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第1章
第11話 僕と……
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《 - エクスエデン校舎・第九天 - 》
「スー……スー……」
―――グオォォォーーーーーーン!!
―――グオォォォーーーーーーン!!
―――グオォォォーーーーーーン!!
「む………なんだ全く……喧しいな……」
ここは、天高くそびえる『元』魔王城……『現』勇者養成学園『エクスエデン』校舎の最上部付近。
『第九天』と称されるこの場所は限られた人物しか立ち入ることが許されない聖域だった。
そんな聖域に存在する部屋の中で、緊急事態を知らせる鐘の轟音によって心地よい眠りを妨げられ気だるげにベッドから半身を起こす男の姿があった。
「ん……この音は……確か……『超』緊急警報……」
男がそんなことを呟きながら何気なしに部屋に取り付けられた巨大な窓へと目を向けると……
―――ブァサァッ……!
あり得ないほどの巨体を持つ黒いドラゴンがすぐそばを横切っていった。
その全長は頭から尾までを測れば100メートルに及ぶであろうことは確実であり、胴体だけでも50メートルはある。
広げた翼は小さな街一つを飲み込めてしまうかのような長大さだった。
―――バサァァァ……!
そのドラゴンはそのまま降下していった。
そこは確か、今日この学園への入学者達が集まる広場があった場所のはずだ。
そして、そのドラゴンの背に人影のようなモノが見えた気がした。
「ま、いいだろう……寝直そう……
おやすみ、サニーちゃん……」
男はパタン、とベットに倒れ込んで再び寝息を立て始めた……
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「ブラックネス・ドラゴンだああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
誰かが発した叫びと共に、その場の誰もが上空へと目線を向けた。
そしてすぐに気付く。
空から迫る巨大な影に。
その黒き鱗に包まれた巨体に。
「なっ、なにっ!!なにアレぇ!?」
僕は裏返った声で、誰に問うでもない疑問を叫んでいた。
「ブラックネス・ドラゴン……!!
三大『危険域』ドラゴンと称されるこの大陸における最大警戒対象の魔物の一体ですわ……!!」
その疑問に答えてくれたのは奇妙なマスクを外したアリスリーチェさんだった。
なんとかまともに話が出来る程度には回復したようだ。
「あらゆる魔物の中でも最大級の硬度の鱗を持ち、古来より人類、魔物を問わず近づくもの全てを殺戮し尽くしたと言い伝えられており……
そのあまりの凶暴性に『魔王』すら手駒にすることを放棄したと言われておりますの……!!」
「ま、『魔王』すら手を出せなかった……!!??」
僕はかつての村が魔物に襲われた日を思い出した。
あの魔物達は全てが『魔王』に使役されている魔物だったという。
その中にはドラゴンの姿だってあった。
あの時の巨大なドラゴンは僕にとってあれ以上恐ろしいものなどこの世に存在しないだろうと思わせた。
だけど……その『魔王』すら恐れるドラゴンが今ここに存在する!!!
「なっ!なんでっ!!
なんでここにそんなドラゴンが!!??」
「わかりませんわ……!!
ブラックネス・ドラゴンは大陸西側、魔物の生存域内における自らのテリトリーから決して出ることはないとされているはずですのに……!!」
「アリスリーチェ様!!!
一刻も早くここから逃げ出さねば!!
お掴まりください!!」
褐色肌のお付きの人は緊迫した表情で叫ぶ。
「お待ちなさい!!
このドラゴンが街に出てしまったらどうするの!?
逃げ惑う人々を尻目にこそこそ避難しろとでも仰るつもり!?
わたくしは究極至高の『勇者』!!
初代勇者を超える『勇者』となる者でしてよ!!
ここで逃げ出すなどガーデン家の誇りが許しませんわ!!
逃げたいのなら貴女達だけで逃げなさい!!!」
「あ、アリスリーチェ様っ……!!!」
アリスリーチェさんはここに残り、あのドラゴンと戦うつもりでいるらしい。
でも、それはいくら何でも……!!
「アリスリーチェさん……!」
「心配なさらずとも、何の勝算もなくこの場に残り続ける程わたくしも愚かではなくてよ。
こういった場合における『備え』はありますの」
アリスリーチェさんは少し、何かを憂うような表情を見せた。
「『備え』……?」
「アっ、アリスリーチェ様!それは……!」
お付きの人が急に慌てだす。
一体何が……?
「それよりフィールさん。
貴方は早くお逃げなさいな。
初代勇者が仰っていたでしょう?
