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第1章
第9話 僕と勇者アルミナ
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「やあ!!次世代の『私』達!!」
アルミナ=ヴァース。
かつて大陸の人類を恐怖の渦に陥れた魔王を打ち倒し、平和を取り戻した大英雄。
その顔立ちは見れば誰もが美人と称するものであったが、どこか大英雄らしからぬ幼さも見え隠れする。
まるで雪の様に真っ白な髪は腰の下あたりまで伸びており、それが風になびく様は何とも形容しがたい美しさだった。
身長は通常の成人女性よりは少し高いぐらいで、両腰には国王より正式に渡された国の紋章入りの二振りの剣が差してある。
一見すると、この人物が大陸を救った英雄だとはとても気付けないかもしれない。
しかし、この大陸に住む者ならば誰もがその存在を『勇者』と疑わない。
王都は勿論、街、小さな村に至るまで今や人が暮らす場所には例外なく彼女の像が建てられている。
彼女の精巧な挿絵付きの英雄譚を記した書物が至る所に配布されている。
彼女こそが、紛れもなくこの大陸の英雄、すべての人々の記憶に刻まれた『勇者』なのだ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「勇者様………!」
僕の口からは自然と声が漏れてしまっていた。
9年前のあの日、村で助けて貰った時に見た顔。
あの時は会話することすらままならず、ほんの少しの時間しか見れなかったが、それでもその顔は僕の記憶の中で焼き付いて離れない。
今、バルコニーの上に見えるその顔は、記憶の中にある顔より少しだけ大人びてはいるが、その髪色や力強い眼差しは寸分の狂いもない。
僕はその姿に様々な思いが呼び起され、ただただ見つめていることしか出来なかった。
「わぁ……!」
「本物だ………!」
「ふわぁ……キレイ………!」
「本当にあの本の絵そのままだ……!」
周りからも勇者様の姿を見れたことによる感動の言葉が自然と零れ落ちているようだった。
まるでその場で時が止まっているかのような空気の中―――
「さぁて!!!!」
「「「「!!!!」」」」
勇者様より発せられた大声により場の空気が一気に引き締められた。
僕は思わず直立不動となってしまう。
「皆にはこの学園で『勇者』になる為に様々な活動をしてもらうことになる。
詳細については追って知らせることとなるが……
その目的は『エクシードスキル』を身に着けること、というのは知っての通りだろう」
勇者様の言葉にこの場の誰もが心の中で頷く。
『エクシードスキル』を身に着け、『スーパー・エクシードスキル』へと昇華させること……
それこそがこの国における『勇者』の条件なのだから。
「正直言って、私は『勇者』にこのような定義付けなど不要だと思うのだが……
この国の方針にまで私が口出しするわけにはいかないからな。
どうにも煩わしさは感じるだろうが、皆には是非ともその目的の為に精進して欲しい」
その言葉に、僕はぐっと握り拳を作り、意気込んだ。
「さて、そんな『エクシードスキル』だが……
私のそれについては皆はもう存じているだろうか?」
勇者様の『エクシードスキル』……【インフィニティ・タフネス】
一切の休息を必要とせず、睡眠すら行わずに活動し続けることが出来る、というとんでもない力だ。
「皆は私の『エクシードスキル』を知った時……」
勇者様は腰に手を当て、肩を落とすと………
「正直ガッカリしたんじゃないか?」
「えっ」
そんなことを宣った。
「いやー、だってただ疲れなくなるだけだぞ?
あまりにも地味すぎるじゃないか!
もっとこう、目からビームを出せるとか、
手が巨大なドリルになるだとか、
派手で画面映えする能力は無いのかー!
と思わずにはいられないだろう!!
少なくとも私はそうだった!!」
「えっ、えっ」
いや別に地味だなんて、物凄い能力だと驚いたし、何だったら軽く引いたし。
っていうかビームとかドリルとかそういう概念あんの!?
