4 / 173
序章
第3話 僕と君との異種族コミュニケーション
しおりを挟む
それにしても………
「君、一体なんでこんなところに……?」
「きゅ?」
膝の上のスライムが奇妙な鳴き声を上げる。
まあ聞いたところでスライムの言葉なんて分かるはずもないんだけど……
仕方ないので僕から話をすることにした。
「僕はさ、昔村が魔物に襲われた時、勇者様達に助けてもらったことがあってね」
「きゅきゅる」
スライムは僕の話に耳を傾けてくれている。
いやスライムの耳とか分からないけど。
「そんな勇者様に憧れて僕も人々の為に戦う勇者になろう……
なんて思ってここまで来たんだ。
ま……単純だよねー」
「きゅっきゅ」
スライムは思わずはにかんだ僕に合わせて笑ってるかのように身体をゆすっている。
「でもやっぱそう簡単にはいかないよね……
当たり前の話だけどさ……」
「きゅるう……」
今度は俯いたような動きだ。
僕が知らなかっただけで魔物ってこんな風にお話出来るものだったのかな。
なんか新しい友達でも出来たような気分だ。
僕は自然と自分のことについて語り始めた。
「僕さ……親がいないんだ。
僕が生まれた後に死んじゃったらしくて。
病気なのか、魔物とかに殺されちゃったのかは分からないんだけど」
「きゅ………」
「そんな僕を村の皆が育ててくれたんだ。
普段は村長の家で暮らしてるんだけど、毎日のように他の家にも泊まらせてもらったりしてね。
僕にとっては村の人達全てが家族みたいなものだった」
「きゅう」
「だからこそ……
あの日の勇者様には凄く感謝してるんだ。
僕の沢山の家族を1人残らず救ってくれて。
もし誰か1人でも死んでしまっていたら、僕はきっと立ち直れなかったと思う」
「きゅるる」
「僕もあんな風に誰かを救いたい……
そう思ってあの日から必死に身体も鍛えたんだけど……
僕、筋肉が付きにくい体質らしくてさ……
今でも畑のクワも碌に振れないんだ……」
「きゅるっきゅきゅきゅる!?」
『そんなんでこんな所来たの!?』とでも言いたげな鳴き声だ。
「あはは……まぁ、無茶だよねー…
村の皆にも話したんだけどね…
まぁ、なんというか、
皆やんわりと『いや無理でしょ』って感じの反応だった」
「きゅきゅきゅきゅる」
多分『そりゃそうだ』って言ってる。
「でもさ、それでも諦めきれなかった。
だから10才になった日に、決心したんだ」
「きゅきゅう?」
『なにを?』かな。
「僕の村から北側へ向かってずっと行くと結構大きな街があるんだけど、
その近くがこの辺の魔物との最前線って話を聞いてさ。
そこに行って僕も戦おう!ってね」
「きゅっきゅきゅる……」
『なんて安易な…』って言ってる気がする。
「村の皆には街に行って料理店とかのお手伝いをしたいって言ったんだ。
僕くらいの歳からでもちょっとした出稼ぎに行くことは珍しくなかったからね。
まあ、それでももっと村から離れてない所へ行くのが普通だし、非力な僕がそんな遠い場所に行くことにかなり不安だったみたいでね。
最初は中々許可してくれなかったんだけど……
『僕みたいなのが……
勇者になんてなれないだろうけど……
戦う人たちの支えになるぐらいなら……
きっと出来るって……
そう思ったんだ……
でも、そうだよね……
僕なんかに……
出来ることなんて……ないよね……』
って涙を浮かべながら言ったら皆号泣して馬車の手配までしてくれたんだ☆」
『きゅきゅきゅるきゅーきゅる』
『割と最低な事してるねキミ』かな、多分。
「そんなわけで僕はここに辿り着き現在に至る……ってわけ」
「きゅる……」
うーむ…話の最後のくだりでだいぶ見損なわれた気がするなぁ……
うんまぁ、無理もないけど……
「それで君は……」
「きゅるる」
うーん……どうしよ……
僕の話に対する反応だけならなんとなく予想は出来たんだけど……
流石に向こうから何を話しているかをこの『きゅるきゅる』から解読するのは……
「きゅ」
――ぽむん
「あっ、ちょっと」
スライムが僕の膝の上から離れてしまった。
いったい何を?と思っていると―――
「きゅきゅきゅきゅ……」
「うおおっ!?」
スライムの身体から細い管みたいなのが伸びてきた!
そしてその先っぽがぐにゅぐにゅと変形して何かの形を作り始めた!
これは……ドラゴン?
「きゅきゅきゅ~~……」
更にまた新たな管が伸び、今度は鳥のようなものが形作られる。
他にも数本の管が続けて伸びていき、先っぽには色々な生き物が……いや魔物が作られていく。
「これは……魔物の群れ……を表しているのかな……?」
「きゅきゅる!」
どうやら正しいらしい。
こんな器用なことが出来るとは……
僕がそんな風に感心していると、また新たな管の先に魔物が作られる。
それは……
「あっ、スライム」
「きゅ!」
4体ぐらいのミニスライムが管の先にまとめて作られた。
これは、スライムの集団を意味しているのかな?
そして、そのスライム集団に先ほどの魔物の群れがぐわあっ!と襲い掛かるような動きを見せた。
スライム達は怯えるように後ずさりをする。
まるで人形劇でもしているかのようだった。
「ええと、これはつまり……君たちスライムは他の魔物達から襲われている……
いや、いじめられている……?
どちらにせよかなり弱い立場にあると…」
「きゅきゅう……」
なんとなく鳴き声のトーンが低い。
この子はそういう立場を自覚しているということか……
そう思っているとスライム以外の魔物の姿が消えた。
いや、ほかの魔物達の姿が変わったのだった。
「あれ、今度はスライムだけ?」
「きゅう」
そう、多種多様な魔物の群れからスライム一種のみの群れへと変わってしまった。
「ん?これって……」
そのスライム集団の中に一際小さいスライムがあった。
他のスライム達とは離れた位置にそれは置かれている。
「もしかして……これ、君?」
「きゅきゅる」
多分肯定の『きゅきゅる』だ。
そしてその自分を模した小さなスライムが他のスライム達からぐわあっ!と襲われかける。
小さなスライムは後ずさる……まるで先ほどの魔物の群れが見せた動きがそのままスライムで再現されたかのようだ。
これが意味するところは……
「君は……立場の弱いスライム達の中で……更に弱い立場にあった……?」
「………きゅきゅる」
……立場が弱いものは更に立場が弱いものをいじめる……
なんて話を聞いたことがあるけど……
まさかそれが魔物という種族の中でも起きているなんて……
僕は他のスライムを見たことはないけど今見せてもらった人形劇の中でこの子はかなり小さく作られている。
まだ子供……というかもしかしたらまだ生まれたばかりな可能性もある。
そんな子がこんな……
僕が思わず黙り込んでしまっていると……
「きゅきゅきゅっ!」
「ん?」
気が付くとまた新たな管が出来ていた。
その先に作られている形は……
「人間?」
「きゅっきゅる!」
複数の人間、それといつの間にか先ほどの魔物の集団も再び作られており、にらみ合う様に左右に置かれていた。
これは……人間と魔物の衝突を表している…?
そんな両者の間を割る様に例の自分を模したミニスライムが現れる。
そして、スライムが人間達に向かって勢いよく飛び掛かった。
人間達は『ぴゅーん☆』という効果音でも付きそうな吹っ飛び方をし、小さくなって消えた。
ご丁寧に星になる演出を表現している。
ホント器用だ……
その後スライムが魔物達の方へ向き直る。
いや、スライムの向いてる方向なんて普通分からないんだけど繋がってる管の位置とかからそう判断。
魔物達はスライムを囲んで皆一様に頭を下げ始めた。
中心にいるスライムは踏ん反りかえりドヤ顔をしている……ように見える。多分。
つまりこれは…………
「人間達を自分1人で倒して、周りを見返してやろうとした……ってこと?」
「きゅっきゅ!」
ぽよん、とスライムが僕の膝の上に戻ってくると、意図がきちんと伝わったのが嬉しかったのか上機嫌な鳴き声を上げた。
なんというか……
「君は強いなぁ……」
僕はスライムを抱きしめながら呟いた。
「きゅきゅる?」
スライムは急に何を?とでも言うように疑問符を浮かべていた。
でもこの子は本当に強いと僕は思う。
同じ種族からも蔑まされるような境遇で決して挫けず、自分の道を突き進む。
そんなとても強い意志をこのスライムは持っているんだ。
僕は両親はいなくても村の皆が優しくしてくれて孤独を感じたこともなかった。
そんな僕からすれば周りが自分を貶めてくる環境なんて想像もできない。
これは魔物なら元来持つものなのか、それともこの子自身の強さなのか……
「なんか……君と比べたら自分がちっぽけに思えてくるよ……
身の程知らずな憧れだけを抱えて、
ろくな考えもなしで戦場にやってきて……
それで出来たことは情けなく必死に逃げることだけでさ……」
「きゅる…きゅるきゅきゅっきゅきゅる!」
腕の中のスライムが慌てて声を上げている。
これは……『それはこっちも同じだよ!』って感じかな……?
