勇者学園とスライム魔王 ~ 勇者になりたい僕と魔王になった君と ~

冒人間

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第3章

第2話 黒鋼岩と肉たたき

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「うおおおおおああああ!!!」

―――ゴッッッッ!!!!

「っ~~~………!!
 ど、どうだ!!??」

―――パラパラ……

「っか~~っ!!
 全っ然だめだぁ~~!!」
「こんなもんどうやってぶっ壊せってんだよ……」

勇者学園2日目、午前中の学園活動……
破砕力判定テスト。

広場には人の大きさ程の真っ黒な岩の塊が並べられていた。
この岩は『黒鋼岩』と呼ばれる鉱石らしく、自然界に存在するモノの中でも指折りの硬度を誇る岩石とのことだ。

この『黒鋼岩』を砕くこと。
それが今回の活動内容であった。
方法はどのような手段でもよく、学園側からは鉄製の大槌やツルハシなどを用意されており、どれも自由に使ってよいとのことだった。
しかし、どれ程の筋肉自慢が渾身の力で大槌を『黒鋼岩』に叩きつけようと、その黒い塊はびくともしなかった。

「対ゴーレムの戦闘訓練も兼ねてる、って言ってたけどよ……
 普通のゴーレムって、ただの土とか岩とかで出来てるんだろ?
 こんなのどう考えても想定ミスだろ……」
「一応環境によっては固い鉱石で出来た上位ゴーレムも存在するらしいけどな……
 ただもしこんなんで構成されたゴーレムが出来てきたら俺は真っ先に戦略的撤退を選ぶけどな。
 少なくとも正面から叩き壊そうなんて馬鹿の考えることだぜ」

そんな生徒達のボヤきの中―――

「きゅ~~る~~~!!!!」

ある『魔物』の声がその場の生徒達の耳を打った。
その声の方へと目を向けると――

「うおおっ!!??」

彼らは驚嘆の声を上げた。

その『魔物』の右腕が普段の数倍の大きさに肥大化しており、更にその腕の中から先の尖った石の数々が突き出していたのだ。
魔物はその右腕を高く掲げると―――

「回~~~転~~~~!!!」

その掲げた右腕が高速回転をし始める。

―――ダッダッダッ!!

そして、その状態のまま魔物は『黒鋼岩』へ向かって猛ダッシュをし――

「《スパイラル・パルヴァライズ》!!」

―――ギャリギャリギャリギャリギャリィ!!!

高速回転している右腕を、その黒い鉱石へと叩きつけた!
右腕と『黒鋼岩』の間で凄まじい音と火花が飛び散り、そして―――

「きゅーーるーーー!!!」

―――ギャリリリィィィ!!!

右腕を、振り抜いた。
魔物は『黒鋼岩』を通り過ぎ、そして後ろを向く。

そこには―――振り抜いた右腕大の穴が穿たれた『黒鋼岩』の姿があった……

「きゅる……
 もっとバラバラになると思ったんだけどなー。
 もう少し大きな腕にすればイケたかな。
 でもなー、ちょっと疲れちゃうしなー
 腕に組み込む石見つけるのも面倒くさいしなー」

などと、その魔物は両手を頭の後ろへと回し、この結果に対し不満げな声を出すのであった……

「………馬鹿がいたみてぇだな………」
「いやあれは流石に例外過ぎるだろ……」

2人の生徒は遠い目になりながらその光景を見ていた……
と、その直後――

「ん?また誰か挑戦するみたいだぞ。
 今度は誰が……」
「あ、アイツは……!」

その魔物が挑戦した場所の隣、まだ傷一つない『黒鋼岩』の前に、ある1人の生徒が立っていた。
その名は――

「確か……フィル=フィールだっけ……
 あの魔物と知り合いだとかいうガキか……」

あの衝撃的な入学日……黒いドラゴンと共に襲来した魔王を名乗る黒いスライム……
詳しいことは不明だが、あの少年はそのスライムと過去に繋がりがあるらしい。
そして、その少年にはもう一つ、生徒の注目を浴びる話題があった。

「あいつ、『魔力値』が100とか言うあり得ねー数値って話なんだっけか」
「いや、ぜってー嘘だって……
 普通死ぬだろソレ」

そう、本来なら死んでなければおかしい程の低『魔力値』の持ち主。
入学の日に実際にその数値を目にした者でなければ到底信じられない話である。

とにかく、色々と謎の多い少年ということであった……

「ただまあ……
 あの小せえ身体でこの『黒鋼岩』を一体どうすんだよ、って話なんだけどな」
「あいつ何も持ってねぇじゃん。
 まさか素手で砕こうってか?」

彼の年齢は15歳ということだったが、その見た目はどんなに贔屓目に見ても12歳辺りが精々といった所だ。
それほどまでに身体は小さく、見るからに体力はありそうにない。

