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しおりを挟む俺の頭部の切り傷は、深いものではなかったそうで、すぐに傷は塞がった。
なんでも俺は木から落下し、頭を激しく打ち付けたのだという。
木に登るとは、一体どういう状況だったんだろうか。
「……本当に覚えていないんだな」
俺は風紀委員長に連れられて、身知らぬ部屋に入る。なんでもここは、俺と風紀委員長である相良の部屋なのだという。しかし見た事が無くて、俺はどうしていいのか分からない。だからおろおろとしていると、溜息をついた相良が、俺をソファに促した。
「元々この学園は、二人一部屋なんだ。ただし特権がある生徒は、専用の部屋を与えられる。だから俺は風紀委員長特権の一人部屋を別に与えられているし、お前も報道部部長として部屋を貰っていた。だからここは、一応規則で残っていただけの部屋だ。俺とお前は……この部屋で同室ではあったが、一緒には暮らしていたわけでは無い」
そう説明しながら、風紀委員長はインスタントのコーヒーを淹れてくれた。
「だが……今回は別だ。一人ではなにも分からないのだろう? 暫く面倒を見てやるから、ここで過ごすといい。くれぐれも問題を起こさず、静かにな」
風紀委員長はそう述べると、彼の分のカップをゆっくりと傾けた。
こうして、翌日から俺は、学園に復帰することになった。念のためだと言って、風紀委員長が俺の横を歩いている。そちらをチラチラと見ていたら、俺達の前に長身の生徒が立った。
「よぉ。記憶喪失になったって、本当か?」
ニヤリと笑った相手を見て、俺は困りながら小さく苦笑した。
「そうらしいんだ。だから……その、悪いな。お前の事も分からないんだ」
俺の声を聞くと、少し息を呑んでから、その相手が腕を組む。
すると俺と相手の間に、風紀委員長が入った。
「バ会長。体調不良の相手に絡むほど愚かだとは思わないぞ。即刻消えろ」
「なんだよアホ風紀。随分と過保護なんだな? いつもそこの報道部とは、険悪そうにしていたってのに。まるでネコとネズミみたいな感じだっただろ」
「煩い、黙れ――周藤、行くぞ」
風紀委員長が歩き出したので、俺はどうやら生徒会長らしき相手に会釈をしてから、風紀委員長を追いかける。すると後ろで声がした。
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