そういやこの子も僕と同じ様に木の陰に隠れていたんだっけ。
戦場に来たはいいけど、現実は厳しかったということか……
「ははは……
お互い、中々思い通りとはいかないね!」
「きゅきゅきゅ!」
僕らは顔を見合わせて笑い合う。
いやスライムの顔なんて――以下略。
そんな和やかな空気の中、僕は気が付いた。
外からの音が止んでいる……?
「外の戦いが………終わったのかな?」
「きゅきゅる……?」
少なくとも、この近くはもう戦場にはなっていないようだ。
ならもう安全か……?
「そういや僕たち一時休戦ってことにしてたんだよね……」
「きゅるきゅる……」
お互いに身の上話までしちゃって、すっかり打ち解けてしまった。
さっきみたいな戦いを続ける、というのはどうにも気が引ける感じはする。
ただ………
「…………」
「きゅ………」
僕らはこの場違いな戦場で出会い、互いに敵同士と認め合った。
この関係を切り捨ててしまうのも、なんとなく嫌だった。
「決着は、つけないとね!」
「きゅる!」
この子も同じ気持ちのようだ。
人間と魔物の殺し合いとかじゃなく……
お互いを認め合ったライバルとして!
「よし!!!
それじゃあここから出て戦おう!!!」
「きゅきゅるっ!!!」
そう!ここから出て!!
ここから!
ここから………
「………………………………………」
「………………………………………」
どうやって?
「君、一体なんでこんなところに……?」
「きゅ?」
膝の上のスライムが奇妙な鳴き声を上げる。
まあ聞いたところでスライムの言葉なんて分かるはずもないんだけど……
仕方ないので僕から話をすることにした。
「僕はさ、昔村が魔物に襲われた時、勇者様達に助けてもらったことがあってね」
「きゅきゅる」
スライムは僕の話に耳を傾けてくれている。
いやスライムの耳とか分からないけど。
「そんな勇者様に憧れて僕も人々の為に戦う勇者になろう……
なんて思ってここまで来たんだ。
ま……単純だよねー」
「きゅっきゅ」
スライムは思わずはにかんだ僕に合わせて笑ってるかのように身体をゆすっている。
「でもやっぱそう簡単にはいかないよね……
当たり前の話だけどさ……」
「きゅるう……」
今度は俯いたような動きだ。
僕が知らなかっただけで魔物ってこんな風にお話出来るものだったのかな。
なんか新しい友達でも出来たような気分だ。
僕は自然と自分のことについて語り始めた。
「僕さ……親がいないんだ。
僕が生まれた後に死んじゃったらしくて。
病気なのか、魔物とかに殺されちゃったのかは分からないんだけど」
「きゅ………」
「そんな僕を村の皆が育ててくれたんだ。
普段は村長の家で暮らしてるんだけど、毎日のように他の家にも泊まらせてもらったりしてね。
僕にとっては村の人達全てが家族みたいなものだった」
「きゅう」
「だからこそ……
あの日の勇者様には凄く感謝してるんだ。
僕の沢山の家族を1人残らず救ってくれて。
もし誰か1人でも死んでしまっていたら、僕はきっと立ち直れなかったと思う」
「きゅるる」
「僕もあんな風に誰かを救いたい……
そう思ってあの日から必死に身体も鍛えたんだけど……
僕、筋肉が付きにくい体質らしくてさ……
今でも畑のクワも碌に振れないんだ……」
「きゅるっきゅきゅきゅる!?」
『そんなんでこんな所来たの!?』とでも言いたげな鳴き声だ。
「あはは……まぁ、無茶だよねー…
村の皆にも話したんだけどね…
まぁ、なんというか、
皆やんわりと『いや無理でしょ』って感じの反応だった」
「きゅきゅきゅきゅる」
多分『そりゃそうだ』って言ってる。
「でもさ、それでも諦めきれなかった。
だから10才になった日に、決心したんだ」
「きゅきゅう?」
『なにを?』かな。
「僕の村から北側へ向かってずっと行くと結構大きな街があるんだけど、
その近くがこの辺の魔物との最前線って話を聞いてさ。
そこに行って僕も戦おう!ってね」
「きゅっきゅきゅる……」
『なんて安易な…』って言ってる気がする。
「村の皆には街に行って料理店とかのお手伝いをしたいって言ったんだ。
僕くらいの歳からでもちょっとした出稼ぎに行くことは珍しくなかったからね。
まあ、それでももっと村から離れてない所へ行くのが普通だし、非力な僕がそんな遠い場所に行くことにかなり不安だったみたいでね。
最初は中々許可してくれなかったんだけど……
『僕みたいなのが……
勇者になんてなれないだろうけど……
戦う人たちの支えになるぐらいなら……
きっと出来るって……
そう思ったんだ……
でも、そうだよね……
僕なんかに……
出来ることなんて……ないよね……』
って涙を浮かべながら言ったら皆号泣して馬車の手配までしてくれたんだ☆」
『きゅきゅきゅるきゅーきゅる』
『割と最低な事してるねキミ』かな、多分。
「そんなわけで僕はここに辿り着き現在に至る……ってわけ」
「きゅる……」
うーむ…話の最後のくだりでだいぶ見損なわれた気がするなぁ……
うんまぁ、無理もないけど……
「それで君は……」
「きゅるる」
うーん……どうしよ……
僕の話に対する反応だけならなんとなく予想は出来たんだけど……
流石に向こうから何を話しているかをこの『きゅるきゅる』から解読するのは……
「きゅ」
――ぽむん
「あっ、ちょっと」
スライムが僕の膝の上から離れてしまった。
いったい何を?と思っていると―――
「きゅきゅきゅきゅ……」
「うおおっ!?」
スライムの身体から細い管みたいなのが伸びてきた!
そしてその先っぽがぐにゅぐにゅと変形して何かの形を作り始めた!
これは……ドラゴン?
「きゅきゅきゅ~~……」
更にまた新たな管が伸び、今度は鳥のようなものが形作られる。
他にも数本の管が続けて伸びていき、先っぽには色々な生き物が……いや魔物が作られていく。
「これは……魔物の群れ……を表しているのかな……?」
「きゅきゅる!」
どうやら正しいらしい。
こんな器用なことが出来るとは……
僕がそんな風に感心していると、また新たな管の先に魔物が作られる。
それは……
「あっ、スライム」
「きゅ!」
4体ぐらいのミニスライムが管の先にまとめて作られた。
これは、スライムの集団を意味しているのかな?
そして、そのスライム集団に先ほどの魔物の群れがぐわあっ!と襲い掛かるような動きを見せた。
スライム達は怯えるように後ずさりをする。
まるで人形劇でもしているかのようだった。
「ええと、これはつまり……君たちスライムは他の魔物達から襲われている……
いや、いじめられている……?
どちらにせよかなり弱い立場にあると…」
「きゅきゅう……」
なんとなく鳴き声のトーンが低い。
この子はそういう立場を自覚しているということか……
そう思っているとスライム以外の魔物の姿が消えた。
いや、ほかの魔物達の姿が変わったのだった。
「あれ、今度はスライムだけ?」
「きゅう」
そう、多種多様な魔物の群れからスライム一種のみの群れへと変わってしまった。
「ん?これって……」
そのスライム集団の中に一際小さいスライムがあった。
他のスライム達とは離れた位置にそれは置かれている。
「もしかして……これ、君?」
「きゅきゅる」
多分肯定の『きゅきゅる』だ。
そしてその自分を模した小さなスライムが他のスライム達からぐわあっ!と襲われかける。
小さなスライムは後ずさる……まるで先ほどの魔物の群れが見せた動きがそのままスライムで再現されたかのようだ。
これが意味するところは……
「君は……立場の弱いスライム達の中で……更に弱い立場にあった……?」
「………きゅきゅる」
……立場が弱いものは更に立場が弱いものをいじめる……
なんて話を聞いたことがあるけど……
まさかそれが魔物という種族の中でも起きているなんて……
僕は他のスライムを見たことはないけど今見せてもらった人形劇の中でこの子はかなり小さく作られている。
まだ子供……というかもしかしたらまだ生まれたばかりな可能性もある。
そんな子がこんな……
僕が思わず黙り込んでしまっていると……
「きゅきゅきゅっ!」
「ん?」
気が付くとまた新たな管が出来ていた。
その先に作られている形は……
「人間?」
「きゅっきゅる!」
複数の人間、それといつの間にか先ほどの魔物の集団も再び作られており、にらみ合う様に左右に置かれていた。
これは……人間と魔物の衝突を表している…?
