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第2章
第16話 僕と黒い剣身
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「フィール……………さん………………?」
アリスリーチェは見た。
絶対に、逃げない。
フィルがその言葉を叫んだ直後―――
フィルが握っていた木剣の欠片……その柄の先。
存在しないはずの、『剣身』が現れたのを。
それは、どこかのスライムの体色を彷彿とさせる、『黒い剣身』であった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「『仮説』………?」
その言葉を発したのは、果たしてキュルルか、アリエスか。
リブラは、勿体ぶることなく説明を続けた。
「アリりん、覚えているかい?
フィーたんがここに来た時、私は彼を抱え上げてみただろう?」
「う、うん。
いきなり何をしているんだろう、って思ったけど……」
まぁ、この人にそんなことを思うのはもはや日常茶飯事なんだけどね………
アリエスはなんとか声に出すことを抑えた。
「フィーたんが食べたキュルルルンの欠片達は一切体外には排出されなかった。
ならばその欠片分、彼の体重は増しているはずなのではないか?」
「え?あ、それは……」
「一概には言えないが、その頃のフィーたんの年齢なら一日の食事の摂取量は、
大体500グラムから600グラムといった所かな。
それが10日間続いたとなると、数キロ単位での体重増加が起きているはずだろう」
リブラは腕を組み、「しかし……」と言葉を続けた。
「あの時抱き上げたフィーたんの体重は見た目相応……
いやむしろかなり軽いぐらいだった。
例の体質による筋力の足りなさなどを考えれば、
まぁ妥当なところではあるのだが………
キュルルルンの欠片によって増加するはずの重量は、一体どうしたというのだろうね?
いくら欠片達がフィーたんの身体を通常の状態に保とうとしているとはいえ、物理的に増したはずの重量をどのようにして消したというのか」
リブラは、謎かけでも与えるように声を発した。
「ええっと……うぅん………」
アリエスには、その答えが思いつかなかったようだった。
「私の『仮説』はね」
リブラは、にやりと笑みを浮かべて、言った。
「フィーたんの『魔法』の力ではないか、というものだ」
「えっ!?
で、でも……
フィル君に魔法の才能は無いって……」
「彼自身だけでは、な。
体内に宿るキュルルルンの欠片達の力を借りれば、不可能ではない」
「キュルルさんの欠片の力を借りる……?
キュルルさんの欠片が魔法を発動しているということ?」
「いや、フィーたんの身体の中にいる欠片達が魔法を使えるほどの自我を持っているとは考えにくい。
フィーたんの身体機能を保とうするのは本能のようなモノだろうからね。
魔法を発動しているのはあくまでもフィーたん本人だ。
彼が苦手としているイメージ力と形成力だが、『通常の自分』をイメージするのはごく普通に出来る、というかイメージするまでもないことだろう。
生まれた時からずっと付き合い続けている自分の身体なのだから。
キュルルルンの欠片達は形成力の方を手助けしていると思われるね」
「は、はあ……」
「フィーたんのあの低『魔力値』だが……
もしかしたらキュルルルンが魔力を捕食したというだけでなく、
普段から魔法を発動し続けている、というのも原因なのかもしれないな」
「そ、それで―――」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
絶対に、逃げない。
その言葉と共に、僕の身体から何かが湧き立つような、不思議な感覚がしたと思ったら――
僕の持っている木剣の柄の先に、『黒い剣身』が出現していた。
これは……一体………?
僕は、その剣身を見つめ、しばし呆然としていた………
しかし、今はそんな場合じゃないと気付く!
僕の視界の奥で、レディシュさんが剣を構え直す姿が見えた!!
よく分からないけど、今は………!!!
「うおああああああ!!!!」
僕は突如出現した剣を片手に、レディシュさんに向かって走り出す!!
「フィー……ル……さん………待っ………!」という後ろからの声が聞こえたが、僕はもう止まるつもりは無かった―――
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
黒い短剣……ダガーか?
あのガキ、いつの間にあんなもんを……?
まあ服の中に隠し持てなくもないサイズか……
ガキがその短剣片手に俺に向かって突撃してくる。
はッ!馬鹿が!!
勝負になるわけねぇだろうが!
一刀で首を跳ね飛ばしてやってもいいが……
なるべく正当防衛が成立するぐらいの、派手になり過ぎない程度の傷で殺しておきたいな。
よし……まずはあの短剣を弾き飛ばす。
あの剣は……どう見ても軽い
あの貧弱なガキが片手で容易に持ててやがる。
ひょっとしたら木製ってこともあり得そうなぐらいだ。
ガキが短剣を思い切り振り上げ、俺へと狙いを定める。
ったく素人丸出しだぜ……
俺は長剣を下段に構え、迎撃態勢を取った。
そして、ガキが短剣を袈裟斬りに振り下ろそうとする!
それに合わせ、下から掬いあげる様にガキの剣に狙いをつけ――
俺はガキの剣を弾き飛ばし―――!!
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「それで、フィル君が使っている魔法って……?」
「体重を通常状態に保つことが出来る、ということから推測するに―――
おそらく、『質量操作魔法』さ」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
―――ボギィィィン!!!!
「あ?」
剣を弾き飛ばした、という割にはやたらと鈍い音が鳴り響く。
俺の視界には、折れた剣が映った。
『俺の』折れた剣が………
そして、ガキの剣は止まることなく、俺の左肩口のプレートに当た――――
―――ゴッッッキャッッッ!!!!!!!!
俺に、とてつもない、衝撃が。
俺は、後方へ、吹っ飛―――
―――バキバキバギギギィィイイ!!!
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「え………?」
何が起きたのか、分からなかった。
僕の振り下ろした剣と、彼の長剣がぶつかったと思ったら――
彼の剣が、砕けた。
そしてそのままの勢いで、僕の剣が彼の鎧へと当たった瞬間――――
彼が、思いっきり吹っ飛んだ………
彼は物凄い勢いで『縦』に回転しながら、後方にある木々をなぎ倒していってしまった………
「フィ……フィール……さん……?」
後ろからも、アリスリーチェさんの困惑の声が聞こえる。
顔を見なくても、僕と同じ様な表情をしているのが容易に想像できた……
「い、今……なんか………」
僕は、右手に握っている『黒い短剣』をまじまじと見つめた。
彼の剣が当たった瞬間……
そして、彼の肩に当たった瞬間……
なにか……明らかに変な感覚がしたのだ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「がッ………はぁッ……!?
うぐ………ああああっ…………!?」
なんだ!?なんだ!?なんだ!?なんだ!?なんだ!?なんだ!?なんだ!?なんだ!?なんだ!?なんだ!?なんだ!?なんだ!?なんだ!?なんだ!?なんだ!?なんだ!?なんだ!?なんだ!?なんだ!?なんだ!?なんだ!?なんだ!?なんだ!?なんだ!?なんだ!?なんだ!?なんだ!?
一体何が起きたッ………!!!!
空と地面が交互に入れ替わる視界……十数本の木々をなぎ倒しながら吹っ飛んだ俺は、ガクガクと震えながら起き上がろうとする……
――ズキィィ!!
「がああああああっ!!!」
左肩がイカレていた。
飛んでもない激痛が走り、腕がプラプラとぶら下がる……
あれだけの勢いで吹き飛ぶ衝撃を受けたのだからそれも当然だ。
オリハルコン製の鎧を纏っていようが中身が無事でいられるはずがない。
吹っ飛んでる最中に首の骨が折れなかったのは奇跡と言っていいだろう……
「くっ……そがぁ……!!
あの……クソガキィ…………!!」
俺は、痛みを塗りつぶすほどの怒りを湧き起こし、あのガキの姿を探し―――
「はあああああ!!」
「っ!!!」
あのガキが、再び俺に向かって走ってくる!
あの黒い短剣を構えながら!!
「くぅ……!
ああああ……!」
あれは、あの剣はヤバイ!!
なにがなんだか分からないが、とにかくアレは何かがヤバイ!!!
「はあっ!!」
あのガキが、今度は横薙ぎに剣を振るう!
俺は、何とか握り続けていた折れた長剣で、攻撃を受け流し―――
―――ガキィィィィン!!
「ごあああああッッ!!!!」
受け流しきれず、俺は独楽のように回りながら、さっきよりかは短い距離を吹っ飛んだ。
もう……疑いの余地はない………!!
コイツの剣は……………!!!
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「この剣……物凄く軽いけど………
何かに当たった瞬間だけ、物凄く重くなる…!」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「質量操作……つまり、重い物を軽くしたり、逆に軽い物を重くしたり。
この力を彼が操れるようになれば、相当強力な武器になると思うのだがね」
アリスリーチェは見た。
絶対に、逃げない。
フィルがその言葉を叫んだ直後―――
フィルが握っていた木剣の欠片……その柄の先。
存在しないはずの、『剣身』が現れたのを。
それは、どこかのスライムの体色を彷彿とさせる、『黒い剣身』であった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「『仮説』………?」
その言葉を発したのは、果たしてキュルルか、アリエスか。
リブラは、勿体ぶることなく説明を続けた。
「アリりん、覚えているかい?
フィーたんがここに来た時、私は彼を抱え上げてみただろう?」
「う、うん。
いきなり何をしているんだろう、って思ったけど……」
まぁ、この人にそんなことを思うのはもはや日常茶飯事なんだけどね………
アリエスはなんとか声に出すことを抑えた。
「フィーたんが食べたキュルルルンの欠片達は一切体外には排出されなかった。
ならばその欠片分、彼の体重は増しているはずなのではないか?」
「え?あ、それは……」
「一概には言えないが、その頃のフィーたんの年齢なら一日の食事の摂取量は、
大体500グラムから600グラムといった所かな。
それが10日間続いたとなると、数キロ単位での体重増加が起きているはずだろう」
リブラは腕を組み、「しかし……」と言葉を続けた。
「あの時抱き上げたフィーたんの体重は見た目相応……
いやむしろかなり軽いぐらいだった。
例の体質による筋力の足りなさなどを考えれば、
まぁ妥当なところではあるのだが………
キュルルルンの欠片によって増加するはずの重量は、一体どうしたというのだろうね?
いくら欠片達がフィーたんの身体を通常の状態に保とうとしているとはいえ、物理的に増したはずの重量をどのようにして消したというのか」
リブラは、謎かけでも与えるように声を発した。
「ええっと……うぅん………」
アリエスには、その答えが思いつかなかったようだった。
「私の『仮説』はね」
リブラは、にやりと笑みを浮かべて、言った。
「フィーたんの『魔法』の力ではないか、というものだ」
「えっ!?
で、でも……
フィル君に魔法の才能は無いって……」
「彼自身だけでは、な。
体内に宿るキュルルルンの欠片達の力を借りれば、不可能ではない」
「キュルルさんの欠片の力を借りる……?
キュルルさんの欠片が魔法を発動しているということ?」
「いや、フィーたんの身体の中にいる欠片達が魔法を使えるほどの自我を持っているとは考えにくい。
フィーたんの身体機能を保とうするのは本能のようなモノだろうからね。
魔法を発動しているのはあくまでもフィーたん本人だ。
彼が苦手としているイメージ力と形成力だが、『通常の自分』をイメージするのはごく普通に出来る、というかイメージするまでもないことだろう。
生まれた時からずっと付き合い続けている自分の身体なのだから。
キュルルルンの欠片達は形成力の方を手助けしていると思われるね」
「は、はあ……」
「フィーたんのあの低『魔力値』だが……
もしかしたらキュルルルンが魔力を捕食したというだけでなく、
普段から魔法を発動し続けている、というのも原因なのかもしれないな」
「そ、それで―――」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
絶対に、逃げない。
その言葉と共に、僕の身体から何かが湧き立つような、不思議な感覚がしたと思ったら――
僕の持っている木剣の柄の先に、『黒い剣身』が出現していた。
これは……一体………?
僕は、その剣身を見つめ、しばし呆然としていた………
しかし、今はそんな場合じゃないと気付く!
僕の視界の奥で、レディシュさんが剣を構え直す姿が見えた!!
よく分からないけど、今は………!!!
「うおああああああ!!!!」
僕は突如出現した剣を片手に、レディシュさんに向かって走り出す!!
「フィー……ル……さん………待っ………!」という後ろからの声が聞こえたが、僕はもう止まるつもりは無かった―――
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
黒い短剣……ダガーか?
あのガキ、いつの間にあんなもんを……?
まあ服の中に隠し持てなくもないサイズか……
ガキがその短剣片手に俺に向かって突撃してくる。
はッ!馬鹿が!!
勝負になるわけねぇだろうが!
