勇者学園とスライム魔王 ~ 勇者になりたい僕と魔王になった君と ~

冒人間

文字の大きさ
上 下
3 / 173
序章

第2話 僕と君との出会い

しおりを挟む
「「「ウォオオオオォォォオオン!!」」」
「ぐああああああ!!!」
「下がれ!!ヘルハウンドの群れだ!!!
 囲まれたら終わりだぞおおお!!!」

「キシャァァアアアアアアア!!!」
「上だ!!ハーピィがいるぞおおお!!!」
「弓だ!!弓兵を寄こせぇええええ!!!」

「グオオオオオオオオオオオオオ!!!」
「ゴーレムだぁあああ!!」
「大槌持ってこい!!
 全員でかかるぞおおおお!!!」
「「「うおおおおおおおお!!!!」」」

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

うん、無理。

「いやいやいや!!
 諦めるな自分っ!!
 何のためにここまで来た!?」

木の影から戦いを見守っていた僕は思わず声を上げてしまった。
ここはかつての街まで大通りだったらしく、どうやらかなりの広範囲が戦場となっているようだった。

僕はというと………
道の脇に生い茂っている森の中に早々に逃げ込んでしまったのだった……
いやでもメッチャ怖い。
先程の震えがすっかりぶり返してしまった。
むしろ数段震えのレベルが上がっている。
今の僕がノコギリを握って木に押し当てれば勝手に切り進んでいくのではないかと思えるほどだ。

「ううぅ………
 こ、このままじゃだめだ……
 僕も、僕も戦わなきゃ……!」

そう意気込んで戦場を覗いてみるものの、やはりどう考えても僕が手を出せるような領域ではない……
勢い勇んで突撃しても嵐の中に舞う木の葉の如く命を散らしてしまうことは請け合いだ。

せめて……
せめて僕でも戦えそうな魔物がいれば……

そんなことを考えていると―――

――ガサガサ……

「ぱゅぃ!?」

すぐ近くの茂みからの物音に思わず発音不能な叫び声をあげてしまった。
僕は即座に冷静になり、木剣を構えた!
剣身部分を掴んでいたけど!!
そしてその音の元には――

「んん?これは……」

「きゅきゅるっ?」

なんか変な鳴き声を出すぷるぷるした半透明の白い物体が。
えっと、確かこれって――

「スライム……だっけ?」

魔物にあまり詳しくない僕でも名前だけは聞いたことがあった。
世界中に生息していて、基本的には弱い。
生息域によっては強力な毒や強酸を持つものもいるが通常の環境なら戦闘経験のない者でもほぼ勝てる。
ただし油断してると粘液で出来た身体で顔を覆われて窒息されてしまうこともあるので数が多い場合や体積の大きい個体などに注意、だったっけか……
でもどうやら目の前のスライムの周りに他の個体は見られないし大きさもかなり小さい。
背の小さい僕の膝下くらいしかないほどだ。

なんでこんな所に……?
僕が言えた義理じゃないけど……どう見ても場違いだ。
なんとなく震えてるような……まぁ元からぷるぷるしているだけかもしれないが。

「きゅきゅう……」

向こうは僕のことを見つめたまま動かない。
いや目が無いからホントに見てるのか分からないけど。
こちらを警戒しているのか……

「いや、でも……これなら……
 僕でも………?」

僕は剣を構え直しながらじりじりとスライムに近づいていく。
どうやら向こうも逃げ出す気はないようだ。
僕と同じくこちらへとにじり寄りはじめた。

お互いの距離が徐々に縮まっていく。
僕は思わずゴクリと唾を飲んだ。

そして――
その距離がほぼゼロにまで近づいた時――

「っ!やあああああ!!!」

僕は叫び声を上げながら剣を振り上げ、スライムに向けて渾身の一撃を放った!!

――ポコン
「うきゅる?」

軽快な音と共にスライムが僅かにへこんだ。

「………」
「………」

……気まずい沈黙がその場を満たした。

こ、これは……効いてるのかな……?
い、いや効いてる!
多分効いてる!
きっと効いてる!!
なんかこう、衝撃が内部へ向かってどうのこうので!!

そんな言い訳めいたことを考えていると――

「きゅきゅるっ!」
「!!」

向こうからの反撃が来る!!
その小さなぷるぷるの身体でこちらへ向かって飛びついてきた!!

――ぽよん
「いたっ!」

くぅ……痛い……!
枕を強めに投げられた時ぐらいに痛い……!
村の子供たちでお泊りした時の枕投げで集中攻撃を受け泣かされた時のことを思い出してしまう……!!

「………」
「………」

再びの沈黙……

いや、まだまだ戦いはこれから!!
今度はまたこっちからの攻撃だ!!

