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―― 本編 ――
第35話 新しい知見
しおりを挟む「さて、澪。少し話がしたい。一緒に私の書斎に来てくれるかな?」
「ああ、分かった」
瑛に声をかけられて、澪は我に返った。そして昴の肩を安心させるように叩いてから、澪は立ち上がる。先に立ち上がった瑛が緋波に先導されて応接間を出たので、澪はその後に、絵山と久水と共に従う。昴のそばには火野が残った。
階段を上って瑛の部屋に行くと、瑛が澪以外は外で待つようにと述べたので、二人きりで中へと入ることになった。既にティーセットの用意はされていたので、瑛が手ずから紅茶を淹れる。そして澪の前に置いた。座ってそれを見ていた澪は、父が座り直したのを確認してから問いかける。
「父上いいのか? 人間の使用人なんて」
前例がないからと、再確認しようとした澪の前で、瑛がすっと眼差しを鋭くし、口元だけに笑みを湛えた。
「――【黒薔薇病】の治療薬となる体の持ち主を、みすみす手放す方が愚行だと思うがね?」
「!」
それを聞いて、澪は目を見開いた。
「父上、た、確かにその通りだ。どこまで誰になんと聞いていたんだ……?」
「西園寺家の御者は実に優秀な諜報係だ。君の事は逐一報告させていたよ」
「なっ」
「それよりも、相くんだ。まぁそういうわけであるから、私は雇い入れるつもりだ。昴のためというよりも、研究対象としてね」
流麗な声で続けた瑛に対し、若干不安になって澪が小首を傾げて窺うように見る。
それに気づいた瑛が、片手をあげる。
「勿論命を奪うようなことはしないさ。ただ、必要に応じて、協力を要請するという事だ」
安堵しつつ、澪は納得した。それならば構わないだろうし、父の言葉には一理ある。
澪の反応を見てから頷き、瑛が続ける。
「実は、遊学中に【黒薔薇病】の新しい知見を得たんだよ」
「そうなのか?」
「ああ。吸血鬼特有の黒血感染性蛋白粒子が【黒薔薇病】の原因で間違いないと、共同研究者とも話し合ってきたところだ」
瑛はそう言うと紅茶を一口飲む。そして喉を癒やしてから続けた。
「恐らく、吸血鬼の脳独自の特殊即効性プリオン蛋白に、治療薬は働きかけているんだ。それも異能の癒やしの力を用いる。すると、黒い荊状に脳に絡みつく黒い影のように広がっていた病が跡形もなく消失する。この癒やしの力をなんらかの方法で、薬剤にしていたのだろうな。もしも人間の血肉ではなく、豚などの類似の生物で再現できるのならば、根治可能な疾患になるだろう」
それを聞き、澪は大きく頷いた。闇オークションなどよりも、よほど安全で、きちんと普及させることができたならば、【黒薔薇病】はもう脅威ではなくなる。そうすれば、母のような悲劇を減らすことができる。
「ギルド・エトワールが所持していた薬と資料は、俺が手に入れたものがある」
「それは興味深いね。見せてくれ」
瑛が小さく息を呑んで述べた。
「今、絵山に取りに行かせる」
「頼むよ」
瑛の返事を聞いてから、澪は扉へと向かった。そして絵山に指示を出す。
そして室内へと戻ると、座り直してカップに手を伸ばした。
「しかし闇オークションは、どうやって薬を手に入れていたのだろうな」
澪の声に、瑛が喉で笑う。
「それはとっくに調べさせてある」
「それも御者にか?」
「その通りだ。彼に話を聞くといい」
「御者は、下賤の者だから名乗らないと、俺は幼少時から聞かされてきたが?」
「それは当主以外が、かの者の役目を知らないから、そう伝える習わしなんだ。澪はもう十分に私の代理が務まると、今回の昴の件で確信したから別だ。いやぁ、私はよき後継者に恵まれた。君のお祖父様もお喜びになるだろう」
自慢げな父の声に、澪はしらっとした顔を向けたのだった。絵山はすぐに資料を持ってきた。
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