勇者学園とスライム魔王 ~ 勇者になりたい僕と魔王になった君と ~

冒人間

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序章

第1話 僕と勇者と始まりの日

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《 とある野営地 》

「……」
―――ブルブルブルブル……

「おい」

「……」
―――ブルブルブルブル……

「おい、そこのクソ長ぇ黒髪のガキ!」

「……」
―――ブルブルブルブル……

「おい!!!」
「ブルルッ!?」
「擬音で返事してんじゃねぇよ!
 いい加減テメェそのブルブルを止めろ!
 気が散るんだよ!
 止まらねぇってんならさっさと帰れ!」

「わ、分かりました……
 もうブルブルはしません……」
「本当かぁ?ったくよぉ……」

「……」
―――ガタガタガタガタガタガタ……

「いやそうじゃねぇよ!!
 擬音の問題じゃねぇんだよ!!
 無駄に器用な真似してんじゃねぇ!!!」

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

光歴520年

超大陸『ヴァール』
この世界における最大の大陸であるこの地は、古来より延々と続く人類と魔物の争いの主舞台でもあった。
『ヴァール』におけるそれぞれの生存圏は東側が人類、西側が魔物とはっきり両断されており、有史以来その天秤がどちらかに傾くことは無かった。

だが、今より10年前……突如として『魔王』を名乗る強大な力と知性を持つ者が魔物の群れを統率し、人類に苛烈な攻勢を仕掛ける。
ほんの数年の間に『ヴァール』における人類の生存圏は当初の四分の一にまで減少し、もはや全面敗北も目前となったその時――

『勇者』が現れたのだった。

はるか遠くの地より来訪したとある一団、特にその長は並の人類をはるかに凌駕した力を持ち、瞬く間に魔物の軍勢を打ち破り人類の生存圏を取り戻し始める。
そして現在、大陸中心に築かれた魔王の牙城にまで勇者一行は辿り着こうとしていた。

いよいよ勇者と魔王の決戦が近づく中、人類と魔物の衝突は激しさを増し、戦況は混迷を極めていた―――

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「よ、ようやく『ブルブル』も『ガタガタ』も収まってきた……
 あの後『ドドドド』とか『ガガガガ』なんて音も出てきたけど……
 『グリョリョリョ』なんてのが出てきた時は一体どうなってしまうかと……」
「いやどういう身体してんだよテメェは」

僕の名前はフィル=フィール。
この超大陸『ヴァール』の南東部にある小さな村で生まれた、何の変哲もない人間の子供だ。
両親は僕が生まれた直後に亡くなったらしく、これまでずっと村の人達のお世話になって育ってきた。

そんな4年前のある日、僕らの村は魔王の軍勢による襲撃を受けた。
巨大なドラゴン、一つ目の巨人、人の体躯をした獣の群れ―――
殆ど村から離れたことのない僕は見たこともない怪物達を前にただ震えながら死を待つしかなかった――

そんな時――勇者一行が現れた。

勇者様達はあっという間に怪物の群れをやっつけてしまった。
そして僕らの無事を確認すると足早に次の魔物の襲撃を受けている場所へと駆け去っていったのだった。
お礼を言う暇もなかった僕はその去っていく後ろ姿を見ながら思った。

僕も……僕もなりたい……!
あんな風に、誰かを救う………勇者に……!

「――で、この大陸南東部における魔物との最前線であるここに来たと……」
「はっ、はいっ!!!僕もっ!!
 僕も皆さんと一緒に戦います!!!」

僕は剣を抱えながら目の前にいる筋骨隆々のおじさんに向かって声を上げた。
ここで僕も魔物と戦って不安におびえる人々を救ってみせる!

「坊主、お前年は?」
「10才です!!」
「帰れ」
「えっ!?」

僕は驚愕の顔を浮かべた。

「『えっ!?』じゃねえよ。
 テメェみてぇなガキ戦える訳ねえだろが」
「そ、そんなことありません!
 僕だって魔物と戦えます!!!」
「ほぉ、それじゃあお前今までに魔物を倒したことあんのか」
「ないです!!!!」
「帰れ」
「ええっ!?」

いやだってしょうがないじゃん!
あの日から一度も魔物と遭遇しなかったんだから!

「勇者一行が主要な村や街周辺の魔物を一掃したからなぁ」
「魔物と戦ってはいないけど大丈夫です!!
 僕はあの日から鍛えたんです!!!」
「そうか。
 ところで、お前の持ってるその剣よぉ」
「はい!」
「木剣だよな、どう見ても」
「はい!!
 鉄製の剣は重くて持てませんでした!!」
「帰れ」
「えええっ!!??」
「なんでさっきからそんな自信満々に答えられんだよテメェは」

うう……いやまぁ、そりゃ確かに僕、昔から力が弱くて村でも畑仕事とか全然出来なかったんだけど……
あ、でも物覚えは良かったから料理とかで役に立ってたよ!ごく潰しじゃないよ!
『あら~フィルちゃんウチにお嫁に来て欲しいわぁ~』って言われた時は軽く死にたくなったけど!

「そもそもよぉ、テメェみたいなガキ普通見張りで門前払いだろうになんでいんだ?」
「あっ、僕積み荷に紛れて侵入したんです!
 なんか入るのに検査やら何やらで色々面倒くさそうだったので!」
「てめぇら、摘まみだせ」
「「「はい」」」
「うわぁ!!いつの間に!!??」

後ろに立っていた兵士さん達に捕まる僕!!
うおお!こんな所で僕の勇者への道が閉ざされるわけには……!!

と、その時―――

「襲撃だぁぁぁーーーーーー!!!!!!」
「「「「!!!!!」」」」

物見やぐらからの大声と鐘の音が辺り一面に響き渡った。
僕と話していたおじさんや兵士さん達も一瞬で顔つきを険しくし、臨戦態勢に入る。
ついでに僕はその辺に放り投げられた。

「いてて……」
「おい坊主!
 テメェは今すぐ後ろの街まで走って戻れ!
 いいか!絶対についてくんじゃねぇぞ!」

おじさんが地面に突っ伏した僕に向かって叫ぶや否や襲撃が来たと思われる方向へと走り出した。
他の兵士さん達も彼に続いていく。
あっという間に野営地は僕一人だけになってしまった。

僕は………

「勇者に………なる!」

おじさん達が向かった先へと駆けだした。
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