勇者学園とスライム魔王 ~ 勇者になりたい僕と魔王になった君と ~

冒人間

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第3章

第7話 僕と指南役

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さて、そんなこんなで本日の模擬戦の結果はというと……

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「私の名はコリーナ=スタンディ!!
 得意系統は光魔法!!!
 そして『魔力値』は4500!!
 そう、最低レベルの『魔力値』の女!!
 こんな『魔力値』では『勇者』など夢幻か!?
 否!!!私は思った!!!
 これは却ってオイシイと!!!
 この『魔力値』……間違いなく学園で一番の最低値に違いない!!
 だがこれはむしろ主人公属性!!
『はっ!こんな雑魚みてぇな『魔力値』の奴が『勇者』なんて身の程を知りやがれってんだ!』
 そんな蔑みの目を周囲から向けられながらも、私は決して挫けることなく、その実力を開花させていく!!
 やがて私に向けられる視線は蔑みから驚愕と畏怖へと変わっていく!!
『そ、そんな馬鹿な!あいつは『魔力値』4500の落ちこぼれのはず!
 こ、こんなことがあり得る訳が……!!』
 そんな逆転成り上がりストーリーが展開されるはずだった……!!
 それが蓋を開けて見ればどうだ!!
 私より圧倒的な低『魔力値』が2人も!!
 おかげで周りが私を見る目は微妙そのもの!!
『まぁ、低いには低いけど……
 あの2人に比べればなぁ……
 別に馬鹿にする程でもないか……』
 こんな……こんな理不尽があっていいのか!?
 許さない……!!!
 私はお前達を絶対に許さない!!!
 食らうがいい……!!
 この《シャイニング・レイザー》を!!!!!
 私の怒りと悲しみと絶望を……お前に思い知らせてやるぅうううううううううううううううううううううううううううううううう!!!!」

「死ぬほど知ったこっちゃないんですけどおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「そこまで。
 勝者、コリーナ」

「フィル=フィール!!
 この程度で私の恨みが晴らせたなどと思わないことだ!!
 いずれまた会おうぞ!!」
「いやもう勘弁してください……」

こんな感じで、僕の戦績は散々たるものだった……

「きゅる~……フィル~……」
「ごめんねキュルル……
 僕は君と対等に戦うにはまだまだ全然実力不足だ……」

「しっかりしてくださいな。
 貴方はあのレディシュ=カーマインを破ったのですよ?」
「それも今にして思えばレディシュさんが一番最初の攻撃をまともに受けてしまったがゆえの結果だったんでしょうね……
 始めからあの人が本気で相手をしていたら多分勝負にもならなかったですよ……」

いくら衝撃に応じて重量が増す武器なんてものを出せるようになっても僕自身は相変わらずの貧弱体質……
戦闘経験も戦闘技術も今の学園の人達の中では最底辺だろう……

「いくら『エクシードスキル』を手に入れたと言っても……
 僕自身が実力を付けなきゃ『勇者』なんて夢のまた夢だ……」

『エクシードスキル』はあくまで『勇者』の前提というだけ。
そこから先は結局その人次第ということなのだ……

昨日は『エクシードスキル』の開花にあんなにも胸を熱くさせたというのに、今の僕はその時の感動がまるで嘘のように意気消沈してしまっていた……

「きゅる!!そんな顔しないでフィル!!
 フィルは絶対強くなるから!!
 ボク、信じてるもん!!
 いつか絶対ボクと対等に戦えるようになるって!!」
「そうですわよ、フィル。
 いつまでそのような情けない姿をいつまでも晒し続けるつもりですの?
 わたくしの生涯のライバルたるもの、常に上を見て実力の研鑽に努めるべきでしょうに」

「きゅる!!
 そうだよ!!
 いつかボクと戦うために!!!!!
 強くなろうよ!!!!!!」
「ええ!!そうですわ!!!
 わたくしのライバルとして!!!!
 強くおなりなさいな!!!!!!!!!」