決して死ぬな、と。
死んでまで『勇者』になろうとするな……と」
「僕……は……」
周りを見ると殆どの入学者は悲鳴を上げながら逃げ出し、ここへ来るときに通った門へと向かっている。
あの門はかなり大きかったがそれでもこれだけの人数では流石にごった返していることだろう。
だが、逃げ出さずに戦う意志を見せている者も決して少なくはなかった。
それは、次世代の『勇者』を目指す者達……
ただの道楽ではない、本気で『勇者』を目指す者達……!
僕は……!
「僕も残ります。
ここで逃げたら、僕はもう『勇者』を名乗れない」
そして、もう二度と『あの子』に会えない。
何故かそんな予感がした。
「……それでこそ、ですわ。
わたくしにあれだけの大口を叩いて見せたのですから」
アリスリーチェさんは僕がそう答えることを当然のことのように思ってくれていたようだ。
こんな状況でありながら、僕はなんだか嬉しくて、はにかんでしまった。
お付きの人達も、もう何も言葉を挟まなかった。
覚悟を決めた表情で、何が何でもアリスリーチェさんに付き添い続けるつもりのようだ。
そして―——
―――ズオォォォ……!!
ドラゴンが広場へと降り立った。
「っ……!!」
僕も覚悟を決めたつもりだけど……
やはり、その巨体には圧倒される。
広大な広場もそのドラゴンからすれば丁度いい庭のように思えることだろう……
僕は、自身の暴れる心臓の音を聞きながら―――
「……グルルル………」
そのドラゴンがただ佇む様を見ていた……
「………?
動きませんわね……?」
そう……ドラゴンは広場に降りてくると、そのまま何もせず、ただ黙って4つの足を組み、座り続けるだけだったのだ……
一体………?
僕らがただただ困惑していると……
「――?
何かがドラゴンの頭上に……?」
アリスリーチェさんのそんな言葉に従い、ドラゴンの頭に目を向けると……
確かに何かが動いて―――あっ、落ちたっ!?
何かがドラゴンの頭上から落下してくる!
あれは……黒い、球体?
――――ドポンッ!
その物体が地面にぶつかる音が響き渡った。
しかし、どうにも変な音というか………なんか水っぽい?
その音の印象通り、落ちて来たものは液体だったようで、落ちた場所には巨大な真っ黒の水たまりが出来上がっていた。
まるで、そこに深い深い穴でも空いているかのようだ……
そう思えるほど、漆黒の水たまりだった……
それが一体何なのかと確かめに行きたい気持ちはあれど、目の前のドラゴンの存在に物怖じしてしまう……
他の入学者達も同じような気持ちなのか、近づきたいのに近づけない、そんな空気で満ちつつあった。
そして、誰かが意を決して動きだそうとしたその時―――
「うっ、うわああっ!!??」
その誰かが、叫び声をあげた。
無理もないだろう……その漆黒の水たまりから、人の頭が出てきたのならば。
まるで穴の中から人が外を伺っているかの様にも見えるが、そうではない。
真っ黒な液体によって人の頭が形成されたのだった。
そして、その頭から下がどんどん形成されていき、完全な人の形が出来上がる。
それは真っ黒な身体の、髪の長い人間の女性の形をしていた……
「なっ、なんですかっ!あれっ!!」
僕はブラックネス・ドラゴンを見た時と同じ……あるいは、それ以上の困惑の表情と感情で、思わずアリスリーチェさんへ疑問を投げかけていた。
「女性の形をした液体状の魔物………
まさか、ウンディーネ……?
いえ、アレは精霊……魔物とは別の存在……
それに、あんな体色は………」
アリスリーチェさんも明確な答えを出せずにいるようだ。
ブツブツと呟きながら、自らの知識にない魔物の存在に最大の警戒を抱いている。
その場の誰もが混乱と困惑の渦に飲み込まれつつある中……
「………………………………」
―――ズルズルズル……
「「「「!!!!」」」」」
その存在が動き出した。
近くにいた入学者達は即座に後方へと距離を取り、剣や棍棒、槍などを抜いたり、拳を構えたりと臨戦態勢を取った。
「み、皆さん!落ち着いて!