それ言っちゃって大丈夫!?
勇者様の突然の発言に自分でもちょっと意味不明なツッコミを心の中に浮かべてしまった。
「まあ地味だけど便利ではあるんだよな、コレ。
リアル24時間働けます!!ってな!!
最初は誰もが遠慮がちに『休んでいいからな』『無理するなよ』って声をかけてくれるんだけど私が当たり前のように昼夜問わず1オペ営業出来るのを見続けると、すっかり慣れきってしまってもうあらゆる仕事を振ってくるようになるんだな!これが!!
『馬車馬の如く働く』という言葉があるがその上位互換として『アルミナの如く働く』という言葉で出来上がるかもしれんな!!
はっはっは!!!」
「えっと、あの、ちょっと」
永遠に使われることが無いことを祈る言葉だ……
っていうかなんだろう、うまく言えないけど、この人をこれ以上喋らせ続けるのはなんか物凄く危険な気がする。
「まぁしかし!ここに労働基準法はない!!
1日8時間労働規則なんてものも存在しない!!
何も気にする必要はないんだ!!
でも実際の所あれって本当に守られ―――」
―――――ゴッッッ!!!!!!
「「「「「「「あ」」」」」」」」
いつの間にか後ろに立っていた女の人が本の束で思いっきりぶん殴って勇者様を黙らせた。
あ、あの受付のお姉さんだ。
「えーっと、その、すみませんね!!
勇者様はその、テンションが上がるとですね!!
時々次元を超越したかのような発言をすることがあるんですけど!!
強い衝撃を与えるとすぐ元に戻るので!!
その、どうかお気になさらずに!!!!」
―――ガバッ
「はっ、私は何を……」
勇者様は何事もなかったかのように起き上がった……
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「いや、すまなかったな、皆。
どうも最近は『あの』状態になることが多くてな……
色々と怖がらせてしまったかな」
まぁ確かに色々な意味で怖かったですけど……
あの、本当に大丈夫なんですかね、勇者様?
肉体的な疲労はなくても精神的な疲労の方は?
あの真っ白な髪の色ってそういうことじゃないですよね?
僕や入学者達の胸の内には様々な思いがよぎっていたが誰も何も言わずにいた……
「さて、本当はもっと色々と話そうと思ってたんだが……
また『ああ』なるのもアレだしさっさと終わらせてしまおう。
そして、この学園に来てくれた皆に餞別がある」
「餞別?」
「皆に渡されている『魔力値』が書かれた用紙だがな。
実は簡易的な『魔導書』になっているんだ」
「えっ!?」
『魔導書』……たしか、その書物に書かれている『魔法名』を唱えるだけで誰でも魔法を使えるようになると言われているマジックアイテム……!
実際に見たことある人は殆どいないとされていて、とんでもない値打ちが付いているとかって話じゃ……!
「唱えるだけで、というのは流石に誇張が過ぎるがな。
魔力、イメージ力、そしてそれらを混ぜ合わせ、捏ね上げる力という魔法の基本要素は必要だ。
だが、1から学ばなくてもコツさえつかめば誰でも使えることは確かだ。
その分使えるのは非常に単純な効果ばかりだがな。
ちなみにどうやって作ったのかは企業秘密だ」
す、凄い……この一見何の変哲もない用紙が……
あ!確かに下の方をよく見るといつの間にか『魔法名』が浮かび上がってる!
「内容は非常に低出力な火、水、風、氷を指先から放出する、というものだ。
到底戦闘用には使えないがその分初めて魔法を使う者でも扱いやすく、唱えやすいはずだ。
この挨拶が終わったら本日はもう自由時間となるので、存分に効果を確かめてみてくれ」
うおおお……なんだかワクワクしてきた……!
