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―― 天神様の御用人 ~心霊スポット連絡帳~ ――

【033】花園迷路の菊人形展

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 土曜日は少しくもがあるもののはれていた。すごしやすいきこうで、本日は長そでを着た。まだコートを着るほどではない。十月もちゅうじゅんになり、暑さが次第におさまりはじめている。山の方には、わずかにこうようが見えるきせつとなった。

 入園チケットを三人分、和成が代表して買う。それを龍樹とスミレは受け取った。
 そしてゲートをくぐると、正面にはメリーゴーランドがあった。
 大きなきぼというわけではないが、深珠ハイランドパークは、このあたりでは一番大きい。絶叫ぜっきょうマシンからお化け屋敷やしきまで、観覧車かんらんしゃもある。その中の右の端に、花園迷路という迷路があり、そこが今回話題の心霊スポットだ。入り口でもらったパンフレットには、『菊人形展開催中かいさいちゅう』と書かれている。

 花園迷路は四方に迷路があり、入り口から正面には広場があって、各地の迷路も中央の広場に通じている。周囲の迷路には鏡がはられていたりする。

「ここだな」

 和成の言葉に龍樹がうなずいて、足をふみ入れる。それに和成とスミレもアラームをセットして続いた。

 すると菊人形展に続く正面の道と、左右への分かれ道があった。

「左に行きましょう」

 龍樹が言った。すると和成が首を振る。

「いいや右だ。なんで左?」
「迷路は左手の法則がある。左手で触れながら進むと必ずゴールにたどりつく」
「ゴールにあるとはかぎらないだろ、大体ゴールは最終的には正面の広場だ。霊の声は右から聞こえる。泣き声がする」
「霊が泣いているからと言って、それが悪霊に関するとはかぎらない。邪気にひきよせられた一体かもしれないでしょう? 和成先ぱい」

 二人の意見がわかれた。そして二人は同時にスミレを見た。

「スミレはどっちがいいと思う? 論理的に考えて、左だろう?」
「直感的に考えて、お兄ちゃんの方だろ?」

 するとスミレは二人に首を振った。

「まっすぐ前! 菊人形のところに行こう!」

 スミレの答えに、二人が顔を見合わせた。そして改めてスミレを見てから、それぞれうなずいた。

「まぁ、そうだな。そうしてみるか」

 和成がうなずく。龍樹もまたうなずいて歩き出したので、スミレもそのあとに続いた。

「わぁ……」

 目の前にあられたのは、菊の花で服が作られた人形たちだった。
  スミレは既視感きしかんにおそわれる。夢でたしかに見たことがあったからだ。

「この数の人形はやっかいだな」

 和成がうでを組む。天井から重く冷たい風がふきつけてくるような場所で、長そでを着てきたのに、寒気がする。

「龍樹くん」
「なんだ?」
「この中に、烏天狗さんの顔はない?」
「っ、探してみる。そうだな、ここが最後のいっかしょだとすれば、いるはずだ」 

 龍樹が人形を一体ずつ確認しはじめる。するといくつかの人形の体がゆれ、手をぬっとのばし、おそいかかってきた。それを見てとっさにスミレは護身法の手印を組もうとしたのだが、あせってしまって上手くいかない。

「やめろ!」

 和成が以前龍樹から受け取ったお札を、スミレにおそいかかろうとしていた菊人形にはりつける。するとその動きが止まる。

「あった、これだ!」

 その時龍樹がさけぶようにいった。
 きょうふでこおりついていたスミレだが、気合いを入れなおしてそちらへと向かう。すると夢の中で黒いカラスの羽が見えた人形と同じ物に見えた。スミレは手をのばそうとし、ふと思いなおして、改めて手印を組む。

「邪気よ、出ていって! 烏天狗さんを返して!」

 そうしたら、龍樹の心の傷だってえるかもしれない。龍樹の友だちがもどってくるかもしれない。以前龍樹は、思うだけではなにもできないと話していたけれど、今、スミレは自分にできるのは、強く思うことだけだとかくしんしていた。それが護身法の修行をして学んだせいかだ。あきらめてはいけない。信じて、ねがって、がんばること。そうすれば、いいやそうしなければ、なにもしなければ、なにもはじまらない。

「あ!」

 龍樹が声を上げる。スミレの前で、人形が光につつまれ、次の瞬間、そこに修験者姿の青年があらわれた。背には大きなカラスのような羽がついている。その前で落下した人形を、スミレは抱きとめる。

「烏天狗……!」
「龍樹、龍樹か? ああ、そうか、我はもどったのか……」

 羽をゆらしながらゆかにおりたった烏天狗は、正面からぎゅっと龍樹を抱きしめた。その目元にはなみだが光っている。烏天狗はそれから、スミレを見た。

「そうか、そなたが我の次の御用人か。我よりもずっと強いのだな。助けてくれて、我の魂を浄化してくれて、ありがとう」

 そう言うと烏天狗が頭を下げた。

「おい! 感動の再会らしきものはあとでにしてくれ。時間がない。早く外に出るぞ!」

 そこで和成が声を上げた。その言葉にハッとして、スミレは市松人形を抱きしめたままうなずく。こうして四人で、出口に向かって走った。そして外に出ると、まぶしい日がふりそそいできた。あまりにもまぶしくてまぶたを少し閉じたところで、アラームの音がした。




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