「ま、あの身体じゃ大槌も碌に持てねぇんだろうけどな。
 ノミと木槌でも持ってコツコツ削っていくのが一番現実的じゃねーの?」
「ははっ!
 そりゃ一体何百年掛かれば終わるんだよ!!」
「いやいや!『何百』なんて掛かんねーよ!
 『何千』だろ!!」
「「あっはっはっは!!!」」

2人の生徒はその少年を見つつ、つい笑い話を初めてしまう。
その2人だけでなく、『黒鋼岩』の前に立つ少年を見た他の生徒達からも、クスクスと笑い声が出始める。
どう考えても、あまりに場違いな場所にその少年は立っているのだから。

「けどよ、なんか噂ではあのガキ、『エクシードスキル』に目覚めたとかなんとかって話もあるらしいぜ」
「はあ?んなわけねーだろ。
 仮にそうだったとして、今この場で何の意味が―――」


「【フィルズ・キッチン】」


「「あ?」」

突如、少年の口から謎の単語が飛び出した。
その少年は、いつの間にか木製の柄のようなものを手にしていた。

「《ミートハンマー》!!」

そして、その言葉と共に―――

―――グニニニュ!

「「うおわっ!?」」

木製の柄の先に―――黒い、四角いハンマーが形成されていった。

唖然とする生徒達を尻目に、少年はそのハンマーの柄を両手で握り……思い切り振りかぶると―――

「うおおおおおおおお!!!!!!!」

掛け声とともに……『黒鋼岩』に、渾身の力で叩きつけた!!!

―――ビキッ

何かがひび割れるような音がした――
その次の瞬間。


―――バッッッッッキャァァァァン!!!!!!!


『黒鋼岩』が―――
わずかな土台部分だけを残し―――
バラバラに砕け散った――――


「……………ふぅーーー……………」


少年の、胸をなでおろすような溜息の声が、妙に耳に残った。

その場の誰もが声を発することも出来ずに、目の前で起きたことを理解出来ずにいた。
静寂が満たしつつあるその空間に―――

「きゅっるーーーーー!!!!!!
 フィルーーーーー!!!!!
 凄い凄い凄ーーーーーーーーい!!!!」

一匹の魔物の、無邪気で喜びに満ちた声が響き渡る。

「ボクよりもずーっとバラバラにしちゃった!!
 フィルってばボクより強くなっちゃったんじゃない!!??
 もうボク達、あの日の決着つけちゃってもいいんじゃないかなー!!」
「ええっ!いや流石にまだ早いというか……!
 キュルルだって本気を出せばあれぐらい出来そうな感じだし……!
 まだまだ僕は―――」

「流石、と言った所ですわね、フィル」
「あっ、アリーチェさん!」
「ああんっ!?」

「まあ、わたくしのライバルたる者、これぐらいは出来て当然とも言えますわね」
「あはは……そういう風に言われると、中々プレッシャーに―――」

「おいキュらあ!!巻貝女!!!
 お前全然あの岩砕けてない癖に何話しかけてきてんだぁ!!
 今ここで喋っていいのはあの岩をバラバラにすること出来る奴だけだぞ!!」
「い、いやキュルル……
 別にそんな決まりはないし……
 それにアリーチェさんもあの高圧水流で結構削ること出来てた―――」

「やれやれ……あのような野蛮で力押しな方法しか取れないような者はその口から出てくる言葉もまた知性の低さがにじみ出ていますのね。
 フィル。貴方もこのようなモノに付きまとわれて大層苦労されていることでしょう。
 全く同情致しますわ」
「いやあの、アリーチェさん。
 僕の方法も割と、というか純然たる力押し――」

「んだとキュらあっ!!
 お前もあの岩みたいになりたいかぁ!?
 もしくはボクの《スパイラル・パルヴァライズ》に石の代わりに組み込んでやろうかぁああああああああああああ!!??」
「アナタこそわたくしの《エミッション・アクア》で精製する水の代わりにその身体を高圧で岩に叩きつけてあげましょうかぁああああああああああ!!??」
「どっちも酷い絵面になるから止めてぇええええええええええええ!!!!!」




「なあ………もっと精進しようぜ………
 俺達………」
「ああ………そうだな……………
 ぼやぼやしてると置いてかれるな………
 色々な意味で……………………」
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