天神様の御用人 ~心霊スポット連絡帳~

水鳴諒

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―― 天神様の御用人② ~南ちゃんの別荘~ ――

【006】みいちゃん

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「この子がどうかしたのかしら?」

 どこかおびえるように南が言う。

「南ちゃん、ちょっと見せて」

 スミレがそう言うと、南がポーチごとわたした。スミレはそれをテーブルにおくと、手印をしようとして――はっとした。南の前で不思議なことをしたら、変におもわれるかもしれないと思ったからだ。

「……南ちゃん、ちょっとお部屋を出てもらってもいい?」
「どうして? 気になるからいやよ!」
「お願い。一生のお願い。いつも一生のお願いを私は聞いてるよね?」
「うっ……スミレがそういうのなら……」

 南はしぶしぶといったように立ち上がった。そして部屋から出ていく。それを見送ってから、スミレは手印をつくり、強く念じた。

「魂がこもってるなら、答えて!」

 すると、その場にポンっとけむりのようなものがうかび、黒いネコのぬいぐるみが現れた。しっぽのせんたんが二つにわかれようとしている。

「なんだニャン」
「もしかしてみいちゃん?」
「そうだニャン」
「なにかこまっている? 私は供養というか浄化というか、あなたを助けたいの」

 スミレがいうと、黒ネコのぬいぐるみのようなみいちゃんが言う。

「もうすぐ……もうあと一年生きられたら、僕は猫又ねこまたになれたニャン。そうしたら、ずっと南と一緒にいられたニャン。だけど……できなくて、このキーホルダーにやどったニャン。本当は猫又になって南を守りたかったニャン」

 その声には気持ちがこもっていた。どこか切なそうだ。
 よいようにするとよいというのは、このことだとスミレは思った。

「どうしたら猫又になれるのかな? 今からじゃ無理なのかな?」

 スミレが龍樹を見る。龍樹はうでとあしを組んでいる。それから考える顔をしたあと烏天狗を見た。

「先輩の御用人なんだから、それくらい教えてくれてもいいんじゃないのか?」
「うむ。そうじゃな。龍樹がそういうのだし」

 烏天狗はそういうと、しずかに言った。

「あと一つしれんをのりこえられれば、猫又になれるであろう。魂の修行だ。キーホルダーではそれができぬ。よって、みいちゃんよ。南に危険が迫ったとき、強い思いで助けるとよい。御用人がそれを手助けする」

 烏天狗がスミレを見る。スミレは大きくうなずいた。

「できることならするよ」
「だったら僕がいうことを南に伝えてほしいニャン」
「それは……」

 それをしたら、変に思われてしまうとスミレは思った。だが、と、考える。自分が御用人だからではなく、南の友達であることを強く考える。自分だったら、大切にしていた友達の言葉なら、聞きたい。

「なんて伝えたらいいの?」
「危機がせまったときでいいニャン。僕は急いでいるわけじゃないニャン」

 みいちゃんは、まるでスミレの気持ちをみすかすようにそう言った。
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