6 / 173
序章
第5話 僕と君との脱出
しおりを挟む
「うぐぐぐ……ぐぬぬぬぅ……うわっ!」
「きゅるるっ!」
―――ドチャア!
いつの日かと同じ落下音が、今日もまた井戸の中に響き渡った。
―――あれから10日間が過ぎた。
僕らはずっと脱出の挑戦を続けている。
井戸の壁を登り、力尽きて落ちる。
そんなことを何度も何度も繰り返していた。
無駄な努力だとは思わない。
繰り返す度に距離は増しているのだから!
「く……今日はどれくらい行けた!?」
「きゅるる!」
スライムが差した所は……
僕の背丈一つ分くらい先!
よし!とうとう僕の身長分は登れたぞ!!
…………むなしくない、むなしくない。
むしろ村で碌に木登りも出来ない僕がよくぞここまで!凄いぞ僕!
あと何年かかるのかとか考えない!!
「……とりあえず、食事にしようか……」
「きゅる」
僕がそう言うとスライムが髪へ纏わりつく。
じゅるる……という髪を溶かす音を聞きつつ、僕もスライムの身体に噛り付く。
スライムが僕の髪を食べる傍ら身体の一部を僕の顔の前まで伸ばしてくれているので僕らは同時に食事を取ることができた。
お互いにお互いを食べ合う……
この一見異常な状況も今となってはすっかり慣れたものだった。
あれから僕の髪を食べ続けたスライムは出会った頃よりかなり大きくなっていた。
最初は両掌サイズくらいだったのが今では両腕で抱えなきゃいけないぐらいだ。
その結果今は頭の上ではなく背中に張り付くようなスタイルになっている。
見た目程は重くないのが救いだ……
それと身体の色もすっかり変わっている。
半透明の白色から灰色に。
そこからどんどん黒色が増してきて今ではすっかり真っ黒だ。
黒い髪をずっと食べているからなのか……
まぁそういう生態なのだろう。
余談だが色が変わると共に味も変化した。
風味に若干の苦みが加えられていき、これはこれで美味しい。
おかげで食べ飽きることがないのでむしろありがたいぐらいだ。
夜はお互いに寄りそって眠っている。
というか僕がスライムに包まれて寝ている。
一体どういうことかというと……
今の季節は春先だがまだまだ夜は冷える。
僕が寒さに震えているのにスライムが気付くと僕の身体を包み込みはじめたのだ。
驚く僕をよそにスライムは僕の身体をすっぽり覆いつくした。
そして僕は気付いた。
身体の寒さが和らいでいるということに。
スライムは僕を粘液で包むことで身体を温めてくれているのだ。
最初の頃の小さな身体では僕の身体全てを包み込むのはかなり無理をしているように見えて、「そんなことしなくてもいいよ!」と断ろうとしたのだけどスライムは頑なに離れようとはしなかった。
結局僕としても夜の寒さはかなり堪えることになりそうなので、申し訳なさを感じながらも厚意に甘えることとした。
その分日中は精一杯壁登りに全力を出そうと心に決めたのだ。
ちなみに今は余裕をもって僕を包めている。
スライムの揺り籠は物凄く寝心地がいい。
これまでの人生で一番の快眠だった……
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「はぁ……はぁ……」
「きゅる……」
今日も今日とて成果なし……
初日と同じ様に僕は大の字で倒れ込んだ。
でも、絶対諦めたりはしない!
何度でも挑戦し続けるんだ!!
ただ……
「僕の髪……もうだいぶ短くなったね……」
「きゅるるる……」
そう。
地面スレスレぐらいまであった僕の髪はすでに肩の近くにまで来てしまっている。
このスライムの今までの食事量からして……
もって、後1、2回分。
「………………」
「………………」
タイムリミットは近い………
このまま僕の髪が無くなれば……
またこの前のようなことが起きるだろう……
すなわち……僕か、スライムか。
どちらが生き延びるのかの選択……
あの時は僕を食べさせてスライムを生き残らせるという選択肢だけだったけど、今は僕の方もスライムを食べるという選択肢がある……
多分そうなったら……お互いにお互いを生き残らせようとするのだろう……
何故かそんな確信があった。
「……諦めない」
「きゅる」
僕は握り拳を作る。
「僕たちは絶対に2人一緒に生き残る!!」
「きゅきゅるーー!!」
僕らは気合の雄叫びを上げる。
正直、心が挫けそうではある……
それでも、魂を震え上がらせ、立ち上がる。
壁の取っ手を掴み、僕は立ち上がる!
絶対に、ここを生きて出る―――!!
「……………………………」
「……………………………」
――ところで、僕は今何を掴んだのだろう?
僕達は無言のまま掴んだ物に目を向けた。
それは金属の棒。
コの字型の金属棒が壁に向かって横向きで突き刺さっている。
そして、それは上へ上へと…………
等間隔に並んでいる………………
これは、あれだね、うん。
梯子だ。
僕らが毎日必死に登ろうとしていた場所の後ろ側にそれはあった………………
「………………………………………」
「………………………………………」
僕らは何も言わなかった。
ひたすらに静寂がその場を満たし続けた。
そして、これまでの日々の思い出が頭の中を過ぎ去っていき―――
「やったね!!!!!
これでここから出れるよ!!!!!!!」
「きゅるるるるrrrrr!!!!!!!」
うんうん良かった!!!
万事解決!!!
ハッピーエンド!!!