決して軽率な行動は控えて……!」
いつの間にか受付のお姉さんが入学者達の前へと立ち、冷静になるように呼び掛けていた。
気が付くと、周りには入学者達だけでなく、大人の姿も見えた。
この学園の職員か何か……いずれにせよ関係者に違いないだろう……
僕の『魔力値』検査の時に見た男の人の姿も見えた。
おそらくはここにいる入学者達よりも荒事には長けている人達なのだろうが、その誰もが緊迫の表情をしている。
やはりあの魔物は彼らからしても未知数……だからこそ、決して迂闊には動けないのだろう。
こちらのそんな状況はお構いなしに、漆黒の人型はこちらへズルズルと移動してきている。
人の形をしていながら一切足を動かさず、足首と一体化している水たまりが動くことによる移動方法は何とも不気味なものを感じてしまう……
そして、周りを入学者や大人達に囲まれた漆黒の『それ』はキョロキョロと頭を動かしだした。
まるで……何かを探しているかのようだ………
そんな行為すらも、よりこの場の緊迫感を高めていく要因となっていく。
そして―――
そんな緊張状態がピークに達した時―――
「う……うううう………!!!」
誰かのうめき声がその場に響き………
「うらああああああああ!!!!」
叫び声と共に、魔物へ向かって走りだした!!
「わあああああああああ!!!」
「うおおおおおおおおお!!!」
「でやああああああああ!!!」
そして、その声を皮切りに、まるで糸が切れたかのように―――
一気に数人、いや十数人の入学者達が突撃していく!!
「よっ、よしなさいっ!!
戻って!!!!」
そんなお姉さんの声は興奮状態の入学者達の耳には届かなかった。
その剣が、槍が、拳が、漆黒の魔物へと届く……
その直前―――
「うーーん、邪魔だなぁ」
「え?」
その魔物が………喋った。
そして、
「《ダイナミック・マリオネット》!!!!」
その言葉と共に……
―――ズォォオオオオ!!!!
突然、漆黒の魔物の群れが溢れでた!!
「「「「うわああああ!!!!????」」」」
ゴーレム、グリフォン、ガーゴイル、ドラゴン……
魔物に襲い掛かろうとしていた入学者達は突如出現した黒い魔物の集団の中に飲み込まれてしまった!!
なっ、なんだあれ!!
あんなに沢山の魔物一体何処から……
いや、違う、アレは……!
よく見ると魔物の集団からは細い管のようなものが伸びており、それはあの黒い女性型の魔物へと繋がっている。
アレはあの魔物が自分の身体で魔物を再現しただけで―――――
―――――――ん?
なんか僕………
いつだったかそんな光景を見たことあったような………?
そう確か、井戸の中で………
「スー……スー……」
―――グオォォォーーーーーーン!!
―――グオォォォーーーーーーン!!
―――グオォォォーーーーーーン!!
「む………なんだ全く……喧しいな……」
ここは、天高くそびえる『元』魔王城……『現』勇者養成学園『エクスエデン』校舎の最上部付近。
『第九天』と称されるこの場所は限られた人物しか立ち入ることが許されない聖域だった。
そんな聖域に存在する部屋の中で、緊急事態を知らせる鐘の轟音によって心地よい眠りを妨げられ気だるげにベッドから半身を起こす男の姿があった。
「ん……この音は……確か……『超』緊急警報……」
男がそんなことを呟きながら何気なしに部屋に取り付けられた巨大な窓へと目を向けると……
―――ブァサァッ……!
あり得ないほどの巨体を持つ黒いドラゴンがすぐそばを横切っていった。
その全長は頭から尾までを測れば100メートルに及ぶであろうことは確実であり、胴体だけでも50メートルはある。
広げた翼は小さな街一つを飲み込めてしまうかのような長大さだった。
―――バサァァァ……!
そのドラゴンはそのまま降下していった。
そこは確か、今日この学園への入学者達が集まる広場があった場所のはずだ。
そして、そのドラゴンの背に人影のようなモノが見えた気がした。
「ま、いいだろう……寝直そう……
おやすみ、サニーちゃん……」
男はパタン、とベットに倒れ込んで再び寝息を立て始めた……
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「ブラックネス・ドラゴンだああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
誰かが発した叫びと共に、その場の誰もが上空へと目線を向けた。
そしてすぐに気付く。
空から迫る巨大な影に。
その黒き鱗に包まれた巨体に。
「なっ、なにっ!!なにアレぇ!?」
僕は裏返った声で、誰に問うでもない疑問を叫んでいた。
「ブラックネス・ドラゴン……!!
三大『危険域』ドラゴンと称されるこの大陸における最大警戒対象の魔物の一体ですわ……!!」
その疑問に答えてくれたのは奇妙なマスクを外したアリスリーチェさんだった。
なんとかまともに話が出来る程度には回復したようだ。
「あらゆる魔物の中でも最大級の硬度の鱗を持ち、古来より人類、魔物を問わず近づくもの全てを殺戮し尽くしたと言い伝えられており……
そのあまりの凶暴性に『魔王』すら手駒にすることを放棄したと言われておりますの……!!」
「ま、『魔王』すら手を出せなかった……!!??」
僕はかつての村が魔物に襲われた日を思い出した。
あの魔物達は全てが『魔王』に使役されている魔物だったという。
その中にはドラゴンの姿だってあった。
あの時の巨大なドラゴンは僕にとってあれ以上恐ろしいものなどこの世に存在しないだろうと思わせた。
だけど……その『魔王』すら恐れるドラゴンが今ここに存在する!!!
「なっ!なんでっ!!
なんでここにそんなドラゴンが!!??」
「わかりませんわ……!!
ブラックネス・ドラゴンは大陸西側、魔物の生存域内における自らのテリトリーから決して出ることはないとされているはずですのに……!!」
「アリスリーチェ様!!!
一刻も早くここから逃げ出さねば!!
お掴まりください!!」
褐色肌のお付きの人は緊迫した表情で叫ぶ。
「お待ちなさい!!
このドラゴンが街に出てしまったらどうするの!?
逃げ惑う人々を尻目にこそこそ避難しろとでも仰るつもり!?
わたくしは究極至高の『勇者』!!
初代勇者を超える『勇者』となる者でしてよ!!
ここで逃げ出すなどガーデン家の誇りが許しませんわ!!
逃げたいのなら貴女達だけで逃げなさい!!!」
「あ、アリスリーチェ様っ……!!!」
アリスリーチェさんはここに残り、あのドラゴンと戦うつもりでいるらしい。
でも、それはいくら何でも……!!
「アリスリーチェさん……!」
「心配なさらずとも、何の勝算もなくこの場に残り続ける程わたくしも愚かではなくてよ。
こういった場合における『備え』はありますの」
アリスリーチェさんは少し、何かを憂うような表情を見せた。
「『備え』……?」
「アっ、アリスリーチェ様!それは……!」
お付きの人が急に慌てだす。
一体何が……?
「それよりフィールさん。
貴方は早くお逃げなさいな。
初代勇者が仰っていたでしょう?
決して死ぬな、と。
死んでまで『勇者』になろうとするな……と」
「僕……は……」
周りを見ると殆どの入学者は悲鳴を上げながら逃げ出し、ここへ来るときに通った門へと向かっている。
あの門はかなり大きかったがそれでもこれだけの人数では流石にごった返していることだろう。
だが、逃げ出さずに戦う意志を見せている者も決して少なくはなかった。
それは、次世代の『勇者』を目指す者達……
ただの道楽ではない、本気で『勇者』を目指す者達……!
僕は……!
「僕も残ります。
ここで逃げたら、僕はもう『勇者』を名乗れない」
そして、もう二度と『あの子』に会えない。
何故かそんな予感がした。
「……それでこそ、ですわ。
わたくしにあれだけの大口を叩いて見せたのですから」
アリスリーチェさんは僕がそう答えることを当然のことのように思ってくれていたようだ。
こんな状況でありながら、僕はなんだか嬉しくて、はにかんでしまった。
お付きの人達も、もう何も言葉を挟まなかった。
覚悟を決めた表情で、何が何でもアリスリーチェさんに付き添い続けるつもりのようだ。
そして―——
―――ズオォォォ……!!
ドラゴンが広場へと降り立った。
「っ……!!」
僕も覚悟を決めたつもりだけど……
やはり、その巨体には圧倒される。
広大な広場もそのドラゴンからすれば丁度いい庭のように思えることだろう……
僕は、自身の暴れる心臓の音を聞きながら―――
「……グルルル………」
そのドラゴンがただ佇む様を見ていた……
「………?
動きませんわね……?」
そう……ドラゴンは広場に降りてくると、そのまま何もせず、ただ黙って4つの足を組み、座り続けるだけだったのだ……
一体………?
僕らがただただ困惑していると……
「――?
何かがドラゴンの頭上に……?」
アリスリーチェさんのそんな言葉に従い、ドラゴンの頭に目を向けると……
確かに何かが動いて―――あっ、落ちたっ!?
何かがドラゴンの頭上から落下してくる!
あれは……黒い、球体?
――――ドポンッ!
その物体が地面にぶつかる音が響き渡った。
しかし、どうにも変な音というか………なんか水っぽい?