一刀で首を跳ね飛ばしてやってもいいが……
なるべく正当防衛が成立するぐらいの、派手になり過ぎない程度の傷で殺しておきたいな。
よし……まずはあの短剣を弾き飛ばす。
あの剣は……どう見ても軽い
あの貧弱なガキが片手で容易に持ててやがる。
ひょっとしたら木製ってこともあり得そうなぐらいだ。
ガキが短剣を思い切り振り上げ、俺へと狙いを定める。
ったく素人丸出しだぜ……
俺は長剣を下段に構え、迎撃態勢を取った。
そして、ガキが短剣を袈裟斬りに振り下ろそうとする!
それに合わせ、下から掬いあげる様にガキの剣に狙いをつけ――
俺はガキの剣を弾き飛ばし―――!!
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「それで、フィル君が使っている魔法って……?」
「体重を通常状態に保つことが出来る、ということから推測するに―――
おそらく、『質量操作魔法』さ」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
―――ボギィィィン!!!!
「あ?」
剣を弾き飛ばした、という割にはやたらと鈍い音が鳴り響く。
俺の視界には、折れた剣が映った。
『俺の』折れた剣が………
そして、ガキの剣は止まることなく、俺の左肩口のプレートに当た――――
―――ゴッッッキャッッッ!!!!!!!!
俺に、とてつもない、衝撃が。
俺は、後方へ、吹っ飛―――
―――バキバキバギギギィィイイ!!!
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「え………?」
何が起きたのか、分からなかった。
僕の振り下ろした剣と、彼の長剣がぶつかったと思ったら――
彼の剣が、砕けた。
そしてそのままの勢いで、僕の剣が彼の鎧へと当たった瞬間――――
彼が、思いっきり吹っ飛んだ………
彼は物凄い勢いで『縦』に回転しながら、後方にある木々をなぎ倒していってしまった………
「フィ……フィール……さん……?」
後ろからも、アリスリーチェさんの困惑の声が聞こえる。
顔を見なくても、僕と同じ様な表情をしているのが容易に想像できた……
「い、今……なんか………」
僕は、右手に握っている『黒い短剣』をまじまじと見つめた。
彼の剣が当たった瞬間……
そして、彼の肩に当たった瞬間……
なにか……明らかに変な感覚がしたのだ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「がッ………はぁッ……!?
うぐ………ああああっ…………!?」
なんだ!?なんだ!?なんだ!?なんだ!?なんだ!?なんだ!?なんだ!?なんだ!?なんだ!?なんだ!?なんだ!?なんだ!?なんだ!?なんだ!?なんだ!?なんだ!?なんだ!?なんだ!?なんだ!?なんだ!?なんだ!?なんだ!?なんだ!?なんだ!?なんだ!?なんだ!?なんだ!?
一体何が起きたッ………!!!!
空と地面が交互に入れ替わる視界……十数本の木々をなぎ倒しながら吹っ飛んだ俺は、ガクガクと震えながら起き上がろうとする……
――ズキィィ!!
「がああああああっ!!!」
左肩がイカレていた。
飛んでもない激痛が走り、腕がプラプラとぶら下がる……
あれだけの勢いで吹き飛ぶ衝撃を受けたのだからそれも当然だ。
オリハルコン製の鎧を纏っていようが中身が無事でいられるはずがない。
吹っ飛んでる最中に首の骨が折れなかったのは奇跡と言っていいだろう……
「くっ……そがぁ……!!
あの……クソガキィ…………!!」
俺は、痛みを塗りつぶすほどの怒りを湧き起こし、あのガキの姿を探し―――
「はあああああ!!」
「っ!!!」
あのガキが、再び俺に向かって走ってくる!
あの黒い短剣を構えながら!!
「くぅ……!
ああああ……!」
あれは、あの剣はヤバイ!!
なにがなんだか分からないが、とにかくアレは何かがヤバイ!!!
「はあっ!!」
あのガキが、今度は横薙ぎに剣を振るう!
俺は、何とか握り続けていた折れた長剣で、攻撃を受け流し―――
―――ガキィィィィン!!
「ごあああああッッ!!!!」
受け流しきれず、俺は独楽のように回りながら、さっきよりかは短い距離を吹っ飛んだ。
もう……疑いの余地はない………!!
コイツの剣は……………!!!
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「この剣……物凄く軽いけど………
何かに当たった瞬間だけ、物凄く重くなる…!」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「質量操作……つまり、重い物を軽くしたり、逆に軽い物を重くしたり。
この力を彼が操れるようになれば、相当強力な武器になると思うのだがね」
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