勇者学園とスライム魔王 ~ 勇者になりたい僕と魔王になった君と ~

冒人間

文字の大きさ
上 下
21 / 173
第1章

第14話 勇者になりたい僕と魔王になった君との第一歩

しおりを挟む
「きゅる………?
 全然強くなってない………?」
「はい………
 面目次第もございません………」

僕とキュルルは広場の入学者達や学園関係者達から離れた位置まで移動し、そこで話の続きを行うこととした。
広場の人達にはとりあえず、この魔物は自分の知り合いで、危険はないので安心してくださいと言っておいた。
いやまあ、誰一人として安心出来てる人はいないと確信できるけど。
ブラックネス・ドラゴンもそのままだし。

誰もが納得のいかない顔をしながら――特にアリスリーチェさんは「一体何がどうなっているのかきっちりご説明なさ―――」と興奮のあまりまた倒れ、お付きの人達に介抱されるという一幕があったが、とにかく今は2人だけで話がしたかった。

そして、誰も話を聞いてないであろう距離を確保し、改めて話を始めた。
まぁ、誰かがこっそり聞き耳立てている可能性は否定できないけど、もうそこは仕方ない……

そして、キュルルに僕の現状を説明した。
あの日から、僕が全くと言っていいほど成長していない事を………

「きゅる………」
「ごめん……本当に、言い訳しようもないよ……」

キュルルは僕の顔を見て、戸惑っているかのような、悲しんでいるかのような、そんな表情をしている。
ひょっとしたら、失望しているのかもしれない……
あの別れの日に、あれだけの啖呵を切っておきながらこの体たらくともなればそれも無理もないだろう……

でも………

「キュルル……僕はそれでも、まだ強くなることを諦めていないんだ」
「きゅ……?」

僕はキュルルの目から顔をそらさず、しっかり見据えながら、言う。

「この勇者学園は、『エクシードスキル』という人の身に宿る特殊な『力』を引き出す為の教育機関なんだ。
 そして、それを成長させ、『スーパー・エクシードスキル』という人類を遥かに超えた領域にまで昇華させたものを身に着けることで、『勇者』の称号を得られる」

僕は、胸に下げた柄だけの木剣を握りしめる。

「キュルル、僕はこの学園で、絶対にその『力』を身に着けて、『勇者』になる。
 そして、君との戦いの決着をつけるに相応しい強さを、必ず身に着ける」
「きゅるっ……!」

こんな言葉、信じてくれる訳がない。
あの時から5年も経って、未だにこんな様の僕なんかを、どうして信じられるだろうか。

だけど、それでも……!!

「だから、どうか、待っていて欲しい。
 いつか、君の前に再び立つ、その時を」
「………………………………………」

あまりにも都合がよすぎる願いだ、と自分でも思う。
嘘つき男!だとか、非難の言葉を浴びせられても仕方がないだろう。
……なんか恋人同士の別れ話みたいだな……とか思っちゃったのは流石に空気が読めなさすぎか。

「分かった……」
「!!」

キュルルからぽつりと言葉が聞こえた。
『分かった』……つまり………

「待つよ。
 フィルが強くなるまで。
 ボク、フィルのこと信じる」
「キュルル………!」

その言葉に僕は思わず涙が出そうになった。
感極まって抱きしめてしまいそうにもなってしまった。

「フィル!」
「うん!!」

キュルル……ありがとう……

僕は、いつか必ず、また君の前に…………!!


「だから、ボクもここに入学する!!!!!」
「うん!!!!」










……………………………うん??????









 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「という訳で!!
 ボク、この学園に入学したいのですがどうすればいいのでしょうか!!!」

「あ、はい、ではこの用紙に名前と年齢を………












 って!!!!!!!
 んなわけあるかァーーーーーー!!!!!!」

受付のお姉さんは用紙とペンを地面に叩きつけた。
見事なノリツッコミだった。

「フィールさん………
 一体全体何がどうなっているのか、納得のいくご説明を所望致しますわ……」

アリスリーチェさんが点滴を打たれ、見るからにグロッキーな状態で当然の質問を投げかける……

いや、僕だって全力で「どうしてこうなった」を叫びたいぐらいなんですけど……

「あの、キュルル?
 なんで、君まで入学を……?」
「きゅる!
 ボク、フィルが強くなっていくところ、見ていきたいの!」

「僕が、強くなっていくところ……?」
「うん!
 ボク、今までこう思ってたの。
 ボクとフィルはお互い別々の道で、お互い別々の場所で強くなって、そして十分に強くなってからじゃないと会っちゃダメなんだって」

キュルルは少し寂しそうな顔をして、空を見上げるように顔を上げた。

「でも、よく考えたらそんな決まりなんて、全然無いよね!
 ボクはフィルのそばで、フィルはボクのそばで、お互いにお互いが強くなっていくのを見ていって、お互いに十分強くなったってのが分かったら、その時に戦う!
 別にそれで、何も問題もないんだって!」
「それは、まあ、その………」

キュルルの言っていることは、まあ、分からなくもない。
ただ、それはお互い同じ場所に問題なく居られる人間同士とかの場合で、魔物であるキュルルが勇者学園に入学なんて……

「っていうか、キュルルは『魔王』なんだよね?
 『魔王』が勇者学園に入学ってどうなの……?」
「きゅる?
 『魔王』が勇者学園に入っちゃダメなの?なんで?」
「なんでって……」