その音の印象通り、落ちて来たものは液体だったようで、落ちた場所には巨大な真っ黒の水たまりが出来上がっていた。
まるで、そこに深い深い穴でも空いているかのようだ……
そう思えるほど、漆黒の水たまりだった……
それが一体何なのかと確かめに行きたい気持ちはあれど、目の前のドラゴンの存在に物怖じしてしまう……
他の入学者達も同じような気持ちなのか、近づきたいのに近づけない、そんな空気で満ちつつあった。
そして、誰かが意を決して動きだそうとしたその時―――
「うっ、うわああっ!!??」
その誰かが、叫び声をあげた。
無理もないだろう……その漆黒の水たまりから、人の頭が出てきたのならば。
まるで穴の中から人が外を伺っているかの様にも見えるが、そうではない。
真っ黒な液体によって人の頭が形成されたのだった。
そして、その頭から下がどんどん形成されていき、完全な人の形が出来上がる。
それは真っ黒な身体の、髪の長い人間の女性の形をしていた……
「なっ、なんですかっ!あれっ!!」
僕はブラックネス・ドラゴンを見た時と同じ……あるいは、それ以上の困惑の表情と感情で、思わずアリスリーチェさんへ疑問を投げかけていた。
「女性の形をした液体状の魔物………
まさか、ウンディーネ……?
いえ、アレは精霊……魔物とは別の存在……
それに、あんな体色は………」
アリスリーチェさんも明確な答えを出せずにいるようだ。
ブツブツと呟きながら、自らの知識にない魔物の存在に最大の警戒を抱いている。
その場の誰もが混乱と困惑の渦に飲み込まれつつある中……
「………………………………」
―――ズルズルズル……
「「「「!!!!」」」」」
その存在が動き出した。
近くにいた入学者達は即座に後方へと距離を取り、剣や棍棒、槍などを抜いたり、拳を構えたりと臨戦態勢を取った。
「み、皆さん!落ち着いて!
決して軽率な行動は控えて……!」
いつの間にか受付のお姉さんが入学者達の前へと立ち、冷静になるように呼び掛けていた。
気が付くと、周りには入学者達だけでなく、大人の姿も見えた。
この学園の職員か何か……いずれにせよ関係者に違いないだろう……
僕の『魔力値』検査の時に見た男の人の姿も見えた。
おそらくはここにいる入学者達よりも荒事には長けている人達なのだろうが、その誰もが緊迫の表情をしている。
やはりあの魔物は彼らからしても未知数……だからこそ、決して迂闊には動けないのだろう。
こちらのそんな状況はお構いなしに、漆黒の人型はこちらへズルズルと移動してきている。
人の形をしていながら一切足を動かさず、足首と一体化している水たまりが動くことによる移動方法は何とも不気味なものを感じてしまう……
そして、周りを入学者や大人達に囲まれた漆黒の『それ』はキョロキョロと頭を動かしだした。
まるで……何かを探しているかのようだ………
そんな行為すらも、よりこの場の緊迫感を高めていく要因となっていく。
そして―――
そんな緊張状態がピークに達した時―――
「う……うううう………!!!」
誰かのうめき声がその場に響き………
「うらああああああああ!!!!」
叫び声と共に、魔物へ向かって走りだした!!
「わあああああああああ!!!」
「うおおおおおおおおお!!!」
「でやああああああああ!!!」
そして、その声を皮切りに、まるで糸が切れたかのように―――
一気に数人、いや十数人の入学者達が突撃していく!!
「よっ、よしなさいっ!!
戻って!!!!」
そんなお姉さんの声は興奮状態の入学者達の耳には届かなかった。
その剣が、槍が、拳が、漆黒の魔物へと届く……
その直前―――
「うーーん、邪魔だなぁ」
「え?」
その魔物が………喋った。
そして、
「《ダイナミック・マリオネット》!!!!」
その言葉と共に……
―――ズォォオオオオ!!!!
突然、漆黒の魔物の群れが溢れでた!!
「「「「うわああああ!!!!????」」」」
ゴーレム、グリフォン、ガーゴイル、ドラゴン……
魔物に襲い掛かろうとしていた入学者達は突如出現した黒い魔物の集団の中に飲み込まれてしまった!!
なっ、なんだあれ!!
あんなに沢山の魔物一体何処から……
いや、違う、アレは……!
よく見ると魔物の集団からは細い管のようなものが伸びており、それはあの黒い女性型の魔物へと繋がっている。
アレはあの魔物が自分の身体で魔物を再現しただけで―――――
―――――――ん?
なんか僕………
いつだったかそんな光景を見たことあったような………?
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