「てぇい!!」

先ほどと同じ様に剣を振り上げスライムに向かって振り下ろす!
だが今度は相手も攻撃を見切ったのか横へ飛んで避けた!!
くっ……やるな!!

――ベチャン!
「きゅっ!?」

あ、避けた拍子に木に当たっちゃった。
……なんかさっきの僕の攻撃よりもダメージを受けてるように見えるのは多分気のせいだろう。

「きゅる……きゅうぃっ!」

再び向こうからの攻撃!!
僕も避け――うおぉ!?

「だぁっ!?」

こけた!!痛ったい!!
でもそのおかげで攻撃を避けられた!!
多分そのまま攻撃受けた方が痛くなかったとか考えない!!!

「きゅべっ!」

あっ、向こうはまた木に当たった!
よし!これでダメージを受けた数は向こうの方が上か!

「…………………」
「…………………」

「うおおおおおお!!」
「きゅきゅるうううううう!!」

それはまさに一進一退の攻防!!
凄まじい剣技と強靭なアタックの応酬!!!
お互いに死力を尽くし合い、この戦いは激化の一途を―――



「ギャオォォォォォオオオオオオ!!!!」
「デス・レッドドラゴンだああああ!!!」
「こいつの炎を浴びちまったら燃え尽きるまで消えねぇぞ!!
 死んでも避けろおおおおおおお!!!!」
「『魔法師』を呼べ!!!
 風魔法で炎の向きを変えるんだ!!」
「おいやべぇぞ!!森に火がっ!!!」
「ええいくそっ!!
 爆発魔法で吹き飛ばして延焼を防ぐぞ!!
 全員離れろおおおお!!!」

「ひいいいいいええええええええ!!!」
「きゅるううううううううううう!!!」

僕らが低レベルな戦いを繰り広げている間に向こうの戦場は拡大していた!!
僕はスライムを脇に抱え猛ダッシュでその場を離れる!!
あっ、とっさに抱えちゃった。
いやそんなこと考えてる場合じゃない!!
早く逃げないと!!

―――ドオオオオオオオオオオン!!!

うおおお!!背後で物凄い音と振動が!!
さっきまでいた場所がどうなったのか恐ろしくてとても振り向けない!!!

「もっ!
 もう少し離れた所で戦おう!!ね!!」
「きゅい!!!」

腕の中でスライムがコクコクと首を縦に振るかのように動く。
こっちの言うこと理解できてるのかな……?
そんなことを考えながら走り続けていると―――

「あっ!ちょうどいい感じの広場が!
 よし!あそこなら―――」

―――バササ…

「ギョオオオオオオオオオオオオオ!!!」
「おい大変だ!!
 コッカトリスが出たぞ!!」
「何っ!?最優先で倒せっ!!!
 あいつの毒息で全滅しかねないぞ!!!」
「最大火力をぶっ放せええええええ!!!」

「よし、もっと離れよう!!!!!」
「きゅきゅるっ!!!!!」

これまでの人生で最大の全速力だった!
とにかく怪物の咆哮や恐ろしい爆発音から遠ざかろうと必死に走った!
でもどれだけ駆け回ろうがどこもかしこも戦闘戦闘戦闘の嵐!!
気が付かないうちにこの森一帯は既に戦いの場と化してしまっていたのだった!!
やばいやばいやばい!!
どうする?どうする!?

「あっ、あれは!」

僕の目にあるものが映った。
それは水が枯れ、廃棄された古井戸だった。
かつてここの近くにも村があったのだろう。
僕は何かを考えるよりも先にその井戸に向かって一目散に走った!
そして!

「うおあああああ!!!」
「きゅううううう!!!」

その井戸の中へ飛び込んだ!
井戸の深さとかはこの際考えていられない!

「うわあああああ!!!」
「きゅきゅううう!!!」

落下の感覚に僕は思わずスライムを強く抱きしめ叫び声をあげる。
その直後―――

―――ドチャア!

「いぎっ!!」
「きゅむっ!!」

…………どうやら井戸の底に着いたようだ。
結構な距離を落ちた気がしたけど幸運にも底に泥が溜まっていて衝撃を吸収してくれたようで大した怪我はしなかった。

「うえ……ぺっぺっ……
 泥が口に入っちゃった……」
「きゅるる………」

腕の中のスライムも無事のようだ。
いやスライムの怪我の具合とかいまいち分からないんだけど。

―――ドオオオオン……!!

「うおおお……………」
「きゅるう……………」

井戸の外では未だ激しい戦いが続いているようでここまで轟音が聞こえてくる。
でも、少なくともここなら巻き込まれることはないだろう……

「と、とりあえず一時休戦ってことで……」
「きゅい……」

スライムは素直に頷くような動作を見せた。
っていうかやっぱりこっちの言葉が分かるのか?このスライム……
とにかく外の音が止むまでここで大人しくしていよう、そうしよう……
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

処理中です...