……僕の『魔力値』のことがちょっと気がかりだけど……
「それでは、最後に私から皆に伝えておきたいことがある」
「「「「?」」」」
僕や入学者達はその言葉に顔を上げ、勇者様の顔をみた。
「皆、決して死ぬなよ」
「「「「「!!!!」」」」」
僕らは皆一様にその言葉に反応した。
「お触れにも書いてあったが、この学園では危険な活動もある。
時には命に関わるほどのな。
勿論、皆それを知った上でここに来たのだろうし、
そんなもの恐れはしない、と思っている者も多いことだろう……」
僕はアリスリーチェさんとの会話を思い出した……
あの時僕は、覚悟はある、と言おうとした……
「だが、これだけは知っていて欲しい。
『勇者』とはその名の通り勇気を持つ者……
でも、それだけじゃない」
勇者様は僕ら入学者全てを見渡して、言った。
「勇気を『与える』者でもあるんだ」
勇気を…………与える………
「その姿を見て、自らもまた動き出そう……
そう思えるほどの『勇気』を他者に与えることが出来る者……
それこそが真の『勇者』なんだ
だからこそ、『勇者』は決して負けない。
そして何より、絶対に死なない。
死んでしまえば、他者に与えるのは『勇気』ではなく、『恐怖』になってしまうだろう。
だから、決して死ぬな。
死んでまで『勇者』になろうなんて考えるな。
それは決して、『勇者』ではないのだから」
「………………………………………」
僕らは黙って勇者様の言葉に耳を傾けていた。
その言葉を胸の内へと刻み込んでいた……
「私からは、以上だ。
それでは、先程言った通りここからは自由時間となる。
それと、今後の予定だが、日が沈む頃にまたここに来てくれ。
お触れにも書かれていたことだが、ここにいる入学者全員分の部屋がこの校舎には用意されているからね。
それまで街で買い出しするなり、魔導書を試してみるなり、好きにしてくれ。
それでは……ふむ……」
……ん?
勇者様が何か思案するかのように顎に手を当てている……
どうかしたのだろうか?
「いやなに、これでもう挨拶は終了なのだが……
ただ普通にここから離れるだけ、というのも味気ないと思ってな。
折角だ!皆に私の魔法を一つお見せしよう!」
勇者様の……魔法!?
勇者様は目を閉じ、両拳を握ると―――
「《ヴァリアブル・コランダム-サファイア》!」
その『魔法名』と共に全身が光に包まれる!
そして―――
「わっ!!髪が!!」
勇者様の真っ白な髪が、鮮やかな青色へと変化したのだった!!
「別名『スピードフォーム』!
詳しいことは敢えて伏せるよ!
それでは、またいつの日か会おう!!
さらばだ!!次世代の『私』達!!!」
そういうと勇者様は―――――
―――――ボッッッッ!!!!!!
バルコニーから物凄いスピードで去っていった……!
いや、僕の目にはバルコニーから『消えた』という風にしか見えなかった……!
ただ、ものすごい勢いで風を切る音が聞こえたからそうではないかと思えただけで……!
「ああ、もうあの人はまた勝手に予定に無いことを……!
あの、皆さーん!
お話しした通りこれから夕刻まで自由時間でーす!!
もし、それよりも早く部屋に入室したいという希望がありましたら―――」
受付のお姉さんの声をどこか遠くに感じながら、僕は『勇者』という存在に改めて思いを馳せた。
なんかよく分かんない所とか、想像の斜め上な所とか沢山あったけど……
やっぱり……凄い人だった………
そして、最後に伝えられた言葉―――
『勇者』とは、勇気を『与える』者
確かに、僕は村を救ってくれた勇者様に憧れて、『勇者』を目指している。
だけど今、僕が『勇者』を目指す理由はもう一つ――
いつだって、あの日の誓いが、僕に勇気を与えてくれている。
なら――
「君も……僕の『勇者』なのかもね……
キュルル……!」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
《 ??? 》
「……………きた………」
「来たっ!!」
「フィルが、来たっ!!!!!」
―――――ブワサァッ…………!!
その時、巨大な影が大陸西側より飛び立った。
アルミナ=ヴァース。
かつて大陸の人類を恐怖の渦に陥れた魔王を打ち倒し、平和を取り戻した大英雄。
その顔立ちは見れば誰もが美人と称するものであったが、どこか大英雄らしからぬ幼さも見え隠れする。
まるで雪の様に真っ白な髪は腰の下あたりまで伸びており、それが風になびく様は何とも形容しがたい美しさだった。
身長は通常の成人女性よりは少し高いぐらいで、両腰には国王より正式に渡された国の紋章入りの二振りの剣が差してある。
一見すると、この人物が大陸を救った英雄だとはとても気付けないかもしれない。
しかし、この大陸に住む者ならば誰もがその存在を『勇者』と疑わない。
王都は勿論、街、小さな村に至るまで今や人が暮らす場所には例外なく彼女の像が建てられている。
彼女の精巧な挿絵付きの英雄譚を記した書物が至る所に配布されている。
彼女こそが、紛れもなくこの大陸の英雄、すべての人々の記憶に刻まれた『勇者』なのだ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「勇者様………!」
僕の口からは自然と声が漏れてしまっていた。
9年前のあの日、村で助けて貰った時に見た顔。
あの時は会話することすらままならず、ほんの少しの時間しか見れなかったが、それでもその顔は僕の記憶の中で焼き付いて離れない。
今、バルコニーの上に見えるその顔は、記憶の中にある顔より少しだけ大人びてはいるが、その髪色や力強い眼差しは寸分の狂いもない。
僕はその姿に様々な思いが呼び起され、ただただ見つめていることしか出来なかった。
「わぁ……!」
「本物だ………!」
「ふわぁ……キレイ………!」
「本当にあの本の絵そのままだ……!」
周りからも勇者様の姿を見れたことによる感動の言葉が自然と零れ落ちているようだった。
まるでその場で時が止まっているかのような空気の中―――
「さぁて!!!!」
「「「「!!!!」」」」
勇者様より発せられた大声により場の空気が一気に引き締められた。
僕は思わず直立不動となってしまう。
「皆にはこの学園で『勇者』になる為に様々な活動をしてもらうことになる。
詳細については追って知らせることとなるが……
その目的は『エクシードスキル』を身に着けること、というのは知っての通りだろう」
勇者様の言葉にこの場の誰もが心の中で頷く。
『エクシードスキル』を身に着け、『スーパー・エクシードスキル』へと昇華させること……
それこそがこの国における『勇者』の条件なのだから。
「正直言って、私は『勇者』にこのような定義付けなど不要だと思うのだが……
この国の方針にまで私が口出しするわけにはいかないからな。
どうにも煩わしさは感じるだろうが、皆には是非ともその目的の為に精進して欲しい」
その言葉に、僕はぐっと握り拳を作り、意気込んだ。
「さて、そんな『エクシードスキル』だが……
私のそれについては皆はもう存じているだろうか?」
勇者様の『エクシードスキル』……【インフィニティ・タフネス】
一切の休息を必要とせず、睡眠すら行わずに活動し続けることが出来る、というとんでもない力だ。
「皆は私の『エクシードスキル』を知った時……」
勇者様は腰に手を当て、肩を落とすと………
「正直ガッカリしたんじゃないか?」
「えっ」
そんなことを宣った。
「いやー、だってただ疲れなくなるだけだぞ?
あまりにも地味すぎるじゃないか!
もっとこう、目からビームを出せるとか、
手が巨大なドリルになるだとか、
派手で画面映えする能力は無いのかー!
と思わずにはいられないだろう!!
少なくとも私はそうだった!!」
「えっ、えっ」
いや別に地味だなんて、物凄い能力だと驚いたし、何だったら軽く引いたし。
っていうかビームとかドリルとかそういう概念あんの!?
それ言っちゃって大丈夫!?
勇者様の突然の発言に自分でもちょっと意味不明なツッコミを心の中に浮かべてしまった。
「まあ地味だけど便利ではあるんだよな、コレ。
リアル24時間働けます!!ってな!!
最初は誰もが遠慮がちに『休んでいいからな』『無理するなよ』って声をかけてくれるんだけど私が当たり前のように昼夜問わず1オペ営業出来るのを見続けると、すっかり慣れきってしまってもうあらゆる仕事を振ってくるようになるんだな!これが!!
『馬車馬の如く働く』という言葉があるがその上位互換として『アルミナの如く働く』という言葉で出来上がるかもしれんな!!
はっはっは!!!」
「えっと、あの、ちょっと」
永遠に使われることが無いことを祈る言葉だ……
っていうかなんだろう、うまく言えないけど、この人をこれ以上喋らせ続けるのはなんか物凄く危険な気がする。
「まぁしかし!ここに労働基準法はない!!
1日8時間労働規則なんてものも存在しない!!
何も気にする必要はないんだ!!
でも実際の所あれって本当に守られ―――」
―――――ゴッッッ!!!!!!
「「「「「「「あ」」」」」」」」
いつの間にか後ろに立っていた女の人が本の束で思いっきりぶん殴って勇者様を黙らせた。
あ、あの受付のお姉さんだ。
「えーっと、その、すみませんね!!
勇者様はその、テンションが上がるとですね!!
時々次元を超越したかのような発言をすることがあるんですけど!!
強い衝撃を与えるとすぐ元に戻るので!!
その、どうかお気になさらずに!!!!」
―――ガバッ
「はっ、私は何を……」
勇者様は何事もなかったかのように起き上がった……
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「いや、すまなかったな、皆。
どうも最近は『あの』状態になることが多くてな……
色々と怖がらせてしまったかな」
まぁ確かに色々な意味で怖かったですけど……
あの、本当に大丈夫なんですかね、勇者様?
肉体的な疲労はなくても精神的な疲労の方は?
あの真っ白な髪の色ってそういうことじゃないですよね?
僕や入学者達の胸の内には様々な思いがよぎっていたが誰も何も言わずにいた……
「さて、本当はもっと色々と話そうと思ってたんだが……
また『ああ』なるのもアレだしさっさと終わらせてしまおう。
そして、この学園に来てくれた皆に餞別がある」
「餞別?」
「皆に渡されている『魔力値』が書かれた用紙だがな。
実は簡易的な『魔導書』になっているんだ」
「えっ!?」
『魔導書』……たしか、その書物に書かれている『魔法名』を唱えるだけで誰でも魔法を使えるようになると言われているマジックアイテム……!
実際に見たことある人は殆どいないとされていて、とんでもない値打ちが付いているとかって話じゃ……!
「唱えるだけで、というのは流石に誇張が過ぎるがな。
魔力、イメージ力、そしてそれらを混ぜ合わせ、捏ね上げる力という魔法の基本要素は必要だ。
だが、1から学ばなくてもコツさえつかめば誰でも使えることは確かだ。
その分使えるのは非常に単純な効果ばかりだがな。
ちなみにどうやって作ったのかは企業秘密だ」
す、凄い……この一見何の変哲もない用紙が……
あ!確かに下の方をよく見るといつの間にか『魔法名』が浮かび上がってる!
「内容は非常に低出力な火、水、風、氷を指先から放出する、というものだ。
到底戦闘用には使えないがその分初めて魔法を使う者でも扱いやすく、唱えやすいはずだ。
この挨拶が終わったら本日はもう自由時間となるので、存分に効果を確かめてみてくれ」
うおおお……なんだかワクワクしてきた……!
……僕の『魔力値』のことがちょっと気がかりだけど……
「それでは、最後に私から皆に伝えておきたいことがある」
「「「「?」」」」
僕や入学者達はその言葉に顔を上げ、勇者様の顔をみた。
「皆、決して死ぬなよ」
「「「「「!!!!」」」」」
僕らは皆一様にその言葉に反応した。
「お触れにも書いてあったが、この学園では危険な活動もある。
時には命に関わるほどのな。
勿論、皆それを知った上でここに来たのだろうし、
そんなもの恐れはしない、と思っている者も多いことだろう……」
僕はアリスリーチェさんとの会話を思い出した……
あの時僕は、覚悟はある、と言おうとした……
「だが、これだけは知っていて欲しい。
『勇者』とはその名の通り勇気を持つ者……
でも、それだけじゃない」
勇者様は僕ら入学者全てを見渡して、言った。
「勇気を『与える』者でもあるんだ」
勇気を…………与える………
「その姿を見て、自らもまた動き出そう……
そう思えるほどの『勇気』を他者に与えることが出来る者……
それこそが真の『勇者』なんだ
だからこそ、『勇者』は決して負けない。
そして何より、絶対に死なない。
死んでしまえば、他者に与えるのは『勇気』ではなく、『恐怖』になってしまうだろう。
だから、決して死ぬな。
死んでまで『勇者』になろうなんて考えるな。
それは決して、『勇者』ではないのだから」
「………………………………………」
僕らは黙って勇者様の言葉に耳を傾けていた。
その言葉を胸の内へと刻み込んでいた……
「私からは、以上だ。
それでは、先程言った通りここからは自由時間となる。
それと、今後の予定だが、日が沈む頃にまたここに来てくれ。
お触れにも書かれていたことだが、ここにいる入学者全員分の部屋がこの校舎には用意されているからね。
それまで街で買い出しするなり、魔導書を試してみるなり、好きにしてくれ。
それでは……ふむ……」
……ん?
勇者様が何か思案するかのように顎に手を当てている……
どうかしたのだろうか?
「いやなに、これでもう挨拶は終了なのだが……
ただ普通にここから離れるだけ、というのも味気ないと思ってな。
折角だ!皆に私の魔法を一つお見せしよう!」
勇者様の……魔法!?
勇者様は目を閉じ、両拳を握ると―――
「《ヴァリアブル・コランダム-サファイア》!」
その『魔法名』と共に全身が光に包まれる!
そして―――
「わっ!!髪が!!」
勇者様の真っ白な髪が、鮮やかな青色へと変化したのだった!!
「別名『スピードフォーム』!
詳しいことは敢えて伏せるよ!
それでは、またいつの日か会おう!!
さらばだ!!次世代の『私』達!!!」
そういうと勇者様は―――――
―――――ボッッッッ!!!!!!
バルコニーから物凄いスピードで去っていった……!
いや、僕の目にはバルコニーから『消えた』という風にしか見えなかった……!
ただ、ものすごい勢いで風を切る音が聞こえたからそうではないかと思えただけで……!
「ああ、もうあの人はまた勝手に予定に無いことを……!
あの、皆さーん!
お話しした通りこれから夕刻まで自由時間でーす!!
もし、それよりも早く部屋に入室したいという希望がありましたら―――」
受付のお姉さんの声をどこか遠くに感じながら、僕は『勇者』という存在に改めて思いを馳せた。
なんかよく分かんない所とか、想像の斜め上な所とか沢山あったけど……
やっぱり……凄い人だった………
そして、最後に伝えられた言葉―――
『勇者』とは、勇気を『与える』者
確かに、僕は村を救ってくれた勇者様に憧れて、『勇者』を目指している。
だけど今、僕が『勇者』を目指す理由はもう一つ――
いつだって、あの日の誓いが、僕に勇気を与えてくれている。
なら――
「君も……僕の『勇者』なのかもね……
キュルル……!」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
《 ??? 》
「……………きた………」
「来たっ!!」
「フィルが、来たっ!!!!!」
―――――ブワサァッ…………!!
その時、巨大な影が大陸西側より飛び立った。
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