「ボクと!!!!!!!!!!!!
 戦うために!!!!!!!!!!!」
「わたくしの!!!!!!!!
 ライバルとして!!!!!!!!」

「分かった分かった分かりました!!
 もう弱音は吐きませんからどうかその辺で!!」

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

そんなわけで活動時間終了後……
僕は広場に残り、自己鍛錬に努めることとしたのだ。

といっても、僕は筋肉は付かない体質だし、体力の向上も望めない以上、体捌きだとか技の駆け引きだとか、格闘、戦闘技術を鍛える方向に向かわざるを得ないのだけど……

「どうしても指南役が必要になるよなぁ……」

僕はついぼやいてしまった。

「はい!!ボクがアドバイスするよ!!
 あのねあのね!!身体の大きな子を相手にするときはね!!
 自分の身体を蛇みたいに長く変形させればいいんだよ!!
 攻撃を避けやすくなるし、身体で相手を拘束しちゃえるんだ!!」
「ありがとうキュルル。
 僕が流動性の身体を手に入れたら参考にさせてもらうね」

「フィル!
 うちのカキョウからなら、きっといい指南役になれますことよ!」
「ええ!お任せください!
 我が家に代々伝わる秘伝の修行法『修羅地獄道七夜巡り』をこなせば必ずや見違えるほどの成長を遂げられましょう!」
「あのもう名前からして嫌な予感しかしないのでこの土下座に免じてどうか勘弁してくださいお願いします」

はてさてどうしよう……
と、そんな時――

「おい、そこのスライム!!」

この声は――!

「ミルキィさん!!」
「その名前で呼ぶんじゃねぇ!!
 後ろの名前で呼べ!!」

昨日はキュルルに、今日はカキョウさんに見事な敗北を喫した大柄生徒、ミルキィ=バーニングさんであった。

「おいテメェ今俺の事かなり最悪な印象で思い描きやがっただろ……
 言っとくけど昨日も今日も俺の戦績自体は上位なんだぞ!!」
「あ、いや、その、すいません!
 僕の記憶内ではどうしても見事なフラグ回収の人って印象が強くて!」
「意味分かんねぇこと言ってんじゃねぇ!!!
 けどなんかスッゲェムカつくこと言われてんのが何故か分かる!!!!」

ミルキィ……もといバーニングさんは大斧を背に担ぎ、こちらへズンズンと歩を進めて来た。
さっき『そこのスライム』って声をかけたってことは、彼の目的は……

「今日こそそこの『魔王』に初日の借りを返してやる!!
 大人しく俺と勝負しやがれ!!」

どうやら再びのリベンジマッチをご所望のようだった。
ホント挫けない人だなぁ……

「んー。
 今はフィルへのアドバイスで忙しいんだよねー。
 身体を細長くする変形のコツとか教えなきゃだしー」
「いや、大丈夫だから。
 君のアドバイスは多分人類にはまだ早すぎると思うから」

僕はキュルルを諭し、バーニングさんの再戦要求に応えてあげるように言った。

「あの、出来れば一瞬で勝負がついちゃうような技は勘弁してあげた方がいいと思うんだ……」

勝つにしてもなんとか相手のプライドを傷つけないように出来ないか、僕は小声でキュルルに頼んでみた。

「んー!わかった!
 じゃ、今回も『人型フォルム』で戦うね!」

…………大丈夫かなぁ………

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「きゅーるるるるるるるるるるる!!!!!」
――ズガガガガガガガガガガガ!!!!!

「ぐああああああッッッ!!!」

「うおお!!『きゅるるるラッシュ』!!!
 なんて速さの突きラッシュなんだ……!!
 まるでキュルルの腕が何十本も生えているかのように見え……
 ん?いや、っていうか生えてる!!
 実際生えてるよアレ!!
 何だったら持て余した腕で余裕そうにキュルルンゼリー食ってるし!!!
 いつの間に持ってってたのキュルルーーー!?」

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「いやー、あのままボコボコにしてれば勝てそうだったし、どうせならその間にフィルの部屋で見つけたお菓子食べておこうかなーって。
 これとっても美味しいねー!!
 もっと貰ってもいいー?」

君の味だけどねソレ。

「………………………………………」

そしておやつ時間の片手間であしらわれたバーニングさんは体育座りをしながら何も言わなくなってしまった……

「あの、バーニングさん……」
「ミルキィでいい………」

うーん相当へこんでしまったようだ……

あ、そうだ!