いやだって『勇者』と『魔王』ってのは敵対しているもので……
いやでも、この国の『勇者』ってのは別に魔物を倒す人のことじゃないってこの前僕自身が言ってなかったっけ……?
じゃあ別に魔物が『勇者』になってもいいのか……?
そういやキュルルは僕の『勇者』かも、なんてなんかいい感じの雰囲気で僕言っちゃってたし……
じゃあ『魔王』は?
『魔王』についての定義はよく分かってないし……
なんかキュルルは魔物達を倒して認められたって話だけど……
あれ?魔物を倒して認められるってむしろこっちの方が従来の『勇者』っぽい……?
やばい、なんかもう混乱してきた……

「ねーー!ほらーー!入学させてーーー!!」
「いやいやいやいや!!
 どう考えても無理ですから!!!
 常識的に考えて無理ですからーーーー!!!」

僕の思考が哲学的な領域に突入し、頭から煙を出し始めてる間にキュルルは受付のお姉さんに詰め寄っていた。
お姉さんの悲痛な叫びが辺りにこだまする……

そんな時――――


「この騒ぎは一体どうしたことだ?」


とても耳障りのいい、綺麗な男の人の声が聞こえて来た。
僕らがそこに目を向けると……

「「「うおおおおっ!?」」」

皆一様に驚きの声を出した。

何せ、そこには巨大な真っ赤な蛇に身体をぐるぐる巻きにされている男の人が立っていたのだから……
蛇の胴体の太さは直径40センチはあり、体長はおそらく十数メートルはある。
それが男の人の胴体に巻き付いているものなのだからもう見た目はとんでもないことになっている。
シルエットだけなら頭と足が出る構造の巨大なボール型の着ぐるみを着ていると言わても納得されると思う。
ちなみにその人自身は非常に美しいウェーブのかかったブロンドヘアーを持つ美青年だった。
もう何というか、見た目とのギャップが凄まじいことこのうえない。

「ああっ!!
 コーディスさんっ!!
 貴方一体今まで何をしていたんですかっ!!」
「サニーちゃんと寝ていた」
「何言ってるんですかぁ!!!
『超』緊急警報を聞いてなかったんですかぁ!!!
 貴方はぁっ!!!!!」

「コーディスさん………?」

受付のお姉さんが呼んだその名に、僕は心当たりがあった。
まさか……

「コーディス=レイジーニアス!!??
 勇者一行の1人の!!??」

僕の言葉にその場がざわついた。
そう、勇者一行のメンバーの1人にして、僕が以前話した、この勇者学園設立における立役者……!

「きゅる………」

さっきまで他の入学者や学園関係者達などはまるで意に介さず楽しそうに喋り倒していたキュルルがこの人が現れてから急に静かになった。
まるで、この人を警戒しているかのように……!
あのブラックネス・ドラゴンを従えているキュルルが……!

「あのドラゴンとそこの人型の魔物はしっかり確認していたよ。
 だが殺意も敵意も全く感じなかったからね。
 大事にはならないと確信していたので二度寝しただけだよ」
「大事にならないわけないでしょおお………!!!
 広場中大パニックでしたよおおお………!!!」

お姉さんは頭を抱えながら悶絶している……
入学挨拶の時は勇者様にも振り回されてたし……
なんというか、苦労人だなぁ……この人……

「それで、今は一体何を騒いでいるんだい?」
「ああ、そうでした!
 実はこの魔物が無茶苦茶なことを……!」
「無茶苦茶なこと?」

コーディスさんはキュルルへと目を向けた。

「きゅる…!
 ボク、この学園に入学したいの!」
「ああもう!だから、そんな―――
「いいよ別に」
 ――こと許可できるわけが………」

…………今、お姉さんの台詞の途中でなんか聞こえたような………

「……あのう、コーディスさん?」
「きゅるっ!?
 ホントっ!!??」
「ああ、別に構わないよ。
 私が許可する。
 これで話は終わりかな?」
「きゅるーー!!
 ありがとーーー!!!
 やったよーー!フィルーー!!!」

キュルルが喜びながら僕の元へと移動してくる………
えっ、マジでいいの。

「いやいやいやいやいやいや!!!!!
 コーディスさんんんんんん!!??
 ちょっと待って貰えませんかねえええ!!??」
「ああ、そうだね、一応年齢資格は確認しておかないとね。
 君、年齢は?」
「きゅるっ!ボク5つ!!」
「うん、19歳以下だね。問題なし」

5つ?
あ、やっぱりキュルルって5年前僕と出会った時生まれたばっかりだったんだ。

「それでは君、後は『魔力値』検査をよろしく。
 私はもう一度寝てくる。
 おやすみ」
「いやちょっと待てやテメェゴラァアアアアア!!
 マジでいい加減にしとけよテメェらはよおおおおおおおおおおおお!!!!!」

もうお姉さんのキャラは完全に崩壊していた………



「きゅるーーー!!
 フィルーーー!!
 これからはボクと一緒!一緒ーー!!」



「ちょっとフィールさん!!!
 早くご説明なさってください!!!!!
 これ以上このわたくしを無視するなど許されるとでも思って―――」
―――ガタッ!!
「「「あっ」」」
―――ふらぁ~……パタン
「「「アっ、アリスリーチェ様あああ!!」」」



―――ザワザワ……ひそひそ……

「なんなんだあいつら……」
「ヤバイよ……あいつら絶対ヤバイ……」
「私……もう『勇者』諦めたほうがいいのかな……
 こんな奴らについていける気がしない……」
「お、俺はやめないぞ!こ、こんなことで諦めるもんか!」


















「『勇者』になるのって………
 大変なんだなぁ…………」













こうして、僕はこの勇者学園で『勇者』になる為の第一歩を踏み出した。

スライム魔王と共に―――――
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

処理中です...