はい、お話終わり!!!!!
いいね!!!!!!
「きゅるるっ!」
―――ドチャア!
いつの日かと同じ落下音が、今日もまた井戸の中に響き渡った。
―――あれから10日間が過ぎた。
僕らはずっと脱出の挑戦を続けている。
井戸の壁を登り、力尽きて落ちる。
そんなことを何度も何度も繰り返していた。
無駄な努力だとは思わない。
繰り返す度に距離は増しているのだから!
「く……今日はどれくらい行けた!?」
「きゅるる!」
スライムが差した所は……
僕の背丈一つ分くらい先!
よし!とうとう僕の身長分は登れたぞ!!
…………むなしくない、むなしくない。
むしろ村で碌に木登りも出来ない僕がよくぞここまで!凄いぞ僕!
あと何年かかるのかとか考えない!!
「……とりあえず、食事にしようか……」
「きゅる」
僕がそう言うとスライムが髪へ纏わりつく。
じゅるる……という髪を溶かす音を聞きつつ、僕もスライムの身体に噛り付く。
スライムが僕の髪を食べる傍ら身体の一部を僕の顔の前まで伸ばしてくれているので僕らは同時に食事を取ることができた。
お互いにお互いを食べ合う……
この一見異常な状況も今となってはすっかり慣れたものだった。
あれから僕の髪を食べ続けたスライムは出会った頃よりかなり大きくなっていた。
最初は両掌サイズくらいだったのが今では両腕で抱えなきゃいけないぐらいだ。
その結果今は頭の上ではなく背中に張り付くようなスタイルになっている。
見た目程は重くないのが救いだ……
それと身体の色もすっかり変わっている。
半透明の白色から灰色に。
そこからどんどん黒色が増してきて今ではすっかり真っ黒だ。
黒い髪をずっと食べているからなのか……
まぁそういう生態なのだろう。
余談だが色が変わると共に味も変化した。
風味に若干の苦みが加えられていき、これはこれで美味しい。
おかげで食べ飽きることがないのでむしろありがたいぐらいだ。
夜はお互いに寄りそって眠っている。
というか僕がスライムに包まれて寝ている。
一体どういうことかというと……
今の季節は春先だがまだまだ夜は冷える。
僕が寒さに震えているのにスライムが気付くと僕の身体を包み込みはじめたのだ。
驚く僕をよそにスライムは僕の身体をすっぽり覆いつくした。
そして僕は気付いた。
身体の寒さが和らいでいるということに。
スライムは僕を粘液で包むことで身体を温めてくれているのだ。
最初の頃の小さな身体では僕の身体全てを包み込むのはかなり無理をしているように見えて、「そんなことしなくてもいいよ!」と断ろうとしたのだけどスライムは頑なに離れようとはしなかった。
結局僕としても夜の寒さはかなり堪えることになりそうなので、申し訳なさを感じながらも厚意に甘えることとした。
その分日中は精一杯壁登りに全力を出そうと心に決めたのだ。
ちなみに今は余裕をもって僕を包めている。
スライムの揺り籠は物凄く寝心地がいい。
これまでの人生で一番の快眠だった……
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「はぁ……はぁ……」
「きゅる……」
今日も今日とて成果なし……
初日と同じ様に僕は大の字で倒れ込んだ。
でも、絶対諦めたりはしない!
何度でも挑戦し続けるんだ!!
ただ……
「僕の髪……もうだいぶ短くなったね……」
「きゅるるる……」
そう。
地面スレスレぐらいまであった僕の髪はすでに肩の近くにまで来てしまっている。
このスライムの今までの食事量からして……
もって、後1、2回分。
「………………」
「………………」
タイムリミットは近い………
このまま僕の髪が無くなれば……
またこの前のようなことが起きるだろう……
すなわち……僕か、スライムか。
どちらが生き延びるのかの選択……
あの時は僕を食べさせてスライムを生き残らせるという選択肢だけだったけど、今は僕の方もスライムを食べるという選択肢がある……
多分そうなったら……お互いにお互いを生き残らせようとするのだろう……
何故かそんな確信があった。
「……諦めない」
「きゅる」
僕は握り拳を作る。
「僕たちは絶対に2人一緒に生き残る!!」
「きゅきゅるーー!!」
僕らは気合の雄叫びを上げる。
正直、心が挫けそうではある……
それでも、魂を震え上がらせ、立ち上がる。
壁の取っ手を掴み、僕は立ち上がる!
絶対に、ここを生きて出る―――!!
「……………………………」
「……………………………」
――ところで、僕は今何を掴んだのだろう?
僕達は無言のまま掴んだ物に目を向けた。
それは金属の棒。
コの字型の金属棒が壁に向かって横向きで突き刺さっている。
そして、それは上へ上へと…………
等間隔に並んでいる………………
これは、あれだね、うん。
梯子だ。
僕らが毎日必死に登ろうとしていた場所の後ろ側にそれはあった………………
「………………………………………」
「………………………………………」
僕らは何も言わなかった。
ひたすらに静寂がその場を満たし続けた。
そして、これまでの日々の思い出が頭の中を過ぎ去っていき―――
「やったね!!!!!
これでここから出れるよ!!!!!!!」
「きゅるるるるrrrrr!!!!!!!」
うんうん良かった!!!
万事解決!!!
ハッピーエンド!!!
はい、お話終わり!!!!!
いいね!!!!!!
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!


美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる