勇者学園とスライム魔王 ~ 勇者になりたい僕と魔王になった君と ~

冒人間

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第2章

第3話 僕と君との約束

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ここにいる生徒達の……模擬戦……!

今この場にいる者同士で……戦い合う……!
その言葉を聞いた時の周りの反応は様々だった。

いきなりの事態に戸惑う者、『上等だ』とでもいう様に拳を握りしめる者、何も言わず佇む者……

僕の反応と言えば、どちらかと言えば戸惑う者の方に近い。
僕の実力は、間違いなくこの中で最弱だろう。
誰を相手にしようと、まともな勝負と呼べるものになるのかも分からない。

でも………!
逃げるわけにはいかない……!

「まあ、そこまで気負わなくでもいい。
 別にここにいる者達の実力を競い合わせたいわけでもない。
 体力測定みたいなものとでも思ってくれ」

「体力測定?」

コーディスさん……もとい、コーディス先生の言葉に生徒一同が耳を傾ける。

「元々魔物の活性化に対抗して設立されたのがこの勇者学園だ。
 いずれは魔物の討伐活動をメインに行ってもらう予定ではあるが、まだまだ君達の実力も把握できていない状態だ。
 単なる正面戦闘だけでなく、魔法による戦闘、サポート能力や指揮能力に秀でた者などそれぞれ得意分野もあるだろう。
 まずはそれらをじっくりと測定し、十分に君達の戦闘能力を把握した上で今後の方針を決める。
 『自らの生命の保護には自らが責任を』とお触れに記してはいるがこちらとしても無駄に死人や怪我人を増やしたいわけでもないのだからな」

ということは、この模擬戦は……

「君達の肉体を使った単純な戦闘能力、身体能力の把握が主だった目的だ。
 魔物討伐の実践では1人だけで討伐に当たることなどまずなく複数人でのチームを組むことになる。
 ならば、単なる体力測定よりも生徒同士で手合わせする形式にした方がお互いの実力も把握しやすくなり、今後の為にもなるだろう。
 これはそのための模擬戦という訳だ」

な、なるほど……
少なくともここにいる人達でガチンコファイト!ということではないらしい。
僕は少し気が楽になった……

「昨日の騒動でだいぶ生徒数が減ったとはいえ流石に全員が全員と模擬戦を行うというのは現実的じゃない。
 これから何日かに分けて色々な形式で模擬戦を行ってもらい実力の差に応じてグループ分けを――」
「コーディス先生、少しいいかい?」

コーディス先生の説明を遮って1人の生徒が手を挙げた。
大柄で如何にも体力自慢と言った強面の男の人だ。
なんだろう……つい最近どこかで見たことあるような気もする……

「模擬戦の相手ってのはもう決めているのかい?」
「一応、昨日の『魔力値』検査の結果や受付で聞いた君達の略歴などから実力が近そうな者同士を我々の方で考えてはいるが、君達からの意見も取り入れ選定するつもりだ」

「だったらよぉ……」

その大柄な生徒はある人物……いや、ある『魔物』を睨みつけた。

「俺はそこの『魔王』様を希望するぜ」
「きゅる?」

突然名指しを受けたキュルルは自分を指差しながら疑問の声を上げた。

あ、そういえばあの人は……!
昨日の騒ぎの時、キュルルに向かって突撃して、魔物の群れに飲み込まれてしまった人達の1人だ……!
その目にはキュルルへの鬱憤がありありと感じられる。

どうやら……彼はこの機会にリベンジマッチを仕掛けたいようだ……
キュルルの実力は最も身に染みているだろうにその不屈さは中々に見習いたい所はある……

「どうだい?先生」
「ふむ、その生徒同士で異議が無ければこちらとしては構わないが……
 キュルル君、君はどうだい?」
「きゅっきゅる!ボク、別にいいよーー!」

キュルルはあっさりと快諾してしまう。
いいのかなぁ……あの大柄生徒には悪いけど昨日の有り様を見る限り結果は見えてるような気も……

「ああ、そうだキュルル君。
 この模擬戦を行うにあたり君にいくつか言っておかなければならないことがある」
「きゅ?なーに?」

「今回の模擬戦は単純な肉体を使った戦闘能力を見る為のものだ。
 その為、魔法の使用は禁止としている。
 まあ現時点で殆どの生徒は昨日の簡易魔導書の魔法以外使えないとは思うが。
 それで、君が昨日生徒達に見せたという自らの身体で魔物を再現するという技だが」
「きゅる?《ダイナミック・マリオネット》?」

「それ、魔法だから使っちゃダメだぞ」
「きゅる、そうなの?」
「えっ!?」

僕は思わず声を上げてしまった。
あれって、魔法だったの!?

「十数人もの生徒を飲み込むほどの魔物の群れを再現したそうだが明らかに今の君の体積を超えているだろう。
 おそらくは回復魔法による肉体再生の応用だ」
「そうだったんだー。全然気づいてなかった」

「元々スライムは再生能力に優れている魔物だからね。
 流動性の身体という特性と組み合わせて発現させたのだろう。
 勿論スライムなら誰でも出来るということでもない。
 君自身の才能とセンスの賜物だ」
「えへへー」

キュルルは照れながら頭をかく仕草をする。
ビジュアルにさえ目を瞑れば生徒を褒める先生という学園物の一幕だ……

「一部の魔物は魔法に類する『力』を振るうモノもいるというお話を聞いたことがありますが……
 まさかスライムが魔法を扱えるなんて……空恐ろしいことですわ」
「あ、アリスリーチェさん」

いつの間にか近くにいたアリスリーチェさんがキュルルを驚嘆と警戒の眼差しで見ていた。
やはり、この人はまだキュルルは得体のしれない魔物という認識を強く抱いているようだ……
最も、それはこの人だけに限った話ではないのだろうけど……

「んでも分かった!《ダイ・マリ》は使いません!」
「それともう一つ。
 君には『人型』を崩してはいけない、というルールも付け加える」

……?
それって……?

「うきゅるー?『ヒト型フォルム』のままで戦わなきゃダメってこと?」
「ああ、少し厳しいかとも思うが、元々この模擬戦は人間同士でしか想定していなかったからね。
 君もそれに合わせて欲しいんだ。
 少々理不尽かもしれないが、ご容赦願いたい」

「ん~~………」
「キュルル……!」

昨日の魔法は使えず、スライムの特性である流動的な肉体変化もダメ……
この条件はかなり痛手なはずだ……
いくらキュルルでも……

「きゅる!いいよ!
 『人間の形』でいればいいんだよね!」―ゴポ…
「キュルル!?」

「へっ、とんだサービス受けちまったなぁ……!
 悪りぃなてめぇら!俺が先に借りを返させてもらうぜ!」

大柄の生徒が昨日一緒に突撃した人達に勝利宣言のような声を掛け、それを聞いた人達は悔しげな顔をしている……

「キュルル……!
 この条件はちょっと……」
「きゅる!大丈夫だよ!フィル!
 約束するから!!」
「約束……?」

キュルルは何一つ憂うことなく、自信に満ちた声で言った。


「ボクはフィルと戦う時まで、他の人間には絶対負けないって!!」
「―――!!」


こうして……この勇者学園おける最初の学園活動が始まろうとしていた……
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