「あの、ミルキィさん!
 僕の稽古をつけてくれませんか?」
「ああ?」

「僕、戦闘技術を学びたいんですけど、いい講師役の人がいないんです。
 ミルキィさんは多分僕なんかよりも戦闘経験豊富ですよね?
 どうかご指南頂きたいんです!」

ミルキィさんの気を紛らわすついでに、僕自身の問題も解決出来れば一石二鳥だ。

「何言ってやがんだ……
 なんで俺がよりによってあのスライムとべったりなオメェなんかに稽古してやらなきゃ……」
「お願いします!
 僕、どうしても強くなりたいんです!
 キュルルと対等に戦えるぐらい、強く!」

「あのスライムと対等に……?」
「そうです!僕もいつか、あの子と戦う約束をしているんです!
 そのキュルルに何度も挑む心意気を持つ貴方だからこそ!
 僕は貴方に鍛えて貰いたいんです!」
「………………………………………」

ミルキィさんはキュルルンゼリーと美味しそうに頬張るキュルルを一瞥した。

「俺のこの様を見て、よくそんなこと言えるよな。
 本気であの『魔王』と戦えるようになるつもりか、って意味でも……
 こんな俺なんかによく稽古をつけて貰おうなんて気になったな、って意味でも……」
「あの……ダメでしょうか……?」

ミルキィさんは少し溜息をつくと、ゆっくり立ち上がった。

「3度もぼろ負けした奴に鍛えられるんだ。
 強くなれなかった、なんて言われても責任取れねぇぞ」
「えっ、それじゃあ……!」

「とっとと広場に来やがれ。
 そのヒョロヒョロの身体に俺の戦闘技術を叩きこんでやるよ」
「あっ……ありがとうございます!!」

僕は全力で頭を下げてお礼を言った。

やった!
これで一歩前進だ!

「話は聞かせてもらったぜ」

「えっ?」

突然また別の声が聞こえて来た。

「貴方は……ヴィガーさん?」
「そうだよ、テメーに見事敗北したヴィガー=マックスだよ」

とげとげしいワイルドな髪型の男の人は、確かに模擬戦で僕の最初の相手となった、ヴィガー=マックスその人だった。

「いや敗北したって言っても、アレはとても実力によるものでは……」
「ああ全く、盤外戦術もいいとこだったよアレは。
 けどな、周りは内容なんか気にせず結果しか見ねぇもんだ。
 テメーが負けっぱなしだと、それに負けた俺の評価もどんどん下がっていくんだよ」

ヴィガーさんは全く理不尽極まりない、とでも言いたげに眉をひそめながらこちらへと歩いてくる。

「俺は『勇者』になるんだ。
 周りの誰もが俺を称え崇めるような『勇者』にな。
 だからテメーがいつまでも弱っちいままじゃ俺が困るんだよ。
 俺の『箔付け』の為にもテメーにゃ意地でも強くなってもらうぜ」
「えーっと、つまり?」

「俺もテメーを鍛えてやるっつってんだよ!
 言っとくが俺も模擬戦じゃ上位の戦績だぜ?」
「え、あ、ありがとうございます!」

まさか模擬戦上位戦績2名から鍛えて貰えるなんて!

「このガキ確か午前中の活動でスゲェ結果出してたらしいけど、結構周りから一目置かれてたんじゃねぇのか?」
「それがコイツの評価ってかなり微妙でなぁ……
 確かにとんでもねぇ『力』持ってるみてぇけど、見るからに貧弱だし、実際すぐぶっ倒れるみてぇだし、強ぇのか弱ぇのか分かんねぇって感じなんだよな」

ミルキィさんとヴィガーさんがそんな会話をする。
なんとも言い難い所だけど、今の僕には『力』に実力が伴っていないのも事実だ。

だからこそ、この2人の助力はとてもありがたいものだ。

「で、始める前にだ!!!
 テメーはもっとまともな形状の武器を考えろ!!
 それが出来ねーと俺は鍛えてやんねーからな!!」
「はっ、はい!わかりました!
 えーーーっと……
 あっ!『泡だて器』!!!」
「よし分かった俺はもう帰る」
「ちょっと待ってぇえええええええ!!!!」


そんなこんなで、僕に戦闘技術指南役兼友達が出来たのだった。
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