そんな両者の間を割る様に例の自分を模したミニスライムが現れる。
そして、スライムが人間達に向かって勢いよく飛び掛かった。
人間達は『ぴゅーん☆』という効果音でも付きそうな吹っ飛び方をし、小さくなって消えた。
ご丁寧に星になる演出を表現している。
ホント器用だ……
その後スライムが魔物達の方へ向き直る。
いや、スライムの向いてる方向なんて普通分からないんだけど繋がってる管の位置とかからそう判断。
魔物達はスライムを囲んで皆一様に頭を下げ始めた。
中心にいるスライムは踏ん反りかえりドヤ顔をしている……ように見える。多分。
つまりこれは…………
「人間達を自分1人で倒して、周りを見返してやろうとした……ってこと?」
「きゅっきゅ!」
ぽよん、とスライムが僕の膝の上に戻ってくると、意図がきちんと伝わったのが嬉しかったのか上機嫌な鳴き声を上げた。
なんというか……
「君は強いなぁ……」
僕はスライムを抱きしめながら呟いた。
「きゅきゅる?」
スライムは急に何を?とでも言うように疑問符を浮かべていた。
でもこの子は本当に強いと僕は思う。
同じ種族からも蔑まされるような境遇で決して挫けず、自分の道を突き進む。
そんなとても強い意志をこのスライムは持っているんだ。
僕は両親はいなくても村の皆が優しくしてくれて孤独を感じたこともなかった。
そんな僕からすれば周りが自分を貶めてくる環境なんて想像もできない。
これは魔物なら元来持つものなのか、それともこの子自身の強さなのか……
「なんか……君と比べたら自分がちっぽけに思えてくるよ……
身の程知らずな憧れだけを抱えて、
ろくな考えもなしで戦場にやってきて……
それで出来たことは情けなく必死に逃げることだけでさ……」
「きゅる…きゅるきゅきゅっきゅきゅる!」
腕の中のスライムが慌てて声を上げている。
これは……『それはこっちも同じだよ!』って感じかな……?
そういやこの子も僕と同じ様に木の陰に隠れていたんだっけ。
戦場に来たはいいけど、現実は厳しかったということか……
「ははは……
お互い、中々思い通りとはいかないね!」
「きゅきゅきゅ!」
僕らは顔を見合わせて笑い合う。
いやスライムの顔なんて――以下略。
そんな和やかな空気の中、僕は気が付いた。
外からの音が止んでいる……?
「外の戦いが………終わったのかな?」
「きゅきゅる……?」
少なくとも、この近くはもう戦場にはなっていないようだ。
ならもう安全か……?
「そういや僕たち一時休戦ってことにしてたんだよね……」
「きゅるきゅる……」
お互いに身の上話までしちゃって、すっかり打ち解けてしまった。
さっきみたいな戦いを続ける、というのはどうにも気が引ける感じはする。
ただ………
「…………」
「きゅ………」
僕らはこの場違いな戦場で出会い、互いに敵同士と認め合った。
この関係を切り捨ててしまうのも、なんとなく嫌だった。
「決着は、つけないとね!」
「きゅる!」
この子も同じ気持ちのようだ。
人間と魔物の殺し合いとかじゃなく……
お互いを認め合ったライバルとして!
「よし!!!
それじゃあここから出て戦おう!!!」
「きゅきゅるっ!!!」
そう!ここから出て!!
ここから!
ここから………
「………………………………………」
「………………………………………」
どうやって?
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!


美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※


反逆勇者の放浪記 ~人類から追放されて勇者を辞めた俺は、魔族の美人姉妹と手を取り合い、争いのない新しい世界を創る~
倉名まさ
ファンタジー
氷の大陸で魔王が目覚めてから十年。
人類と魔族との戦争は激化の一途をたどっていた。
物語の主人公、勇者マハトを中心に、人々は魔族に侵略された都市や領地を奪い返そうと戦いを繰り広げていたが、強大な力を持つ魔族相手に劣勢に立たされていた。
窮地を脱するため、マハト率いる勇者隊は今後の戦いを有利にする、とある街の奪還作戦を決行した。
決死の覚悟で街を取り戻そうとする勇者隊。
だが、彼らの戦いの裏では、別の計画が秘密裡に遂行されていた――。
地位も居場所も無くした一人の青年と、二人の姉妹が手を取り、
絶望の淵から見つけ出す一筋の希望の物語。
*主人公は人類規模で追放されますが、人類への復讐譚はメインテーマではなく、異種族(魔族)の姉妹との逃亡劇とラブロマンスを中心とした物語となります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる