アリスリーチェ。
とっさに助けて欲しいならさ、ボクの隣に来なよ。
どんな危険からもしっかり守ってあげるよ」
キュルルはとても穏やかな声でアリーチェさんへと話しかけている……
っていうかさ、君さっきからすげぇ流暢に喋ってるんですけど。
普段のきゅるきゅる言ってる君は一体?とか思っちゃうんですけど。
「ご心配どうもありがとうございます、オニキスさん。
折角のお申し出ですが、こうしてフィルのご厚意に甘えさせて頂ける次第となりましたし、ここは快く快諾して頂いた彼の顔を立てる為にも、このままフィルに手を預けさせて頂きますわ。
それでよろしいですわよね、フィル?」
「あ、はい、よろしいです」
「そっか。
でも遠慮しなくていいからね?
フィルも、アリスリーチェを助けられるか不安になったら代わってあげるよ。
いつでもボクに頼ってね?」
「あ、はい、頼もしいです」
「さて、それでは―――」
「うん、それじゃあ―――」
「「いざ、街へ」」
こうして、僕はキュルルとアリーチェさん、そして最大級の不安と共に、街へと赴くのであった。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!


美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる